吾輩は寄生生物である。名前はまだ無い   作:雁木まりお

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吾輩は寄生生物である。名前はまだ無い

 吾輩は寄生生物である。名前はまだ無い。森で育ち、草木や虫、小動物を食べて暮らしてきた。私の最初の記憶は─失敗した!─であった。もっともその時は人間の言葉で言語化された思考ではなかった。私が寄生してしまった生物は鳥の雛であったからだ。

 

 風に吹かれて人里離れた所に降り立ったためか、親鳥が餌として巣に運び込んだのかはわからない。もしかすればその両方かも知れぬ。クチバシでつつかれたり潰されたりしなかったのは幸運であった。人に寄生するのには失敗したが、生きたまま雛鳥の中に侵入し、その脳を乗っ取ったのだ。

 

─その種を食い殺せ!!─

 

 脳を乗っ取った瞬間に誰ともわからない命令が私に届いた。これには驚きより戸惑いの方が勝った。その種と言われたが、なんとなく私が乗っ取った体とは違う種を指していることも理解してしまったからである。そして、私の体の種はカッコウであった。カッコウは托卵で数を増やす鳥であり、托卵された鳥の雛より先に生まれ、後から生まれた兄弟を殺してしまう。つまり私が脳を乗っ取った時には既に周りに同族はいなかったのである。

 

 それからしばらくは親鳥─ただし血の繋がりはない─から餌をもらうだけの生活をしていた。このままの生活を続けていれば餌に困らないとその時はのんきに構えていたが、寄生生物の本能故かこのままではいけない事、そもそもこの生活がいつまでも続くわけではないことも理解していた。

 

 後から知ったことだが私が本来寄生するべき生き物は人間という種であり、我々はその首から上を乗っ取る生き物であった。人間の頭を丸ごと乗っ取る生き物が小さな雛に寄生する。成長するにつれ頭部は大きくなり、首から下を侵食していく。気が付けば脳だけでなく全身を乗っ取っていたのだ。体全体を変形することができ、守るべき首から下がないというのは利点ばかりに思えるが、本来の想定からすれば失敗作もいいところである。

 

 食べ物の消化や生理現象などは本来首から下の人間部分を利用できるはずであったのに、首から上だけで全てすべてこなさなくてはいけない。全身が口であり、臓器であり、脳であり…ワンオペもいいところだ。ずっと変形させ続けるのも燃費がよろしくない。生き物は休まねばならぬ。しかし休めば死ぬ。私は生きるために工夫を凝らさねばならなかった。

 

 経験を経た今なら体の一部だけ休眠させたり、待ち伏せ型の狩りをしたりなど様々な方法を思いつき試せるが、昔の私はよちよち歩きの雛であったから頭の悪い方法をとっていた。すなわち手当たり次第に目の前の生物を捕食するという方法である。

 

 …この方法が良かったのか悪かったのかは今でも悩むところである。いや、生きるための苦肉の策であったし、何より食事は生命の正当な権利でありそこを悪びれるつもりはない。食べ物を残したこともないという点ではむしろ善良でさえあると思う。問題は人間に「何かがいる」と警戒させてしまったことである。

 

 その時の私は空飛ぶ生首だの飛頭蛮だのデュラハンだの様々な呼ばれ方をしていたらしい。人間は調査だとか単純な興味だとか理由を付けて私の縄張りに侵入してきた。その頃の私は人間の強さも怖さも知らなかったから、私を見に来た人間を襲ったこともある…だが謝るつもりはない。むしろ銃とかいう野蛮な代物で私を襲った人間の顔は今思い出しても怒りを覚える。向こうからやって来たくせに被害者面したあの顔!体に穴を開けられた痛み!大きな光と音!ああ、腹が立つ。

 

 いや、それはどうでもいい。それより大きな問題は騒ぎが大きくなった結果、私の生活が大きく変化することになったということだ。人間は人間だけでなく、もっと厄介な生き物も連れてきた。

 

「お前、寄生に失敗したのか?」

 

それは私と同じ寄生生物である。




続く
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