言峰キレイは、人でなしである。
(今回は少しばかり短いです)
こうして。1日が何事もなく経過した。
言峰キレイは、一日を牢屋敷の中で過ごしていたが、紫藤アリサと巡り合うことはなかった。
今日も皆の為朝食を作り、食事を終えたのでゆっくりと部屋を歩いていると...裁判所の扉の前で、宝生マーゴと出くわした。
「あら、キレイちゃん」
「おはよう、マーゴ君。どうしたのかね?」
キレイはマーゴに対して問いかける。
「...あれよ」
そこは、裁判所に続く扉。その扉は普段閉め切ってあるが、開いている。
「...おや」
キレイは小さくニヤリと笑った。
「何かあったのかもしれないね。共に行ってみるかい?」
「ええ。朝に一度覗いたけど。くわしくは調査してないの。一緒に来てくれるかしら」
そう言って二人は、たどり着いた裁判所で、ある光景を目にした。
裁判所中央、一番目につく処刑台にて、用意された電気椅子に力無く座り、明らかに生命活動を終えている少女。
━━━紫藤アリサが、そこにはいた。
「...っアリサちゃん......!」
隣にいるマーゴが、嘆くような音がした。
対する、キレイの思いは冷ややかだった。
━━━どうせ、死ぬのであれば。
あの男が死んだ時と、似たような思いだった。
「...キレイちゃん、目......」
マーゴに言われ、手を頬に当てる。
━━━涙。
「...ふふ、あっはっはっはっは...!!」
もう、キレイは笑うしかなかった。
ああ、なんということだ。こんな所で、答えを得るとは。
あの男が死んだ時のように、私は同じように思い、同じように、涙を流した。
『━━━ほら、君は泣いているだろう?』
2年も共にいた男と、1ヶ月も経たないアリサ。
どちらも死んだ時に、キレイが抱えた思いは同じだった。キレイが流した涙は同じだった。
━━━ 私は、その死を自分で愉しみたかった。
その解を、得てしまったのだ。男の死は、無意味で無価値であったのだと。
キレイの笑い声は、ゴクチョーの放送をかき消すほどに高らかに、広い裁判所で響き渡った。
その心内で、共に好物を楽しむ仲間が消えたことを残念に思いながら...片手で目元を落として、天を仰ぎ、笑った。
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その後、笑い声は消えて...ココが、エマが、メルルが現れた。
最後に入ってきたメルルが、キレイとは反対に、泣き声が裁判所へと響き渡る。
隣では、宝生マーゴが、心配そうにこちらを見ていた。
ゴクチョーが後から、こちらにやってきた。
「皆さんおそろいですかね。黒部ナノカさんは相変わらずいないようですが。というわけで、見ての通り殺人事件が発生しているので、魔女裁判を執り行います」
マーゴとココは、早々に裁判所を出て行った。
「...では、いつものように始めるとしようか」
あまりにも落ち着いたその様子で、アリサの死体へと向かう。
その場に立っているエマやメルルを抜きにして。
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「......主よ」
いつものように、祈りを済ませ、いつものように捜査する。
あれ程笑っていたのにも関わらず、今や心は酷く穏やかだ。
アリサの様子を確認する。
まず、キレイが目にしたのはその手だった。
「(魔女化......)」
キレイは、魔女化について詳しく知っている。
アリサは、魔女化していたことがわかった。
何故、アリサが死んだのか...座っている電気椅子か、それとも別の何かか。
詳しく調べる。顔には、蝶の形を模した火傷痕があった。
「(火傷痕が再生していない。この傷であれば、すぐにでも回復するはずだ)」
魔女とはそういうものだ。不死性を持ち、異常なまでの回復力を持つ。この程度の傷であれば、治る。であれば。
「(アリサ君は、即死と見るべきだ)」
ふと。体を見る。濡れている。
しかし、外には雨などもなかったはずだし、全身が濡れているのであれば、ここに来るまでには水の跡がないとおかしい。
違和感は、積み重なっていく。
そうして、キレイは...アリサの眼を見て、軽く笑った。
そうしてキレイは、アリサの近くから離れ...床に、ガラスの破片が散乱しているのが気がつく。
それを見て、キレイは別の場所へ向かう。
「キレイちゃん」
そんな所で、エマは声をかける。
「おや、どうしたのかねエマ君。もう捜査は始まっている、すぐに動くべきだと思うがね」
「...その、大丈夫?」
キレイは、その言葉に思わず目を丸くした。
「おや、死者よりも私に対しての心配かね」
「うん...アリサちゃんが死んで、悲しんでいるんじゃないかって。キレイちゃん、アリサちゃんと仲良かったし」
エマは、純粋に心配をしているようだ。
「なに、心配はいらない。いつものように、私は死者のために戦うまでに過ぎない」
「...どうして」
キレイは、その言葉に振り返ることなく、立ち去っていった。
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目的の場所に向かう時、キレイはマーゴに止められた。
「...キレイちゃん。大丈夫かしら」
「エマ君にも言われたね、それ」
あの異常なまでの高笑いから一変、今まで通り普通に過ごしているキレイにマーゴは面食らう。
「...あなたも、涙を流すのね」
ふと、マーゴにそう言われた。
「わたしだって涙を流すとも。生物だからね」
「人間、とは言わないのね」
冷たい目で見られるが、キレイは鼻で笑った。
「それよりも、裁判について考えた方がいい。時間は有限だからね」
「...そうね。あなたもね」
そう言って、キレイはマーゴと分かれた。
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キレイは、医務室にたどり着いていた。
ガラスがあるのは、ここの...薬でしかなかったから。
キレイは、一つの瓶を手に取った。
ガラスの瓶で、蓋は金属の蝶。
青色の液体の、瓶だった。
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こうして、また、始まってしまう。
キレイには、ある決意があった。
死者の無念を果たすべく...そして。
この裁判を、終わらせる為に。
【魔女図鑑:人物】
[ことみね きれい]
囚人番号671番。 誕生日:12月28日
15歳
【魔法】奇跡 洗礼詠唱
一つのリンゴを全員に行き渡るように渡す。
水をぶどうジュースに変えるなど
神の子と近しいことができる。
それだけではなく、実現可能な範囲ならどんな願いも叶えられる。
言峰キレイが会得している人造魔法
この地に縫い止められし魂を、使用者の慈悲により強制的に主の元へと送り届ける魔法。
あくまで【なれはて】限定であり、魔女には効果がない。
敬虔なるシスター、目が死んでいる。
アリサが死んだことで、答えを得てしまった。
しかし彼女のやることは変わらない。
いつものように、真相を突き止める。
ただ今回は、少しやる気を失っている。