言峰キレイは、自作の祭壇を畑に置いている。
(アリサ視点)
「......桜羽。ちょっと良いか?」
「どうしたの?アリサちゃん」
アリサは昨日に言われたことを実行した。
キレイは朝早くからいなくなっている。
朝食時、食べ終えたエマを狙って声をかける。
「おや?アリサさんから話しかけるなんて珍しくないですか?」
「昨日はすぐに帰ってしまわれましたのに」
「......気分だよ、チャチャ入れんな。今は迷惑か?」
「う、ううん、大丈夫だよ!どうしたの?」
エマの表情から見て、嘘をついてるようには思えず、これは信用してもいいと思えてしまった。
「昨日のことだけどよ、まず言っておく。ウチはまだ佐伯のことは許してねえし、信用してもねえ」
これは前提条件。エマは少し悲しそうな表情を浮かべる。
「ただ、ウチがここから脱出したいのは事実だ。だから......協力してやる」
「......!!本当!?」
それを言った途端、咲いたような笑顔をエマは浮かべる。
「ありがとう!一緒に頑張ろうね、アリサちゃん!!」
「そ、そんなにはしゃぐことか...?」
手を握ってぶんぶんと腕を振ってくるエマを見て、どこか犬を思い浮かべてしまう。
「後はキレイちゃんに話をしないと......」
キレイは昨日用事と言って、集まりに参加しなかった。
だから残り話していないのはキレイだけになる。
「...言峰なら手伝ってくれるだろ」
その言葉を聞いて、エマ達はきょとんとした顔をする。
「あいつなら、今は...まあ付いてこいよ」
そう言って、ウチはエマ達を畑へと連れ出した。
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(エマ視点)
「(アリサちゃんはキレイちゃんなら手伝ってくれるっていうけど、どうなんだろう。キレイちゃんのこと、思えばよく知らないし)」
今思えば、自身はキレイのことをよく知らない。
喧嘩を止めたり、シスターとしての活動に全力だったり、色がドス黒い麻婆が好きだったり、少し意地悪だったり、リンゴをくれたり。
「(でも、悪い人じゃないとは思うな)」
浮かべたのは、レイアの処刑。
あの時、キレイの言った言葉に、確かにレイアは救われた。そんな気がした。
「...ここだ」
アリサが牢屋敷の玄関の前で立ち塞がる。
「この先にキレイさんがいらっしゃるんですの?」
「外で畑仕事をしてるんでしょうか?」
二人は口々に疑問を出す。
そういえば、食事を用意してくれるのもキレイちゃんだった。キレイちゃんのおかげで、みんなが笑顔の時が多くなった気がする。
「(後で、ちゃんとお礼を言わないと)」
アリサは、ボク達を見て注意をした。
「......いいか、静かにしてろよ、特にハエ女」
「えー?ちゃんと静かにできますよ〜」
「(静かにって、何してるんだろう?)」
そうして、玄関の扉が静かに開け放たれる。
そして、そこにある風景を、エマ達は目の当たりにする。
木の祭壇には、畑で採れた多くの野菜を捧げられ
その前で、こちらに背を向けて祈りを捧げる聖職者がいた。
開放的な青空の下であるはずなのに、そこは教会の中のような厳かな雰囲気を感じていた。
シスターの口から、歌われる、神の憐れみを求める歌は、荒んだ心を癒すような力が確かにあった。
「(...なんか、良いな。こういうの)」
エマがしみじみと、歌に心を委ねていると、シェリーとハンナ、アリサが小さな声でコソコソと話す。
「キレイさんは、何をしていらっしゃるのかしら?」
「礼拝ですね。キレイさんの宗教では日曜日に一時間から一時間半ほど行われる儀式です」
「...今日が丁度日曜日なんだよ。言ったろ、静かにしてろって」
その話し込んでいるみんなに、エマは提案をする。
「ねえ、ここにみんなも呼んだらどうかな?きっとみんな、癒されると思うんだ」
「良いですね、行きましょうハンナさん」
「ええ、良い歌ですものね、アリサさんは?」
「......ウチは行かねえ。好きにしろよ」
二人は一緒に呼びに行ってくれることになったが、アリサはその場に座って、キレイの歌を聴いていた。
エマ達の誘いに対して、ナノカ以外の牢屋敷のメンバー全員が礼拝に参加することになった。
意外にもココが乗り気で、一番前で歌を聴いていた。
歌を聞く、そんな文化を改めて噛み締めながら、午前の自由時間はのんびりと終わったのだった。
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(キレイ視点)
午後の自由時間、私はエマ達に呼ばれて図書室にいた。
この場にいるのはエマ、ハンナ、シェリー、ココ、マーゴ、アリサだった。
そこでアリサと情報交換したエマが、気球を発案したりと、脱出の手段は決まったようだ。
“推し”とのやり取りにより精神的に安定しているココが二人を褒めて、エマは素直に喜び、アリサがうざったそうにしていた。
この場を開いたのはマーゴのようで、豪華な装丁の分厚い本を取り出して、それを開く。
「これを見てちょうだい」
それは、図が多く描かれた本だった。
魔女が魔女を囲み、中央の魔女は剣を高らかに掲げる絵。
最初は少ししか飛ばない魔女が、満月を背に大空に飛び立つ絵。
そんな、不思議な本だった。
「これは、魔女について記された本なの。今の所、魔女について書かれた本は見つけられていないの」
その字は読めず、ある程度の規則性はあるが、見覚えがない。
マーゴも読めず、図がある為ある程度の意味はわかるらしい。
キレイはポツリと呟く。
「サバト......」
「あら、そういわれれば、そう見えるわね」
「サバトって何?」
エマの問いに、マーゴが答える。
「言ってしまえば、魔女の集会ね。宗教では安息日の意味もあるけれど...キレイちゃんはその繋がりで分かったのね」
「その通り、魔女のサバトはヨーロッパから広まった話だよ」
「この絵はきっとサバト、儀式についてね。これが分かればきっと、重要な手掛かりになるはずよ」
少女達の間に、希望の光が宿る。
マーゴは続ける。
「後はこれ」
本の一番後ろの余白まで飛ばすと...。
自分達でも読める文字が書いていた。
「“jn424”...これが何の意味を表すのか......キレイちゃん?」
マーゴから本を取り、キレイはその文字をじっくりと見る。
「......ヨハネ福音書4章24節」
そうポツリと呟いた。
これは、代行者にとっての暗号。
この地に、自身と同じ境遇を得た代行者がここにいたという印だった。
「何かわかったのか?」
キレイは、その言葉を無視し、こう言葉にした。
「神は霊である。だから、神を礼拝する者は、霊と真理をもって礼拝しなければならない」
すると、余白の下に文字が浮かび上がった。
ラテン語にて、こう記されていた。
『この地に降り立つ、主を同じとするシスターよ。
もし、この本に意味を見出したのであれば、境遇を共にする者が欠けてしまったのであれば、この本に意味を見出すのはやめなさい。
しかして希望を求めるならば、最後まで足掻き続けなさい。
どうかあなたに、主の慈悲が在らんことを』
ここで終わっている。
「ラテン語、だったかしら。魔法がかかっていたのかしらね。キレイちゃん、なんて書いてあるのかしら?」
キレイは......
>伝える
「主を同じとする先人の激励だよ。恐らくは同じく解読を行った者だね。先人より、注意をいただいた」
それを伝えた反応は、様々だった。
戸惑う者、どうでも良いと感じる者、興味深いと思う者、怒る者...
しかし、最後には解読を続けてから確かめてみるとのことだった。
...そして、場はお開きとなる時に、魔法の発表会があった。
エマ以外の皆が紹介していった。
......アリサはどこか悲しそうにしながら。
マーゴの魔法は【モノマネ】。自分の聞いた音を出すことができる魔法だった。
そして、キレイの番がやってきた。
「キレイさんはもしかして、植物を育てる魔法ですか?」
シェリーがそういうが、魔法を知っているココとアリサはそんなもんじゃないんだよなーという顔をしていた。
「もっと分かりやすい形で、最初から君たちには教えていたつもりなのだがね。まあ良い」
すると、キレイは懐からトマトを取り出す。
最近品種改良が終了し、毒無しで食べられるようになったものだ。
「どうぞ」
一つのトマトを、一人一人に配っていく。
少しずつ切り分けて等分するのが当たり前なのに、なんと一つのトマトが丸々一個、全員に行き渡ったのだ。
「な、なんでですの!?取り出した様子とかありませんでしたわよね?」
「すごいすごい!!どういう魔法なんですか!?」
「......あっ、あの時のリンゴ!!」
エマ達ははしゃいでいる。
「......やっぱキレイっちの魔法ちょっと無法じゃない?」
「でもこれのお陰で美味い飯食えてんだぞ」
「お前胃袋掴まれてんじゃねー!!」
既に知っている二人はそんな反応をした。
するとマーゴは納得した様子で
「なるほど、奇跡ね?」
「その通り。私の魔法は【奇跡】
恐れ多くも神の子と似た事が可能だ。
後は植物の生育の操作や、簡単な願いならばなんでも叶えられる」
聞いているだけでもかなりの無法な魔法。それならここから出ることも、とエマは言ったがキレイは首を横に振る。
「万能だが全能ではないのだよ、制限もある。一つのものを分け与えるのは、それ自体がなければ使えない。無から有を生み出すことは不可能だ。
麻婆豆腐と同じで、手順と材料がなければ機能しない。例えばこの島の塀が崩れるという願いは無理だ。あくまで日常生活を便利にすることしかできないのだよ」
と言った言葉で締まり、魔法の発表会は終わった。
こうして少女達は各々の活動をしていく。
【魔女図鑑:人物】
[ことみね きれい]
囚人番号671番。 誕生日:12月28日
15歳
【魔法】奇跡
一つのリンゴを全員に行き渡るように渡す。
水をぶどうジュースに変えるなど
神の子と近しいことができる。
それだけではなく、実現可能な範囲ならどんな願いも叶えられる。
敬虔なるシスター、目が死んでいる。
代行者の戦死率の高さの要因を知ったがあまりダメージはない。
黒幕も知っているため脱出は失敗に終わるだろうなとも思い、美味しいワインを飲めそうだと考えている。
礼拝でナノカ以外全員いたのは少し驚いていた。