愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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言峰キレイは、炊事係である。


13日目-捜査時間-

翌日の朝、牢屋敷は静かだった。

昨日、エマが皆を再度まとめ上げたものの、その効果は乏しかった。

ショックであまり外に出て来ずに、キレイは食事を皆の独房の前に運んでいた。

同室のメルルも皆を励まそうとしたり、色々やったものの効果は出なかった。

 

流石にもう直ぐと言った所での失敗はショックが大きかったのだろうと、キレイはただ日課に励んでいた。

 

そして、夜。

今夜は一人、昨日のことを思い返しながら、外で月を見ていると......スマホから通知が入る。

空っぽの胸が弾む感覚、それがどうにも心地良い。

 

━━━また、殺人事件が起きた。

 

━━━━━

ラウンジには、皆が既に集まっていた。

皆の間では既に険悪なムードが広がっている。

当然だろう。昨日の騒動からの、殺人事件。

また、隣人を己の手で処刑しなければならないのだから。

 

ゴクチョーが、通気口から降り立つ。

「はぁ......また起きちゃいましたね、しかも夜に」

ゴクチョーは面倒そうに、今回は特例として夜の0時に【魔女裁判】を行うという。

今の時刻は22:30。一時間半で捜査を終わらせろという。

 

投げやりな激励を飛ばし、ゴクチョーはさっさと飛び去ってしまった。

今も共に捜査をしようとしているエマ組に対して、今回は単独で捜査をするという約束を取り決めているマーゴがいた。

投票を固められないようにする為だろう。

 

しかして、一歩前進することがあった。佐伯ミリアは、黒幕ではなかったのだと。

たった一時間で犯人を突き止めなければならない。

そんな焦燥の中、少女達は走り出す

 

━━━━━

言峰キレイが向かったのは、佐伯ミリアの現場だった。

純朴な少女、佐伯ミリアは、その目に光を灯すことはもうない。

主の元へと届くようにと祈り、キレイは現場を見る。

 

彼女は磔台に括り付けられたまま、ナイフにより腹を複数、胸にナイフを突き立てられ殺害された。

胸にナイフを立てたまま、ということは腹を先に刺しており、腹を狙う理由があったと考えられる。

 

凶器は、懲罰房内にあったナイフ。

故に用意されたわけではなく、

突発的犯行だった可能性が高い。

 

「ふむ、現場から分かるのはこの程度かな」

後は実際の裁判で擦り合わせる必要がある...と考えていると、メルル、シェリーの二人がやってきた。

 

「あ!キレイさん!現場検証ですか?」

「ああ、大体のことは分かった」

「その、私たちもこれから見に行こうと...」

 

そんな中で、ふと気になったことがあったので質問をする。

「所で、ミリア君の部屋の前に、壊れた錠前があったのだが、誰か知らないかな?」

「ああ、それ私です!捻り切りました!」

キレイは、それを聞いて暗い目を光らせる。

 

「ほう?つまり鍵がかかっていたのかな?」

「はい、開けることができなかったので、私がこじ開け......あれ?じゃあどうやってミリアさんは死んだんでしょうね?」

「えっと......前の事件みたいに、外からとかでしょうか...?」

二人も疑問に思ったのか考え出す。

 

「考えるのは結構だが、先に調べたほうが良い。時間はもうないのだからね」

「そうですね!メルルさん、行きましょう!」

「は、はい!」

こうして二人は調査へ向かう。

キレイは次の場へと向かった。

 

━━━━━

外、暗い中で前ナノカと語りあった場所へ向かうと...ナノカが現れた。

「...言峰キレイ。何の用事かしら、こんなことをしている暇はないように思えるのだけど」

「何、君は最も犯人と疑わしい人物だからね、話を聞きにきた。それくらい問題はないだろう?」

「......私は犯人じゃないわ」

 

「何、私が知りたいことは一つだけだ。佐伯ミリアの入れ替わりを実際に見たのは君だからね、入れ替わりの条件を教えて欲しい」

「━━━ええ」

どこか苦しげに、佐伯ミリアの入れ替わりを考察した条件をナノカは伝えた。

 

・互いの手が触れ合っている必要がある。

・互いに入れ替わりたいと思わなければ発動しない。

・入れ替わりの魔法は、本人のみが使える。

 

「......こんな所かしら」

「......詳しく知っているのだね。君のあの情報では考えられないくらいに、君に佐伯ミリアに接触する機会はなかった。では、どこで触れたのかな?」

キレイは、ナノカを問い詰める。

 

「...それは」

「恐らくであるが、君は間違いに気がついたのだろう。話してみると良い、何、誰も今は聞いていないとも」

 

言峰の言葉に動かされ、ナノカは口を開く。

「......佐伯ミリアは、黒幕じゃなかった。大人でも、なかった...ただの、少女だった」

絞り出すように、ナノカは語り始める。【幻視】で見た情景を。

キレイはただ、落ち着くまで、黙って聞いていた。

 

少し経ち、落ち着くと...

「ごめんなさい...色々話してしまって」

そう謝ってくる。

「何、人の話を聞くことも私の職務だ。問題はない」

 

全て、ナノカの勘違いだった。そうして、それを謝る相手も今居なくなり、どうしようもないという気持ちだったのだろう。

必要な時間だとキレイは思った。

 

それを聞いてふと、こうしようと考えたか、ナノカが口を開く。

「...言峰キレイ。これを見て頂戴」

ナノカは、ポケットから何かを取り出す。

それは、鍵だった。

 

「それは?」

「懲罰房の鍵よ。懲罰房の床に落ちていたわ」

ナノカはキレイに、真実を告げた。

 

「ほう。つまり君は現場にいたのだね」

「ええ、20時過ぎのことよ。遠野ハンナと入れ違いで懲罰房へ入ったわ。懲罰房の鍵は空いていて、中を見たの。そこに......佐伯ミリアの死体があった。鍵も、そこに落ちていたわ」

「...つまり、現場に鍵をかけたのは君で、死亡推定時刻は20時頃からその前...良いのかな?君が疑われることになるが」

 

キレイはそう問うが、ナノカの目は真っ直ぐだった。

「問題ないわ。今回の事件の犯人はゴクチョーだもの」

決め付けたようにそう言った。

 

「何故だね?」

「懲罰房の鍵を持っているのは看守か運営、黒幕のいずれか。私たちに鍵を開けることはできないし、その中にいる佐伯ミリアを殺すこともできないわ」

 

確かに、納得が行く。しかし、そうなると説明できないことがあるのもまた事実だ。

「本当にそうかな?」

「何ですって......?」

キレイは、ナノカに現場の状況を説明した。

 

「お腹に無数の刺し傷......確かに妙ね。ゴクチョーや黒幕ならわざわざそんなことをする必要もない...何か、変ね」

「分かってくれたようでなにより」

説明で、どうやら牢屋敷側の仕業と考えるには早いと考えてくれたようだ。

 

「...もし、牢屋敷側以外が佐伯ミリアを殺したとしたのなら......私は、犯人を突き止めたい。もしそうだったら、言峰キレイ。お願い、協力して欲しい。それが私にできる...佐伯ミリアに対しての唯一の償いだと、思うから」

まっすぐな瞳でキレイを見つめて、そう頼んだ。

 

「そこまで言われては、しょうがない。宜しい、私も全力を以て犯人を追い詰めるとしよう」

「...ありがとう」

「こちらの台詞だ。被害者の無念を果たす為に、良い情報だった」

キレイとナノカに、協力関係が結ばれた。

 

━━━━━

【幕間:失意の中で】

 

残り30分、と言った時間。

キレイはラウンジのソファで、寝ているココの側にいた。

「......」

失意、虚無感...様々なものがココの中で渦巻いている。

 

無理もないな、とキレイは思いつつも

ただ裁判が始まる時をゆっくりと待っていた。

「...ねえ、キレイっち。ちょっとさ、話聞いてもらっても良い?シスターってそういう仕事なんでしょ?」

「それで、君の気が晴れるのならね」

 

ココは、ぽつりぽつりと背を向けたまま話し始める。

「......おっさんは【黒幕】だったとか、今はどうだって良いんだよ。あてぃしと“推し”以外はいなくなったってどうでも良いんだ。でもさ、あてぃしやっちゃった。“推し”に、嘘ついちゃった」

声が震えている。今までの何かが決壊するように、ココは言葉を捲し立てる。

 

「もうすぐ帰るからって、送った手紙。嬉しそうにして握り締めて、あてぃしに話しかけてきてさ......バカだよね、希望を持たせて、中々帰らないなって待たせて、それで余計悲しませることになっちゃう......」

そう言ってから、何も言わなくなった。

 

「...それだけかね?」

「......そうだよ」

ぶっきらぼうにココは言った。しかしキレイは続ける。

 

「......裏切られた気分だったのだろう?一人で何も言い返さずに背負い込んでるのは分かったのだろう?その思いも、かなりの部分を占めているのではないかな?」

 

ココはむくりと起き上がって、今度は怒りが湧いてきたかのように返答した。

「......そうだよ!!何あいつ!あてぃしらがどんな思いで脱出しようか知ってたくせに!ごめんの一つで!キレイっちの言葉にも言わずに一人で抱え込めば良いって感じで!大人ぶってんじゃねー!!あてぃしにしっかりと怒らせろ!!」

今までの想いを噴出させたように言葉を続けている。しかしやがて、その勢いは薄れてゆき......。

 

「......あてぃしが怒る前に、死んでんじゃねーよ...」

そう言って、ココは落ち着いた。

 

「気分は晴れたかね?」

「.....うん、その...ありがとう」

「そうだ、手紙には今度嘘の話を書くと良い」

「はぁ?あてぃしにまた嘘つけっての?」

 

「何、嘘は人生には必要ないが、人生を彩る何かにはなる。友達ができた、でもちょっと遭難した、でも何でも良い。待たせる間も悲しませないように、話で楽しませろ。君は配信者だろう?」

 

ココは、その言葉を少し噛み締めて

「......上等!!待たせる間も“推し”を悲しませるどころかそれ以上に笑わせてやる!!」

「その意気だよ、さて、気分はどうだい?」

「うん、ありがとうねキレイっち。おかげでいつものあてぃしに戻った。そうと決まれば魔女裁判で、さっさとおっさん殺した犯人見つけて手紙考えなきゃ」

 

そう言ってココは、やる気を出した。

こうしてまた、アラームが鳴る。

佐伯ミリアを殺した犯人を、処刑台へ送るべく、少女達は魔女裁判へと降り立つ。




【魔女図鑑:人物】
[ことみね きれい]
囚人番号671番。  誕生日:12月28日
15歳
【魔法】奇跡
一つのリンゴを全員に行き渡るように渡す。
水をぶどうジュースに変えるなど
神の子と近しいことができる。
それだけではなく、実現可能な範囲ならどんな願いも叶えられる。

敬虔なるシスター、目が死んでいる。
ナノカに「犯人は自分たちの中にいる可能性」を示し、ココの燻った心に火をつけてやる気にさせた。
後今回はどう犯人を追い詰めるかを考えている。
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