冬木に転生したアクセルの最弱職、第五次聖杯戦争に参戦する。   作:猿野ただすみ

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このすば!4期も決定したし、とりあえず、和真が聖杯戦争に介入するくだりまでは出来ました。長くなったので二話に分けましたが。後半部分は夜9時に投稿します。


この偽物悪魔の介入を!

俺が学校に通い始めて数日。当然、完全に浮いた状態だが、今はそんなことを気にしていられない。何としても聖杯戦争で生き残らなければならないのだ。

それに、前世の記憶を取り戻した俺にとってはこの程度の疎外感、クズマだゲスマだと蔑まされていたのに比べりゃどうって事ない。ああ、どうって事ないとも。

あと、ちょっとだけ良かったことも。俺のクラスにはワカメの妹がいたのだ。目の保養…もとい、若干リスクはあるけど彼女の様子をうかがってれば、あのルートの前兆はわかるはずだからな。もっとも、そうなる前に手を打ちたいとこだけど。

そして今日。

 

『ミス・パーフェクトが学校休んだってよ』

『珍しい事もあるもんだな』

 

そんな噂話が流れていた。[ミス・パーフェクト]…遠坂凛。容姿端麗、文武両道…いわゆる才色兼備の2年生(せんぱい)だが、その正体は冬木の管理者(セカンドオーナー)である魔術師。【stay night】のとおりなら、アーチャーのサーヴァントのマスターである。いや、学校を休んだということなら、おそらく既にアーチャーを召喚しているはずだ。

つまり。明日なのか0時を回って明後日なのかはは憶えてないけど、穂群原のブラウニーがセイバーを召喚するって事だ。

 

《クリス。明日の夜、ついに衛宮先輩が聖杯戦争に巻き込まれるぞ》

《わかった。家に帰ったらもう一回、作品の内容を教えてくれる? さすがに失敗は出来ないから》

《了解》

 

俺は念話で情報交換する。そう。俺達は、思いっ切り原作へ介入する方向で行くことに決めた。どうせ俺とクリスのせいで、アニメ版を含めた本来のどのルートの流れからも逸脱するのはわかっていたから、それなら積極的に関わって、ルートに則った範囲だけでも掌握し、生き残る道を目指すことにしたのだ。

……そう、生き残るため。この世界にはアクアはいないし、死者の蘇生も本来あり得ない。死んだらお終いなのだ。

……その夜、俺は【stay night】の当該シーンで憶えてる限りを、クリスに語って聞かせるのだった。

 

 

 

 

 

翌日の放課後。遭遇したのは偶然だが、穂群原のブラウニーとワカメ頭が廊下で会話しているのを見かけ、弓道場の掃除というイベントが滞りなく行われるのを確認した俺は、一旦帰宅して私服へと着替え、クリスと共に穂群原学園へととって返す。因みに衣装は黒っぽい色で統一し、なるべく闇に紛れるように心がける。

学校に到着した俺達は[潜伏スキル]を発動して校内に入り込み、誰もいないことを確認して屋上の一画で息を潜めた。

やがて昇降口の扉が開かれて、現れたのは[あかいあくま]こと遠坂凛。凛は床の一画にあった魔法陣を無効化する。というか、物語どおりライダーの結界は張られていたようだ。俺の[罠発見スキル]ではやはり対象外だったようで、何の反応も示さなかったが。

だがここで、俺の[敵感知スキル]が反応する。

 

「なんだ、消しちまうのかよ。もったいねえな」

 

そう言って現れたのは、青の槍兵(ランサー)のサーヴァント。しばしの問答の後、凛は駆け出し、安全対策の金網を飛び越え。

 

「アーチャー、着地は任せた!」

 

そう叫び、青の槍兵はその後を追う。

ゲームやアニメのワンシーンを実際にこの目で見られた事に感動を覚えたが、さすがに悠長にはしていられない。俺達は金網へと駆け寄り、グランドを見下ろす。そこでは青の槍兵と赤の弓兵(アーチャー)、そして弓兵のマスター凛が睨み合いながら会話を交わし、そして双方がぶつかり合う。

 

「……ねえ、カズマくん。赤い外套の方ってアーチャーだよね? 何で双剣で戦ってんのさ」

「アーチャーの魔術的起源は剣なんだよ。ただ剣技の才能は無いから、努力だけであそこまでの技能を磨いたんだけどな」

「難儀な英霊だね」

 

難儀なのは人格や性格の方なんだけどな。

そんな俺達の会話の後も、双方は(しのぎ)を削り合い、数十にも及ぶ打ち合いが続いたが。

 

『誰だ!?』

 

ランサーが振り返りながら、こちらにも聞こえるくらい大きな声で言った。どうやら話の流れどおり、穂群原のブラウニーが見つかったようだ。

 

「行くぞ、()()()()

「了解だよ、()()()()

 

俺達は気持ちを切り替えて、校舎の中へと駆け込んでいった。

 

 

 

 

 

階段を物音を立てないように降っていると、廊下を駆ける足音が聞こえる。(はえ)ーな、とか思ったけど、こっちは音を立てないようにスピードを抑えているのに対して、向こうは全力で逃げてるんだから当たり前か。

俺達がこっそりと顔を出して覗くのと合わせるかのように、そいつは立ち止まりあたりを見回して息を整える。だが。

 

「追いかけっこは終わりだ」

 

すうっとランサーが現れ。

 

「運が悪かったな坊主。ま、見られたからには死んでくれや」

 

そう言って、槍を突き出そうとして。

 

「『バインド』ッ!」

「なっ!?」

 

[矢避けの加護]があるランサーはアサシンが放った縄を躱しつつ、槍を振るう。

 

「がぁっ!?」

 

槍に貫かれ、彼…衛宮士郎が短い悲鳴を上げる。だが、躱しながらだったために狙いは外れ、貫かれたのは腹部であった。それでも、槍が引き抜かれると共に大量の血が流れ、そのショックの為か意識を失ったようだ。

残念ながら完全に守ることは出来なかったが、心臓を貫かれて死の淵で片足引っかけてる状態よりは遙かにマシだし、これなら多分、凛が例の宝石を使うこともないだろう。今あの宝石を使われると、ちょっとばかし困ったことになるからな。

 

「テメェはアサシンか? 何故邪魔をする」

「あたし達はちょっとイレギュラーでね。あたしも、あたしのマスターも、聖杯にはあまり興味がないし、出来るだけ人には死んで欲しくないのさ」

 

因みに。俺としては、聖杯に全く興味がない訳ではない。俺にだって叶えてもらいたい願いはたくさんある。

だが、あの聖杯はダメだ。あんなもんに願いを託したら、とんでもないことになるのは目に見えている。あんなもんに願うくらいなら、アクアを頼りにする方がまだマシな気がするぞ。

 

「ねえ、そろそろ逃げないと、アーチャー達がやって来るよ?」

「……チッ」

 

ランサーは小さく舌打ちをすると、霊体化して逃げていった。それと入れ違いにアーチャーが姿を現し、それに続いて凛が到着する。

 

「な、アサシンのサーヴァント!? アーチャー!」

「ああ、待って待って! あたしに争う気は無いよ!」

 

臨戦態勢に入る凛に、アサシンが待ったをかける。

 

「……それを信じろと?」

「疑う気持ちはわかるよ。だから警戒を解いてとは言わない。ただ、弁明を聞いて、今は見逃してくれるとありがたいかな」

「……そうね、話は聞いてあげる。けれど、見逃すかどうかは話次第ね」

 

やっぱり凛は、魔術師としては甘い性格らしい。その方がありがたいんだが。

 

「ありがと。えっとね、あたしのマスターは一般人なんだ。だけど運悪くキャスターに目を付けられちゃって。ただ、その場には英霊召喚の魔法陣があって、マスターの助かりたいって想いで、あたしが召喚されたって訳なんだよ」

「……一般人?」

「うん。魔術回路の質は悪いし、本数も8本程度。当然、魔術刻印なんて無いし。たまにある、一般人が魔術の資質を持って生まれたってだけみたいだね」

 

……わかっちゃいたけど、端から聞いてると無性に虚しくなってくるんですけど。

 

「マスターの望みは、この殺し合いの儀式を生き残ること。今のところは聖杯にかける望みなんて無いよ。あたしもマスターのそんな想いに応えただけだから、聖杯に願うことは無いし。だから、もしあなたが勝ち上がったときにマスターを助けてくれるなら、その時は、あたしは棄権しても構わないよ」

 

これは、俺のシナリオでは無い。召喚してから今日に至るまでの間に、アサシンから告げられたことだ。勝ち上がったのが遠坂凛か衛宮士郎なら、そして俺が助かることが確約されたなら、棄権しても構わないって。もちろん、サーヴァントにとって棄権がどういう意味を持っているかも理解してだ。

 

「つまりあんたは、聖杯戦争終盤までマスターを守り、マスターの安全が確保できたなら自決しても構わないって言うのね?」

「相手マスターによるけどね。聖杯に変な願いするような相手じゃ、とても安心できないから。あなたは、魔術師の中では良識がありそうだから、こうして交渉してるんだよ」

 

良識がありそうというか、【stay night】で凛の性格知ってるからなんだけどな。

 

「……魔術師としては、その評価は微妙だけど。でも、そうね。聖杯戦争はまだ開幕していない。なら、ここで潰し合うのは得策じゃないわね」

 

そう言うと、ほんの僅かだけ考え込む。

 

「いいわ。今日のところはお互い手を出さない。……これでいいかしら?」

「正気か、マスター」

 

凛の返答に突っ込むアーチャー。予想どおりの反応過ぎて、むしろ呆れてくるくらいだ。

 

「言ったでしょう。聖杯戦争は、まだ開幕していない。真の勝者となるなら、サーヴァントが出そろった上で勝ち上がらなくては、意味がないわ」

「……方針を決めるのはマスターだ。その意見に異を唱える気はないさ」

 

凛の説明に一瞬しかめ面になりながらも、アーチャーはそう答えた。まあ、アイツの性格からして、絶対に納得がいってないけどな。

 

「ありがと。それじゃああたしは帰らせてもらうよ。……あ、それと、出来たらその少年の手当も頼めないかな。生憎と治癒系統のスキルは持ってないんだ」

「……目撃者を助けるって言うの? ……一応様子は見るけど、助けるとは言えないわ」

「まあ、そうだよね。でも、ま、お願い。……じゃあね」

 

それだけの会話を済ませると、アサシンは階段の陰に隠れた俺の方へ駆け出した。そしてこちらに曲がったところで、俺をお姫様抱っこして階段を降りていく。足音で俺の存在がバレないようにするためだが、俺が抱えられてる恥ずかしさと屈辱感がなんとも言えない。

 

《なんか、男としての尊厳が…》

《何言ってんのさ。前世じゃめぐみんに抱えられてたじゃんか》

《あいつは、とっても男らしいからな》

 

前世の俺の嫁は、男の俺より男らしかった。

いや、そんなことはどうでもいい。それよりも、凛との短い会話だったが、その間、アーチャーにランサーを追わせる指示が出されなかった。これはこちらとの会話のせいで、凛のうっかりが発動してしまった結果だろう。今さらランサーを追わせるとは思えないが、この程度の差違なら問題ないか? 凛が桜の想い人を死なせるとは思えないし。アーチャーの今後の動向が、少し気にはなるが。

 

 

 

 

 

親からの叱責を回避するために一旦家に帰り、風呂を済ませて自室に入り鍵をかけ、寝たように見せかけた俺とクリスは、窓からこっそりと抜け出した。冒険者カードのお陰で、身体能力が前世の最終レベルまで強化されたため、思ったよりも楽に抜け出すことが出来た。

 

「……カズマくん、危なっかしいなあ」

「うるせえ」

 

……どうせ筋力は、すぐにカンストしてましたよ。

 

「ところでカズマくん。その背負ってる物って何?」

 

紺色のナップサックを見て、クリスが尋ねた。

 

「ちょっとした変装道具だ。この後の展開で必要になる」

「ふうん?」

 

クリスは訝しげに見るが、それ以上は詮索しない。俺としてもその方がありがたいので、非常に助かる。

 

 

 

 

 

長い道のりの末、辿り着いたのは冬木教会。そう、あの聖杯戦争の監督役である外道神父がいる、あの教会だ。とはいえ、マスターの登録に来たわけではない。

 

「セイバーは…、いないな。それじゃあ今のうちに隠れるとするか」

 

確認を済ませた俺達は教会の庭の植え込みに隠れ、例によって[潜伏スキル]を発動した。

 

「……ねえ。もしセイバーが呼び出されなかったり、リンがシロウくんをここに連れてこなかったらどうなるんだろう」

「やめろ。そんなフラグっぽい発言は。俺も内心ビクビクしてんだから」

 

この世界はあくまで【stay night】に極めて近い世界、いわゆる並行世界のひとつだ。同じ人物で性格も大差ないなら、そこまで大きく違えることはないだろうけど、その僅かな違いが大きく変化を及ぼす可能性はある。そして俺達が介入した段階で、それは避けられないことだ。だからこそ心配でしょうがないんだが。

だが、そんな心配も杞憂で終わる。士郎と凛、セイバーが教会の前にやって来たのだ。アーチャーは姿を消しているが。

士郎は凛に連れられ、教会の中へと消えてゆく。黄色い雨合羽を着たセイバーは外で、身動(みじろ)ぎもせずに待っている。

 

《律儀だね》

《そういう奴だからな》

 

念話で会話をしながら、俺達も待ち続ける。そしていい加減待ちくたびれた頃、再び教会の扉は開き、士郎と凛が姿を見せる。そして扉の内側から二人を見送る、神父服の男性。

 

「喜べ、少年。君の願いはようやく叶う」

 

例の有名なセリフを告げたその男こそ、外道神父こと言峰綺礼。聖杯戦争の監督役でありながらマスターでもある、かなり厄介な男だ。

 

《カズマくん、あの神父が言ってるのって、何か含みがあるの?》

 

【stay night】の説明はしたが、個人情報の細かいところまでは話していないクリスには、言峰のセリフの意味がわからなかったようだ。

 

《士郎は、養父が目指して挫折した「正義の味方になる」って夢を引き継いだんだ。それに対して、正義の味方を目指すには明確な悪が必要であり、それを目指す士郎は同時に、そのための悪をも望んでるって言ってやがんだよ》

《うわっ、最低だね》

《外道神父だからな》

 

もちろん、今までそんな理屈に気づかなかった士郎を苦悩に陥れ愉悦するためなんだが、同時に真理でもあるから厄介なんだよな。

おっと、そんな会話してる間に、士郎達が教会の敷地を出ていった。教会の扉が閉められたのを確認してから、それでも身を隠しながらその後を追う。

遠目に見ながら、[盗聴スキル(ダークストーカー)]を使って盗み聞きをしていると、やはりゲーム同様の会話が繰り広げられ…。突然[敵感知スキル]に警戒レベルの反応があった。

 

「ねえ、お話しは終わり?」

 

そう言ったのは、以前俺が助けた銀髪赤眼の少女、……イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。その隣には身長2メートルを超える、半裸で、鉈のような大剣を持った大男。ギリシャの大英雄であるバーサーカーだ。……ああ、ちくしょう! あの紅い瞳を見ると、どうしてもめぐみんを思い出しちまう!

イリヤの自己紹介の後、凛の短い会話(作戦会議)の末。

 

「やっちゃえ、バーサーカー」

 

その合図で、聖杯戦争が開幕して最初の戦闘が行われる。しかし…。

 

《……アーチャーが参戦してないね》

《これは【Fateルート】…別名【セイバールート】っぽい流れか。……アサシン、例のシーンの直前で割って入ってくれ。俺は今のうちに変装してるから》

《何する気かは知らないけど、わかったよ》

 

アサシンはそう答えてから、介入しやすいように場所を移動する。一方の俺も、冒険者カードを少し弄ってから変装用の道具を取り出した。

そして変装を済ませた俺は、アサシンとは別の位置へ移動して介入の機会を伺うのだった。

 

 

 

 

 

バーサーカーとの激闘の末、セイバーは傷つき、バーサーカーは剣を振り上げる。セイバーの反応が遅れあわやという時、セイバーを庇おうと士郎が身を投げ出す。

本来なら士郎はこの一撃を食らい、腹部を大きく斬り裂かれるはずだった。だが。

 

「『バインド』ッ!」

 

アサシンが発動させたスキルで、バーサーカーの身体を一瞬だけ拘束する。もちろんその馬鹿力でロープはあっさりと引き千切られるが、その僅かなラグのお陰で士郎もギリギリ躱すことが出来た。

 

「誰!?」

「あんたは、さっきのアサシン!」

 

イリヤと凛がそれぞれの反応をする。

 

「……貴女、どうして私の邪魔をするの?」

「あたしとあたしのマスターは、出来るだけ人に死んで欲しくないんだ。そっちの魔術師にはさっき話したけど、あたしのマスターは偶然巻き込まれた一般人だからね。人が死ぬ展開は好ましくないんだよ」

「そう…」

 

イリヤはぽつりと答えた後、笑顔を浮かべ。

 

「それなら、邪魔をする貴女も一緒に死んじゃいなさい」

 

彼女が持つ二面性の、残酷な部分が顔を出した。だが当然、そんなことはさせやしない。

 

「『フラッシュ』!」

「きゃっ!」

「眩しっ!?」

 

俺が放った閃光で目を眩ませる。そしてタキシードに、口元が見える黒と白で色分けされた仮面を着用した姿で繁みから現れた俺は、高らかに言う。

 

「フハハハハハ! 見通す大悪魔である我輩から、汝らに助言を与えてやろう! 汝ら、ここで潰し合うは得策ではない。今は矛を納めるが吉である!」

 

俺の大舞台が今始まった。

 

 

 

 

 

ヴァーサタイル・エンターテイナーという魔法…こちらで言う魔術がある。これはその名のとおり、芸達者になれる術だ。

俺は前世で、何度もこの魔法のお世話になった。あるときは、とある貴族の屋敷に忍び込んだときに。あるときは、悪徳領主から仲間を救うときに。そしてあるときは、魔王の城へと潜入したときに。いずれも俺の、俺達の窮地を救ってくれた。

俺は魔王が討伐されたその後も、色々と理由をつけては、ことあるごとにこの魔法の支援を受けていた。そしてやがて、最弱職である冒険者の特権、あらゆるスキルを修得できるという能力によってこの魔法を憶えることが出来たのだ。そう、あの魔法を憶えられたのと同じように。

 

 

 

 

 

「悪魔…だって!?」

 

アサシンの表情が、まさに鬼のような形相に変わる。

 

「そこの悪魔とアンデッドには容赦のない、胸を気にするアサシンよ。我輩は言ったはずだ。矛を納めるが吉と。おおっと、その恥ずかしさと恨めしさが混じった悪感情、大変美味である」

「うううるさいっ!」

 

もちろん、俺に悪感情を食する(へき)はない。あくまでそれを装っているだけだ。

 

「……あんた、何者よ?」

「うむ、自己紹介がまだであったな。我輩こそは地獄の公爵にして、全てを見通す大悪魔バニルである。

……これでよいか? 冬木の管理者(セカンドオーナー)にして第五次聖杯戦争の参加者、アーチャーのマスター遠坂凛よ」

「な…」

 

名乗る前に言い当てられたことに驚く凛。だが、ここまでは調べればわかること。向こうも当然、すぐに気づくはず。なのでここはたたみかける。

 

「召喚の儀を1時間間違い、狙っていたクラスを引きそびれた、ここぞというときにうっかりを発動させる娘よ、言ったであろう。我輩は見通す大悪魔だと。……ふむ。汝のその悪感情、ゴチである」

「こいつ…!」

 

恥ずかしい失態を暴露され、怒りと恥ずかしさで顔を真赤にさせる凛。ここはもうひとつからかってやろう。

 

「おや。魔術師というものは、常に優雅で冷静たれが信条ではなかったかな?」

「く…!」

 

よし。これで当面の間は俺が襲われる心配は…ぬおっ!?

いつの間にか俺の後ろに現れたアーチャーが、いつもの双剣で俺を斬りにきた。ギリギリで俺の[自動回避スキル]が発動して助かったけど、危うく人生が終了するところだったぞ。

 

「……ふむ。見通す悪魔への奇襲、ご苦労なことである」

「……ちっ!」

 

とりあえず、内心ビビっていたことなどお首にも出さず、俺はもっともらしく立ち居振る舞う。

 

「……それで、その見通す悪魔が私達に介入したのは、どういった理由なのかしら」

 

イリヤがそう尋ねてきた。ナイスだ! これで話を進められる。……いや、脱線してたのは俺の方だけどさ。

 

「実は我輩、この世界の悪魔とは違っていてな。汝ら魔術の世界で認識される悪魔ではなく、世間一般の想像における悪魔と等しいと思ってもらえれば良い。もっとも、魂と交換に願いを叶えるサービスは廃止されて、今では金銭によって行われているがな」

「……なんだか随分と現実的価値観だな」

 

士郎の呟きはもっともだ。まあ、おかげで色々と助かった部分もあるんだけど。

 

「そして我輩ら悪魔族が食するのは、人間の悪感情である。悪魔によって好みはあるが、我輩が好きなのは、嫌だなー、といった悪感情。つまり、期待を裏切られたり恥ずかしい目にあったときに生じる感情であるな。そんな、我輩から見ればご飯製造機である人間に死なれるのは非常に困る、というわけなのだよ」

 

ホント、バニルの好みのお陰で今まで助かった面もあるし、今回の介入の理由にもなった訳だ。

 

「それはわかったけど、これは儀式を成すための戦争よ? 一般人に類が及ぶのは好ましくはないけど、参加者による僅かな犠牲は仕方がないんじゃないかしら?」

 

さすがは凛。甘い性格の魔術師はこちらでも健在な様だ。だからこそこれから告げることは、充分過ぎる交渉材料になる!

 

「汝らが求める聖杯はすでに汚染され、託した願いは捻じ曲げられて、人類を滅ぼす方向へと叶える物だったとしても、そのような事が言えるのかな?」




本文にも書いてますが、この和真さんは前世で、人類最強の魔法を覚えたのと同じ理由で[芸達者になるスキル]を覚えてます。というか、覚えるために魔王討伐後も支援魔法として使わせてました。

カズマ「アレはとても()いものだ!」
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