愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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言峰キレイは、最近ワインを飲まなくなっている。


15日目:絆

気怠さが続く朝の時間。どうやらエマが体調を崩したと騒ぎになっている。その為にキレイは、医務室へと向かう。

 

━━━━━

 

「メルルさん、様子は?」

「な、治りません...【治療】をしているのに、熱が下がらないんです...!!」

「そんな!?じゃあ原因は不明ってことですの!?」

 

医務室では、少女たちが懸命にエマを看病していた。

来ていない者も、心配はしている様子だった。

キレイはノックをして、医務室の扉を開ける。

 

「お話の所失礼」

「あっ、キレイさん」

少女たちが、こちらに視線を向ける。

 

「調子はどうかね?」

「ダメです。魔法でも治らなくて、原因が分からなくて...」

メルルはそう言って泣き始める。

 

エマの調子を見る。息は荒く、体温は見るからに上がっている。しかし咳などの呼吸器の状況は悪くない。

そこでキレイは、ある提案をした。

 

「ふむ...すまない。友人が心配だろうが、少しばかり席を外してはくれないかね?」

「何故ですの?ここにいても」

「守秘義務、というものだ。少しばかり踏み込んだ話をしようとしているからね」

キレイはハンナに対してこう答えた。

 

「なるほど、問診ですね!確かにキレイさんは人との会話は得意ですし、何か原因が分かるかもしれません!」

「それなら、お願いします...!!エマさんを...!」

シェリー、メルルはそれを聞いてそう言った。

 

それぞれがエマに対し、一言をかけて医務室から席を外す。

そうして、エマがキレイに対し話しかける。

「あ......キレイちゃん。みんな、は?」

「少しばかり席を外してもらった。君の傷を見ようと思ってね、そうすれば、聞いている者は私しかいなくなる」

 

そう答えると、エマは意外そうに

「傷......?」

「心のだよ。少なからず、ここにいる者は皆等しく同じものを持っていると思ってね。無論、私もだが」

 

キレイは思い返す。

レイアは、見られることへの執着。

アンアンは、また壊してしまったと言った。

それらは、過去にあった出来事からくる者だったのだろう。魔女因子は、ストレスによって増幅する。

ここに来るものが、魔女に成りかねない者が集められたと言うのであれば、全員等しく、同じであると説明した。

 

「心の傷は飲み込んでしまえば、自身を知らぬ間に壊してしまう。だからこそ、告解...懺悔はあり、赦しを得て傷を癒すのだよ。私は神父ではないが、隣人に手を差し伸べるのも私の使命だ」

 

キレイは、エマの不調がメンタル的なものであると考えている。見つけたと思った希望が、絶望に変わったのはまだ良かった。経過した時間が少なく、落差が少ない。

 

ただ、恐らくは昨日の明確なる拒絶が、決め手だった。

別れる際、少女達は一緒には居たくない、自分達は一人でいた方が良い、もう誰も信用できないとエマに告げた。

 

その言葉により、今まで傷つけられた心の傷が開いたのだと考えている。その為にキレイは、心の傷を深くまで抉り、原因の切除を行おうとしている。

 

「何、ここには私一人しかいない。少しずつで良い、君のことを知りたいのだ」

「......うん」

 

そうしてエマは、ぽつりぽつりと話しだす。

彼女は中学の頃、いじめに遭っていたという。

その理由は分からないものの......

幼馴染のヒロには嫌われた。

いじめの空気は加熱し、エスカレートしていく。

 

もう虐めないでという一言が放てない。

毎日に終わりが見えない。臆病な自分を責めて、消えたくなってしまっていた。

嫌われたくないのに、嫌われていたのだと。

 

「......だから、高校に出たら変わろうって、友達いっぱい作るぞって......思ってたのに」

 

ここに連れて来られた、幼馴染が死んだ、殺し合いが起きた、自身の手で共に過ごした仲間を処刑台へと運んだ、一人からは殺意を向けられていた。

確かに感じていた“絆”が、

拒絶されたことで、分からなくなった。

 

「...いくつか気になる点があるが、聞いても良いかね?」

「...うん」

エマはそう頷いた。

キレイはエマの氷嚢を取り替えつつ、話をする。

 

「私は、ヒロ君のことを良く知らないが。正しさを絶対とする者なのだろうね」

「うん、ヒロちゃんは正しいよ。だから、何をしたのかボク、分からないんだ」

それは、幼馴染に対する信頼の表れでもあった。

 

「...次に、君はいじめられるような人間かね?」

「......え?」

それは、そもそもの疑問だった。

 

桜羽エマの人間性は中立・善。ルールに柔軟に対応し、他人の為に行動ができるような存在。

いじめを受けたにしては、周囲と早く打ち解け、ココやアリサ、マーゴと言った面々も悪くない感情を抱いている。ナノカも、少し話せば打ち解けるのではないかともキレイは思う。

 

「そもそもの話、百人中百人に好かれるなどは難しいのだよ。全てが優れている者がいれば、それを妬む者が現れる。全てに劣る者がいれば、当然見下す者がいる。

君はアンアン君には嫌われたね。ただ、他の人は君のことを良く思っているようにも思えるよ」

「でも......」

 

キレイは言葉を遮り続ける。

「あの三人は集まって行動することに反対をしたに過ぎない。別に、君のことを嫌いになったなどは言ってなかっただろう?」

「......うん」

エマはそう頷く。

 

キレイは続ける。

「だからこそ不可解だ。君はいじめられていたにしては問題がなく、寧ろ多くの者から良く思われている。集団行動においては明確に自分の主張を持ち、仲間を励まして明るくするムードメーカーだ」

それは、共に過ごしてエマを見た故のキレイの所感。紛れもない真実でもあった。

 

「だからこそ、正しさを絶対とするヒロ君のような人間が、君を嫌う意味もわからない。それに、君はこうも言っていたね」

 

“もう虐めないでという一言が発せない”

“臆病な自分を責めている“

”嫌われたくない“

 

「その心理は、どちらかと言えば被害者と言うよりも...

━━━もう一度聞く。いじめられていたのかね?」

エマは、その言葉で頭を抱える。

 

「ボクは、いじめられて、でも...あれ......?」

矛盾を突かれて、頭が混乱している。

これ以上は危険だろうと、キレイは心の傷を抉るのを止めた。

 

「少しばかり席を外そう。一度、一人で落ち着く時間も必要だろうしね」

そういって、布団を整え、コップ一杯の水と、お見舞いの果物を切り、キレイはある目的の為に、牢屋敷を探索した。

 

━━━━━

 

「あっキレイさん!エマさんの調子は?」

 

「......わたくしたちに頼み事ですの?」

 

「それが、エマさんのためになるのなら...!」

 

━━━━━

 

「何キレイっち、今ちょっとキレイっちとでもあまり一緒には...頼み事?珍しい......ほんほん、エマっちにね。まあ良いよ、それくらいなら...え?やっぱエマっちのこと気に入ってるって?......うっさい」

 

━━━━━

 

「あら、キレイちゃん。どうかしたの?......なるほど、エマちゃんの為にね。やっぱりあなた、何に対しても誠実なのね。だからこそ、苦しんでいたのだろうけれど......対価は要らないわ、でももし良かったら、解読に付き合って頂戴?あなたの知見も必要だと思うの」

 

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「...言峰。どうしたんだよ、改まって......桜羽に?分かった、それが桜羽の為になるなら......なあ、謝っておいてくれ。桜羽には、流石に強く言い過ぎた。......自分で言え?...だよな。分かってる」

 

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「......何かしら、言峰キレイ。......桜羽エマに?私、そこまで彼女と関わってはいないけれど......やらないとは言ってないわ、貸しなさい。彼女は、佐伯ミリアの死の真相を明らかにしてくれたもの」

 

━━━━━

 

こうして、各地を巡り、目的の物は完成した。

再度医務室の扉を開けると、そこには体調が幾分か回復したであろうエマがいた。

「調子は戻ったようだ。答えは見つけたかな?」

キレイは、エマに対してそう問いかける。

 

「うん、その答えは、

━━━分からないことが、分かったよ!」

桜羽エマは、無知の知を得た。

 

「そうか、それが分かっただけでも良いことだ」

「うん、ボクは、何か勘違いをしていたのかもしれない。考えるとちょっと頭は痛むけど、これからも考えるつもりだよ」

 

元より聡明である彼女がそう言った。この調子であれば、必要ないかも知れないとは思ったが...キレイは用意していた物を渡す。

「君に、用意していたプレゼントがある」

「プレゼント?」

 

エマは、プレゼントを受け取る。

硬い木の枠に囲まれて、手紙のように蓋をされた何かを慎重に、エマは開いて中身を見た...それは。

 

「これ...って」

今を生きている全員から、エマに向けられた、彼女を気遣うメッセージ...寄せ書きだった。

 

「シェリーちゃん、ハンナちゃん、メルルちゃん...ココちゃん、マーゴちゃん、アリサちゃん......ナノカちゃんまで......!!」

少女の瞳に涙が浮かぶ、それは悲しみではなく、嬉しさのあまりに流れた、感涙であった。

 

少女が感じられなくなっていただけだった。

一緒に居られないだけで、そこに確かな絆はあったのだ。

 

「嫌われることを恐れる必要はない。君が行動してきた結果は、こうしてここに刻まれている。もう少し我儘に、自分勝手に生きても良いのではないかね?」

キレイはエマにそう言った。

エマは頷きながら、キレイにこう返す。

 

「分かった、そうすることにするね!そう言えばキレイちゃんこれ書いてないじゃん!書いて!!」

「私はここにいるから、書かなくても良いのではないかな?」

「ダメだよ、ボクはこれを宝物にするんだから!キレイちゃんにも書いて貰わないと」

「やれやれ......少々やり過ぎたかな?」

━━━━━

 

後日、桜羽エマの体調は完全復活したそうだ。




【魔女図鑑:人物】
[ことみね きれい]
囚人番号671番。  誕生日:12月28日
15歳
【魔法】奇跡 洗礼詠唱
一つのリンゴを全員に行き渡るように渡す。
水をぶどうジュースに変えるなど
神の子と近しいことができる。
それだけではなく、実現可能な範囲ならどんな願いも叶えられる。

言峰キレイが会得している人造魔法
この地に縫い止められし魂を、使用者の慈悲により強制的に主の元へと送り届ける魔法。
あくまで【なれはて】限定であり、魔女には効果がない。

敬虔なるシスター、目が死んでいる。
エマの原因不明の体調をメンタル面と見抜き、深層心理を抉って一度考えさせ、自分なりの答えを見つけさせる間、少女達にある確かな繋がりを形にして、エマのメンタルを回復どころか超強化させた。
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