言峰キレイは、最近小物作りにハマっている。
エマが完全復活して、ピクニックに誘われた。
メルルと共に食事を作り、弁当箱に入れている。
「ふむ、手際が良いね。慣れているのかな?」
「は、はい。こういったものは、一人でやって来ていたので......」
そう言いながら、メルルは喜んでくれれば良いと考えながら、弁当箱に食材を詰めている。
「で、でもこんなにいるんでしょうか?余っちゃうような気も......」
「何、余れば昼食に回すよ」
そうして弁当箱に包み、花畑へ向かった。
━━━━━
花畑は魔法の効果か、常に虹が出ている広々とした青空。その元では花畑と芝が生い茂り、澄んだ空気が広がっている。
「あ、キレイさんメルルさん!!早いですね!」
「ちゃんと敷物に...なんですのその量のお弁当箱」
二人が向ける目線の先には、広く敷かれた干し草の絨毯...そして、9箱の弁当箱があった。
「もしかして皆さんの分ですか?でもそれにしてはナノカさんの居場所は分かりませんし、一つ多いような気がするんですけど」
「そもそも来なかったらどうするんですの...?あの3人今距離を取っていますのよ?」
当然の懸念を二人はいうものの
「キレイさんが、しっかり全員分作った方が良いって...」
「その通り。今のエマ君であれば......ほら、見たまえ」
そういって目線を後方へ向けさせると......
「おーい!みんなー!!」
笑顔で明るい声を出してこちらに呼びかけるエマと、
「エ、エマちゃん。説明したわよね?私は魔女化が進行してるから行かない方が、聞いてるでしょう?」
強引に手を引かれつつも懸命に説得してるマーゴ。
「エマっち?メンタル無敵の人になった?どうして何いってもニコニコしてるの?ねえ?」
もう片方の手で引っ張られて困惑するココ。
「......邪魔する」
その後ろから少し気まずそうに、アリサがいた。
「ほら、みんなを連れて来た。メンタルケアの賜物だね」
「回復しすぎですわ〜!?」
そうハンナが突っ込む横でエマがたどり着く。
「あ!エマさんエマさん!この絨毯すっごいふかふかですよ!ほらハンナさんもこっちに!」
シェリーがいつの間にか座っている。ぽんぽんと絨毯を叩き、誘っている。
「わぁ...!すっごいふかふか。誰が用意してくれたの?」
「キレイさんが、持って来てくれました。ピクニックシートは必要だろうって」
「すごい!完全なピクニックだ......!ありがとうキレイちゃん!」
テンションが完全に上がっているエマを、皆が微笑ましく見ている。
「礼は不要だ。どうぞ、中へ」
こうして、シートの外側にいる者を中に呼びかける。
「お邪魔しますわ......ってわぁ!?」
「ようこそハンナさん!!」
「暑苦しい〜!少し離れやがれ、ですわ!!」
シェリーは座ったハンナに対して抱きついた。
「お邪魔します。ほらアリサちゃんにココちゃんにマーゴちゃんも!!」
「エマっち強情になったね...あ、ふわふわ...zzz」
「まあ、ここまで来てしまったならしょうがないわね」
エマがグイグイと引っ張って来た二人は渋々といった形でシートに座る。ココは疲れたのかすぐ寝転がり、すぐに眠ってしまった。
「...自分の部屋のベッドより良いな。なあ言峰、これ余ってたら分けてくれ」
「帰りに好きな大きさに切って持って帰って構わないよ。このシートの再利用予定はないしね」
「分かった、勝手に貰う」
アリサは気に入り、持ち帰って睡眠環境を整えようとしていた。
ふと、エマはキレイに聞く。
「ねえキレイちゃん、ナノカちゃんは呼んでくれた?」
「ナノカさんですか?でも隠れてしまって見つけられないではありませんか」
「ナノカちゃんまで呼んでいるの?来るとは思えないけれど...」
そのエマの問いに、ハンナとマーゴは訝しんだ。
「ふむ...その問いについては...そこの干し草を見てみると良い」
皆がキレイの指した方向を見る。良く見れば確かに山のように干し草が積み重なっている。
草が擦れる音がして、その干し草が崩れる。
中から現れたのは......。
「私を呼んだかしら」
姿形、声も、ある一点を除いては彼女だった。
しかし、ある一点がその理解を拒む。
「ナノカ、ちゃん?」
「いいえ、私は━━━ナノ仮面」
そう、仮面だ。
目元に鳥の翼を思わせるような、だがそれ以上に芸術的と思わせる、どこか不思議な印象を覚える仮面を付けていた。
「ナノカちゃんだよね?」
「ナノカさん、ですよね?」
「ナノカさんですわ」
「ナノカさんですね!」
「ナノカちゃんね」
「何やってんだ黒部」
「ん...何やってんのナノカ」
「━━━騙したわね、言峰キレイ!!」
一斉に、視線がこちらを向いた。
「彼女はナノ仮面。ゴクチョーが探しているナノカ君ではない、ただの一般森の住人で君たちの味方ナノ仮面だ」
「無理があるだろ...!」
横のアリサが頭を抱える。
「なるほど!これはナノカさんではなくナノ仮面、という建前を使って看守さんの目を誤魔化そうって作戦なんですね!」
「いや誤魔化せるわけねーじゃん!バカなの!?」
「そうですわよ!誰の目にも明らかじゃありませんか!!」
シェリーの発言にココが思わず突っ込み、ハンナがそれに続く。
「...えっと、来てくれてありがとう!後寄せ書きも、ありがとうね。ナノカちゃん」
「......何のことかしら。私はナノ仮面、そんなことは一切知らないし、あなたとは初対面よ」
「つ、貫くんですかぁ......!?」
ナノカの発言に、メルルが突っ込む。
「......ふふ。これを見てると、悩んでいたのが馬鹿らしくなって来ちゃったわね。ナノカちゃん、あなた思ったよりも愉快なのね」
「私の趣味ではないし私はナノ仮面よ、宝生マーゴ」
「言峰、疲れてるのか?それとも頭に衝撃が...」
「人を正気じゃないように扱うのはやめたまえアリサ君。何、仮面を付ければ身元は隠せるし場が盛り上がると話に乗せた。身元は顔が隠れているから実質隠せているしこうして盛り上がってる。
━━━ほら、嘘は何も付いていない」
「......」
こうして、ナノ仮面の掴みは完璧だった。
━━━━━
それぞれがお弁当箱に入っているサンドイッチなどの食事、メルルのお菓子やお茶、約一名はピリ辛(当社比)麻婆を楽しんでいる。
柔らかな風が木々を揺らし、咲き誇る花の香りに包まれてゆく。少女たちにとっても気分転換となったようで、それぞれが笑い合っている。
エマが皆を友達と呼称し、場の空気は更に和やかになった。
各々が食事を終えた頃、シェリーが立ち上がり、おもむろにホウキを取り出した。
竹箒、と言ったものか。魔女のパブリックイメージとして乗っている箒のようなものだった。
あれよあれよ、という間にシェリーがハンナを口車に乗せて、ハンナが箒にシェリーを乗せて浮かび上がる。
ゆっくりとした低空飛行。しかし楽しそうな掛け合いが聞こえ、それを追いかけるメルルとエマを見ながら、真剣な表情でマーゴが呟く。
「飛んでいるわね。人を乗せた状態で、長時間」
「...待ってよ、つまりお嬢は......?」
マーゴの問いに、ココがそう言った。
「確実だが、魔女に近付いている。今はまだ人の範疇ではあるがね?」
「...やっぱそうか。ウチらは幾ら現実逃避した所で、この運命からは避けられないんだな」
キレイの答えに、アリサはそう結論付ける。
その結論にまったをかけたのが......
「いいえ、魔女化を抑える方法は存在するわ」
「......マジ!?それって?」
ナノ仮面の発言にココが食いつく。マーゴやアリサも、その発言に耳を傾けている。
「簡単な話だけれど、心を強く持つことよ。魔女因子の増幅は、ストレス等によって引き起こされる。ストレスに負けず、心を保ち続けることによって魔女化の進行を阻害できるわ」
「......要するに、根性...ってことか」
ナノ仮面の発言を、アリサは一言でまとめる。
「あー...お嬢、メンタル的にそこまで強くなさそうだし..逆にあてぃしはストレスフリーな環境だしそうする意味もないし、と言うより絶対外に出るって思いでいっぱいだしね〜」
「......なるほどね、確かに少し急ぎすぎた部分もあるかしら。ありがとう、ナノ仮面ちゃん。重要なことを教えてくれて」
「礼を言われる筋合いもないわ。後私はナノカ......メンよ。そうね、合ってたわ」
「やめたら?そのキャラ」
ココは納得して、マーゴは自身が成果を急ぎすぎたか、と自身の指先を見てそう思う。そしてナノカは引っかかっていた。
こうして穏やかなピクニックは、幕を閉じた。
不穏な空気を、纏わせながら。
【ナノ仮面】
言峰キレイが木から削り出した不思議な仮面。美術的な価値を感じる。
見た目はアマデウス仮面(Fate Grand Order)
防塵効果に優れ、風の強い日などの飛んでくる砂を100%カットし、視界を100%カットする。