言峰キレイは、先程の事件から距離を取られている。
キレイは、いつものように皆の分の食事を用意する。
しかし、食堂は前までは明るかったのが今や暗い。先日の事件が、少女達の心に深く刺さっていた。
その空気は、キレイにとってとても心地よい。
先日、キレイは全てを話した。協力した理由も何もかも。
それは理解されるものではなかった。
周りは皆、自然と距離を取っていた。
今キレイは、マーゴの所にいて...儀式の解読が終わった。
「...ねえ、前あった、あなたの先輩の残したもの、覚えているかしら」
マーゴは、そうキレイに問いかけた。
「ああ、『境遇を共にする者が欠けてしまったのであれば、この本に意味を見出すのはやめなさい』...ふふ、本当にそのままの意味だったとは」
この本のサバトには、13人の魔女が必要と書かれていた。
13人の魔女と、儀礼剣というものを用いて、大魔女を呼び出す儀式。
エマの希望を絶望に変えた紙に書かれていた『大魔女の呪い』恐らくはそれを解くために必要な儀式だった。
しかし、今や生存しているのはエマ、メルル、アリサ、ココ、マーゴ、ナノカ、そしてキレイの7人だけだった。ヒロが死んだ時点では可能だった。だが、今やもうやり直しでもしない限りは不可能だった。
「...この本は、閉まっておきましょう。これに、意味なんてなかったのよ」
マーゴも疲れているのか、落胆を隠すこともなかった。
「...しかし、分かったことは一つある」
「それは、何かしら?」
「黒幕もこの本の内容を知ってはいないだろうが、偶然かそれともそういうものだったか...黒幕の狙いは、大魔女だ」
そう、十数人の魔法少女を何回にも渡り呼び出している。
恐らく黒幕はこの本を知らない。であれば牢屋敷のシステムがその儀式に余りにもそぐわ無い。
しかし、今までの魔女を炙り出すようなものは...そう考えれば辻褄が合った。
「なるほどね、こうして大魔女を探していると...手当たり次第って感想が強くなって行くわね」
マーゴは諦めたように、続ける。
「どうせ生かす気がないのなら、さっさと殺してくれれば良かったのに」
キレイに励ます言葉は持たない。いや、励ましすらし無いだろう。
「今までご苦労。これでも飲むかね?」
そう言って手渡したのは、空の瓶に入った紫の液体。
「あら、ありがとう。これは?」
「神の血だよ。一つ飲むといい」
「...そうね」
何かを言おうとして、マーゴはやめた。
小さな一杯を、味わって飲んだ。
「...こういう味なのね、ハマってしまいそう」
少しは気が安らいだマーゴを見て、キレイは立ち去る。
...しかし、唐突に吐き気を催し、ふらついて少しばかり態勢を崩す。
「!?大丈夫なの、キレイちゃん?」
心配するマーゴに手を振り、心配はないとした。
今日もキレイは、牢屋敷を散策する。
エマはメルルと共にいるようだし、あの二人を巡ることにした。今の体では少々、ナノカを探すことは厳しい。
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彼女であればこうして離れた場所だろうと当たりをつけ、そこで不思議な光景に出会った。
それは、今までなかった雪だった。
湖は凍り、雪が降り積もる。不思議な光景だった。
「......キレイ」
そこには、アリサがいた。
アリサは気まずそうに声をかける。
「おや、アリサ君。ここで会うとは」
「基本、いつもここにいるんだ。ここなら、うちの魔法が暴発しても平気だから」
アリサの魔法は【発火】過去に何かあったのだろうか。
「...なあ、言峰」
ふと、アリサが話しかけてくる。
「前。桜羽が元気になったって連絡の時、ウチ...言いかけたんだ。それについて、謝りたい」
アリサは真面目に、しかして気まずそうにこちらを見る。
「あの件かね」
『...なあ、言峰。もし......』
何か頼み事をする直前で消えたもののことを話していた。
「...これ、見てくれよ」
アリサが、隠した手を見せる。
それは、完全なる異形の手だった。
「......魔女化」
「ああ、そうだ。ウチの魔法は、なんでも溶かせるくらいには進化した。進化しちまった。これで、誰かを殺すのが怖い、なれはてになって、怪物になって誰かを殺すのが怖い。だから、おまえに、殺して欲しいって頼むつもりだったんだ、でも」
それは、橘シェリーの事件で、罪と知った。
「橘、泣いてた。そうだよな。ウチも酷いこと言って、謝るべきだった。友だちを殺して、心が痛まないわけ、なかったんだ」
それは、後悔。
他者を思いやり怒ったからこそ、その怒りにより自らは焼かれている。それは、限りもない善性だった。
「悪い、言峰。忘れて、ウチからは離れてくれ。ウチは、おまえを傷付けたくないんだ」
「...一つだけ、頼みはあるよ」
キレイは、アリサの心情を一部無視して、語りかける。
「なん......だよ...!!」
「自殺は、やめてほしい。それを選択するのであれば、遠慮なく私に頼って欲しい」
それは、友人とは行かないかもしれないが、共に麻婆を愛して、牢屋敷で最も長く付き合っていたからこその願いだった。
キレイの宗教に置いて自殺は、最も重い罪。だからこそ、キレイはそれをしてほしくはなかった。
「...関係ないんだよ、行け!!」
怒るように、アリサはキレイを遠ざける。
最後に見たアリサの表情は、とても悲しげに見えた。
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部屋に篭っているココに対して声をかける。
「ココ君、食事を持ってきたよ」
ココの返事は生返事、キレイは横に食事を置く。
すると、ココはもそもそと食べ始めて...きゅうりの漬物を食べて、驚いた。
「これ、推しの......」
それは昔、ココと推しが一緒に作った漬物だった。違う部分もあるが、似ている。
「前の配信で聞いていたのを今掘り出してね、どうかね、味は」
そう言ってココの返答を待つ。
「...まあまあ。推しの漬物の方が比べるのも烏滸がましいくらいに美味しいし、漬け方も足んない」
ココは文句を言うが、それでも美味しそうに食べていた。
完食したココは、キレイに尋ねる。
「...ねえ、キレイっちはさ、なんで最初からあてぃしに優しくしてくれたの?」
それは、純粋な疑問だった。基本的に推しと自分以外はどうでもいいという自分を気にかけるのは、主にキレイばかりだった。エマなども何度か声をかけてはいたが......。
「最初は親切心...後は、羨ましさというべきか」
「はぁ?何それ。キレイっちに羨ましく思われるようなことあったっけ?」
それは、ココにとって余りにも当たり前だからこそ、予想だにし無い答えではあった。
推しを愛し、推しに愛されること。
キレイは、大切にしてくれた人に、愛を返せなかったからこそ。
その話を聞きたくなり、続けさせたくなったのだ。
「...やっぱ、キレイっちのことも信用できない。誰にでもいい顔するし、いつでも変わらないし、余裕ばっか持ってるし...キレイっち黒幕なんじゃない?」
いじけた様子で、ココにそう言われる。冗談ではあるようだ。
「黒幕ではないよ。私はあくまで聖職者として動いているだけに過ぎない」
「...あっそ。やっぱ胡散臭」
そう言われ、ココの部屋から離れていく。
最後の最後に、ありがとうと聞こえた気もしたが、返事を返さないことにした。
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夜が過ぎて、いつものように眠ろうとする。
...ああ、背後から、囁きが聞こえる。
━━━アリサちゃん、苦しんでるよ。
━━━このままじゃ、自殺しちゃうかも。
━━━あの人みたいに、消えちゃうよ。
ああ、なんと見当違いな教唆か。
思わず笑ってしまい、背後のその人物に声をかける。
「それが君のやり方かね。━━━氷上メルル」
【魔女図鑑:人物】
[ことみね きれい]
囚人番号671番。 誕生日:12月28日
15歳
【魔法】奇跡 洗礼詠唱
一つのリンゴを全員に行き渡るように渡す。
水をぶどうジュースに変えるなど
神の子と近しいことができる。
それだけではなく、実現可能な範囲ならどんな願いも叶えられる。
言峰キレイが会得している人造魔法
この地に縫い止められし魂を、使用者の慈悲により強制的に主の元へと送り届ける魔法。
あくまで【なれはて】限定であり、魔女には効果がない。
敬虔なるシスター、目が死んでいる。
今の空気は心地よいとは思っているが、メンタルケアは欠かさない。
ココに自作の漬物を。マーゴには神の血を、そしてアリサには寄り添おうとして、跳ね除けられた。
キレイは、そうして...黒幕と、対峙する。