言峰キレイは、また騒動が起こって少し嬉しい。
「この茶番をいつまで続けるつもり?私たちの中に、いるんでしょう?このデスゲームの黒幕が」
裁判の終わり、部屋に戻り蓮見レイアの最期を噛み締めようとしていた時、黒部ナノカが銃を発砲した。
ゴクチョーが撃たれた為か看守は動かず、ただその様子を観察している。
「このバカげた殺人ゲームを仕組んでいる黒幕が、私たちの中にいる。私たちが魔女になっていくのを誘導し、近くで見て、愉しんでいるやつがいる」
銃を構えたまま、ナノカは眼光を鋭くする。
「そいつが真の牢屋敷の管理者よ。
もう誰かは予測がついてる。大人しく名乗り出たら。
私はあなたを、絶対に許さない」
どこか縋るように、声を絞り出す。
「自分が殺されたり、処刑されたりするかもしれないのに、私たちの中に混ざるなんて悪趣味ね」
マーゴの発言に、返す者がいた。
「いいや、一つだけ例外的存在がいるだろう?
【魔女】だ」
キレイは発言を続ける。
「【魔女】は不死の存在らしい。であれば、処刑されることも、殺されることもない。安全に特等席で愉しめるというものだよ」
「なるほど、そう考えれば自然ね?」
マーゴは納得する。
ナノカの発言に、それ以外の少女達は皆を疑いはじめる。
「ちょ、ちょっとお待ちなさい!そんなことを知ってやがるあなたの方が怪しいですわよ!!」
そんな中、銃に怯えながらも、ビシリと指を指す。
ナノカはため息混じりに銃を下ろして、説明を始めた。
曰く、
・自身の魔法は【幻視】対象やその所有物に触れると、過去や未来が稀に視える。
・牢屋敷の情報を魔法で見て、過去の囚人が作り上げた銃を、捕まってすぐに回収した。
・1日1発弾が回復する、最大6発の銃である。
・捕まる前から牢屋敷、ひいては囚人に黒幕が混ざっているということを分かっていた。
「なるほど〜。魔女見習いの私たちでは、まだ魔法を使いこなせていないと!」
「過去や未来が視える。使いこなせれば予言者ね」
ナノカは話を続けた。
「......捕まってから、私はずっとその黒幕が誰かを探していた。
そこで魔法が発動して、私は視たの。
ぬけぬけと少女のフリをしている人物がいるのを」
ナノカは再び銃口を構え、その銃口をゆっくりと、
ひとりの少女━━━佐伯ミリアへと向けた。
全員の視線が、ミリアへと集まる。
「あなたは【佐伯ミリア】の体を奪い、ここにいるんでしょう」
ナノカが、【幻視】で見た情景を語った。
ありふれた踏切の前、佐伯ミリアとスーツの男がいた。
遮断機は降り、警告灯が光を放つ。
やめて、と手首を掴まれたミリアが泣き叫ぶ。
男は、その体をくれと。
ミリアは後退り、必死に抵抗をする。
男は必死で少女を引っ張ると、触れ合った箇所が光を放つ。
......そして、ミリアと男は入れ替わった。
そうナノカの語るミリアの過去は、少女たちに衝撃と混乱を与えた。
全員が疑い、ミリアが弁明するも、それをしんじられる訳もなく、じりじりと距離を空けた。
「黒幕は、私たちを弄び苦しめ、全員を異形の魔女にすることを目的としている。
最初は、黒幕は言峰キレイと疑った。誰よりも冷静で、人と違う行動を取り......でも、さっきの光景で、違うと分かった。
だから、あなたなんでしょう?唯一の大人である」
いくら弁明しようと、疑いは晴れることはなかった。
引き金に指をかけると、そこにメルルが立ち塞がった。
「も、もうこれ以上、誰かに酷いことをするのはやめてくださいぃ......!」
一触即発の空気、キレイは地面からあるものを拾い上げ、更にメルルの前へと立つ。
「お楽しみの所、失礼」
「言峰、キレイ」
意外そうな顔をしつつも、ナノカはその銃口を下げない。
「私たちには時間がない、退いて」
「待ちたまえ、先日の騒動であまり人を疑うべきではないと言ったはず、だろう?」
「関係ない、退いて」
ナノカは退かない。キレイは話を続ける。
「......確かに、この騒動を起こした【黒幕】がいると分かれば、怒る気持ちも分かる。ただ、それにしては君の感情は行き過ぎてはいないかな?」
「黙って」
ナノカは、銃口を向けているのは自分の筈なのに、こちらが向けられているような錯覚に陥る。
引き返せ、本能が告げる。けれども下がるわけにはいかない。
「そもそも、捕まる前からここを知っていた、とするなら...君の魔法から考えて、捕まる囚人の未来を知ったのかな?」
「......黙って」
ナノカの体は震えている。この先綴られる言葉を察する。
けれども、キレイの探求は止まることはない。
「そうであるなら、君の怒りも理解できる。稀に触れた者の未来が見えるのであれば、日常的に触れあう数が多い存在、そして囚人としてこの場所に捕らえられるであろう存在...であれば」
「......やめて!」
ナノカの引き金にかかる力が無意識的に強くなる。
それは防衛本能か、それとも怒りか。
最後の引き金は、キレイの言葉により引かれた。
「━━━君の姉かな?」
銃声が鳴る。ナノカはしまった、という顔をした。
殺すのは、【黒幕】だけだった筈なのに、
自分の手で、二人も命を奪ってしまうと......
そんな想いに、無慈悲にも銃弾は真っ直ぐ飛ぶ。
それはキレイの胸へと向かい、命を......
━━━奪う寸前、キレイにより切り払われた。
「......え?」
涙を流したナノカは、呆気に取られた表情をする。
銃声に怯んだ他の少女も、その光景を見て唖然とする。
言峰キレイは、傷一つ付いていなかった。
放たれた銃弾は、真っ二つとなり、地面に落ちていた。
キレイの手には、細い剣、
━━━処刑前に落ちた、レイアのレイピアだった。
「銃弾を、剣で切り裂いた?」
「銃を撃つ直前までは引き金に手をかけないように、こうした事故が起こってしまう」
全員、信じられないものを見た表情をしている。
人間は、アニメのように銃弾を避けられもしない。
それをレイピア、刺突用の剣で切り裂いたのだから。
するとその時、牢屋敷全体が揺れ、全員が騒然とする。
揺れは収まる気配がなく...ふと羽ばたき音がして少女達はそちらを見る。
「は?あれ、え?どゆこと?」
ココが、撃たれたゴクチョーと...新たに現れたゴクチョーを交互に見る。
「やれやれ......かわいいゴクチョーを撃つなんて、ひどいことしないでください。代わりはいくらでもいるので、今回は見逃しますが......本来なら処刑ものですよ?裁判は終わりましたし、皆さん速やかに自分の房へ戻ってくださいね......?」
ゴクチョーはそういい、戻ることを促す。
「ああ、ちなみにこの揺れですが、処刑を執行した後は屋敷が揺れるんですよ。しばらく続きますが、爆弾のような危険はないのでお気になさらず」
少女は各々、ゴクチョーを見て...ゴクチョーに懲罰房行きを促され、真っ先にココが出て行った。
「......ごめんなさい。謝って済むことじゃないのは、分かってる。でも...ごめんなさい」
流石に人を殺す寸前だったという事に罪悪感を得たのか、ナノカは返事も聞かずに立ち去って行った。
ミリアは自分に【黒幕】の容疑がかけられたのと、先程の光景により、色々と沈みながら、最後に戻って行った。
【魔女図鑑:人物】
[ことみね きれい]
囚人番号671番。 誕生日:12月28日
15歳
【魔法】奇跡
一つのリンゴを全員に行き渡るように渡す。
水をぶどうジュースに変えるなど
神の子と近しいことができる。
それだけではなく、実現可能な範囲ならどんな願いも叶えられる。
敬虔なるシスター、目が死んでいる。
ミリアとメルルを庇い、ナノカの傷を抉り、誤って撃たれた銃弾を拾ったレイピアで切り裂いた。
黒鍵と似ているので、今後も使おうと決めたらしい。
部屋で黙って飲んだワインは、今まで以上に深い味わいだったとのこと。