吾輩は寄生生物である。名前はまだ無い   作:雁木まりお

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痛がり屋

 目の前の同族…敵となった男が繰り出す触手を避ける。見下されるのはムカつくが、そのおかげで敵の攻撃は単調だ。複雑な攻撃はなく、大振りの攻撃など、奴が見下す小動物よりよほどよけやすかった。

 

 しかもここは私が育った森の中、つまりホームグラウンドだ。木の本数どころか枝の育ち具合まで知り尽くしている。ある時は盾替わりに、ある時は足場として森を有効活用する。これは私が狩りをする際の経験が生きた。言語は理解していなくとも野生として生きてきた知恵がある。私は天然の捕食種だ、ぬくぬく育った温室育ちになどに負けはしない。

 

「避けるな下等生物!!」

 

 殺し合いをしている最中に避けるななどと無茶を言う…今のところ無傷だが私は一撃でも食らったら危ないのだ。

 

 私には首から下がない、だから移動する際は足替わりの触手や翼をはやすわけだが、体積には限りがある。つまり常に硬質化をできるわけではない。先ほど負けはしないと強がったがだからといって勝てるとは限らない。まぐれ、油断、なんらかの理由で奴の攻撃が当たれば私は負ける。この戦いにおいて負けは死だ。逃げても追ってくるかもと戦っているが、元々私が始めた戦いではないし、言語化するなら「お前が死んでくれれば早く終わるのに」と思っていた。

 

 それに戦闘は体力を消耗する…私の体は燃費が良くないというのに!正直私も焦り始めていた…早くこの男を殺し、食事をしなくてはならない。なんならコイツも黙って食われてくれないだろうか?人間は森の小動物より大型だ、薬品くさいが贅沢は言っていられない。

 

 その時、私の目にいつも食べている小さな芋虫が映り込んだ。雛鳥のころから食べているものだ。舌が肥えた今は遠慮したいが鳥にとってはごちそうである。思わず私はそれを食った。油断してはならぬと思ったそばからこれだ、当時の私を叱責したいところだが、これが私の命を救うこととなった。

 

「なめるな小動物が!!!」

 

 突如男は怒りだし、より攻撃が単調になった。それは無理もないが、やはりこの男は遅かれ早かれ人間に駆除されていたのではなかろうか?いずれにせよチャンスが来た。私は全身を鳥型に変形させ逃げるふりをした。奴が全力で─森の中では人間の機動力などたかが知れているが─追ってきた。

 

─そうだ、そのまま追ってこい…そして落ちろ!─

 

「は?」

 

 ここは森である。急斜面、崖、人間が足を滑らせれば登ってこれないような場所がいくつもある。寄生生物なら登ってこれるだろうが、人間部分はただでは済まない。奴は何度かバウンドしながら急斜面を転がり落ちていった。まだ息はあるがどうやら足を骨折しているようだ。我々は人間と違って痛がり屋ではないが時間稼ぎになる。

 

─ねえ今どんな気持ち?見下してた奴の罠にハマってどんな気持ち?─

 

 私の心境を現すならこれだ!ひとしきり奴を煽ってから私は逃げた。奴の仲間が来るかもしれないから森は出なければならない。故郷を離れるはめになったのだからこれくらいおちょくっても許されるだろう。

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