「私が佐伯ミリアの死体を発見したのは、
20時過ぎの頃よ」
「ちょっと待ちやがりなさい!!わたくしとアンアンさんはその時間に、ミリアさんの声を聞いているんですのよ!?」
『そうだ』
「でも事実よ。私は遠野ハンナと夏目アンアンとは入れ違いに懲罰房に入ったの。現場は鍵が開いていて、中では佐伯ミリアが死んでいたわ。初めは
“ゴクチョーが犯人”と思ったけれど、違う可能性を聞いてこうして話しているわ」
「つーかさ、コイツが犯人なんじゃねえの?おっさん【黒幕】って疑って殺そうとしてたじゃん」
「それなら【動機】も十分だろ!!テメエが犯人だろ!」
「待ちたまえココ君アリサ君。結論を出すには早計というものだよ。ナノカ君が犯人ならわざわざこうして裁判所に来る意味が薄い、動向が分からないのにわざわざ捕まりに来たようなものだよ。話を聞くくらい良いじゃないか」
「...確かに」
「...ああ」
「(ナノカちゃんの証言は、さっきまでの証言をひっくり返すものだ。でも、どこにも隙は見当たらない)」
「え、エマさん。ナノカさんの証言はまだ全て語られてはいないと思うんです」
「うん、分かってる。質問だよね」
「はい!ファイト、です!」
励ましに元気を貰った。気になる点を洗い流すとしよう。
━━━━━
>ゴクチョーが犯人
・【質問】何故そう思ったのか
「ナノカちゃん、少し良いかな。どうしてゴクチョーが犯人だと思ったの?」
「現場の鍵は、牢屋敷側の者しか持っていないからよ」
そういうとナノカはポケットから鍵を取り出す。
「これが、現場の懲罰房の鍵よ。錠前に使ってみたら閉じたわ」
「なるほど!あの密室を作ったのはナノカさんなんですね!まあ壊しちゃいましたし、確認はできませんけど」
シェリーがそれに反応する。
「ともかく、私は看守がこの鍵を持っているのを見たわ。だからこそ、鍵を持てるのは牢屋敷側の存在だけ。だけれど、不可解な点があるの」
「不可解な点?」
エマの問いかけに、こう答えた。
「死因は恐らく胸の一刺し。であればお腹を激しく損壊する意味がないのよ」
「確かに、無茶苦茶にしてやりたいとかそう言った突発的犯行だったとしてもお腹と胸以外には傷はないのよね?」
「は、はい。胸とお腹以外には傷は見当たりません...」
マーゴの問いにメルルがそう答える。
「でもそうなるとさー。お腹を掻っ捌いた理由なんてどう説明つけば良いのさ?」
「分かんねえよ...腹の中に“大事なもの”でもあったんじゃねえのか?」
ココとアリサがそんな話をしている。
「エマ君、答えてみたまえ。『犯人が執拗に腹を狙った理由』を」
「(犯人が、お腹を狙った理由......)」
>大事なもの
・小さな鍵。
「多分、アリサちゃんの言ってた通りだと思う」
「あ?ウチの?」
「これをみて欲しいんだ」
エマは小さな鍵を皆に着せる。
......誰かが、息を呑む音がした。
「何かしら、それは」
ナノカは問いかける。
「分からない。最初は懲罰房の鍵かと思ったんだけど......これは、ミリアちゃんの口の中に入っていたんだよ」
「......なるほど、赤ずきんか」
キレイは何かを察したようで、そう呟いた。
「赤ずきん?どうしてそこに童話が?」
「あらハンナちゃん。赤ずきんは猟師さんにどうやって助けられたのかしら?」
「それはオオカミのお腹を...あっ!!」
マーゴの質問に答えを出して、ハンナは気がつく。
「そう、犯人はこの鍵が大切で、お腹の中に入ってると思ったからお腹をぐちゃぐちゃにしたんだよ!!」
「どんな勘違いだよ!!何!?犯人は目の前でこれ飲み込む姿見たってこと!?」
「そうなるとなんで佐伯は鍵を飲み込んだってなるだろ...」
「(ココちゃんとアリサちゃん。二人で大騒ぎしてる......)」
エマがそんな感想を抱いていると
「なるほど!確かにそれならお腹の刺し傷があったことは説明付きますね!では、その鍵はなんなのでしょう?」
シェリーが気になったことを聞いてくる。
「(確かに。懲罰房の鍵でもないし、なんで犯人はこれが大切なんだろう...?)」
エマが納得をするが、先に明らかになっていない事実を明らかにするべきだと考える。
「うん、確かにそこは気になるけど...先に、ハンナちゃんたちが聞いた悲鳴の正体を明らかにするべきだと思うんだ」
「そうですね!マーゴさんの【モノマネ】ならミリアさんの声を出すことはできると思いますが......」
「私が現場に来た時に、宝生マーゴの姿は見えなかった。その可能性は低いと思うわ」
「あら、庇ってくれるのねナノカちゃん」
「事実を言ったまでよ。庇ったわけじゃない」
シェリーの考えを、ナノカが否定する。
「(なら、犯人は...どうやって音を鳴らしたのかな)」
>音声メモの録音
「分かった。犯人は録音を使ったんだよ」
「録音、ですの?」
「うん、さっきハンナちゃんが鳴らしたみたいに音を鳴らして、ミリアちゃんがまだ生きているって偽装したんだ」
「なるほど!それならミリアさんが死んでいるにも関わらず、ミリアさんの声を鳴らすことができますね!」
「確かに、わたくしとアンアンさんが聞いた音声は扉越しの音ですので、録音されたものだったとしても気が付かなかったと思いますわ」
「なるほど、犯行時間を誤認させるための必然的なものね。私の証言がなければ、みんなは犯行時刻を20時から21時と誤認していたもの」
三人はそれぞれそう言ったが......
「でも、それは可能なのでしょうか?」
その疑問を出したのもシェリーだった。
「......確かに、夏目アンアンと遠野ハンナが通りがかったタイミングで録音した音声を鳴らす...普通に考えれば不可能よ」
「プログラムとかできる奴ここにいないっしょ?あてぃしも無理。というか通りがかったタイミングでピッタリ鳴るならプログラムだとしてもあてぃしとお嬢が来たタイミングでも鳴ってないとおかしいっしょ」
ナノカとココがそう続く。
「なら、犯人はどうやって録音の音声を鳴らしたのかしらね?遠隔操作ができれば、それでこの問題は解決だけれどね」
そういうマーゴに対し、キレイが答える。
「その通り、スマホは遠隔操作されている。そしてその証拠は、みんなは既に知っている」
「あら、それはなんだというの?」
「私が言っても良いのだが...エマ君、答えたまえ」
「......えっ、ボク!?」
唐突に話を振られたが、エマは考える。
「(僕らが既に知っている証拠の中にある...?)」
一つだけ、違和感があるとすれば...
>音声メモ
・(電子音)
「...ハンナちゃん。もう一回、ここで音声を流してくれないかな。最初の部分だけ」
「最初の部分だけですの?分かりましたわ」
そう言って、ハンナが音声データを鳴らす。
...全員が、思わず声を上げた。
「これって......電話じゃん!!」
ココがそう反応をした。
録音された音声の中で、聞こえにくいが確かに聞こえたのだ。携帯で電話を鳴らすときのプッシュ音が。
「そうだよ、ハンナちゃんの近くで、誰かが電話をした直後にミリアちゃんの声がしたんだ」
そのとき、話し始めたのはキレイだった。
「さて......では犯人も分かったのではないかな?」
「え?」
「簡単な話だ。20時から21時の間にアリバイを作ることが得となる人物であり、遠野ハンナの録音にかかるほど近くで電話をすることができた人物......それは一人だけだろう?」
キレイの言葉に、一人犯人が思い浮かんだ。
そう、それが当てはまるのは一人しかいない。
「...君なんだね。ミリアちゃんを殺した犯人は」
エマは、その犯人の名を告げる。
「━━━夏目アンアンちゃん!!」
「......」
アンアンの見るエマの目は、完全なる敵を見る目だった。先程のような距離が近い目ではなく、人を見る目が変わったように。
「【静粛に】」
二の句を告げようとしたエマの口が動かなくなった。
それどころか、他の誰もが、身動きを取れなくなっている。
「何をいうかと思えば。わがはいがそんな鍵の為ににミリアのお腹を割いた?ミリアを殺した......?ふざけるな、証拠はない。電話音にしてもナノカが潜んでいて聞こえたなど幾らでも説明が付く。わがはいが殺したという明確な証拠にはならない。【考えを改めよ】」
今まで、スケッチブックを使って対話を行っていた少女はもういない。今ここにいるのは、発言一つで場を制圧するまさに王というべきものとなった。
「テメェ、べらべらと喋りやg「議論に関係はない。【口を慎め】」...っ!」
「わがはいが口を開くというのは、こういうことだ」
アリサの口が、途中で動かなくなる。
その様子に、全員が思わず気圧される。夏目アンアンは追い詰められているはずなのに、いつの間にやら立場がひっくり返ったように。
......アンアンの瞳には、決意が浮かんで見えた。
「これより、反論を開始する」
━━━━━【審問開始】━━━━━
「貴様たちの言うことそれら全ては憶測によるものだ。
わがはいにはミリアを殺す“動機”がない。
わがはいにはミリアを殺した“証拠”がない。
そもそも、わがはいがミリアに電話をしたという証拠がない。わがはい、あの時はスマホを誤って操作してしまったのだ。ハンナもライトを探してこの音声を録音したわけだからな。状況は同じだ」
「んな詭弁...!!」
「証拠がなければそれが事実となる。事実、拾った後にはミリアのスマホのデータは“消えていた”。わがはいが電話をしたという証拠はどこにもない。また、穴がある。ハンナがミリアの死体を見た場合、わがはいはそれを誤魔化す術がない。そんな“不安定”なことをするわけがないだろう」
━━━━━━
>消えていた
・スマホを一番最初に見つけた。
「いや、アンアンちゃん。君なら消せる筈だよ」
「桜羽、エマ......!!」
「君はスマホを一番最初に拾ったんだ。なら、どさくさに紛れてデータを消して証拠隠滅することだってできた筈だよ!」
「確かに、明確な証拠の一つだものね。最初にスマホに触ればできたことよ」
「だが、証拠がない。わがはいがやったという証拠がなければそれは憶測、詭弁に過ぎぬ!!」
「いや、まだあるんだ」
>不安定
・【洗脳】
「アンアンちゃん、キミはハンナちゃんに魔法を使ったんだよ。録音されたのにあった【戻ろう】という声で!納得したハンナちゃんは一緒に医務室に行ったし、それでキミはアリバイを作れた!!」
「うぐぅ...!!」
アンアンへの疑いが更に強まった。
「...それにしても、だ。そもそもの問題が残っているだろう。鍵だ、ナノカの話であれば持っているのは牢屋敷側、わがはいが持てるわけがない」
「それは......!」
確かに、その通り。
現場に落ちていた鍵を入手することができない限り、誰にも犯行は不可能となる。そして、持っていた看守は手強く、勝てる相手ではない。非力な少女アンアンでは尚更。
「━━━君の魔法ならできるだろう?」
そんな声が響く。
「っ!【黙れ】!!」
アンアンは魔法を使い、キレイを黙らせようとした。
しかし
「━━━看守には意思がある。私が爆発騒ぎを起こし、こちらに向かったようにね。君の魔法は相手が納得すれば、その行動を取らせることができるということ。であれば、看守に鍵を貰うこともできた筈だ」
「!?...【口を閉じろ】!【命令を聞け】!」
キレイは、止まらない。
「なんで!?キレイちゃんはアンアンちゃんの魔法を喰らってないの!?」
「アンアンちゃんとキレイちゃんの相性は最悪よ」
ふと、マーゴがそう言った。
「アンアンちゃんの魔法は、相手を納得させて初めて効力を得るわ。例え一欠片でもね。でも、キレイちゃんは納得しないのよ。一欠片でも謎があれば、それを求めざるを得ない。そういう、どこか壊れているのよ。あの子は」
理屈は、ただ一つ。キレイが納得をしていないからだった。
「貴様の意見は詭弁だ!【口を慎め】!」
「では君のスマホを見せてくれないかな?昨晩、君が佐伯ミリアに対して電話している履歴がなければ君が流していないという証拠だ」
「それ......は」
送信履歴。着信履歴と同じく、スマートフォンに記録されるもの。
アンアンは言葉を詰まらせる。
そんな中、キレイはあまり関係のない話をする。
「そういえば、君が佐伯ミリアに対してお願いをして、気球を壊させたのだったね」
「何故......それを.....!?」
「夜歩いていれば偶然に。君の魔法は、納得さえしてしまえば相手を命令通りに動かせるものだ。...きっと君は、外の世界が怖かったのだろう。だからあまり輪に混じれず、精神的に疲弊していった」
「言峰キレイ...!何が言いたい......!」
キレイは、普通のことを言った。それは、少女の決意を決壊させるには十分すぎる一言だった。
「きっとミリア君も同じ気持ちだったのだよ。外の世界が怖いと、中庭でエマ君に対して言っていた。だから君のお願いを聞いたのだ」
「━━━あ」
そうして、少女夏目アンアンの決意は崩れた。
彼女は自ら、罪を認めた。
━━━わがはいは、ミリアを殺した。
殺したいのは、桜羽エマだったんだ。
ミリアは、わがはいのお願いを聞いて捕まった。
一言謝りたいと思って、看守に魔法を使った。
思ったより上手く行って、わがはいはミリアの所に向かったんだ。
わがはいは、外に出るのが嫌だった。だからわがはいは、ミリアにお願いをしたんだ。
だから、脱獄をしようとするお前が、皆をまとめ上げた桜羽エマが憎かった。
それを口走ってしまった。そうしたらミリアが、エマを名乗り始めた。
お前たちが言っていたことは正解だ。あの小さな鍵は、娯楽室のキャビネットの鍵だった。あのキャビネットには、わがはい達の思い出がいっぱい詰まっていたんだ。
鍵を飲み込んだふりをして、ミリアはそのわがはいたちの大切な思い出をぶち壊したんだ。
だからわがはいは...ミリアをエマと思い込み、ミリアを殺したんだ。
キャビネットの鍵を取り出そうと、
お腹を何度も何度も刺して...
許せな、かったんだ。
話をすれば、ミリアは残ってくれただろうか。
分からない、わがはいは、もう......。
━━━どうしてわがはいはいつも、大切なものを壊してしまうのだろうな。