少女は、辛い現実を直視することになる。
「......は?」
それは、ココの声だった。あり得ない、と言うような声で。いつも献身的に自分達に世話を焼いていた少女が黒幕という告発を、信じられないような表情で聞いていた。
「え━━━。私、ですか...!?」
告発された少女は、信じられないような目をしていた。
エマは話を続ける。
「キミしかいないんだ。ボクがアリサちゃんの死体の前に来た時には既に三人はいた。それまでの推理があっているなら、犯人はずっと冷凍室の中にいた。...そして、ボクの後に来たのはキミだけだよ」
そこに、マーゴが待ったをかける
「待ちなさいエマちゃん。あなたの推理が正しいのなら、ナノカちゃんの死体の状況はどう説明つけるというの?」
「簡単だよ。直したんだ、自分の持つ【傷を治す魔法】で」
「......!?」
エマの言葉にハッとしたように、マーゴが驚いた。
そこに、ココが気がついたように声を出す。
「というか、そうじゃん......メルルが黒幕なら、睡眠薬って騙してアリサに飲ませることだって、できるじゃん...!!」
エマはその発言に頷いた。
「...そう、どっちも繋がっていたんだ。アリサちゃんに渡したビンが魔女を殺す薬になっていたのも、ナノカちゃんの謎も、全部説明できるんだ...!!」
「ま、待って下さい......!!」
いつもの調子で、メルルが話し出す。
「お願いです、ちゃんと話を、聞いてください!」
泣きながら、反論を開始する。
「そもそも私に、そこまでの治癒能力はありません......!!死体の傷を治すなんて、考えてもいませんでした......!アリサさんにも、私は睡眠薬のつもりで......!!」
そこにマーゴが同意する。
「確かに、シェリーちゃんが大怪我した時も、その傷は治せていなかったものね」
そこにココが追撃する。
「というか傷は治せても服はどうすんの?ちくちく縫った跡すらないけど。そこが一番の問題じゃん!」
エマは思考を巡らして...かなり前のある発言を思い出す。
『【魔女】は不死の存在らしい。であれば、処刑されることも、殺されることもない。安全に特等席で愉しめるというものだよ』
「そっか、黒幕は【魔女】なんだ」
そこで答えを得た。
「マーゴちゃん、【魔女】になった人は、自身の魔法も強化されるんだよね?」
「ええ、そうね。ハンナちゃんもかなり魔法の効果が強くなっていたからこそ苦しんで...まさか!?」
可能性に思い至り、マーゴは驚愕の表情を浮かべた。
「前にキレイちゃんは言ってたよね。【黒幕】は【魔女】の可能性があって、死ぬことがないからこそ、ここで混じっている可能性があるって......なら、メルルちゃんは物もなんでも治せるくらいには、魔法の力が強かったんだ!!」
「そこに思い至った経緯は、あるのかね?」
「うん。あればボクが昨日地下の操作室に入った時のことなんだけど...その時、操作室の操作盤を落としたんだ。でも、さっき行った時には治ってた...だから、メルルちゃんが直したんだと思う」
マーゴが納得した様子で話す。
「魔女化による魔法の強化を考えれば、あり得ることね。そうなるとメルルちゃんは自身の魔法を偽ってたことになるけど」
「うん、バレないように調整していたんだ」
それには、メルルが反論した。
「エマさんの発言は、推測の域を出ません......!!私がやったという証拠は、どこにもありませんし、それに魔法もそこまで強力ではありません......!!」
「エマっちの言ってることが本当って証拠もないし...」
その言葉に、エマは思わず詰まる。
「一度落ち着いて、残った物を確かめると良い。ナノカ君は何を残していったのか。それが、繋がる道となるだろう」
キレイが語りかける。頭の中でエマは思考を巡らす。
「......うん。一つずつ、解決していくよ」
エマはまず、一つの傷に目をつけた。
「ナノカちゃんの残った口の傷は、きっとナノカちゃんが自分で付けた傷だと思う。そうして付けた傷で、自分の指に血をつけた」
「はぁ?ナノカが何のために付けたってのさ」
>ダイイングメッセージ
「勿論、犯人を示す為だよ。それは、冷凍室にあったんだ」
「...マジ?」
>金庫
「ココちゃん、金庫の番号は開いていたんだよね。全開で」
「うん、だからあてぃしらはそれを見れた筈だし」
「...そう、全開だったんだ。ナンバープレートに付いた...ダイイングメッセージを隠す為に!!」
エマは写真を提出する。
「...金庫に、血がついているわね。6と、7と、0」
「...それは、キミの囚人番号だよね」
メルルは怯えた様子で縮こまる。
そこにキレイが追撃した。
「それに、口の内側の傷や、仮面の残骸にはある共通点があった。どちらも口や服、内側に存在していたことだ。表面的には治せても、内側までは治せなかったのかもしれないね?」
そういうとキレイは、ある木片を取り出す。
「冷凍室に落ちていた、被害者の所持していたのと同じ仮面の残骸だ。恐らくは解体の際に、落としたのだろう」
...メルルが、それに反論する。
「そんなのは、言いがかりです...!犯人が私に罪を着せるための、罠なんです...!!お願いです、信じて下さいエマさん...!!」
その言葉に、心が痛む。友人をこうして追い詰めるのは二度目だ。けれども、止まるわけには、行かなかった。
「......それじゃあ、次はアリサちゃんの話に行こうか」
「...アリサさん、の?」
>謎の液体
エマは謎の液体を取り出した。
「...これも、地下の冷凍室から見つけたものだよ」
「......B、って書いてるわね」
「重要そうに金庫に閉まってたしなー」
エマは、答えを言った。
「マーゴちゃん。これは、13って読むんだよ」
「...っ【トレデキム】......!!」
そう、ラベルに書かれているのは、13。トレデキムを表している数字であった。
「アリサちゃんの死因はトレデキム。そしてこのトレデキムは、透明の液体だ。睡眠薬は青い液体、メルルちゃんが間違える筈がないんだ」
「っそれ...は...!!」
メルルは言葉に詰まる。
「キミは言ってたよね。医務室の薬品はそれぞれ効果を調べていて、分かった安全な物を渡してるって。なら、このビンがゴクチョー達の不手際で混ざった時になんて渡す筈がないんだ。キミが黒幕で、効果を知っていない限りは!!」
自身の目に涙が浮かぶ。きっとアリサはメルルを信頼して相談した。その想いを踏み躙ったのが、よりによって友人だった。
メルルの目にも同時に涙が浮かぶ。しかし、反省や悔いではない。次に出てきたのは、別の言葉だ。
「うぅ......そんなのは...!━━━そんなのは、嘘です」
「メルル、ちゃん?」
急激に冷えた声に、エマが聞く。
「何かの間違いだと思います。私は黒幕じゃ、ありません」
メルルは言葉を続ける。
「...残念です、エマさん。あなたが黒幕だったなんて」
「ボクじゃない。キミが黒幕なんだ!」
その反論にも毅然と対応する。
「エマさんは、裁判所で同時にナノカさんとアリサさんを殺したんです。アリサさんを【魔女を殺す薬】で、ナノカさんを【睡眠薬】で眠らせたんです。黒幕であれば、処刑台を自由に動かせます。どちらも地下に送り、ナノカさんを凍死させた後、偽装工作を行ったんです」
「確かに、ナノカが今朝地下にいたことを証明する方法ないしな...でもあの木片とかは...」
「...どちらが犯人か、これは私たちで決めることでしょうね」
二人は迷っている。どちらが黒幕かは確信している。しかし、どちらにも確証はなかった。
メルルの反証は筋が通っている。ナノカが今朝地下にいたことを証明する手段を、エマは持ち合わせていなかった。
...そう、エマは持っていなかった。
「エマ君、示すといい。キミの発言が真実だと知っている者の名を」
キレイが、背中を押した。
「...ボクの発言が真実だってことは」
>沢渡 ココ
「ココちゃん、キミが証明してくれるよ」
「......えっ!?あてぃし!?」
本人が驚いている。本人が無自覚だからだ。
「ココちゃん。説明してくれるかな、キミの魔法」
「今?別にいいけど...あてぃしの魔法は千里眼。あてぃしのことを認識してる奴のことを俯瞰して見ることができる。映像とか...【写真】とか」
エマは頷いて、ある物を取り出す。
>書類
「次に、これを見てほしいんだ」
そう言って取り出したのは、牢屋敷の書類。
そこには牢屋敷の様々な情報が載っていた。勿論、自分たちのプロフィールすら【写真】付きで。
「......まさか!?」
「へ?」
マーゴは気がついたようだ。ココはまだ知らない。
「ココちゃん、キミは夢を見ていた筈だ。ナノカちゃんの夢を。それは教えてくれたよね?」
「へ?ああうん。覚えてる...あれ...?」
「ナノカちゃんは、キミを認識していたんだ。この、資料に載った、ココちゃんの顔写真を見ることで!!」
「...あの夢は、【マジ】だった、の!?」
「...ココちゃんは、眠りながら魔法を発動していたのね」
ココは事実に驚愕し、マーゴは納得した様子で頷く。
「そん......な......!?」
メルルは驚愕した様子だった。
ココは、記憶の整理が付いたのか、高らかに宣言した。
「あてぃしは、信じるよ!エマっちのこと!あてぃしが見た光景は、【冷凍室で後ろから銃で撃たれたナノカ】だった!!」
それに続いて、マーゴも言った。
「...ココちゃんの証言によれば...メルルちゃんしか、ナノカちゃんの死体を処刑台に移動させることはできない。ここまで証明されるのであれば、私も、エマちゃんを信じるわ。そっちの方が、筋が通っているものね」
「ココちゃん、マーゴちゃん...!!」
二人に信じてもらえたことに、喜びを感じる。後はキレイだけであったが...。
「...ここまでやっておいて分かったが、結局の所、この裁判は多数決で決まる。誰がより説得力のある話ができるかで、誰を吊るすかが決まってしまう。この狂った場において...
━━━過半数がエマ君に付いた今、君の負けだ。氷上メルル」
キレイは、そう言って静かに宣言した。
エマは、想いを綴る。
「...キミがどうしてみんなを牢屋敷に集めたりしたのか、それは分からない。でも、紫藤アリサちゃんを毒殺して、黒部ナノカちゃんを地下で殺した......。それができるのは...!」
言葉が詰まる。完全なる裏切りだった、友だちと言ったあの時間は嘘だったのか、あの時間は、キミにとって偽りだったのか。
「できるのは......キミしかいないんだ!どうして......どうしてボクたちを裏切ったんだ......!!」
涙が溢れる。深い悲しみと怒りの中、エマは再度、その人物の名前を告げる。
「━━━【氷上メルル】ちゃん!」
メルルは、狼狽える。その剣幕に怯えるように。
「そん......な......!エマ、さん...!私は、裏切ってなんて......!」
彼女は、いつも通りの様子だった。
「......だって......!」
...次の瞬間、一気に温度が下がった気がした。
「最初から......計画していた、通り......なので」