愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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(遅れました)
【タイガー劇場】
「...みんな、楽しそうだったな」
「あらエマちゃん。昨日のことまだ思い返してるの?それじゃあ私達もここでやろっか!」
「えっでも」
「問答無用であります!それに、二人もやりたそうだよ?」
「共にやりましょう?エマ」
「あの...私からも、お願いします...」
「...うん。分かった」
「ふふ、若い子は笑顔が一番だからね!それじゃあタイガーコロシアム開催!!」


4日目:探し物(前)

あのサッカーから翌日、エマから話しかけられる。

「あ、おはようヒロちゃん」

「...ああ」

やはりこの時間は嫌いだ。どうしてもエマと顔を合わせなければならない。私はそのまま扉へ急ぐが、エマに呼び止められる。

 

「あ、待ってヒロちゃん!」

「...どうした呼び止めて」

「これ、忘れ物だよね。いつも持ち歩いてたから」

私はただ無言でエマから奪い取るように受け取った。

「(この環境は、どうしてもストレスが溜まる。あの時の暴走をしてはいけないのに)」

 

対策のしようの無さに苛立ちが積もる。そんな苛立ちをぶつけるように、エマに尋ねる。

「...そういえば、君の魔法はなんだ」

聞いたことがなかった。あのサッカーの場でも発動した様子は見せていなかった。それにエマはこう答えた。

 

「みんなみたいに使える不思議な力の魔法なんて、ボクは使えないんだ。きっと、間違えて連れて来られたんじゃないかな」

「(間違いなわけがない。気がついていないのか、隠しているのか)」

ふと、掌にある万年筆に目を向ける。

「(エマは、危険な存在だ)」

 

扉の外に行くと、ノアがそこにはいた。

「ヒロちゃん。今日こそ一緒に探しに行こ!昨日はいっぱいお絵描きできて楽しかったけど、自由にお絵描きできる場所が欲しいなぁ」

呑気なことを言うノアに波打つ心を癒されながら、ノアの手を引いた。ノアの絵を描く場所を探す時間だ。

 

━━━━━

 

医務室に行くと、マーゴ、アンアン、メルルがいた。

...机にはリンゴやオレンジ、トマトが積まれていた。恐らくは畑から採れたものだろう。

 

「あっ、ヒロさん...!」

メルルが入ってきた私とノアに反応する。

「マーゴの様子を見に来た。昨日の調子では、随分と回復したみたいだが」

 

その私の言葉に対してマーゴが反応する。

「ふふ、メルルちゃんのおかげよ。つきっきりで看病してくれて、あーんからおやすみまでずっと寄り添ってくれていたの。もちろん、ヒロちゃんもね。あなたたちの献身的な看護のおかげ。本当にありがとう」

 

そのお礼に対して、私は返答する。

「傷は深かった。食生活やメルルの治療などもあるが油断は禁物だ。なるべく安静にしていた方がいい」

マーゴは少し目を見開いた後

「私、ヒロちゃんのこと少し誤解していたみたい。とっても優しいのね」

 

そんな会話をしていると、メルルが間に入る。

「マーゴさん、今は安静にしていて下さい。昨日はあまり動きませんでしたけど、少し歩きましたから、今日は...」

そんなメルルは瓶を持っている。どうやら睡眠薬のようだ。

既にそれを飲んでいたようで、マーゴはうつらうつらとしている。

...最後にマーゴはこう言った。

 

「...ヒロちゃん。あまりエマちゃんたちを責めないであげてね。私も同じようなことは考えていたし、昨日いっぱい謝ってくれたもの」

脱獄を考えていた、それに驚いた。

「ええ、ここから出る方法がないものか、考えるのは当然でしょう?」

「看守は危険だ。逆らわない方がいい」

 

マーゴの発言に思わずそう言った。

「......そうね。一筋縄では行かないのは分かったし、もう少しここの調査をして行くつもりよ。ヒロちゃんのことは、頼りにしているわ。一緒に魔女と戦いましょう?」

そう言って目を閉じたマーゴから、目をメルルに移す。

 

「ずっと看護を?」

「はい、日常生活に支障が出る重症でしたから。好きでやっていることなので、大丈夫です」

メルルをよく見れば、隈ができている。

「(行き過ぎた心配性も考えものだ)

マーゴも寝ているのだし、君も寝た方がいい」

 

そう私が言ったが、メルルは

「でも、アンアンさんも見ないといけませんし...貧血を起こしてしまったそうで、気分が悪そうでしたので、休んでもらいました」

ふとアンアンを見ると、楽しそうにノアと会話をしていた。昨日のサッカーのことで盛り上がっているようだ。

 

「昨日は凄かったねアンアンちゃん!アンアンちゃんのおかげでシェリーちゃんもアリサちゃんのボール取れたし」

『ノアも見事なDFだった』

「えへへ、そうかなぁ。あ、アンアンちゃん。そのスケッチブックにお絵描きしてもいい?」

『好きにしろ』

「わーい。お守り、描いてあげるね!」

 

...昨日で随分と仲良くなったらしい。しかしマーゴが寝ている中で騒がしくしているのは正しくない。

「ノア、次に行くぞ」

「はーい。またね、アンアンちゃん!」

そう言って医務室から出ていく。去り際にアンアンが手を振ったのが見えて、ノアがそれに振りかえしていた。

 

━━━━━

 

今度は地下の奥まった通路へ進んでみる。重厚な扉を覗いてみると、どうやら懲罰房らしい。鍵がかかっていて開けることはできない。

ノアが呑気なことを言っていると、意外な人物に出会した。紫藤アリサだった。

 

向こうも私たちに気付き、気まずそうに立ち尽くす。

「アリサ、どうしてここに?」

「おめえに話す必要ねえだろ」

そう冷たくあしらってきたのでアリサとすれ違おうとした時に、ノアが言った。

「アリサちゃんの持ってるその紙、何?」

 

私も思わず目を止めた。新聞紙、この牢屋敷にそぐわないものだった。捨ておけずに私はアリサへと一歩近付く。

「君、それをどこで?」

「...懲罰房。偶然見つけた。方法は知らねえけど、前にウチみたいに捕まったヤツが入手しもんみたいだ」

渋々とそう答える。

 

「恐らくは、過去の囚人のなんらかの魔法だろう」

「ウチはもう何度も読んだし、おめえにやるよ」

そう言って新聞紙を渡してきた。

5年前の記事で、少女の失踪が相次いだというものと、大晦日での無差別殺傷事件の記事が目につく。

 

どうやら他にも何かないか探していたらしい。その記事を見つけた時は偶然にも扉が開いていたらしいが。

その後に、アリサが【発火】の魔法を持っていたと言う情報を得た。去り際に私は思ったことを言った。

 

「アリサ、先日のあの火球は正しくない。次からは気をつけるように」

「...分かってる。昨日は橘の奴が何度も煽ってきてイラッとしてやっちまった。氷上の治癒と言峰がバケツを用意してなけりゃ大変なことになってた。次から気をつける」

バツが悪そうに振り向いて、探索を続けた。

 

「アリサちゃんの魔法、綺麗だったねぇ」

「...危険ではあるがな」

そう言って私たちは、次の場所を探しに行く。

 

━━━━━

 

私とノアは正面玄関から外に出て、石畳の道を歩いていた。窓から別荘のような建物が見えたので、その場所を目指す。屋敷は高台となっており、遠くには見渡す限り高い塀が広がっている。

ノアは塀を見てキラキラと目を輝かせて、お絵描きがいっぱいできると無邪気に言っていた。

 

私も何度か周囲を探索しているが、脱出は厳しいと考えている。キレイ達の無謀な挑戦により、監視の目もあると分かったためだ。

ふと、近くの茂みからナノカが現れ、手を差し出してきた。彼女はただ無言で、こちらに向き合って手を握手の形でいる。

 

「...なんの真似だ」

握手には応じずにナノカを見やると、ナノカは観念したように語り出す。

「...私の魔法は【幻視】触れた対象の過去や未来がビジョンとして見えるの。好きに発動させることはできないけれど」

「...なるほど」

 

しかし無言で手を差し出すあたり不器用だと分かる。

その後に、ナノカが何故銃を持っているかなどを聞いて情報を得た。その後に、ナノカがあることについて語る。

 

「...私の警戒している人物は二人いるわ。一人目は、佐伯ミリア。一番警戒している相手」

眉間に皺を寄せて語り始める。汚いものを思い出すように。【入れ替わり】の魔法を持っていて、男性が今の佐伯ミリアだと言う。【黒幕】もそれだと言う彼女の様子に、嘘はないと思う。

 

「(断片的な情報と言うなら、話半分に聞いておいた方がいいか)」

続けて話し出す。

「二人目は...【言峰キレイ】」

思わず、眉が動く。ナノカは続ける。

 

「...私はサッカー終わりの頃に言峰キレイに触れたわ。その時に、彼女の過去を見たの。白い病室で、目の前に血まみれとなって、胸にナイフを刺して倒れ伏す白い青年と...涙を流して、ただそれを見続けていた言峰キレイの姿を」

その言葉に、思わず反応をする。

 

「...言峰キレイは、殺人犯だと?」

「可能性としては、否定できないわ。私の見た情報からしても、そう見て取れるもの」

断片的な情報、しかし警戒せざるを得ない。もしもあのサッカーも食生活の改善も、全てが油断させるものだとすれば。

 

「...分かった。情報をありがとう」

その後は互いに疑い合う中、ノアが割り込む。

「ヒロちゃん。もしかして、自由時間にしかお絵描きしちゃいけないのかな?」

能天気な発言に頭を抱え、返した。

「残念だが、お絵描きは自由時間だけだ」

 

ノアは不満そうに項垂れたが、すぐに顔を上げる。

「...ヒロちゃんと約束してなかったらのあ、ずっとお部屋にこもってお絵描きしてたと思う。でも、ヒロちゃんのおかげで、いっぱい楽しそうな場所見つけちゃった!」

そう笑顔で言って、ノアは続ける。

「ありがとうヒロちゃん!約束守ってお絵描きするね!」

「...そう、それならいい」

 

その様子を見たナノカは去り際に言った。

「......あなたは、悪い人じゃないみたい」

茂みに向こうへと消えて行くナノカを尻目に、私たちは目的地へと向かっていった。




【本日の処スノート】
様々なことが明らかになったが、基本的に皆穏やかに過ごせている。その中でも衝撃的だったのがナノカの証言。佐伯ミリアの正体や魔法に、言峰キレイの過去。
どちらにせよ、正しいのか正しくないのか探る必要がある。
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