愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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今回の言峰キレイは、裁判に口を出すことはない。


23日目-魔女裁判

魔女裁判、今日もまた隣人を処刑台へと送る場だ。

今日の私は、何もすることがない。

ただ、エマ君たちとシェリー君の戦いを見るだけだ。

 

「同じ場所で、見物させてもらうとしよう」

キレイはただそう呟いて、嗤う。

 

━━━━━

(エマ視点)

火元により、自殺の線を潰し、夜中に歩いていたアリサの証言、昔と今の牢屋敷の地図の違い、部屋に残っていた儀式の痕跡、看守に付けられていたカメラを用いてトリックを暴いた。

 

簡単な話だ。密室も、あり得ない死体も...部屋毎入れ替えてしまえば済んだ話だったのだと。

あらゆる議論の末に、エマは、今回の事件の名を告げる。

「橘シェリーちゃん!君が犯人だ!」

 

シェリーの表情は、余裕そのものだった。

まるで、この展開を予期していたかのように。

「ちょっと待って下さい!エマさんの推理には穴があります!今からその間違い、名探偵シェリーちゃんが解決しましょう!」

 

細い穴に糸を通すような...そんな困難が今始まる。

「そもそもですよ?部屋の窓に映る風景がちょっと違ったからってそれが証拠になり得ると思いますか?看守さんのその時の立ち位置や首の傾け方...それだけでもかなり変化しますよ?」

 

その反論に、エマはこう答える。

「それでは説明できないくらいには、風景が変わってる。火精の間の角度は、間違いなく変わっているはずだよ」

 

「角度がズレた理由なんていくらでも説明できるじゃありませんか。看守のパワーでちょっと押しちゃったとか!それに部屋を持ち上げたって言いますけど、それを証明できる“痕跡”がないじゃないですか!」

>痕跡

・石畳の赤い塗料

 

「シェリーちゃん。君は建物を持ち上げるとき、一度石畳の上に仮置きしたんだ。二つのゲストハウスを入れ替えるには、中継地点が必ず必要になるからね。そこで、マーゴちゃんが捨てた花を潰した」

 

その言葉に、マーゴが同意する。

「ええ、色の抽出に何本か摘んだけれど、一本しか使わなかったから、残りは石畳の上に置いておいたのよ」

 

しかし、シェリーは反論する。

「ああ!それは私が食べ歩きして潰しちゃったトマトの一つですよ!」

「トマ......いや、そんな訳な...」

いつも食べているトマトを思い浮かべる。瑞々しくも赤く、色合いもそっくりだと。

 

「無いとは言い切れませんよね?魔法の実験とやらは夜に起こり得ました。でしたら、私のそのトマトの跡を見落としていてもしょうがないです!それに、エマさんにそれが花だって言う証拠はありますか?写真を見ても、そこには茎も花弁も何も無いじゃないですか。その花、風で吹き飛んだんじゃ無いですか?」

 

確かにそうだ。これがマーゴの捨てた花とは証明できない。

それに、言おうとしていた時間の問題すら言われてしまった。

ただ、ここで攻め手を緩めるわけにはいかない。

 

「それは、ゲストハウスの下を調べれば分かるわ。塗料が検出されれば、それがトマトだろうと関係はない」

ナノカが、助け船を出してくれた。エマはそれに乗った。

 

「ボクたちの中に、建物を動かせるような魔法を持つのは、キミしか居な「いいえ、もう一人います」」

シェリーが、言葉を挟んでくる。それに、なんて......?

 

「アリバイがなく、私以外にも建物を動かせるのは......キレイさんもおんなじなんですよ?」

「そ、そんなこと......!!」

「ある訳ないよ!キレイちゃんの魔法を考えてよ!」

 

キレイの魔法は奇跡。汎用性は高いが、出力で力を出すことはできない。その反論をしたのだが......メルルとエマ以外の全員が黙った。

「ど、どうして皆黙るの?」

 

「......言峰キレイであれば、可能かも知れないわ」

一度襲い掛かり、足の一踏みで態勢を崩す程の衝撃を貰ったナノカが言った。

 

「......言峰の仕事、看守の奴みたいなのと何度も戦ってるらしい。だから、匹敵する力を得ててもおかしくない」

「それに、アリバイがないのも同じね。キレイちゃんからは証言は何も出てきていないもの」

「それにさ?キレイっち静か過ぎてさ。いつもだったらもっと仕切ってくるじゃん?」

三人がそれぞれそう言った。

ココの言う通り、キレイがいつものように進行をすることがない。犯人を追い詰める一手を打つこともない。

 

だからこそ、キレイに疑惑がかかる。

「それに、エマさんも見てましたよね?スーパー名探偵シェリーちゃんの八極拳!あれ、キレイさんならもっと遠い距離も直ぐに詰められますし、二撃も少なく折れるんですよ?」

確かに見た。ハンナと共に...それを教えたのは、キレイだった。

 

「...キレイちゃんも、犯行が可能だった?」

エマが思わず、キレイの方に向く。キレイもシェリーと同じく、余裕な表情を保ったままだった。

 

「私から言うことは何一つ存在しない。君達の選んだ道がそれだったのならば、私はそれに従おう」

キレイの言うことは、ただそれだけだった。

 

シェリーは、続けて言った。

「それに、私には犯行は不可能なんです。それは、メルルさんが証明してくれますよ」

「わ、私......ですか!?」

「はい!私にはそんなことを、逆立ちしたってできないって!」

 

━━━━【審問開始】━━━━

「私は、午前一時にナノカさんに襲い掛かりました」

「......ええ、お腹を殴られたわ。躊躇なく」

「その時に、私は銃弾を足に1発。その傷の具合は、メルルさんが証明してくれますよ。私は今、立ってることも辛いんです⭐︎」

 

「確かに、そうです。血は止まらないし、その足では重い物を持つことも、動かすことも難しいです。”怪我“をしていては、無理です!」

「そう、私に犯行は不可能で、怪我も何もしていないキレイさんなら可能性がある。であれば、犯人はキレイさんですよ!今回は何も言いませんし!」

「......」

「キレイっち、なんか言ってよ...」

「......言峰」

━━━━━

>怪我

・倉庫の銃弾

 

「シェリーちゃん、キミはその時、怪我を本当にしていたの?」

「本当ですよ〜、ほら、こんなにも丁重に怪我も保護されていますし」

「シェリーちゃんが、銃弾を喰らった証拠がないんだよ。倉庫の銃弾の痕には血が付いていないんだ」

 

シェリーは、変わらぬ様子でいった。

「えー?血が一滴も出なかった可能性だってありますよね?」

「氷上メルル、火傷の痕はあった?足に銃弾は?」

「ど、どれも......ないです」

メルルとナノカにより、それは崩れた。

 

「シェリーちゃん。キミは......自分で傷を負ったんだ!」

「...そうですね。それは認めます」

シェリーは素直に認めた。

 

「やっぱり、キミが━━━」

「私は、自分で傷を付けました。このアリバイの作り方は無理があったようですね!いつものように、無理な推理は切り捨てて、その可能性を認めましょう!」

嫌な予感がする。

 

「━━━それで、私とキレイさんはどちらが犯人なのでしょうね?」

そう、シェリーが言った。

 

「はぁ?そんなのそんなアリバイ作ったアンタしかいないじゃん」

「いや......言峰の容疑が晴れた訳じゃない」

ココの発言を、アリサが否定する。

 

「何も言わないキレイさんと、今まで無理なアリバイを作った私。どちらも怪しくて、決めようがなくないですか?」

 

辺りが静寂に包まれる。

「(確かに......シェリーちゃんがやったとも、キレイちゃんがやったとも取れる。でも、もう証拠は出尽くした。どうしようも...!!)」

焦るエマに、声をかける者がいた。

 

「エマちゃん、証拠がもうないのなら......死体の状況を見て、考えるしかないと思うの」

「死体の、状況......?」

マーゴの声に、エマは考える。

まだ、答えのないものは何かないか。

 

>ハンナの首元

「一つだけ、あるよ」

「本当ですか?教えて下さいよ〜」

「(これが、何を意味するものかはまだか分からないけど......絶対、意味があるはずなんだ)」

エマはそう決意して、話す。

 

「ハンナちゃんの首元だよ。見て貰えば分かるんだけど......抵抗した様子がないんだ」

「そうね、それは不自然ね。私は自殺の線を追っていたから、それを不自然には思わなかったけど......今ならそれは、違和感の塊になるわ」

元々のように綺麗な首、それを少女たちは見た。

 

「でもでも、それがなんの根拠になるんですか?どっちにも犯行が可能だったことは変わりないじゃないですか」

シェリーはそう毅然と反論する。

 

エマは考える。それが何を意味するのか。

そして、その答えに辿り着いた。

>抵抗をしなかった。

 

「......いや、犯人はきっとシェリーちゃんだ」

「えー?これで分かることなんてあるんですか?」

「傷が無かった理由は単純だよ。ハンナちゃんは、抵抗しなかったんだ。なんでかは、分からないけど」

 

「お嬢が......」

「抵抗しなかった......!?」

他の少女たちは驚いた様子だ。

 

「......あり得ないわ。殺される直前に、死を受け入れるなんて普通では無理よ」

「でも、一人だけあり得る可能性があるわ。友達、ならね?」

 

エマは、ただひたすらに前を向いた。

「キレイちゃんなら、確実に抵抗される。でも━━━」

「......その辺で、良いですよ」

諦めた声色で、そう呟いた。

 

「あーあ、何も、決定的な証拠は残していないのに、イレギュラーが多くて判明しちゃいましたね。この事件、本当なら証拠不十分で不起訴だと思いますよ?全く、ここが牢屋敷で良かったですね」

「じゃあ、本当にキミが、ハンナちゃんを......!」

声を震わして、エマが尋ねる。

 

 

「はい。ハンナさんを、殺しました。私が、この手で」

「━━━━━」

思わず、息を呑む。直視しきれぬ現実が、襲いかかる。

「潔く認めましょう!名探偵シェリーちゃんの活躍は、ここでおしまいなのでした!」




実は、最初からこの事件...完全犯罪では無かったんです。
ハンナさんを殺した直後に、キレイさんに目撃されてしまいましたから。
でも、どうしてかキレイさんは黙認し、シェリーちゃんが医務室で寝込んでいるところに、現場に残っていた証拠を教えてくれたんです。
別に協力者ってわけでもないんですよね。キレイさんが協力している理由は......矜持だと思うんです。あまり怒らないで、シェリーちゃんの処刑後にでも、聞いてあげて下さいね。
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