言峰キレイは、ただ結末を見届けた。
(エマ視点)
橘シェリーが、遠野ハンナを殺した犯人だった。
受け止めたくない現実を、エマは真実として突き止めた。
シェリーの様子は変わることはなかった。幾ら追求しようが、その表情も、声色も、変わることはなかった。
その犯罪を黙って見送ったキレイも、ただ皆を黙って見ていた。みんな、我慢の限界だった。
ゴクチョーに促され、処刑のボタンを押す。以前よりも、遥かに軽く感じた。友だちだった人を、処刑台に送るのに。
「それでは、魔女の処刑を実行...と、その前に、処刑台の仕掛けの調子が悪くてですね。今回はこの場にある処刑台をこのまま使用させていただきます」
「なるほど、わかりました」
「行けるかね、一人で」
「すみません、肩借りますね!」
二人だけだ、変わらないのは。
他のみんなは、いや、ボクも...二人を、違うものとして、見ていた。
シェリーはキレイに手助けされて、処刑台へと向かった。
仕掛けは作動せず、処刑台はこのままに。
「昔は全部この処刑方法だったんですけどねぇ...」
懐かしむように、ゴクチョーが呟くが、エマの耳には届かなかった。
「......」
マーゴは、それを見て、何かを考えているようだった。
処刑が始まる。
(信じなきゃ良かった。好きになんて、ならなかったら良かった)
もう、その姿を見たくないと言わんばかりに俯き、唇を強く噛み締める。
周りの声も、何も聞こえない。
ただ、変わらぬ様子で、周りの声に反論して、今も友だちだという、シェリーの言葉だけは良く届く。それに思わず、耳を塞ぎたくなる。
(もうやめてよ、これ以上、シェリーちゃんのことを憎みたくないよ......!)
その心の声は届かずに、シェリーの言葉は続く。
彼女の禁忌は語られる。
聞きたくないことを、強制的に聞かされる。
ハンナの死にも触れた。何を思えば良い?そう彼女は言った。
それでついに、エマの限界が迎えてしまった。
「もう━━━もう聞きたくない!早く終わらせてよ!
早く━━━ボクの前から消えてよ!」
そう言いながら、顔を上げて、シェリーの顔を睨む。
少しだけ、悲しそうにしながら。
「そうですね......処刑、やっちゃってください」
シェリーは言った。その直後、足元からエマの憎悪が形となったように、火の手が上がる。
火炙り、魔女狩りにおいて、最もメジャーな手法。
それにシェリーは炙られ、苦しげに顔を歪める。
━━━そこに、声を上げる人がいた。
「......いい加減、真実を語ったらどうかね、名探偵」
言峰キレイだった。
「君は魔女になることはない、だからこそ、語るべき『次』は存在しない。謎は全て明かすのが探偵の役目だ。早く語りたまえ、でなくては...探偵が語る前に、真実に気がついた者がいるぞ」
キレイの声に、まずはメルルが反応した。
シェリーはアンアンのように再生をしていないかった。つまりは、魔女ではなく、人間のままだった。
「なん、で?」
理解が追いつかず、エマは言葉を発した。
それに続き、マーゴがエマに語りかける。
「ハンナちゃんは、魔女化の傾向が強くなっていたわ」
その一言で、エマは真実に辿り着いてしまう。キレイが、この犯罪を見逃した理由も、全て。
「シェリーちゃん!キミは、ハンナちゃんに...!!」
抵抗のなかった、ハンナの遺体、
死者の無念を果たすと前に言っていたキレイ、
進んでいた、魔女化。
...その答えを聞いたシェリーは、笑顔を浮かべた。
「━━━その通り、です!流石は、エマさんです、ね!」
煙を吸い、息も辛くなりながら、エマに対してシェリーはそう言った。
エマは、その言葉に息を止めた。
他の少女も、同様だった。
「止められ、ないの?止めてよ......!!このままじゃ...!!」
エマの涙は、止まらない。シェリーは、本当に友人のままだった。それに気がついてしまったから。罪の意識が、エマに襲いかかる。
シェリーは、ただ泣いていた。
遠く、果てまで遠く。その瞳は、あの青空を見ていた。
「このままじゃ、死んじゃいます。死んだら、ダメなんですよ。ああ......約束、破っちゃいました。ハンナさんに、また叱られてしまいます。一回くらい、褒められたかったなぁ」
ぽつり、ぽつりと告げられた過去には、絆があった、友情があった、友の為という、事実があった。
エマの心は、決壊した。
「シェリーちゃん、心が壊れてなんかないじゃないか!!友だちのために、やりたくないことをやったんじゃないか!友だちの、為だったじゃないか......!!」
エマは、看守に止められながらももがく。
気がついた時には、何もかもが手遅れだった。
「消えてなんて言って、ごめんねぇ...!!あんなに酷いこと、言って、ごめんね......!!」
エマは、シェリーの名前を何度も叫び、泣いている。
「泣かないで、エマさん」
身体を焼かれる痛みに耐えて、内臓を侵される煙に耐えて、シェリーは、エマの方を向き、微笑む。
「私たちは、友達です!ずっとずっと、仲良しですよ!」
最期にシェリーは、泣きながらも、笑った。
シェリーの肉体は再生せず、燃えて朽ち果てていく。
エマの口から、かすれた悲鳴のような音がなる。
「......なんか、流石にちょっと後味悪いですね。ドンマイです、皆さん。それでは、これにて閉廷とします!」
こうして、魔女裁判は終わる。
シェリーの亡骸に、キレイは近づく。
「最期に悔いるな、人間には過去を変えられないというのに。それでも罪を背負いたいのならば、背負うが良い。起きた惨事を、自身で捉えよ。━━━主よ、この魂に憐れみを」
彼女は、何も変わっていなかった。
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(キレイ視点)
キレイは、瓶にあるぶどうジュースを一杯煽る。今日くらいは一杯、と考えて、残念だと諦める。今日という日には、ピッタリだというのに。まあ、これはこれで極上ではあるが。
ふと、眠りにつく前に、ありし日を思い浮かべた。
『シェリー君、鍛えるのは良いが...何故鍛える?』
自身の八極拳を教える前に、そうシェリーに尋ねたことがある。
『知りたいんですか?良いですよ!私は、みなさんを守りたいんです!ハンナさんに、エマさんに、メルルさん!私はスーパー名探偵として、友だちに襲いかかる魔女をやっつけなければなりません!ですから、私は鍛えるんです!みんなを守るために!』
鍛えた技は使われることはなく、守りたかった友人を、自らの手で傷つけ殺した。
なんという皮肉だろうか。
それをキレイは胸にしまい、満たされたまま、眠りについた。
【魔女図鑑:人物】
[ことみね きれい]
囚人番号671番。 誕生日:12月28日
15歳
【魔法】奇跡 洗礼詠唱
一つのリンゴを全員に行き渡るように渡す。
水をぶどうジュースに変えるなど
神の子と近しいことができる。
それだけではなく、実現可能な範囲ならどんな願いも叶えられる。
言峰キレイが会得している人造魔法
この地に縫い止められし魂を、使用者の慈悲により強制的に主の元へと送り届ける魔法。
あくまで【なれはて】限定であり、魔女には効果がない。
敬虔なるシスター、目が死んでいる。
今一番心が満たされている。
友情の崩壊に、遅かったという後悔、果たせなかった約束に、達成できなかった誓い。
それらを胸にし、キレイは眠る。