言峰キレイは、死者の為に動く。
シェリーの計画を知った後、キレイは自室に戻り眠りについていた。その翌朝、シェリーが怪我をして医務室に行くことになったと話を聞き、重くなった体を起こしてそこに向かった。
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「あ、キレイさん!」
既にエマやメルルが側にいて、シェリーと話していた。
シェリーが上半身を起こしてこちらに挨拶すると、それを二人が咎めた。
「シェリーちゃんは寝てて!こんな怪我してるんだから!」
「そ、そうです......!!安静にしてないと...!!」
片足に包帯を巻いており、その丁重さからも重症と思われる。
「......あれ?」
エマは、今いるこの空間に違和感を覚えたようで、手が心臓部分の自身の服をギュッと握り締める。
ふと、鼻が焦げ臭さを感じる。エマもそれに気がついたようで
「この臭い......何?」
その直後に、スマホの通知が流れる。
ゲストハウスの方から火災が起こり、消火活動を行うと。
エマは、その通知を聞き何も言わずに去って行った。
キレイもそれに続き、ふとシェリーの方を見ると
「......」
どこか悲しげな瞳で、エマを見送っていた。
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ゲストハウスに、火が立ち上っている。
そこは火精の間、その名の通りに酷く燃え上がる。
そこには既にアリサ、ココ、マーゴが到着しており、その様子を呆然と見て立ち尽くしている。
エマは、それを見てふらふらと火精の間の扉に近付く。
「おい、桜羽!危ねーぞ!!」
アリサが止めるものの、エマの足は止まらない。
手を振り払い、心配するアリサの声すら耳に届かず、エマはドアノブに手をかける。ガチャガチャと、ドアノブには鍵がかかっていて開かない。
駆け付けたアリサが怒鳴り、そのドアを燃やす。
そうして、エマは目の前の状況が、嫌でも目に入ってしまった。
エマの喉から、声にもならない悲鳴が辺りに響く。感じた絆、幸せな時間、それらを完全に壊す現実に、エマの心は耐えられなかった。
喉が潰れ、枯れ果てようと、エマの慟哭は止まらない。
ああ、なんと美しいことだろう。
全てを知る
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(エマ視点)
また、魔女裁判が起こる。
エマは友人の死の真相を確かめるべく、いつものように現場周り等を調べていた。
......キレイが共に、動きながら。
「キレイちゃん、今日はボクとずっと一緒に捜査するんだね」
「ああ、君と共に来た方が裁判の状況を理解しやすそうだからね」
そういうキレイは、あまり顔が浮かない。
いつも余裕な表情を浮かべる彼女も、真剣な表情で共に捜査を続けていた。
そうしてエマ達はハンナの殺害現場に足を運び入れる。
そこには宝生マーゴがいた。
「エマちゃんに、キレイちゃんも来たのね」
ゴクチョー達の消火が終わったその部屋には、焦げ臭い残滓が辺りを漂わせていた。
ほぼそのままの形で、現場は残っていた。
現場の首吊り死体。その周りには皆を模した、ハンナが作成した人形が辺りに吊らされていた。
「みんなの分も作ってくれていたのね。素直じゃないけれど、とっても仲間思いの子だった」
エマは心を押し殺し、捜査を続ける。道中で、マーゴからロープが焼けて落ちていた...自身の人形を渡される。
それは、自身に向けてのプレゼントだった。
ふと、マーゴが話す。
昨晩ここで、アリサ、ココ、そして自分の3人で儀式をしていたと。そうして、就寝時間前に看守がここに来て施錠した。
だからこそ、ここにハンナの死体があることはあり得ない。
これは、またしても密室殺人だということだった。
ふと、死体の状況をじっと見て、祈りを捧げていたキレイが何かを気がついたようで話しかけてくる。
「どうしたの?」
「あまり見たくはないと思うが、首元を見てほしい」
そこにいる3人は、首元を注視する。ロープの掛かった首に、思わず目を逸らしそうになってしまうが、それでも見る。
マーゴが気がついたように。声を上げる。
「......抵抗の跡がない」
「その通りだよ、マーゴ君」
「それって、どういうこと?」
エマの問いにマーゴが答える。
「ハンナちゃんは、ロープに首を巻かれたことによる窒息で間違いないのよ。ただ、他殺だとすると不自然なことがあるのよ」
「......そっか、首が苦しいならそのロープを外そうとする。なのに、ハンナちゃんの首は綺麗なままだ」
マーゴの答えに、エマは理解を示した。
これが何を意味するかは分からないまま、エマは次の現場へと向かって行った。
キレイはその後、別の所で調査をすると言って、立ち去って行った。
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(キレイ視点)
「━━━これが、君が現場に残してしまった証拠だ」
「あちゃー。色々残しちゃいましたね、私。マーゴさん達が魔法の儀式をしていたことを知ってたら、別の方法を試したと思うんですが」
キレイは、エマと調べた現場の証拠を全て、シェリーへと手渡した。
潰れた赤い花、土精の間に残った儀式に使った人形、一つだけ荒れていない水精の間、魔法の儀式。
どれも一つでは致命傷には行かないものの、重ね合わせればシェリーへと届きうる証拠達。
メルルに席を外してもらい、キレイとシェリーは裁判の反論を用意して積み重ねる。
「......キレイさん、どうして私に協力してくれるんですか?私、最悪キレイさんに罪を擦りつけますよ?」
「何、それはそれで、だよ。私の目的は死者に寄り添うこと、それが死者の願いであるならば、私は協力するに過ぎない」
ただ、それは矜持としてだった。
「ねえ、キレイさん」
シェリーは、キレイに真面目な顔で尋ねた。
「あの時にシェリーちゃんに言ったことって、もしかして......キレイさん自身のことですか?」
「ああ」
ただキレイは、そう短く肯定した。
「教えてくれませんか?キレイさんのこと。そういえばなんですけど、私たち、キレイさんのことを何も知らないと思うんです」
「こちらに教える義理はないがね」
「お願いしますよ〜!!私あなたの弟子なんですよ?後こうしてベッドにいるだけだと暇です!!」
シェリーはそうわがままを言った。それに答えるのか、キレイは語り始める。
「あまり面白い話ではないがね」
「ええ、それで構いませんよ」
キレイは、ただ語り始める。
「私には、恋人がいたんだ。2年は共に付き添ったかな」
「え!?恋人いたんですか!?シスターなのに?」
シェリーは早速驚いた。
「驚くことかね?」
「はい、キレイさんはそう言ったものに興味ないと思いまして!」
「あの時の私は、人並みの幸福を追い求めていたのだよ」
「人並みの幸福、ですか?」
シェリーは問う。
「ああ、万人には人が美しいと感じるものがある。私にはそれを感じることはできなかった。最後の手段として、私は恋人を得た。人格的にも素晴らしい人物と、この者とならば、私とて幸福を掴めるかも知れないとね」
「どんな人だったんですか?教えて下さいよ!」
シェリーはワクワクした様子で続きを催促する。
「死病に患った男だった。その精神性は聖人とも言えるほどに高潔だった。私の内面の歪みを理解した上で私を愛して、それに私も応えようとした」
「おー、王道的なラブロマンスですね!」
シェリーのテンションは上がる。
「まあ、結果はダメだったがね。2年も付き合おうと、幾ら愛そうとしても愛せずにいたんだ」
キレイは、そう自嘲した。
「私は、男に愛することはできなかった。そう言った、それに対して男は...自らの死を以て、私の愛を証明しようとした」
「......それが、あの時言っていた」
キレイは、死後間近の男の言葉を思い浮かべる。
『━━━ほら、君は泣いているだろう?』
その涙の理由は、きっと別にあったと言うのに。
「これで、話はおしまいだよ。特に面白みもない話だっただろう?」
「......最後に、一つ聞いても良いですか?」
シェリーは、真っ直ぐこちらを向く。
「あなたは、その時どう思ったんですか?」
「どうせ死ぬのであれば、自らの手で殺したかった。男の死は時間の問題だった。であるのにも関わらず、男は禁忌を犯した。そうなってしまうのであれば、とそう思った」
「それは、なぜですか?」
シェリーの問いは、こうなのだろう。
それは、悲哀によるものか、愉しみたかったのか。
キレイの答えは、これだった。
「さてね、私はそれを問うのはやめた。男の献身は無価値だったとは思うが、その結論を出せば、きっと無価値だと分かってしまうからね」
そう言ってキレイは、医務室から真っ直ぐに立ち去った。
その表情に、憂いはなかった。
「━━━きっとそれが、あなたの愛だと思います」
シェリーの呟きは、誰にも届かなかった。
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こうして、魔女裁判の幕は上がる。
犯人も、どうやって殺したかも、何故殺したかも知っているキレイにとっては、回り道にしか過ぎないこの裁判が。
さあ、始めるとしよう。裁判という、この茶番を。
【魔女図鑑:人物】
[ことみね きれい]
囚人番号671番。 誕生日:12月28日
15歳
【魔法】奇跡 洗礼詠唱
一つのリンゴを全員に行き渡るように渡す。
水をぶどうジュースに変えるなど
神の子と近しいことができる。
それだけではなく、実現可能な範囲ならどんな願いも叶えられる。
言峰キレイが会得している人造魔法
この地に縫い止められし魂を、使用者の慈悲により強制的に主の元へと送り届ける魔法。
あくまで【なれはて】限定であり、魔女には効果がない。
敬虔なるシスター、目が死んでいる。
この事件の真相を全て知っている。彼女にとっては今回の裁判は全て茶番であり、死者はシェリーの生存を願っていた為に、シェリー側に与することにした。
ただし、ハンナの死の真相への手掛かりをエマにも残している。
どちらが勝とうとも、キレイには利のある戦いだった。