「来たなシンイチ、ミギー」
「やあ胴無し。他の誰かに見つかっていないか?」
「安心しろ。ちゃんと日が暮れてから人目につかないよう飛んで来た。来る途中仲間らしき脳波も感じられなかった」
シンイチとミギー、そして胴無しが会ってから数日経ったある日のこと、彼らは集まってたまに話をするようになっていた。別に仲間として共闘しようとかそういうわけではなく、家についてこられては面倒だということで妥協案を取り付けたのだ。そしてミギーも胴無しに「試したいことがある」らしい。
胴無しはそれに「定期的に食料を貰えるなら」と誘いに乗り、この奇妙な関係は始まることになった。新一にとってはとくにメリットはない、だがミギーがこの待合場所に来るには新一が協力しなければならなかったし、寄生に失敗したという点で敵が現れたとき協力してくれるんじゃないかと期待をしていた。
「今日の実験だが……君は拒絶反応というものを知っているか?」
「きょぜつはんのう?」
「やはり知らなかったか。野良では得られる知識に限界があるからな、無理もないが……。拒絶反応とは簡単に言うと、自分や他人の臓器はたとえ同種間でも相性があるということだ。自分の免疫が移植された臓器を異物と判断して拒絶したり……他にも血液型が血液型が違う者同士が輸血すると血が凝固して使い物にならなくなったりする」
「?????」
「つまり君がシンイチの左腕になるのはとても難しいということだ」
「おい!実験ていうのは俺の体を乗っ取る算段のことかよ!?」
新一はこの場所に来たことを後悔し始めていた。実験と聞いてなぜこうなると予測できなかったのか?こいつらの実験といえば自分達寄生生物のこと、自分の右手にかかわることじゃないか!
「落ち着けシンイチ、私は彼がそんな考えを行動に移さないよう説明している」
「だ…だってよぉ」
「……彼がヤケを起こして突撃してきたらどうする?まずは私たちが協力しないとどの道寄生はむりだと思わせるんだ。我々寄生生物が大切にしているのは自分の命だけなんだからな」
「それは確かにそうかもしれないけどさぁ…」
正直ミギーが考えてることは俺にはわからん。コイツが俺の命や健康を気遣うのはそれが自分の命に関わるからだ。手から頭に移れる方法がわかったならサクッとやりかねない。
「シンイチ、少し髪の毛を貰うぞ……実験に使うからな。ちょっと痛いぞ」
───シュッ!──
「ぐあっ!」
突如ミギーは変形し、高速で俺の髪の毛を引き抜いた。一瞬遅れてジワリと痛みを感じ思わず涙が出る。
「ここにシンイチの髪の毛が数十本ある」
「何してくれてんだよマジで…数十?嘘だろ?」
「元々人間の髪は一日百本以上抜ける……誤差の範囲だ。新鮮な髪の毛じゃなければ実験にならないからな……この髪を胴無しに移植する。拒絶反応が起きればこの髪は栄養が足りず細くなったり抜けたりする。起きなければ伸びるはずだ」
───まあほぼ確実に拒絶反応があるだろうが───
ミギーは感情の入り込む余地のない、冷徹な思考を張り巡らせていた。胴無しに会えたのはシンイチはともかくミギーにとっては幸運だった。シンイチや自分に危害が及ばない範囲で実験できる機会などそうはない、別にこの仲間に危害を加えるつもりもないが、これで自分だけでは試せないようなこともできるようになった。
彼だってローリスクで食料を貰えるのだ、win winな関係とはまさにこのこと、人間の方が同じ人間を劣悪な環境でこき使っているだろう。ミギーが責められる謂れはない。……いや、無断で髪の毛を抜かれた新一には責める権利もあるだろうが。
「シンイチの髪の毛は一週間で3ミリ伸びる。我々寄生生物なら見分けるのに十分な長さだ」
「一週間?数十ぽっちの髪を私にはやして一週間?滅茶苦茶ダサいんだが?」
「その代わりの食料だろう。今回は大目にしてある」
「用意したのは俺だけどな」
「……わかったシンイチ、宿題を手伝うよ」
よし、これで俺にもメリットが生まれた!髪を抜かれたかいがあったものだ。もう一度くれと言われてもやらないが。
「…もし伸びたら左腕のことも考えてくれよな」
「それとこれとは話が別問題だ」
「だから俺抜きで話を進めるなよ!」