【完結】アドマイヤグルーヴとトレーナーが繋がりを知る物語   作:ポンタ4

4 / 4
後日談
貴方がいて、私がいる


 地面から垂直に伸びている緑の水草たち。水流に逆らわず、ただその流れに乗るように揺れている。こぽこぽ、と気泡が水の中で弾ける音。ウマ耳の中で響く音が、何処か心地よかった。そしてその中で気持ちよさそうに泳いでいる生き物たち。赤色や黄色、色とりどりの魚達が泳ぐ姿を私は視線で追っていた。

 ゆらり、ゆらゆら、と。水草と魚によるダンスだった。魚がメインならば、水草はそれを盛り上げるバックダンサーだろうか。

 水槽に指を近づけては、ガラスに触れていく。ぴたり、と指が触れると水槽の冷たさが伝わってきた。魚の動きに合わせて指をなぞっていく。右に、左へ。一匹ずつの魚たちが塊になり、最後には私の指に付き添うように動いていた。

 

「────ヴ」

 

 水草の中から一匹の魚が出てきた。その魚は他の魚と比べて白色が多かった。ただ、水草からダンスを見つめ続けている。時折水草から全身を出そうと尾びれを動かすも、直ぐに戻ってしまった。

 体も他の魚と比べて小さい。子供だろうか。

 

「アルヴ」

 

 肩を叩かれると、私は其方に首を早く向けて振り向いた。私の動きに驚いたその人物、既にパジャマに着替えており、髪も艶やかに濡れている。エアグルーヴさんだった。

 

「…どうしたんだ?アルヴ」

「いえ…その…」

 

 言葉が詰まってしまう。喉から声を出そうとしても上手く絞り出すことが出来ず、視線は床へと向いてしまった。

 顔を上げて栗東寮のロビーを見渡すと既に私と彼女だけ。窓ガラスからは月明かりとより明るい蛍光灯の光が混ざり合っていた。

 

 はぁ、とエアグルーヴさんが溜め息を吐いた。優しい声色で「何か悩み事か?」と腕を組みながらも威圧感は無かった。

 

「……少しだけ考え事を…していたんです」

「どんなだ?」

「…もしも、の話ですから」

 

 ぽつり、と零していく。

 視線はまた水槽へと移ってしまう。既に水槽で泳いでいた魚たちは水草の中へと隠れてしまっていた。白色が多い魚も既に見当たらない。探すように指をまた水槽に近づけようとするも、私は触れることが出来なかった。

 水槽から体を離し「ご迷惑をおかけました。大丈夫です」それだけを告げて私は自室へと戻っていった。

 

 

**

 

 

 トレーナーと二人で駆け抜けた三年間。彼に繋がりというのを教えて貰い、繋がる事の大切さ、失う事の怖さ、沢山の事を教えて貰った。二人で温泉に行ったあの日から二ヵ月が経ち、丁度三月を迎えようとしていた頃の話だった。

 

『温泉に行ったときに話したことを覚えているか?』

 

 トレーナー室で私に話しかけてきた彼の表情は真剣そのものではあるも、子供のような童心も含んでいた。

 椅子に座りながら出してきた透明なクリアファイルが一つ。それを受け取り、一枚ずつ中を見れば複数のウマ娘の写真とトレーニングの記録や得意な脚質が書かれていたものだった。

 

『今年からチームトレーナーとして活動を始めようと思うんだ。その子達が今気になってる子だね。二人ほどスカウトをしようと思うんだ』

 

 彼はそう告げながら、両手に指を絡ませ、椅子に体重を預けていく。彼は柔らかな笑みを私に見せていた。窓ガラスから差し込んでいる陽の光で、その表情はより優しくも見える。

 私は資料を見せてくれた理由が分からずに首を傾げながら『何故私に?』と尋ねると彼はこう答えた。

 

『アルヴと一緒に決めたいんだ』

 

 その言葉を聞いた時に私は素直に頷くことが出来なかった。一瞬の思考の躊躇い。私と彼、二人でチームに加える子を決める。

 エアグルーヴさんのような、誰かに背を向けられる走りをしたい、と私は決めた。しかし、それは果たして誰に。漠然とした考えだった。

 

 私とトレーナーが選んだ子が私にとって、背を見せたい走りが出来るのだろうか。視線を資料では無く、その先の地面へと落としてしまった。

 

『少し、考えさせて』

 

 その言葉を告げて、私はトレーナー室を後にした。逃げるように、足早にしながら。

 

 

**

 

 

 彼から告げられた提案から数日が過ぎても、私は決めることが出来なかった。次に迫るGⅠレースに目を向けながら、ただひたすらにトレーニングメニューをこなしている。

 いつものようにトレーニングを終えて、汗を拭いていく。二人でトレーナー室に戻り、最後のおさらいをして解散をするはずだった。

 

「アルヴ、ちょっといいか?」

 

 私がトレーナー室のソファーから立ち上がった時にトレーナーから声をかけられた。彼の方に視線を向けると、彼は「あ、待ってて」と告げた。そのまま、彼はいつも座っている机の方に歩いていき、引き出しを開けていく。

 何かを探している音が響くのが数秒続いた。引き出しから取り出したのは二枚の長方形となっている紙切れだった。

 

 此方へ戻ってくれば、彼は一枚を差し出してきた。

 クジラと魚が一緒に泳いでいる写真、そして『入館券』と書かれた文字。

 

「水族館の…チケット?」

「そう。よかったら今週の日曜日にどうかな」

「…えぇ、確か予定も無いもの。良いわ」

 

 トレーナーに視線を向けながら応えていくと、ほっとした様に彼は胸を撫で下ろした。その様子に思わず口元から笑みが零れてしまった。

 

「来月からは一気に忙しくなるから、最後にしっかりと英気を養おうか」

「そうね。楽しみにしているわ」

 

 そのチケットを受け取り、二人で集合時間も決めていく。

 午前十時にトレセン学園近場の駅に集合。午前は何を見て回るのか、食事も何処で取るのか彼が決めてくれるそうだ。私も決めたかったが、彼が「誘ったのは俺だから」と一点張りだった。

 私の為に色々考えてくれるのは嬉しいけども、疎外感を感じてしまう。でも、これもきっと彼なりの気遣いなのだろう。

 

 その日は夕日の明かりが伸び切ってから解散することになった。

 

 

**

 

 

 数日後、水族館へ私とトレーナーは向かった。決めた時間に二人で集合し、そして私と彼は二人で電車に乗って目的の場所へと向かっていく。

 彼の服装はスーツ姿ではなく、もっとカジュアルなものだった。白いTシャツにネイビーの薄手の上着。深い色のグレーのデニムを履いていた。

 私は白色のワイドパンツに紺色の薄手のカーディガンだ。時折、トレーナーと一緒にお出かけをすることも増えてはいるが、まだ慣れない。

 

 電車に揺らされ、数十分が過ぎれば目的の水族館へと辿り着いた。周囲には家族連れや友人同士、恋人同士など様々な人たちが訪れている。人は多いが、見失ってしまう程ではない。しかし、はぐれてしまわない様に彼の隣を歩いていく。

 

「流石にちょっと混んでるね。大丈夫か?アルヴ」

「平気よ、トレーナーは?」

「大丈夫。行こうか」

 

 二人でチケットを手にして水族館内へと入っていく。そこは中央ロビーであり、入れば広々とした空間だった。

 入った正面にはフロアマップがあり、そこに脚を運んだ。

 

 この水族館は東館と西館の二つで構成されている。

 東館はイルカやアザラシ、シャチといった大型の生物たち。東館の屋外ではイルカショーも見れるようだ。

 対して西館は小さな魚の群れや亀やサンゴといった小型の生物たち。此方では触れ合いが出来たり、東館と同じように屋外ではペンギンショーも見ることが出来るようだ。

 

「まずは東館で色々と見ていこうか」

「分かったわ」

 

 私は一つ頷いて答えた。

 

 東館へと向かっていくと最初に目に入ったのは『ようこそ、海の世界へ』と書かれた大きな看板。イルカとシャチが笑顔も添えられている。それに視線を向けて見つめていると彼から「写真でも撮ろうか?」と声をかけられた。

 

「…いえ、いいわ」

「遠慮しなくていいのに」

 

 既にトレーナーの手には携帯が握られている。まるでいつでも準備が良さそうに。それを見てしまうと私は肩を竦めながら小さな溜め息を吐いてしまった。子供のような無垢な笑顔を浮かべている彼が、少しだけ羨ましい。

 

「分かったわ。なら、一緒に撮りましょう」

「じゃあ、こっち来て」

 

 私はそう言われると彼の隣に立っていく。彼は携帯を操作してインカメラにすれば、しっかりとお互いが映るように彼が肩を寄り添わせてきた。私はそれに覚束ない表情を浮かべてしまった。

 携帯の画面に映る私の表情を見て彼は面白そうに笑顔を浮かべていた。

 

「わ、笑わないで…」

「ごめん、まさかそこまで緊張していたなんて」

 

 お互いに視線を向け合っていたが、直ぐにカメラに顔を向け合った。そのままぱしゃり、と音が鳴れば携帯に保存されていく。私と彼、そして背後には水族館の名前が乗ったものだ。

 

「行こうか」

 

 その一言を皮切りに東館の中へと入っていった。脚を踏み入れるとまず迎え入れたのは大きなホール。

 右の部屋はより広々としており、多くの人が入れるようだ。既に其方へ脚を運んでいる人も見かける。部屋の中は薄暗くも大きな水槽から太陽の光が反射をして、煌めくように照らしていた。

 左の部屋は入り口が岩と氷の飾りでごつごつとした装いをしている。中は薄暗く同じように水槽から光が漏れ出ている。右の部屋よりも多少ながら光が少ないだろうか。

 正面にはエスカレーターで二階へと上がる事が出来る。

 

 近くにあったフロアマップを見ると、それぞれの部屋が何の生物がいるのか書かれていた。右の部屋はイルカとシャチ、左はベルーガ。二階へ上がればそれぞれの水槽を上から見下ろすことが出来る。

 次いで二階の奥へ向かえばイルカショーのステージがある。

 

「まずはベルーガの方を見に行こうか。イルカショーまでまだ時間はあるから」

「分かったわ」

 

 二人で歩いて左の部屋へ。入り口の装いは南極をイメージしているのだろう。二人で脚を踏み入れていくとひやり、とした腕を擦りたくなる様な寒さが伝わってくる。

 部屋の中も岩と氷の飾りで装っており、正面に見える大きなガラスの周囲はその飾りで覆われていた。ガラスは三つに枠を作って分けられており、別々で見られるように工夫されている。枠にはベルーガの説明が書かれた展示物も載っていた。

 一番右のガラス、入り口から近いそこには小さな子供を連れた家族がいた。ガラスに近づいてはぺたぺた、と三歳児くらいの子が触っている。

 

 それを横目に見ながら、私とトレーナーは真ん中のガラスに近づいた。

 正面にはベルーガが二頭、仲が良さそうに一緒に泳いでいる。水槽の向こうに広がるエメラルドグリーンの世界。気持ちよさそうに、二頭は踊るように水槽の中を駆け巡っていた。

 

「よくシロイルカって言われる子達だね。こんな優雅に泳ぐのか」

「……何だか踊っているみたいね」

 

 彼がちらり、と展示物に視線を動かした。

 

「雄と雌、らしいよ。仲の良い夫婦で一緒に泳ぐんだってさ」

「だからなのね」

 

 私達の正面に二頭のベルーガが来れば、くるん、と目の前で一回転をした。そのまま、今度は右のガラスへ泳ぎ去ってしまう。先程の小さな子と思われる声が聞こえた。楽しそうに笑って、手を叩いていた。

 それに合わせて、小さな子供の両親も楽しそうに会話をしている。その声に私は耳を澄ませていた。

 

「すごいっ!すごいねぇ…!」

「ふふっ、そうね。凄く綺麗だね」

「はは、どうだ?海の生き物ってカッコよくて可愛いだろう?」

「うんっ!!」

 

 自然と視線も其方へと向いていた。楽しそうに三人で並ぶようにベルーガの泳ぐ姿を見つめている。父親が説明を読んではそれを咀嚼して、子供にも分かるように簡易的に説明を始めていた。

 私はその光景を眺めていた。何かをするわけでもなく、ただ囚われてしまった。

 

「アルヴ……?」

「………」

「アルヴっ」

 

 とんっ、と肩を叩かれると私の意識は鮮明になり、直ぐにトレーナーへ視線を向けた。

 

「ど、どうしたの?」

「何か気になるものでもあった?」

 

 小首を傾げているトレーナーの姿。言葉で話そうと思っても上手く話せず、首を横に振った。「そう?」と彼も眉を下げ、此方を伺うような表情をする。

 

「本当に何でもないわ。次に行きましょう」

「いいよ。次は…イルカショーの時間が近くなってるからそっちに行こうか」

 

 携帯を取り出しては電源を付けて時間を確認していく。時刻十一時。もう来てからそんなに時間が経っているのか。余りにも早い時間の流れだ。

 二人で並んでベルーガの水槽から離れていった。横目で見た家族は、私達がいた真ん中のガラスへ移動し始めていた。

 

 

**

 

 

 二階へと上がり、少々歩いていくと屋外へ繋がっていた。水槽の上からベルーガやシャチ、イルカ達が泳いでいるのが見えている。しかし、一番のメインはイルカショーだった。

 イルカなど水槽が見える場所から更に奥へと歩いていくと、半球型のドームが見えてきた。中へと足を運んでいくと、そこそこな広さだった。右には大きな円形のプール。左は階段状に積みあがった観覧席だった。

 既に観覧席には多くの人が集まっており、最前列から中盤までは埋まり切っている。私とトレーナーは階段を上がっていき、観覧席全体でも右側の席に座っていく。周囲全体を見渡せるほどに広く、視界は良好だった。

 

「イルカショーはあと…十分だね。プログラムもその日その日で違うみたいだ」

「今日のプログラムは?」

「うーん…どうやらその日で色々決まってるらしいからその時のお楽しみみたいだね」

 

 トレーナーが携帯でイルカショーのページを見ながら話している。私にもそのページを見せてくれ、二人で覗き込む様に話し続けた。

 ページにはイルカショーの一端と思われる写真の数々。その写真には輪をジャンプでくぐる姿やボールに向かって飛び上がる姿。どれもイルカ達の表情が分かり、どの子も楽しそうにしていた。

 

「アルヴは水族館に来たこと、ある?」

「突然なに…?」

「何となく気になって」

 

 視線を携帯からトレーナーの方に向ければ彼は私を見つめていた。彼は首を傾げ、私の返答を待っていた。

 

「…そうね、小さい頃に来たことがあるわ」

 

 私は視線を正面へと向けた。遠く、向けているのは正面に広がる円形のプール。ゆらゆらと風によって揺らされている水の波紋を捉え続けていた。

 

「小学生の頃…だったかしら。孤児院のイベントで行くことになって」

「イベント?」

「皆で仲良くなりましょう、というものよ。入って来たばかりの子達が早く打ち解ける様に…というものね」

「なるほどね。それで…君は?」

「私は入ってきたばかりの子と一緒に手を繋いでいたわ。そうね、面倒を見る役と言えばいいかしら」

 

 一緒に手を繋いでは、孤児院の子達で一列になって歩いていく。前の人に付いていっては、はぐれない様に。私も手が離れてしまわない様にしっかりと握っていた。

 水族館の定番であるイルカショー、ウミガメのゆったりとした泳ぎ。それと大量の魚による遊泳。どれもまだ幼い記憶として残っている。微かに薄れてはいるが、彼に話しているとゆっくりと鮮明になりつつあった。

 

「貴方は?来たことはあるの?」

「あるよ。俺は…両親とだけど」

「それは……ごめんなさい」

「良いんだ。楽しい思い出もちゃんとあるから」

 

 彼は首を横に振りながら答えた。その表情は朗らかだった。彼にとって、きっとあの過去は思い出したくないはずなのに。水面から反射した光は僅かながらも、彼の表情を照らしていた。少しだけ、眩しい。

 

「……」

 

 私はそれ以上、言葉を発することが出来なかった。

 

 その沈黙を破るように『お待たせいたしました!!』と甲高くも楽し気な声が響いてきた。二人で正面のプールに視線を移していくと上下紺色のスイムスーツに身を包んだ女性が一人出てきた。

 両手を大きく広げては、観客席を見渡した後に頭を深々と下げていく。

 

『本日もお集り頂きありがとうございます!!皆さま、どうか拍手でイルカ達のお出迎えをお願い致します!!』

 

 観客席内に広がる拍手の音。私も控えめながら手を叩いては、周りに合わせていく。

 プールの頭上にはレーンで丸いボールが四つほど運ばれてきた。プールからはかなり離れており、私の身長を三倍程度だろうか。ボールは等間隔に配置されており、それが止まると音楽と共に四匹泳いで現れる。

 音楽に合わせて四匹が盛大に飛び上がり、ボールに鼻でタッチをすればプールの中へ水しぶきを上げて再び入っていく。

 

「ははっ!凄いな」

 

 隣で彼は拍手をしながらイルカ達を見ていた。

 イルカショーのプログラムは矢継ぎ早に変わっていく。イルカとスタッフが一緒に泳ぎ、時にはイルカの上に乗ってサーフィンのように。

 イルカが飛び上がっては空中に配置された輪をくぐったり、と非常にアクロバティックなものだった。

 

 そんな濃厚な時間はいつの間にか終わりを告げていた。

 最後に出演したスタッフとイルカ達が並び、頭を下げては終演を迎えた。大きな拍手と共に幕を閉じていく。私はしっかりと音を鳴らすようにして手を叩いた。

 

「凄かったわね。昔はこんな感じだったかしら…?」

「俺も同じだよ。今はこんな風になってるんだな。いやぁ、良い物が見れたよ」

 

 一緒に椅子から立ち上がり、その場を後にしていく。周囲では先程のイルカショーの感想を話している人たちで溢れていた。私達も例に漏れず、その話をしていた。

 次は何を見ようか、と話しながら歩いていく。ふと、水族館に備え付けられた時計を見ると十二時を迎えようとしていた。少し小腹が空いてきた頃だ。

 

「お昼時だね…確か…」

 

 トレーナーはそう言いながら近くにあった案内板に指を添えながら確認を始めた。

 

「あった。ここが確か食事が出来る所だったかな」

 

 指を添えた所、そこは東館と西館の丁度真ん中。レストランと軽食が食べれる場所が書かれていた。その中で彼はレストランでは無く、もう一つの場所に指を合わせていた。

 『3階 フードテラス』と書かれていた。

 

「レストランも美味しいらしいけど、このフードテラスにあるサンドイッチが中々評判でね」

「そう…それは楽しみね」

 

 案内板から離れて五分程歩いていけばレストランが見えてきた。

 既に店の外では多くの人が順番を待っていた。私達はそこを通り過ぎて、更に奥へ進んでいけば、今度は軽食が集まったフードテラスへ繋がっていく。大きな広場に机と椅子が並べられ、壁に沿うように多くの店が並んでいた。

 

 ここも多くの人が集まっている。椅子取り合戦、とまではいかないが空いている席は少ない。その中で二人用の向かい合って座る席。大きな窓が側にあり、水族館を上から見渡すことも出来る。窓の向こうにはイルカショーと思えるドームも見えていた。

 偶然そこが空いていた。私達はその席へ近づいていく。荷物を置いて場所取りをしようとすれば「ここで待っていて」と彼から告げられた。

 

「分かったわ。メニューは…」

「一応決めてるんだ。楽しみに待っていて」

 

 私は椅子に座り、トレーナーが離れていくのを見つめていた。その背中が向かう先は『アクアブレッド』と書かれていたお店だった。遠目ではあるが、先程彼が言っていたサンドイッチのお店だろうか。

 評判と言うのはどうやら嘘ではないらしい。彼の前に数人待っていた。

 

 私は窓の外へと視線を向けていく。水族館の更に奥は海の水平線が広がっており、太陽の光を反射させながら煌めいていた。波が凪いでいけば、光も波の動きに合わせて踊るように反射をしている。

 青く澄んだ世界に一筋の金色。水平線の彼方まで伸びきっていた。

 

 私はただその光景を見つめていた。何かを考えることもせず、ひたすらに見つめているだけ。

 

「……綺麗ね」

 

 独り言を放ち、直ぐに自嘲気味に鼻で笑ってしまった。今日の私はどうにも変だ。やけに呆然とすることがある。

 まだ私の中で、過去の事は全て受け止められていない。ただ一人で走り、証明をしようとしていたあの頃。彼の為に走ろうと決めたシニア期。スティルさんと共に競い合ったクラシック期。私自身を証明しようと考えたジュニア期。

 

 どれも今となれば過ぎ去ってしまった過去だ。けれど、やはり心残りがある。

 負けたことは、今でも思い出してしまう。もしも、の世界を考えては自らで否定を繰り返す。私にとって走りは楽しい物へと変わった。だけど、その楽しさは他の誰かのためになるのだろうか。

 違う私ならば、果たして悩むのだろうか。既に変えることの出来ない過去を考えてしまう事が増えている。

 

「お待たせ、アルヴ」

 

 背後から聞こえたトレーナーの声。海から彼に視線を向けると、彼は両手に薄桃色のトレイを持っていた。その上にはサンドイッチと紙コップがそれぞれ二つ。

 彼は対面に座り、トレイを置いた。サンドイッチは真四角で茶色のペーパーに包まれている。掌よりも大きく、両手で持っても溢れてしまう程の大きさだ。私はそれをじっと見つめては、直ぐに彼の方を向いた。

 

「……やけに大きいわね?」

「分かるよ。その気持ち。評判と聞いてたけど、まさかこういう意味でか…」

 

 トレーナーも予想外だったらしく、苦笑いを浮かべていた。彼が手に取ったのを見れば私も一つ手で掴んでいく。ずっしりとした重さだった。

 ペーパーに付けてあるテープを指で引っ掻くようにして剥がしていく。剥がし終えていくと中からは茶色のパンがまず見えた。どうやらローストされており、香ばしい匂いが伝わってくる。

 次にパンからはみ出る様に青々とした緑色のレタス。更にペーパーを捲れば今度はスライスオニオンに薄オレンジの大きなサーモンの切り身が見えた。

 

「美味しそうだ、頂きます」

「頂きます」

 

 口を大きめに開いてはサンドイッチの端からかぶりついていく。ざくり、とした触感と口内に広がっていく。しっかりと歯で嚙み切って口の中で咀嚼を繰り返した。

 舌に伝わる少々の辛み。食べていけばより食欲が湧いてしまい、またかぶりついた。

 みずみずしい野菜達に濃厚かつ蕩ける触感のサーモン。更には奥に広がる甘みとまた若干ながら辛み。

 

「…はぐっ」

「んっ…」

 

 二人して夢中になって食べていた。なるほど、確かにこれは評判になると言っても過言ではない。食べれば食べる程に余計に夢中になってしまう。

 気が付けばペーパーの中身は空になっていた。私はトレーナーに視線を向けると、彼も丁度見つめてきた。

 

「これ……美味いなっ!」

「えぇ、とても美味しいわね」

 

 ボリューミーかつ濃厚な味わい。けれどくどさは無く、むしろもっと食べたいと思ってしまう。とはいえ、これ以上食べてしまうのは流石に───────

 

「アルヴ、もう一回食べないか?」

「……ふふっ、良いわ。食べましょうか」

 

 そう言われたら、断れるわけがない。

 

 

**

 

 

 二人で食事を終えて、今度は西館へ足を運んだ。まず見えたの水槽の中に鎮座する大きなサンゴ礁。その周囲を色とりどりの魚達やエイ、チンアナゴなど一つの生態系を作り出していた。この水槽自体は一階から二階まで連なる水槽であり、かなりの大きさだった。

 

 次に見たのはウミガメとペンギンそれぞれの水槽だった。

 ウミガメたちは水の中でゆったりとヒレを動かしながら泳いでいる。此方を認識しているのか、ガラスの向こうから見つめてくることがあった。

 ペンギンたちはショーのお休みで皆で陸に上がって交流をしていた。時折、数匹のペンギンが水の中に入っては泳いでレースの様なことをしていた。近くで見ていた子供がそれを走って追いかけているのが、可愛かった。

 

 西館の最後に辿り着いたのは小さな魚達による生態系の構築だった。

 多くの水槽が壁に埋め込まれており、並ぶように配置されている。他の展示と比べると明かりが僅かながらに少なかった。水槽の中ではそれぞれの種類の魚が泳いでいる。

 適切な環境で飼育が必要な事、また何処で生息しているのかが書かれていた。私達はそれを一緒に会話を交えながら見ていた。

 

「……」

 

 その時、私の脚が止まった。一つの水槽の前で。目の前の水槽に手を添え、触れていく。冷たい感触が指先に伝わり、冷たかった。

 

「へぇ…これがオーストラリアの……アルヴ?」

「……ねぇ」

 

 私はトレーナーに顔を向けていく。微笑みながら彼は首を傾げ「どうしたんだ?」と尋ね返してきた。

 

「…今日は連れて来てくれてありがとう。とても楽しかったわ」

「そう言ってくれて良かったよ」

 

 彼が隣に近づいて来ては、水槽の中を覗き込んだ。

 

「これ、クマノミだっけ?」

「有名ね」

「好きなのか?」

「…………」

 

 一瞬だけ口を開いて答えを返そうとした。だけど、どう返せばいいのか分からずに私は視線を床へと向けていく。水槽に添えていた手はゆっくりと離れていった。

 

「アルヴ」

「……何かしら?」

「…悩み事、あるなら聞くよ」

 

 心臓の鼓動が跳ねた。呼吸をするのも忘れてしまう程に息が詰まってしまう。彼の見つめてくる瞳。あれは過去に私を見ていたそれと同じだった。

 今はもう、気持ち悪さは感じない。

 

「最近………考えることがあるわ」

「チームのことか?」

 

 こくり、と私は一つ頷いた。

 トレーナーから告げられたチームに加入する子を二人で選ぶという事。まだ私の中で答えは出せていない。

 誰かを自らの手で選び、繋ぐという事。今まで私がしてこなかった事をする。その一歩がまだ踏み出せなかった。

 

「…昔の話を…してもいいかしら」

「あぁ、いいよ」

 

 目の前の水槽に手を当てていく。水槽のクマノミが気づいたのか、人差し指に近づいては何度も口を動かしていた。

 

「昔、孤児院にアクアリウムがあったわ。大きくは無いけれど…小さくて、職員さんが作ったのが。そこに一匹の魚だけ、気になる子がいたの」

「どんな子だった?」

「周囲に加われなくて、ずっと水草に隠れてた子よ」

 

 孤児院の時代。その記憶を掘り返していく。

 職員さんと一緒にアクアリウムの生き物をお世話する、という係があった。私はその係となり、餌をあげ、水を替えたりしていた。他の子と一緒にする事もあったが、基本は私が一人でしていることが多かった。

 

「その子は他の子達よりも色が少し違って、仲間はずれみたいになってた」

「……」

 

 トレーナーは何も言わずにただ聞いてくれている。横目で彼を視界に移せば、先程の笑顔は無くなっており、真剣な表情となっていた。それでも、柔らかさは残ったままだった。

 直ぐに私はクマノミの水槽を見た。人差し指を動かせば一匹のクマノミが付いてきた。

 

「皆が泳いでる中、その子はずっと水草に隠れてた。餌をあげた時も出てくることは…いいえ、地面に落ちた残りを食べるときには…出てきたわね」

 

 ぽつり、ぽつりと独り言のように話していく。周囲には人はおらず、私とトレーナーの二人だけだった。

 人差し指を水槽の端まで辿り着けば、クマノミは旋回し、そのまま尾ひれを動かしながらイソギンチャクの方へ泳いでいった。

 

「最後は…………死んでしまったわ。おそらく、ストレスで」

 

 餌も食べていた。水も綺麗なものにしていた。掃除もした。環境が急激に変わってしまわない様に配慮もした。

 それでも、朝のお世話をするときに浮かんでいたのは───────今でも忘れられない。

 

「トレーナー」

 

 私は視線をトレーナーに向けた。逸らすことなく、ただ彼の瞳の奥を見つめていくように。

 

「……私は今でも…一緒に選ぶという事に答えを出せない」

 

 自分に言い聞かせるように小さく、頷きながら言葉を紡いでいく。

 今の私では、まだ分からない。でも、違う私ならば?アドマイヤグルーヴという孤児院の時代を歩いてきた私ではなくて、家族と歩んできたアドマイヤグルーヴならば。

 

「色々な人には…水槽の中の様な繋がりがあると思うの。あの魚がもし、別の水槽ならきっと…答えを出せていたと思うわ。誰かと繋がり…そして死なない方法が」

 

 手に力が入っていく。爪が食い込み、自分の体が熱くなるのを感じた。それでも、言葉だけは止まる事は無かった。

 彼の表情が見えなかった。私は彼の透けるような瞳に映る私自身を見ていた。

 

「私も……別の水槽で生きていたなら、直ぐに答えが出せていたかもしれない…。ねぇ、トレーナー、教えて」

 

 息を一度吸い込んだ。妙な冷たさを持った空気は私の肺の中へと入り、その冷たさは胸を苦しめてくる。

 

「私が孤児院出身じゃなくて、家族がいて………トレセン学園に来ていたら、貴方は私をスカウトしてた?」

 

 指の先まで冷たくなった。今度はじくり、と鈍い痛み様なものが染み出してくる。その痛みに逆らうように私はただ彼を見つめていく。爪を掌に食い込ませ、より耐えていく。

 

「………難しい問い、だね」

 

 ゆっくりとトレーナーは口を開いた。口元に手を添えて、腕を組みながら視線を私から離していく。考え込む様に彼は地面に視線を向けていた。

 

「つまり、今のアルヴではなくて別のアルヴ、としてスカウトするか…ということか」

「えぇ」

 

 彼の唸る声以外に音が無くなっている。

 いや、もう一つ聞こえる音があった。私の心臓の鼓動だ。いつもよりやけに早い。

 ごくり、と生唾を飲み込む音も増えた。それでも口の渇きは癒えなかった。

 

「────────────しない、かな。うん、しないと思う」

 

 数秒の思考の後、彼は私と視線を合わせながら答えを告げた。

 心臓の音が消えた。

 

「どうして……?」

 

 視線が彷徨う。彼の瞳を見ていたはずなのに、今は彼の奥の世界を見ている。その次には下に向け、壁に向かっていく。

 けれど、最後には彼の瞳へ戻っていた。

 

「俺は今のアルヴに、今の君の走りに惹かれたんだ。もし、全く違う君なら…それは今知ってるアドマイヤグルーヴじゃない。俺がスカウトしたいって思ったのは、今の─────アルヴなんだ」

 

 柔らかな笑みを見せながら告げる彼の表情。それを見続けることが出来ずに、私はクマノミの水槽へ移した。そこにクマノミはいなかった。いや、きっとイソギンチャクの中へと隠れているのだ。

 まだ、心臓の鼓動は聞こえなかった

 

「……今の、わたし」

 

 ぽつり、と呟いていく。水槽にまた手を伸ばして指先で触れていく。最初に触れた時よりも控えめに、指の腹を全て押し付けてしまわない様に。

 その時、横から足音が聞こえてきた。その音に釣られ、横目で見ていけばトレーナーが近づいてきた。水槽のガラスに彼が映った。

 

「むしろ聞かせて欲しいな。俺が…今の俺じゃなく、全く違う俺だったら?」

「…トレーナーが?」

「うん。孤児院育ちじゃなくて…家族が居て、普通にトレーナーになってたら。スカウトされて…君は応えた?」

 

 今の彼ではない、別の彼という存在。私はゆっくりと瞼を閉じた。

 彼が私の走りを初めて見た時の言葉。今でも思い出せる。

 

『生き急いでいる』

 

 私が自分を証明するために走っていた時の事だ。ジュニア期で一人でコースを走り、彼が初めて私を見つけてくれたこと。その時に彼は私の走りではなく、走る意味の方を見ようとしてくれた。神童というアドマイヤグルーヴではなく、私自身の存在を。

 でもそれを見つけてくれたのは今のトレーナーだ。家族を失い、孤児院で生きてきた彼だから。

 

 今のトレーナーで無かったらきっと、他の人と同じような目で私の事を見るだろう。

 仮に同じ言葉を言われても、あの目だけは。私をスカウトした時に見せてくれた目はきっと、違う。

 

「……そうね」

 

 私は瞼を開いた。水槽の中で光っている照明用の明かりが眩しくて、私は瞳を細めていく。そのまま彼の方に視線を向けた。細めたまま、小さく口元を緩めて。

 

「きっと…あしらってたわね」

 

 そう告げるとトレーナーは表情を綻ばせた。まるで私の答えが分かっていたように。もう一歩彼が近づいてくれば一緒に水槽の中を見ていく。

 水槽の中でクマノミが二匹、顔を出しては此方を伺っていた。

 

「そういうことだよ。お互いに今だから…こうやって繋がれた。だから…無い世界を想像しても仕方ない」

 

 トレーナーも水槽に指を添えていく。私と同じようにガラスをなぞっていけば、指の痕が伸びていった。彼という痕跡を残すように。

 

「想像したくなるのは…分かるけど…」

「…貴方も思うのね」

「別世界でなくても…選択とか、かな。あの時…って。でも、後悔しても遅い。だから………そうだな…」

 

 私はトレーナーの指を眺めていた。その指に私はガラスに添えていた指を近づけていく。触れるまでまだ空白があった。

 

「今の水槽で…この繋がりを大事にするべきだと思う。昔、君を見つけたように。…あまり俺も…人の事を言えるわけではないけれど」

 

 私の方を見て告げる彼の表情は何処か困ったように眉を下げていた。自嘲気味に鼻で笑い、口元を緩く結んでいる。

 「そんなことないわ」と私は首を横に振りながら答えた。

 

「貴方のおかげで…私は今も走れている。だから────」

 

 そこから先の言葉が上手く出なかった。何を言おうとしたのか、脳内を探っても思い出せない。水槽に一滴の水を入れたかの様に溶けては混ざり、既に見えない。

 少しだけ開いた唇を閉じていく。それ以上私は言葉にすることは無かった。

 

 視線は自然と私と彼の指へ向かった。お互いの空白、私から近づけていき、残り数センチまで近づけた。距離は空いているのに、ちりちり、と指から彼の体温が伝わってくる。

 いや、きっと錯覚なのだろう。触れていないのだから、体温が伝わるはずがない。それでもこの暖かさは、本物だった。

 

 指を水槽から離していき、私は出口に向かって一歩足を進めた。トレーナーと横並びになり、彼も水槽から体を離している。

 

「帰りましょう。今日は…ありがとう、本当に」

「それは俺もだよ、アルヴ。行こうか」

 

 二人で肩を並ばせて歩いていく。歩幅も合わせて、お互いの距離が変わらない様に。出口が近づけば通路の明かりで眩しかった。瞼を細めて、右手を目元へ持っていく。

 そのまま歩いていけば、西館の展示は終わりを迎えた。東館と西館の中央ロビーに辿り着いた。窓から見える太陽はまだ高かった。多少は傾き始めているが。

 

「ねぇ、トレーナー。寄りたい所があるのだけれど、いいかしら」

「何か気になるのでも?」

「…お土産。エアグルーヴさんとか…お世話になってる人に」

「はは、大丈夫。元々寄るつもりだったよ」

 

 中央ロビーから出入り口へ迎えるが、すぐ側には大きなミュージアムショップがあった。小さな子供や大人までぬいぐるみを抱き抱えたり、お菓子などを見ている。私達は一緒にそこへと向かっていった。

 

「まぁ、定番と言えば…お菓子だよな」

「こういう時はぬいぐるみじゃないかしら?」

「………エアグルーヴが欲しがるか…?」

 

 そんな他愛ない会話。周囲に混じって同じようなことを考え、二人で店内を歩き回っていく。

 ─────あれはどうだろうか

 ─────これも良いと思う

 二人で手に取っては一緒に眺めて、考えた。結局、色々と買うことになってしまったのは、良い思い出の一つかもしれない。

 

 

**

 

 

 午後八時。門限まで残り二時間という所で私は栗東寮へ帰ってきた。あの後、二人で夕食を共にしては水族館の話で盛り上がってしまった。次は何処に行こうか、なんてことも話し合ってしまう程に。

 トレセン学園まで走っているバスで一緒に帰り、お互いに帰路へついた。左手に持っている袋が少々重い。お世話になったエアグルーヴさんにお土産を渡すのはまた明日で良いだろう。流石にこの時間に向かうのは迷惑になってしまう。

 

 がさり、と袋の音を立てながら寮のロビーに脚を踏み入れた。ロビー内では他のウマ娘達は誰一人いなかった。今日はそういう日なのだろう。よくここで話している子もいるが、好都合だった。

 お土産の袋を持って帰ってきた所を見られるのは、変な噂の元になりかねないから。

 

 鉢合わせてしまわない様に脚を早めた。自分の部屋番号まで向かう途中、ロビーに置いてある水槽の空気の音が聞こえてきた。こぽこぽ、と心地の良い空気の泡が弾ける音。

 

 ふと、脚を私は止めた。

 

 水槽の中ではあの時見た魚達と水草のダンスが行われていた。魚は集団となり、皆で同じ方向を見ながら、時には振り返っていく。

 水草はそのダンスを彩るようにゆらゆらと揺らめいていた。

 その魚達の中に一匹、見知った子がいた。白色の多い子が一緒に泳いでいた。集団の真ん中では無いが、確かに一緒だった。

 

 私は脚を一歩、前へと踏み出した。いつもより、強めに。

 袋の取っ手を握り直せば、がさり、と中身が揺れる音が聞こえた。

 

「……そういえば、トレーナーに答えてなかったわね」

 

 明日、授業が終わったらすぐにトレーナー室へ向かおう。いつまでも待たせてしまえば迷惑になるから。

 今日は早く寝よう。明日が待ち遠しいのだから。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

夜明けのプリンシパル ─ウインバリアシオンと彼女に惚れ込んだトレーナーのお話─(作者:鵜鷺りょく)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

▼君が俯く夜を照らして あなたが目覚める朝になる▼──────────▼「ウインバリアシオン × 不器用トレーナー」の成長物語です。▼辛くても、情けなくても。いつか誰よりも輝くプリンシパルになるために──長い夜を越えていく二人の努力と、打倒オルフェーヴルを掲げたレースの軌跡を描いていきます。▼ハーメルン他、pixivでも連載中になります。▼https://w…


総合評価:287/評価:8.82/連載:34話/更新日時:2026年05月16日(土) 20:00 小説情報

マンハッタンカフェは喫茶店をやりたかった(作者:南亭骨帯)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

▼ トレーナーと共に三年間を駆け抜けた名バ、マンハッタンカフェ。▼ 引退し、愛するトレーナーと結ばれた彼女の輝かしい喫茶店人生がこれから始まる───はずでした。▼「喫茶店!ここは喫茶店ですから!」▼「……私が言うのもなんだけど現実を見るべきだねぇ」▼ コーヒーよりもカツ丼一丁!サンドイッチ?腹の足しにもならんわ!▼ ……まあ、例によって例の如く色んな意味で上…


総合評価:4874/評価:8.77/連載:14話/更新日時:2026年02月16日(月) 12:00 小説情報

緋色の女王の幼馴染(作者:雅媛)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

 ブエナビスタの幼馴染トレーナー概念が公式になったので幼馴染トレーナーの二次創作が100万ぐらい出ると思っていたのに全然でないので自分で書きます。▼ ダイワスカーレットとその幼馴染のトレーナーのお話。▼ 八幡悠(https://syosetu.org/user/330079/)さんからもらったアイデアをもとに勢い任せで書きました。▼ 幼馴染は緋色の女王様(h…


総合評価:1893/評価:8.14/完結:46話/更新日時:2026年03月24日(火) 06:00 小説情報

ウマ娘恋愛相談掲示板 約束の絶景(作者:アマシロ)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

『異次元の寂しがり屋』のセルフ三次創作です。


総合評価:3504/評価:8.82/完結:8話/更新日時:2026年03月02日(月) 21:42 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>