「さあ!弟子2号3号4号!!君達にはヒロちゃんを見守って貰うわよ!」
「初仕事、頑張ってね妹弟子達!」
「あの、着替えましたけどこれ着る意味は...?」
「メルル、似合ってるなら良いと思います。エマも可愛いですよ」
「...ねえ、この日の夜って確か」
「「「「......あっ」」」」
「それにしても、意外な組み合わせだね」
私は食堂でそうレイアに言われた。私の横には、自由に食堂の食事で遊んでいる城ヶ崎ノアがいた。昨日の食堂のメンバーにノアが追加されたような形だ。
レイアの発言の意図としては驚きの意味合いが大きい。
「ヒロくんのようなタイプは、自由奔放な子を嫌うと思っていた」
「自由な子だからこそ、ルールを教える必要がある。今朝も落書きをしようとしていた。正しくないからこそ、正しがいがある」
レイアの発言にそう返すと、少し驚いた表情をしつつも納得した様子だった。話が早くて助かる。ノアがむくれて謎の液体の食事を動かしていた。それによりノアの魔法が液体が絵になる【液体操作】の魔法であるということが分かった。
自慢げに胸を張るノアに対して、レイアが言い放つ。
「みんなが不思議な力、魔法が使えるのは予想がついているけど...その情報を開示するのは良くないんじゃないかな」
「私も蓮見レイアの意見に賛成だわ。あまり手の内を晒さない方が賢明よ」
レイアの発言は恐らくノアに対する牽制の意図も考えられたが、言っていることは正しいとナノカもその発言に乗った。
私はそうは思わなかったが、私も隠している事実があるので言わないでおくことにした。
「お絵描きしちゃダメ?ノアの絵、勝手に動いちゃうんだよ。むー...」
「だから今日は、君の絵を描く場所を探しに行くのだろう?」
「あ!そうだった!おでかけおでかけ〜♪お絵描きお絵描き〜♪」
むくれたノアに私がいうと、急に上機嫌となった。ノアの人間性はとても分かりやすい。
口元が汚れているので、口を拭ってやる。レイアがどこか微笑ましいものを見ている目でこちらを見てきた。
「......随分仲良くなったんだね。やはりヒロくんの行動力には感心するな」
「(いちいちうさんくさいな...)」
...暫くして、キレイのグループが食堂に現れた。
「うへぇー...酷い目に遭った。ヤンキーのせいだぞ」
「...ちっ。悪かった」
「まあまあ、助かったから良いじゃないか。色々収穫もあったことだ、二人ともこの話は水に流しなさい」
2人が疲れた様子で、キレイがそんな二人の間に入って仲裁をしていた。...そんな3人に対して、私は話しかける。
「遅かったな。3人で何をしていた?」
「ああ、おはようヒロ君。少々この3人で朝の散歩に出かけていたものでね。色々と収穫もあった」
そういうキレイは即席のカバンのようなものを持っており、蔓や何やらがはみ出ていた。
「散歩?何をしていた。酷い目に遭ったと言っていたんだ、言葉通りの意味ではないだろう」
「ああ、ココ君の頼まれごととアリサ君の手伝いを並行して行っていた。どちらも場所的には同じだったからね」
変わらぬ調子でキレイが言った。ココの頼まれごとは昨日のあの件だろう。だが、アリサの手伝いとはなんだ...?
顔に出ていたのだろう、アリサが言った。
「...脱出だ。こんな所に一秒でも長くいたくないからな」
そこで、監視フクロウが大量に牢屋敷から外れた場所に飛んでいること、高い塀で囲まれており、登ろうとしても燃やそうとしても不思議な力でできなかったことを知らされた。
...そうしていると看守が飛んできたこと。脱出しようとすると罰するために来るらしい。牢屋敷に戻れば追って来なくなったことから、外で問題を起こした場合は牢屋敷に逃げ込めば安全らしいとキレイから付け加えられた。
「......情報は有益だったが、君達のその行動は集団行動としては正しくない。逃げ切れたから良かったではない。何があってからでは遅すぎる。その勝手な行動が風紀すら乱すことになる。看守は危険だ、2度と考えないように」
私はキレイ達にそう言った。反論はあると思ったが全員がそれぞれ納得しているようだ。
「...言われなくても分かってる。もうやらない」
「...驚いた。もっと反論があるかと思っていたが」
私は目を丸くする。紫藤アリサの人間性からして私の発言には噛み付くと考えていたためだ。
その発言にココが反応する。
「だってあいつ化け物みたいに速いもん。森の中スパスパ木をバターみたいに切って追いかけて来るし、キレイっち居なかったらあてぃしもヤンキーも危なかったと思うし」
落ち着いた様子でココが話す。その発言にアリサが舌打ちしていた。...喧嘩が始まったが気にせずにキレイが話す。
「君の言う懸念は最もだ。軽率な部分もあったね、以後気を付けよう...やはり君は正しくあるね」
「...分かれば良いんだ」
先程までのやりとりで注目を集めた。ちょうど良いとして私は皆にID交換を提案した。アリサとミリアは渋っていたが、最終的に全員がIDを持つことになった。
そうして暫く、レイア達と談笑をしていると...食堂の外から悲鳴が起こる。恐ろしいことが起こったのだろう。慌ててその場へ向かう。
━━━━━
廊下を出てすぐの場所で、看守が鎌を振り回していた。木材も、金属も関係なく。それらが全てバターのように切れてゆく。その鎌の矛先は...少女たちだった。
数人の少女たちに向けて、鎌が振るわれる直前。
『もうやめなさい!許しませんよ!」
ゴクチョーの声がした、威厳のある声に皆振り向く。しかしそこに立っていたのは
━━━宝生マーゴだった。彼女の魔法により、ゴクチョーの声を出していたのだろう。その声に反応した看守が、鎌を振るう。
「━━━マーゴ!!」
血液が周囲に飛び散り、通路は酷い状況となった。
命までは奪われていないものの、脇腹あたりを相当深く斬られたようで、次から次に血が溢れ、通路を汚す。
全身から血の気が失せていく。前の時を思い出す。
「マーゴさんっ...!!」
メルルがすぐに駆け寄り...キレイも上着を脱いで側に駆け寄っていく。マーゴの傍でメルルが魔法での治療を、キレイは自身の上着をタオル代わりとして止血を行っていく。周囲からマーゴの傷が見えなくなる。
「キレイさん、ありがとうございます!そのまま押さえてて......!マーゴさん、しっかりしてください......!!絶対に、死なせませんから......!」
普段の様子とは異なる必死な様子のメルルに、思わず息を呑む。
「みんなを、助けてあげようと思ったのに...」
「喋るな、傷が開く。君自身の感じる痛みも増す。今は黙って治療を受けろ、宝生マーゴ。息を浅くしろ。深く吸おうとするな」
喋ろうとしたマーゴの言葉を、キレイが遮る。手慣れているようで、的確なマーゴへの指示を行い、できる限りの処置を続けていく。
看守はしばらくマーゴの方を向いていたが、やがて静かに立ち去っていった。ひとまずの脅威が去った。しかし、問い詰めなければならない。
「一体何があったんだ!?」
近くにいたエマの首根っこを掴む勢いで迫る。
エマが持ちかけ、シェリーとハンナの3人で実行をしたという。【怪力】で看守を気絶させれば良いと考えて、今に至ったという。
「バカなことを!」
私は思わず叫ぶと、遠野ハンナが言った。
「そっ、そんなに怒鳴らないでくださいまし......!わたくしたちだって、こんなことになるなんて......。看守があんなに強くて怖いなんて、聞いてですわよ......」
「私ならやっつけられるかなって思ったんですが、甘かったです......」
「ごめんなさい、ボクたちのせいでマーゴちゃんが......」
エマたちはすっかり萎れて、涙を滲ませる。
幸いにも、他の怪我人はいないようだ。
ココ、ミリア、アンアン、アリサも青ざめて震えていた。少女が初めて酷い目に遭わされたことで、廊下の空気は陰鬱なものになっていた。
「血の赤いの、怖いのかな?」
いつのまにか、そこにノアが立っていた。
「じゃあ、ノアが赤いの、ぜーんぶ怖くなくしてあげる!」
周囲の血が、ノアの手元に集まり、カラフルな筆となる。
「血の赤いのはみーんな、ノアの魔法で蝶の絵にな〜れ!」
すると、信じられないことが起きた。
キレイの上着の下から次々と、赤い蝶が少し飛び立っていった。
メルルの魔法も十分驚くべきことだが、この光景も奇跡と呼べるものであった。
「これで、みんなみんな。今から流れる血は蝶の絵になったんだ〜♪これはノアがいーっぱい力を込めたから、特別な魔法!もうみんなが怖くないようにって!」
眩しいほどの笑顔で、そう言った。
しかし、暫くするとこちらを見て...
「...勝手にお絵描きしちゃった。のあ、怒られる?」
「なんでも怒るわけじゃない。問題は解決していない」
私はレイアに目を向ける。
「ああ、そうだね。確か医務室があった筈、そこにマーゴくんを運び込もう」
そう言ってレイアは駆け寄り、軽々とマーゴをお姫様抱っこの体制で持ち上げる。
「止血は済んである。だが丁重に頼むよ」
キレイはそう言ってレイアに任せている。
「看護が必要だ、私も行く。それとそこの、メルル。治癒の魔法を持っているようだから、一緒に来て看護して欲しい」
「も、もちろんです...!」
私の言葉にメルルが強く頷いて言った。
踏み出した足を一度止め、エマの方を向く。
「二度と脱獄なんてバカな真似を考えないことだ」
「......本当に、ごめんなさい」
私は踵を返して、レイアと共に医務室に向かう。
自分に対する怒りを抑え込みながら。
...こうして、この騒動は終わった。
━━━━━
(別の場所にて)
「...さて、アリサ君。手伝って貰うよ」
キレイはそう、語りかけた。
「何をだよ...!この状況で何しようってんだ...!宝生があんなに怪我したんだぞ!」
アリサは、その変わらぬ様子のキレイにそう叫ぶ。
「傷は既に塞がっている。今の私たちには回復を祈る他ない。彼女のためにも、みんなのためにも、我々にできることをするべきだ」
キレイのその様子に苛立ちが立ったのか、アリサがまた叫ぶ。
「分かってる!でもウチに何ができるって言うんだよ!」
その叫びにも落ち着いて、キレイは語りかける。
「畑を作る、その手伝いをして欲しい。私の魔法は━━━。病は気から、それはその通りで人体の回復力は精神面に左右される。この食堂の食事では、気が滅入るばかりだからね」
「...じゃあ、ウチが手伝えることなんてないだろ!ウチの魔法は【発火】だ。全部燃やしちまう!」
「いいや、違う。焼畑農業というのは知っているね?」
その言葉に、アリサは目を見開く。
「...そうか、灰を肥料に」
キレイは頷いて、続ける。
「これは、君にしかできないことだ。ぜひ、協力して欲しい」
そう差し伸べた手を、アリサは取る。
「...ああ。ウチにできることなら、やってやる」
そうして、キレイの計画は進み...夕食へと移行する。
【本日の処スノート】
言峰キレイ、紫藤アリサ、沢渡ココの行動は問題ではあったが、有益な情報が得られた。それはそれとしてその行動は正しくない。
しかしそれ以上に正しくないのは桜羽エマだ。脱出をしようと持ちかけ、無謀な策で関係のなかったマーゴが深い怪我をした。しかしこれは看守の危険性を理解してないが故の行動だった。私が詳しく説明を行なっていれば起こらない事件だった。ここは私が正しくなかった。二度とこのようなことが起こらないようにしよう。
言峰キレイの適切な処置と氷上メルルの【治療】により、マーゴの傷は早い段階で塞がったようで、安静にしていれば問題ないらしい。言峰キレイの評価を一段階上げることにする。