それは、ある敬虔なシスターのお話。
━━━少女は、産まれた時から破綻者だった。
人の当然の営みに喜びを見出せず。
人の苦痛と不幸にのみ、生きる実感を得られる。
由緒正しき聖職者の家系に生まれた彼女にとって
持って生まれた「悪」を、認めるわけにはいかなかった。
父の巡礼に着いて行き世界を巡り、
自らの歪な性に気付き、それを正そうと、
武術を学び健全な精神を得ようとし、
自傷ともいえる鍛錬を積み上げ、
それでも成果は得られなかった。
そうした姿を周囲は「敬虔な信者」とし、
父ですら、内に秘めた苦悩を理解することはなかった。
「人並みの幸福の実感」を得ようと、恋人を得た。
死病を患い、余命僅かな男性だった。
彼は、聖人といえるような存在でもあった。
彼は内面の歪みを理解した上で彼女を愛し、
彼女も愛に応えようと努力し、身体を重ねもした。
━━━しかし、彼女の苦しみは増えていく一方だった。
2年の年月を過ごした。
愛そうとすればするほど愛する者の苦しみだけが救いであり、そんな自分を癒そうとすればするほどその男の嘆きが見たいと思う。
━━━ 間違いは正さなければならない。
これほどまでに、自身を理解し、癒すものなど居ないというのに、
それですら、自身の欠落を埋めることはなかった。
自らを、生まれてはならない存在とした彼女は自害を決意した。
「...すまない、私はおまえを愛せなかった」
最期にと、今まで付き添った男に対して告白した。
「...いいや、君は私を愛しているよ」
死期が間近ともいえた男は、禁忌を犯した。
男は、彼女に微笑みながら、彼女を真っ直ぐ見たまま自害した。
彼は自らの死を以て、女に「人を愛せる、生きる価値がある」と証明しようとした。
女は、その死を以て、涙を流した。
...けれども、胸の内にあるのは、哀しみとは別の感情だった。
━━━ どうせ死ぬのなら自分の手で殺したかった。
その想いは、男を愛していたからこその悲哀か。
その死を自分で愉しみたかったからなのか。
それともどちらでもなかったのか。
その問いの答えを、彼女は永遠に沈めることにした。
男の女に対する献身は無意味であり、歪みを解決することはなかった。
だが、その献身を無価値にすることを良しとはせず、
その答えを出すことを永遠に止めた。
...そうして、彼女は「悪」しか愛せない自分を受け入れた。
自らの娯楽の為に人の傷を抉り
自らの生まれる理由を問い続けることになる。
決して得られることのない答えを求め続け
女はいつまでも、愉悦を続けている。
トイツヅケルモノ
彼女は、自らの生まれた意味を問い続ける。
その答えに辿り着く問いを、奥深くに沈めながら。