愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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言峰キレイは、人を乗せるのが得意。


24日目:対峙

振り返ると、同室のメルルがそこにはいた。

━━━あの時聞いた、【黒幕】が

「や、やり方って。変なこと、言わないで下さい。私はただ、アリサさんがとっても苦しんでて、このままじゃ自殺を選んじゃうかもって...それをキレイさんに話した、だけで」

 

なるほど、私の過去は知っているらしい。ただ、それがトラウマと思っているのであれば...と、笑えてくるのと同時に、目の前の少女も【黒幕】でありながらも、一般的な人間だと分かる。

「(私のようなものであれば、とも思ったが、見当違いか)」

 

少女は、未だ自分がバレていないと思っており、誤魔化している。なので、ここでネタバラシすることにした。

「御託は結構。

━━━昔から、そうやってきたのだろう?」

その言葉に、もう正体が知られていると知り、言い訳を諦めて、彼女はこう言った。

 

「━━━いつから、気がついていたんですか?」

いつもの微笑みだが、その微笑みは冷たさを感じさせた。

 

「レイア君が死んだ後だね」

「そ、そんな前から...!?どうして......!?」

本当のことを教えると、メルルは驚愕した様子だった。何もボロを出していないと思ったのだろう。まあ出してはいないが。

 

「少々、シャワールームの霊と話す機会があってね」

「ゆ、幽霊...!?た、確かに後ろからよく視線が...!?」

この少女は、本心から怖がっている。これで良く頑張れたものだ...とも思うが、それほど目的......大魔女に、会いたいらしい。

 

「ピクニックの前だ。どこか懐かしむようにしながら話していた...ということは。君はきっと、500年前からここに...魔女達と暮らしていたのだろう?」

「...その通りです。キレイさんには、なんでもお見通しなんですね」

そう言って、メルルは微笑んだ。

 

「そうです。私は、この島に昔から住む魔女。みなさん囚人とは違う、真の魔女なんです!」

誇るように、周りには聞こえないように小さく、彼女はそう言った。

 

「魔女因子で変貌する「人間魔女」とは違い、私は「なれはて」にはなりません」

「君の目的は、大魔女だね?こうして少女を何度も集めているとすれば、恐らくは人間社会に紛れている」

「は、はい!私は、お慕いしている大魔女様が人間の中に紛れていると考えました。だから、こうして皆さんを苦しめているんです」

 

今まで、抱え込んでいるのに限界を感じていたのだろう。少しばかり共通の話題を話せば、少女は楽しそうにそう話す。

恐らく、囚人に紛れている理由も、少しでも大切な人を失った寂しさを紛らわせるために。

 

「(話せば話すほど、彼女はどうも人間らしい)」

魔女がそうであるのなら、この身は魔女以上の化け物らしい。既に知っていたことではあるが。

 

「あう...でも。そうですか...皆さんといるのは楽しかったんですけど...既に正体がバレているのなら、もう、ダメですね」

そう悲しそうにいうので、キレイは事実を告げる。

「この情報は私しか知らないが?」

「......え?」

 

メルルは、大きく目を見開いた。

「い、言ってないんですか?どうして?」

「言う必要性が感じられなかったからね。後聞かれてもいない...なんだねその目は」

メルルの目は、信じられないものを見ている目をしていた。

 

「...キレイさんって、変わってますね。前も、同じようなシスターさんがきました。皆を精一杯支えて、奮い立たせて...壊れるのも、とっても早かった。キレイさんもおんなじだと思ってたんですよ?」

メルルは、続ける。

 

「...キレイさん。どうして、あなたは魔女化が進行しないんですか?アリサさんが、このままだと自殺を選びそうなことは、本当です。少し前に、あなたは大切な人を失っている筈なのに、また、あなたの前で消えてしまうんですよ?」

 

メルルは、大切なものを失う辛さは分かっている。

だからこそ、キレイにはこれが効くと思っていたのに、何故キレイは、こうまでしていつも通りなのだろうか。

 

「さて、私にも分からない」

キレイは、それに回答する答えを言語化しなかった。

何故魔女化が進行しないのか。ナノカは心を強く保つことだと言った。であれば簡単なことだ。この心は、既に怪物であるからだろう。

 

その言葉を聞いて、メルルは不思議そうな顔をする。

「そういえば、大魔女とはどう言った顔をしているのかね?私は全国を巡ってもいる。顔を見ることもあったかもしれない」

 

好きな人の話を堂々とできる。それに喜んだメルルが疑問を一回置いておき、笑顔で懐から写真を取り出す。

 

「これ、前に捕まっていた、念写の魔法を使える囚人の子に撮って貰ったんです。大魔女様と私の大切な思い出を、形にしてくれて...!もっと、撮って貰いたかったです」

 

見せられた写真には、穏やかな表情で本を読む少女と、至福の表情で膝枕をされているメルル...そして、そんな二人を見ているゴクチョーがいた。

 

「この方が、大魔女様です。毎日毎日、とても幸せでした」

「...悪いね、この顔は見たことがないが...愛されているね。これを見ていると」

「そうですか...はい。大魔女様には、いっぱい愛を貰いました。でも、ここにきた人間達により、この幸せな日々は壊されてしまいました。みんなみんな、殺されてしまいました。悪いことなんて、してないのに...そうして、大魔女様は怒りました。自身の魔法を仕込んで、この世に魔女因子を振り撒いたんです」

 

誰よりも寂しさを覚えている少女は、話せる相手にしっかりと、話し込んでしまっていた。

キレイは、ここで違和感を覚える。

 

「(...魔女は普通に死んでいる)」

今のメルルには、矛盾が存在した。

 

「大魔女様は、人間社会に紛れると言いました。ですから、私はずっと、帰りを待ち続けているんです」

その言葉で、ある事実が頭に浮かんだ。

 

「(矛盾のある、エマ君の記憶)」

キレイは、それで一つの仮説を立てた。

点と点が、線に繋がる感触があったが、黙っておくことにした。

 

「...今話したことは、内緒にしておこう」

「本当、ですか?良かったです。私も、好き好んでお友達を殺したくは、なかったですから」

「信頼したまえ。私は嘘をついたことはない」

━━━会えるといいね。大切な人に」

「...はい!」

 

そう言って、黒幕と被害者の奇妙な夜は幕を降りる。

穏やかなその会話の中で、笑みをこっそり浮かべているとも知らずに、少女は、心晴れやかだった。




【魔女図鑑:人物】
[ことみね きれい]
囚人番号671番。  誕生日:12月28日
15歳
【魔法】奇跡 洗礼詠唱
一つのリンゴを全員に行き渡るように渡す。
水をぶどうジュースに変えるなど
神の子と近しいことができる。
それだけではなく、実現可能な範囲ならどんな願いも叶えられる。

言峰キレイが会得している人造魔法
この地に縫い止められし魂を、使用者の慈悲により強制的に主の元へと送り届ける魔法。
あくまで【なれはて】限定であり、魔女には効果がない。

敬虔なるシスター、目が死んでいる。
メルルと対峙し、メルルの心の穴から普通の人間と変わらないと考え、大切な者を失った寂しさから、メルルから大量に真実を引き出した。
この秘密は内緒、という約束をした。
...きっと、壊すタイミングはここではないと考えて。
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