愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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言峰キレイは、人の傷を抉る。


22日目:遭遇

あの和やかな時間から、数日が経過した。

特に少女間で問題なく、穏やかな時間だった。

幾つか、問題として発展したものがある。

 

それは、シェリーが事故で壁に穴を開けた時に、その穴に気が付かれなかったことから、思いの外ルール以外のことには寛容で、看守のチェックさえ抜ければ夜の閉鎖時間にも自由に立ち入りが可能になることだった。

 

自由時間が増えた少女は夜を練り歩き、様々な情報を得て行くことになる。

牢屋敷の裏の、ナノカが秘密裏に潜んでいる物置をエマ達が見つけたり、マーゴとの解読により、魔法を活性化させる儀式を見つけたり、色々あった。

 

今日、キレイはマーゴ、ココ、アリサの3人にその儀式に参加するよう求められたが、断った。

何か嫌な(良い)予感がしたためである。

 

━━━━━

 

言峰は夜、外に出ていた。

直感というものか、ゲストハウス近くにて、何かが起こると踏んだのだ。

ゲストハウス、キレイとしては初めて足を運ぶ場所。その中で、人の気配のある土精の間、と呼ばれる場所を覗いてみる。

 

そこには、特に仲の良かった二人がいた。

部屋の中の音までは聞き取れなかったが、こちらに気がつくことはなく、二人で何かを話していた。

 

片方は首にロープをかけていて、もう片方はロープの端を持っている。

端のロープを持っている者の手は、どこか震えているようにも見えたが、首にロープをかけた者が、宥めるようにそれを撫でる。

 

最期の時、優しげな顔をした者の首を、一思いに締め上げる。そうして5分程経っただろうか、横たわった者を、ただ茫然と立ち尽くして見つめている者を見て、キレイは扉を開ける。

 

「......やあ、こんばんは」

「......!?」

立ち尽くしていた者は、驚いた様子でこちらを振り向く。

━━━橘シェリーだ。彼女はあはは、と笑いながらも困った顔で......横たわった者、遠野ハンナを尻目に見ていた。

 

「いやー......見ちゃいました?残念です。シェリーちゃんの完全犯罪は、事件直後に発見されてしまいました。キレイさん、見逃して貰うことって...できます?」

シェリーは、普段と変わらぬ明るさで、こちらに語りかける。

 

「ああ、構わないよ」

「ですよね〜...え、良いんですか?私現行犯ですよ?」

流石にその返答に面を食らったのか、その返答には予想だにしなかったのか、シェリーは驚いた表情だった。

 

「ただし、色々と話してもらうがね。それが条件だ」

「分かりました。シェリーちゃんが何故、ハンナさんを殺したかについてですね」

そうして、シェリーはぽつりぽつりと語りだす。

 

あのピクニックの日以降、ハンナの魔女化が進行して行ったことに気がついた。

そしてハンナはシェリーに、ある願いをかける。

「魔女化が進む前に、自身を殺して欲しい」

 

それは、少女としての願い。人を憎むことを、そうして人を殺すことを、牢屋敷のシステムに組み込まれることを、彼女は嫌った。一番仲のいい、シェリーだからこそ願った。

 

彼女の殺人は、嘱託殺人であったのだ。

 

「ハンナさんには、私は生きて欲しいって言われました。ですから、完全犯罪を作ろうとして......こうして、現場をキレイさんに押さえられてしまったのでした!」

シェリーは変わらない様子だ。本当に何も変わらない。

 

「......」

キレイはそれを聞きながらも、少女の為に祈った。

「それで、これで見逃してくれるんですか?」

「まだだ。完全犯罪とやらもだ」

「えー!欲張りですねぇ」

 

そう言いながらも、シェリーが自分で考えた方法をキレイに伝えた。これからやるにしても、時間には十分な余裕があったからだった。

...そうして、全てを話したシェリーはこう言った。

 

「やっぱり、私って人間じゃないんですよ。こうしてハンナさんを殺した後も、笑ってます。普通の人なら悲しんだり、こうして頼まれたからって人を殺すなんてしませんし」

どこかそう寂しげながら、変わらぬ調子で彼女はそう言った。

 

「...では、聞こうか。君が遠野ハンナを殺した時、何を感じた?」

「それは......」

シェリーは言葉に詰まる。

 

「では、名探偵。私も先程考えた、完全犯罪の方法を教えよう」

「おー!今までの魔女裁判で活躍したキレイさんの犯罪方法ですか?」

シェリーは楽しげにそれを聞こうとする。

 

「まず、その方法は一つ。

━━━死体を見つけられないようにすることだ」

「......え?」

キレイは続ける。

 

「君の魔法の力で、塀の向こうの海に投げ捨ててもいい。湖に重りを付けて沈めてもいい。それだけでも、遠野ハンナが死んだ形は残らないし、犯行がバレることもない。それか森の奥に木の虚があったね、そこに投げ入れてもいい。わざわざ探さなければ、見つかることはない」

シェリーの顔色を窺わず、キレイはこう続けた。

 

「見つからずに空気が澱むこともあろうが、君はみんなにこう言えばいい。『遠野ハンナは魔女となり、空へと旅立った』と、君が遠野ハンナと親友であるからこそできる手段だ。信頼できる証言というものだね。これで完全犯罪となる。遠野ハンナの『死』は存在せず、生きて外に出たという結果が残る。これこそが、完全犯罪だ」

そうしてキレイは、シェリーの問いを待つ。

 

「それは......嫌です」

シェリーの返事は、明確な拒絶だった。

 

「ハンナさんは、死んだことにしないとダメなんです。魔女にならずに、死んだことにしないと」

「死人に口なしとは言うだろう?何を躊躇う必要がある。確かに私のやり方では、死体は多少なりとも損壊はするが、彼女の望みは君が生きて、魔女裁判を乗り切ること。君が生きていればそれでいいだろうに......ああ、湖や外の海に捨てた場合は、内部から腐敗していくね。多少の損壊ではなく、身元が分からなくなる死体が出来上がる」

 

シェリーは拒絶を続ける。

「でも、せっかく練ったトリックなんですし、使わなきゃ勿体ないじゃないですか?」

「おや、君は間違った推理は撤回し、新たな可能性を受け入れるといったようなことを言っていただろう?君のやり方より確実な方法があれば、それを取るのが君じゃないかな?」

 

シェリーは、言葉を紡ぐことを、やめた。

そうしてキレイは確信した。

橘シェリーは、友人は魔女としてではなく、人として死んだということで終わらせたい。死体が無くなるのも、魔女となったと思われるのも、その死体に傷が付くことも、全て嫌なのだと。

 

「ではもう一度聞こう。遠野ハンナを殺して、どう思った?」

シェリーは、こう答えた。

「すごく、嫌でした」

シェリーは、気がついた胸の内を語る。

 

「ハンナさんが変わって行くことも、いなくなってしまうのも、悩み苦しむ姿を見るのも、私が、この選択を取ってしまったし、取らざるを得なかったことも。全部、嫌でした」

悲しげに言うその言葉は、全てが本心だった。

 

「であれば、君は人だ」

「いいえ、化け物です」

キレイはそう返し、シェリーがそれを否定する。

 

「人の死に、そう思えるだけでも君は人だと言うことだ。本当の怪物は、目の前で長い間支えたものが自殺しようと、それを勿体ないと感じるものだよ」

「━━━それって」

 

キレイは、背を向ける。

「君のしたことは黙っておくとしよう。ただ、一言だけ言っておこう。その罪を、完全犯罪が達成された後も、君は背負いながら、歩んでいけるのかな?」

「━━━歩みますとも。ハンナさんと、生きるって約束しましたから」

 

それを聞いたキレイは何も言わずに去って行く。

シェリーは口封じをすることはなかった。

キレイが言っていたことは事実で、邪魔をすることはないと分かったから。

 

こうしてキレイは、遭遇した事件を見なかったことにした。

去り際のシェリーの顔は、中々なものであったとは思ったが、ワインではなく、ジュースで嗜んだ。




【魔女図鑑:人物】
[ことみね きれい]
囚人番号671番。  誕生日:12月28日
15歳
【魔法】奇跡 洗礼詠唱
一つのリンゴを全員に行き渡るように渡す。
水をぶどうジュースに変えるなど
神の子と近しいことができる。
それだけではなく、実現可能な範囲ならどんな願いも叶えられる。

言峰キレイが会得している人造魔法
この地に縫い止められし魂を、使用者の慈悲により強制的に主の元へと送り届ける魔法。
あくまで【なれはて】限定であり、魔女には効果がない。

敬虔なるシスター、目が死んでいる。
橘シェリーの犯行を目撃した。
しかし、彼女の犯行を見逃して、彼女の埋まった心の傷を抉り出した。
キレイは、この後は事件に関与することも、助けることもない。ただ結末を見守り、嗤うだけだ。
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