冬木に転生したアクセルの最弱職、第五次聖杯戦争に参戦する。   作:猿野ただすみ

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一応連載になってるけど、続き書くかはわからない。というか、終盤あたりは何となく思い浮かんでるけど、途中の展開は全然思い浮かんでないから(HFルート寄りにはする気はないけど)。


このピンチの少年に英霊を!

俺の名前は佐藤和真。冬木在住で自宅警備を生業とする、至って普通の16歳。うん。そのはずだった。そのはずだったんだが、今の俺はとてもただの16歳じゃない。何しろたった今、前世の記憶なるものを思い出してしまったからだ。……って、何じゃこりゃあああああっ!

 

 

 

 

 

事の発端は、新作が発売された【アドミラブル大戦略】シリーズを購入するために、久しぶりに家を出たことに始まる。予約は入れていたが、先着順の店舗限定特典の為に深夜から並び、見事ゲットした俺は自宅に向かっている最中、市内の交差点を通りかかる。

その時、歩道の向こう側から歩いてくる、長い銀髪で、紫色のロングコートに同色のロシア帽を被った、10代前半くらいの少女が目に映った。横断歩道ですれ違い、神秘的な魅力を持ったその少女を目で追っていた、その時。スピードを落とさずに交差点へと突っ込んできた1台の自動車(くるま)

 

「危ないっ!!」

 

立ち尽くす少女を思わず突き飛ばす。俺らしくないな、とか思いながら、意識が途切れ。

 

 

 

 

 

再び目を開けると、俺を見下ろす少女の姿が映った。それと同時に、俺は思い出したのだ。前世でも俺は同じ事をして、命を失ってしまったのだと。

前世の俺、奇しくも今と同じ名前の佐藤和真は、天界の死者を導く間で女神と会い、死んだときと同じ年齢、同じ姿で、記憶を持ったまま異世界転生を果たす。冒険者となった俺は仲間と共に強敵と戦ったり、借金をしたり、一緒に暮らしたりと、苦労しつつも充実した生活を送っていた。

それでもやがて歳をとり、向こうの世界で天寿を全うした俺は、あちらの女神の計らいによって、再び現代日本へと生まれ変わったというわけだ。

だが、重要なのはそこではない。今、俺を見下ろしている少女のことだ。彼女の見た目と年恰好、そして何より、ここは()()だ。それが意味するものは…。

 

「気がついたみたいね」

 

少女が言った。どうやら俺は、膝枕をされてるようだ。

 

「助けてくれたのはいいけど、そのまま気絶してしまうんだもの」

 

見た目に似合わない大人びた口調で言う彼女。呆れたような、それでいて優しさを感じさせる。

 

「……俺は小心者だからな」

 

内心の動揺を隠しつつ、やや自虐的に答えた。……っと。

 

「ああ、すまね」

 

俺は謝って身を起こした。

 

「あら、私の膝枕じゃ不満?」

「いや、そうじゃないけど。……昔の俺の知り合いに、頭はかなり重いから膝枕は結構辛いって言われたことがあったんだよ」

 

前世の、紅い瞳の連れ合いに言われた言葉だ。最もそう言いながら、俺を甘やかしてくれる奴でもあったんだが。ああくそ、記憶が蘇ったせいで無性に会いたくなったじゃないか。

 

「どうしたの? 突然面白い顔して」

「面白い言うな。昔のこと思い出してモヤモヤしてただけだ」

 

そう言って視線を向けた途端、その顔に見入ってしまう。ああ、そうか。そういう事だったのか。

 

「何? 今度は私の顔を見つめたりして…」

「あ、いや、すまん。昔の知り合いも紅い瞳で、思わず重ねちまった」

 

そう。俺は前世の記憶を思い出す前から、無意識に彼女の紅い瞳に、アイツのことを重ねてたんだ。

 

「ふうん。……あなたの大切な人なの?」

「ああ、そうだな。大切な人だった。もう、会えないけど」

 

ふっと、空を見上げる俺。こんなの、物語の中だけかと思ってたけど、本当にやってしまうもんなんだな。

 

「悪いこと、聞いてしまったかしら」

「いや、構わねえよ。むしろつまらない話聞かせちまったな。それと、介抱してくれたうえに、【アドミラブル大戦略】も回収してくれたみたいだし、ありがとな」

 

すぐ横に置かれた紙袋を見てお礼を言う。

 

「あら、お礼を言うのは私の方だわ。私を助けてくれて、ありがとう」

 

笑顔を浮かべてお礼を言う少女。とてもアレに関わってるとは思えない。だけど。

 

「そうね。お礼に忠告しておくわ。出来たら3週間程、この街から離れていた方がいいわ」

「……ええと、何でだ?」

「この街に災いが起こるから。まあ、予言みたいなものよ」

 

はい。がっつりと関係者ですね。

 

「……養われてる身の俺じゃあどうしようもないと思うけど、心には留めておくわ。じゃあな」

 

そう答えると俺は、再び交差点を渡り、少女の許から去って行く。そういえば、道路脇で少女に膝枕なんてシチュエーションだったのに、誰ひとり気にする人がいなかったけど、あれって認識阻害でもしてたのだろうか。

……しかし、3週間か。確かアレって2月の初めの方からおよそ2週間だったはず。今は1月下旬に入ったところだから、確かに状況は合致する。合致はするが、本当にこんな事ってあるのか?

俺が転生したこの世界が、かつての俺が生まれた日本に存在したゲーム、【Fate/stay night】の世界なんて事が。

因みに。家に帰ってから親に「3週間くらい旅行しよう」と言ったら、こっぴどく叱られた。うん。わかってたけど。

 

 

 

 

 

それでも、出来るだけアレに…、[第五次聖杯戦争]に巻き込まれないよう、色々と下準備をした。効くかはわからないけど、家の周りには神社で買った御守りをこっそりと仕掛けたり、災厄よけの御守りを両親と妹に渡したり。母親から「和真、大丈夫?」と、おでこに手を当てられたけど。

そんなある日、暗くなっても妹が家へ帰ってこなかった。学校に連絡したら、確かに下校したとの答え。嫌な予感がする。[聖杯戦争]の開始まで、あと少し。その内ライダー陣営とキャスター陣営は、既に[魂喰い]を始めているし、ランサーも召喚された他の[サーヴァント]の調査をしていたはず。何故か遙か昔の記憶を鮮明に思い出し、今起きているだろう状況を精査する。

基本、行動の開始は夜だが、キャスターは日中にも事故に見せかけて行動している。だが、基本的には人が多く集まるところで多数の人間から効率よく集めていて、個人を狙うとは考えにくい。

ライダーは個人を襲い、吸血によって補給をしているが、こちらも効率を考えて成人やそれに近い年齢を襲うはずだ。まだ小学生の妹を襲うとは考えにくい。

ランサーに関しては、うっかりサーヴァント同士の戦闘でも見られない限り、襲ってくることは無いはず。そんな不運な奴は、どっかの赤毛の魔術使いだけで充分だ。

この中で例外が発生するとすれば…。あそこか! 絶対では無いけど、この中の可能性では一番高い。後は、俺の推測と勘、幸運の高さを信じるだけだ!

 

 

 

 

 

妹を捜すため、夜の街を駆ける俺。長い階段を駆け上がり、……途中で息が切れて休んだものの、お寺の門前まで辿り着き。

[柳洞寺]の門柱の前に倒れている妹が目に映る。

 

「和実!」

 

思わず声を上げる。他に人がいたのにもかかわらずに。

 

「あがっ!?」

 

突然後ろ手に腕を捻りあげられ、うめき声を洩らす。

 

「あらあなた、この子のお兄さん?」

「和実をどうする気だ!」

 

フードを目深に被った女性に怒鳴りつける。すると女性は、フフフと笑って答えた。

 

「どうもしないわ。子供をどうこうするのは趣味じゃないもの。目的が済んだら解放してあげるわ。ここでの記憶は消させてもらうけど。

……もっとも、あなたを無事に返す意味はないわね」

 

そう言うと、ニヤリと口角が上がる。ちくしょう、妹を見つけた瞬間、油断してしまった。ここは、キャスターの根城になってるってのに。姿は確認できないが、俺の腕を捻りあげてるのはおそらく、キャスターのマスターである葛木(くずき)先生だろう。

多分、妹は放課後に零観さんの所へ遊びに来たんだ。何故か妹は、俺の次に零観さんに懐いている。よくここへ来て帰りが遅くなることはあるが、今回は帰り際にキャスターが何かやっているところを見てしまったんだろう。

 

「さて、予定よりも遅れてしまったわね」

 

女性…キャスターはそう言うと、門の前に魔法陣を作製する。つまりこの状況は、アサシンの召喚のタイミングって事か。くそっ! このままじゃ…。ええい、こうなりゃヤケクソだっ!

 

「素に銀と鉄 礎に契約の大公…」

 

俺は、後ろにいる葛木先生でも何を言ってるのか理解出来ないだろう小声で、英霊召喚の呪文を唱える。ハッキリ言って、こんなの成功するとは思っちゃいない。ただの悪あがきだが、何かせずにはいられなかったんだ。

 

「……抑止の輪より…」

 

俺は一拍間をとり。

 

「来たれ、天秤の守り手よ!」

「なっ!?」

 

最後の一節を力強く叫び、想定外のことに驚くキャスター。だが、それよりも。ズキリと右肩に痛みが走り、魔法陣は光を放つ。……え、嘘だろ。マジか?

 

「まさか、私が作製した魔法陣を乗っ取ったというの!?」

 

キャスターは驚愕してるが、俺だって訳がわからない。

立ち上る光の中、人影が現れたかと思ったら、光が収まるより前に飛び出して物凄いスピードでこちらに駆け寄って…え?

 

「ハッ!」

 

腰に差した短剣を引き抜き、俺の後ろにいる葛木先生に斬りつけようとするが、葛木先生は俺を突き飛ばしてから後ろに飛び避けた。こんな足場の悪い階段で、よくそんなこと出来るよな。

 

「あなたは、アサシン…?」

「うん、あたしはアサシンのサーヴァント。今イチこのクラスには納得いってないけどね」

 

キャスターの呟きに、答えるアサシン。

 

「……ねえ、ひとつ提案なんだけど。彼はあたしのマスターになったわけだし、聖杯戦争はまだ始まってないんでしょ? なら、今日のところは見逃してくんないかな?」

 

なるほど、そう来るか。確かに聖杯を求めるなら、開始前の潰し合いは避けたいはずだ。

 

「……いいわ、見逃してあげる。さあ、そこの娘を連れて、さっさと私の工房から立ち去りなさい!」

 

語気を荒げてキャスターは言う。アサシンの意見が気に食わないのもあるだろうけど、それ以上に、自分が呼び出すはずだったアサシンが俺に奪われたことが、何よりも癪だったに違いない。俺はキャスター、それと葛木先生を刺激しないように妹の許まで来て、優しく背負う。アサシンは妹のバッグを持ってくれた。そして俺達は山門を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

途中、小さな公園へと立ち寄る。理由はもちろん。

 

「えっと、状況を説明してくれないか?」

 

俺はアサシンへと尋ねた。

 

「あ、そうだったね。あたしはアサシンのサーヴァント、真名はクリス。君は7人の魔術師同士が聖杯を奪い合う儀式、[聖杯戦争]に巻き込まれたんだよ。

それでサーヴァントっていうのは、魔術師が聖杯の力を借りて呼び出した英雄の霊、英霊。魔術師は英霊をサーヴァントとして使役して、お互いを戦わせて勝ち残った者が聖杯を手にする。そういう儀式なんだ」

 

やっぱり、俺が憶えてる[聖杯戦争]と同じものみたいだ。

 

「ただ、あたしはちょっと特別で。えっと、君は憶えてないだろうけど、あたしと君は…」

「大丈夫、わかってますよ、()()

 

そう答えると、アサシン…クリスが目を丸くして驚いた。

 

「え、ええっ! 君、記憶があるの!?」

「ああ。ほんの数日前に、前世の記憶がまるっと蘇った」

 

そうして俺は、右手の人差し指を自分の口の前に立てて。

 

「この事は、ナイショですよ」

 

と、ウインクしながら言う。それを見たクリスは一瞬呆け、次の瞬間。

 

「ぷっ、アハハハ! なんだ、そうだったんだ」

 

大笑いをして、納得したように言った。

 

「それじゃあ、あたし自身の説明はいらないね。あ、えっと、それで、君の今の名前は…」

「なんと驚き、今回も佐藤和真でございます」

「ええっ!」

 

戯けて答えると、クリスは再び驚いた。とはいえ、佐藤は日本で一番多い姓だし、和真も多くはないが、珍しい名って訳でもないから、偶然としては充分にあり得るレベルだろう。

 

「それよりクリスこそ、よく俺が[佐藤和真]だってわかったな。顔だって前世とは違うのに」

「それは、あたし側の事情かな」

 

あたし側?

 

「それってもしかして、俺がこんな物騒な世界の物騒な街に転生したことと、何か関係があるのか?」

「あ、うん…。えっと、ごめんね、カズマくん!」

 

クリスは謝りながら頭を下げた。

 

「あたしはカズマくんが、出来るだけ幸せになれるような、そんな家族を選んだつもりだったんだ。それで、君が元いた日本とは別の日本、いわゆる並行世界に丁度いい家庭を見つけて、そこへと転生させたんだけど…」

 

そこで一旦、言葉を濁したものの、それでも続きを語り出す。

 

「でもその後、アクア先輩にその事を話したら、血相を変えて」

 

アクアが血相を変えた? 駄女神のアイツが?

 

「日本担当の女神にはレクチャーされるらしいんだけど、ここ、冬木市が存在する世界では[聖杯戦争]が記録される世界線が多くて、あたしが送った世界も、そうなる可能性が大きい世界のひとつだって…」

 

まさか()()に関しては、クリスよりもアクアの方が優秀だったのか。

 

「それで、もし[聖杯戦争]の兆しが現れたら、あたしがカズマくんのサーヴァントとして割り込んで、カズマくんを守ることに決めたんだよ」

 

なるほど。だから俺が[佐藤和真]だとわかったし、クリスの姿で召喚されたってワケか。[聖杯戦争]で神霊は呼び出せないからな。

 

「でもそれって、天界規約とやらに引っかかるんじゃないか?」

 

ふと疑問に思って尋ねると、クリスは跋が悪そうに答える。

 

「……まあ、ね。でも、あたしも先輩も、懲罰は覚悟の上なんだよ」

「……アクアも?」

「うん」

 

そう言ってクリスは、何処からともなく1枚のカードを取り出した。……って、これって!?

 

「カズマくんの冒険者カードだよ。向こうの世界でカズマくんが亡くなった後、めぐみんが形見分けとして先輩に渡した物なんだ。これがあったからカズマくんとの縁が補強されたけど、向こうの世界の物を無断でこちらに持ってくるのは、充分に処罰の対象になる。もちろん、あたしに託した先輩自身にも。それでもあたしと先輩は、君を助けたかったんだ」

 

俺は目頭が熱くなった。そんなに俺を想っていてくれたのだと。ただ、アクアにはもう少し早く、そういうところを見せて欲しかった。

 

「これはカズマくんに渡しておくよ。これがあれば、今のカズマくんでもスキルが使えるはずだよ」

 

そう言って冒険者カードを俺に手渡してきた。今の俺でも、か。

 

「ならひとつ、試してみるか」

「え? 試す? ……あっ、まさか!?」

 

そう、そのまさかである。

 

「『スティール』ッ!」

「いやあああああっ!」

 

俺の手の中には、かつてと同じようにクリスのぱんつが握られていた。

 

「カ、カズマくんのばかぁっ!」

 

俺からぱんつをひったくったクリスは、公園の公衆トイレに駆け込んでいった。いや、そんなことしなくても、霊体化すりゃいいのに。……あ。

 

「なあ、クリス」

「何?」

 

ぱんつを履き終え戻ってきたクリスに声をかけると、彼女は思いっきり睨みつけながら答えた。一瞬怯んだけど、重要な事なので質問をする。

 

「……お前ってもしかして、霊体化出来ないのか?」

「え? どうしてそれを!? というか、何で霊体化の事まで知ってんのさ!?」

 

ああ、やっぱり。頭が痛くなる俺だった。

 

 

 

 

 

「クリス。まず、言っておかなきゃならないことがある」

 

そう前置きをして話を続ける。

 

「前世の俺が暮らしていた日本には、【Fate/stay night】って言う作品があって、内容がそのまま、冬木の[第五次聖杯戦争]の物語なんだよ」

「……え?」

 

クリスが間の抜けた顔になる。まあ、当たり前か。

 

「さっき柳洞寺で会ったキャスターのサーヴァントも、ゲームどおりの姿だったし、そのマスターにも心当たりがある。だからこの世界が【stay night】と極めて近いのは、ほぼ間違いないと思う」

「そ、それって、すごいアドバンテージになるんじゃ…」

 

クリスはそう言うが、そんな単純な話じゃない。

 

「確かに他の陣営よりかは有利だとは思うけど、アサシンがクリスに、そのマスターが俺になった段階で、話の流れの変化が読めなくなってるからな」

「あ、そっか」

 

【stay night】だと、キャスター・メディアがアサシン・佐々木小次郎を呼び出してるけど、手持ちにアサシンがいない現状ではキャスターがどう動くのかがまるっきりわからない。必然的に他の陣営の動きも変わってくるし、当然、俺の行動も周りに影響するはずだ。それに、アドバンテージがいくらあっても足りない、金ピカなんてのもいるし。

 

「まあ、その話は一旦置いとくとして。その物語の中に出てくるセイバーのサーヴァント、……数日後に呼び出されると思うけど、そいつがやっぱり霊体化出来ないんだよ。その理由が、抑止力と契約した生きた人間が召喚されてるからなんだ。

……クリスは多分、本体が天界側にあるんだろ? つまり、まだ生きてるから霊体化できない。そう思ったんだ」

「そういうことかぁ。うん、大体カズマくんが言ったとおりだよ。向こうのあたしは今、眠ってるみたいな状態だね」

 

やっぱりか。だけどそうなると、ちょっと面倒くさいぞ。

 

「どうしたの、カズマくん? 何だか悩んでるみたいだけど」

「いや、霊体化出来ないんじゃ、クリスをどうやって(うち)に入れりゃいいんだと思ったんだが」

「あ」

 

ハッキリ言って、クリスを家に招き入れ、尚且つ最長2週間ちょっと宿泊させる上手い言い訳なんて思いつかないぞ?

 

「どどどうしよう、カズマくん!?」

「霊体化出来なくても、寝る必要はないんだろ? だったら、外で徘徊してるとか」

「こんな格好じゃ不審者扱いされちゃうよ!」

 

聖杯から基本的な知識が流れ込むのか、はたまた元からこの世界の知識があったのかはわからないが、盗賊クリスとしての姿が、この世界じゃ奇抜で怪しい格好だというのは理解してるらしい。

 

「……うう…ん」

 

な、まずい! 妹が目を覚ました!?

 

「……ん。お兄ちゃん?」

「おう、和実。目が覚めたか」

 

極力、何事もなかったかのように振る舞う。

 

「……あれ? 私…」

「お前、また零観さんの所に行ってたろ」

「あ、そうだった。帰りが遅くなって、おうちに帰ろうとして…。どうしたんだっけ?」

 

どうやらキャスターが言ってたとおり、妹の記憶消去はしてあるらしい。

 

「お前、山門の柱のところで眠ってたんだぞ? 疲れてたのかも知れないけど、こんな時期にあんな場所で寝てたら風邪ひくからな?」

「あう。……ごめんなさい」

 

素直に謝る妹。うむ。俺の妹はやっぱり可愛い。前の世界の義妹(アイリス)も可愛かったが、実妹もなかなかいいもんだ。

 

「カズマくん、シスコンは相変わらずだね」

「シスコン言うない」

 

それに妹を愛でるのが兄の義務だ。

 

「……お姉ちゃん、誰? コスプレしてるの?」

 

……コスプレ? そうか! でかしたぞ、我が妹よ!

 

「いや、これは…」

「そうなんだ!」

 

クリスが余計なことを言う前に、妹の疑問に答える俺。

 

「え、ちょっと、カズマくん!?」

《クリス、聞け》

 

俺は頭の中でクリスに語りかける。俺とパスが繋がってるなら、念話が出来るはずだ。

 

《……何、カズマくん?》

 

よし。上手くいった。

 

《妹のお陰で、クリスを(うち)に上げる方法を思いついたんだよ》

《……え?》

 

 

 

 

 

甘えて降りようとしない妹を背負ったまま、俺達は家に辿り着く。妹が無事に見つかり大喜びの両親。俺と入れ違いで柳洞寺から連絡があったようだが、それでもいつもより帰りが遅かったのだから、喜ぶのは当然だろう。

俺はそのタイミングでクリスを玄関に招き入れる。その時の母親の一声が。

 

「和真が女を引っかけてきた!?」

 

……どこぞの魔性の妹みたいなこと、言ってんじゃねえ。

 

「あー、彼女は中学校時代の後輩で、神野(かんの)クリス。こんな格好してるのは、コスプレイベントの衣装なんだが…」

「あの、実は会場で、あたしの荷物が盗難に遭ってしまったんです。それで着替えも出来ずに、歩きでようやく帰ってきたんですけど、親は長期出張中で家に入ることも出来ず。途方に暮れてたところで、妹さんを背負ったカズマくんに出会ったんです」

 

俯きながら、打ち合わせどおりの話をするクリス。因みに俯いてるのは、意外と嘘だということが表情に出るタイプなので、それがバレないようにである。

 

「なあ、コイツも困ってるし、しばらく家に泊めてやってくれないか? 和実も気に入ってるみたいだし」

「うん。私もクリスお姉ちゃん好きだよ」

 

大変ありがたい、妹の援護射撃。なお、これは口裏合わせではなく、純粋に妹自身の意見である。

 

「うむ…。せっかく和真がカノジョを連れてきたんだし」

「「カノジョじゃない!」」

 

親父に突っ込む俺達。いや、揶揄われただけなのはわかってるんだが。

 

「だが、学校はどうするんだね?」

 

やっぱり聞かれたか。だがそれについても、一応打ち合わせ済みだ。

 

「それは、少し気が引けるけど休むことにします。幸い3年生なので、もう教わることも少ないですし」

 

そう。3年生という設定で、かつ3学期だからこその荒業だ。あとは両親がどう反応するかにかかってるんだが。

 

「……うむ、あまり感心は出来ないが、そういう事なら、まあ、いいんじゃないか?」

「そうね。ちゃんと悪いという気持ちがあるなら、いいと思うわよ」

 

二人ともお人好しで助かった。それじゃあ打算はあるが、少しだけ親孝行をしよう。

 

「あ、それで思い出したけど、俺、明日から学校に行くわ」

「「え?」」

 

鳩が豆鉄砲を食らったような顔、ってのはこういうのを言うんだろうな。

 

「ど、どうしたの!? あんなに頑なに学校行こうとしなかったのに!」

「それに、今から行っても留年は確定なんだぞ? 行くなら新年度になってからの方がいいんじゃないのか?」

「り、理由なんてどうでもいいだろ! あと親父! せっかく行く気になったのに水を差すんじゃねえよ!」

 

お前ら、本当に親か!? 引きこも…自宅警備員だった俺が学校行くって言うんだから、まずは喜ぶべき所じゃないのか?

……ま、まあいい。とにかくこれで、いつ七騎の英霊が集うのかがわかるって訳だ。俺は気が重くなりながらも、聖杯戦争を生き残る為の方法に思考を巡らせるのだった。




和真の前世と現世との顔の違い。イメージ的には、前世は【このすば】原作挿絵、現世は【このすば】アニメ絵のイメージ。「全く違うってわけではないけど、なんか別キャラ」って感じですね。



因みに、一部例外(別名義)を除いた自分の【このすば】関連作品では、日本担当になった神(アクア)は冬木の聖杯戦争(プリズマ☆イリヤの美遊世界は除く)についてレクチャーされる設定です。
これはどの世界線でも共通で、人類の滅亡に繋がる可能性が極めて高い事象なので、冬木市が存在しない世界線でも、類似の儀式が行われないかを注視する為に必須となっています。
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