空き地で枝に擬態していた私は、あの踏み台と出会った時と同じ感覚を感じ取った。すなわち同種だ。この感覚は不思議なもので、脳波のようなもの……人間に説明するのはとても難しい。映画を見ている際、「ああ、コイツ死ぬな」と思ったことはあるだろうか?言葉にするのは難しいがなんとなくわかる、そんな感じだ。
しかも二体!距離はおよそ200メートル、奴らはこちらに近づいてくる…私は空へ飛ぶかどうか迷ったが、逆に目立つかもしれないと思い返しやめた。代わりに触手を伸ばしてビルに登って、そこから更にビルに飛び移って移動した。
どうやら向こうはまだ私に気づいていない。あの二体も初対面、警戒しあっているらしい。そのおかげで私は気づかれることなく身を隠すことができた。目の構造を鷹のように変化させ視力を上げると、その二体の姿を遠くから観察しようと試みた。どうやら先に一体だけ到着してもう一体を待ち構えるようだ。
「…だ…間の…に」
口の動きで何をしゃべっているか、我流の読唇術で読み取ろうとする…よく見えないが独り言を言っている?目を凝らそうとした次の瞬間私は驚愕した。なんとその一体の右手が私と同じように変形した。あれは私と同じ、寄生に失敗した同族だ!
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「なるほど、逃げたのはそういうことか。人間の脳がまるまる残っている……こいつは確かに危険な存在だな」
黒い服の男…人間の脳を乗っ取った寄生生物と、右手に寄生生物を宿した青年が空き地で向かい合っていた。青年…泉新一は、この寄生生物をおびき出すため自分から空き地に移動してきたが、いざ向かい合うと今までマヒしていた生存本能が警鐘を鳴らし始めた。
目の前の寄生生物はこちらをただの獲物としか思っていない!情の欠片もない冷徹な目を向けられると人間がいかに弱い生き物か思い知らされるようだ。
「バ…バケモノめ!」
「なにぃ?」
加えて相手が乗っ取った肉体は自分より大きく、筋肉がついている…仮に相手が寄生生物でなくとも新一では手も足もでないだろう。
「動くな!この人間を攻撃するならお前を殺す!」
相手が新一に近づくと、自身の右手…最近ミギーと名乗ることにした寄生生物がまったをかけた。すでにいくつかの指はいつでも相手を攻撃できるようにかぎ爪状に変形している。新一ではなく自分の命を守るためだろうが、ミギーの強さは先日見た通りだ。もしかすれば無傷でこの場から生きて帰れるかもしれない。
「まてまて…右手さんの言いたいことはわかる。だが右手さん、お前もこっちに引っ越せばいいんだよ」
「なんだと?今更移動は不可能なはずだ」
「シンプルな腕から複雑な頭にはな…だが腕から腕には簡単さ」
いうが早いか男の頭部が変形し、なんと自分の右手を切り飛ばした。右手が地面に落ちると同時に断面から鮮血じゃぶじゃぶと流れ出る。
「う……!うわあぁあ!」
「どうだ!指定席を作ってやったぞ!これで信じたか!?血液がもったいない!早くしろ!…フフフ……我々が管理する体なら140年は生きられる……」
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もったいないと思うならもっと慎重になるべきだ。相手がそれでも信じなかったらどうするつもりなのだ?それとも人間はあの怪我でも治すことができるのか?
私は遠くからそれを観察していたが、ふとある考えが頭をよぎった。簡単な腕から複雑な頭には移動できない。それなら私はどうだろうか?一応私はカッコウとはいえ脳を奪っている……鳥の脳は人間の腕の代わりになりうるだろうか?
拒絶反応という言葉も知らなかった私はそう考えた。できるかもしれないが、血液型どころか種の違う移植などぞっとする話だ。もっと深く考えてからやるべきだが、その時の私は人間の右手になるという提案は素敵なものとしか思えなかった。なにせもう狩りもしなくていいのだから!
考えが足りないのは私も一緒であったが、時すでに遅し、私は空に羽ばたいた。
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「ミ…ミギー……!」
「………………」
新一は自身の右手をじっと見つめると、そこにいるミギーは悩むかのようにこちらを見返してきた。そこからはなんの表情も読み取れず、その一瞬はあまりにも長く感じた。
「ええいじれったい!その人間を殺せば否応なしだ!」
男は自身の右手を切り飛ばしたように、新一の首に刃を伸ばし……
「それは私のものだっ!!!」
「ん?」
「え?」
男と新一が意識を闖入者に向けた瞬間、ミギーが逆に男の首を切り飛ばした。
「なっ………狂ったのか!?」
「ミギー……助けてくれたのか……」
「肉体の移動に確信が持てなかっただけだ……そんなことより、新しい敵のようだぞ」