「喰らえぃ弟子共!必殺デス・ローリング魔!」
「おーっと師匠の必殺シュートだー!!決まればダメージはデカいぞー!!」
「すみません!えい!」
「おーっと!!シュートの長い硬直時間の隙に横からメルルちゃんがボールを掻っ攫ったー!!」
「何ぃーーーー!?」
「良くやりましたねメルル。さあエマ、ガラ空きのゴールを目指しましょう?」
「そうだね、ユキちゃん...ふふっ」
ナノカと別れ、目的の場所へとやってきた。
3つの新しいログハウス風の建物が3練。おそらくは要人用のゲストハウスであると推測できた。あまり使用されていないらしい。
「ヒロちゃん、入ってみようよ」
そうノアに連れられ、水精の間へと向かう。
あっさりと扉が開き、中に入るとそこには沢渡ココと、言峰キレイがいた。ココは私たちの登場にぴくりと体を震わせたが、取り付くように笑顔になる。キレイはいつも通りだ。
「あ、ヒロっちとノアじゃん。お疲れ〜」
とてもわざとらしい。
「二人は探索...いや、そういえばノア君の絵を描く場所を探していたのだったかな。ご苦労なことだ」
いつも通りのキレイだが、私の頭にはナノカと話しをした時の、判明した事実が脳裏に焼き付いている。
「(言峰キレイは、殺人者の可能性がある)」
踏み込むべきかそうでないかを考え、今はもう少し段階を踏むべきと考えて、キレイを連れて去ろうとするココを呼び止める。
「ココ、君はここで何を?」
「べべべ、べっつにぃ〜?」
「(何か隠し事をしているな...)」
「あてぃしらまだ全然知り合ったばかりだし、詮索とかそーいうのやめてほしいんですけどー」
「君に興味がないから詮索する気がない」
誤魔化そうとするココをバッサリと切り捨てる。
ココは明らかに苛立った様子で話し出す。
「うわうっざ。つかさヒロっち、あてぃしの配信見てくれてる〜?初日からやってるんだけど。意外と反応良いんだよね。キレイっちとか」
「2日目から視聴を欠かしたことはないよ」
そういえば何度か見たことがある。言峰キレイが見ていたのは意外だったが...私は素直な感想を言うことにした。
「ああ、少しだが。荒削りではあるが【人を楽しませる話し方】を心得ているように思えた」
同接数が4人といるのがその証明だろう。
「そう、感想ありがとうね。明日は重大発表するから、絶対見ろよ、絶対だからな!」
思わせぶりな発言が気に掛かったので、私はわざと首を横に振った。
「遠慮しておく、何かおかしな術をかけられたらたまらない。君の魔法を知らないし、配信に関わるものかもしれない。見ただけで洗脳されるとかな」
「洗脳じゃねえし!あてぃしの魔法は【千里眼】!」
口を滑らせた。キレイが続ける。
「ああ、配信や写真、自分を見た者のことを俯瞰して見ることができると言う魔法らしい。先日のサッカーで活躍していたのがそれだ」
ああ、と思わず納得した。通りでよく周りが見えていると感心したものだ。それをサッカーに使うとは...となった。
「ちょ!何で勝手に説明言ったし!?」
「君の魔法を隠す意味もないだろう。誤解は早めに解いておいた方が後腐れない。今恐らく腐れている者もいるがね」
ココとキレイが喧嘩し出した。
しばらくして息を切らしながらこちらに話してくる。
「とにかく!あてぃしの魔法で、すごい情報を手に入れちゃったってわけ!━━━配信、見ろよ」
「では私もここで失礼」
そうして二人はゲストハウスを離れて行く。私はココに向けて忠告をすることにした。
「...ココ、君は言峰キレイを信頼しているようだが、彼女には気をつけた方がいい」
ココは明らかに苛立った様子で返す。
「はぁ?そんなこと言われる筋合いないっての。早く行くよキレイっち」
「ああ......そういえば、ノア君の絵を描く場所だが、2階を探してみるといい。何かが見つかるかもしれないよ」
そうして二人は去っていった。......ふと、ノアの方を見ると、ゴクチョーの置物で好き勝手に遊んでいた。
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言われた通り2階の探索をする。図書室に行ってシェリー、ハンナ、エマの3人と魔女や魔法について書かれた本の見解を話し合ったりなどを行っていた。
運営が魔女側であり、大魔女を呼ぶ生贄か、魔法を探していると考えられるという話をした。
魔法は強くなる、そんなことを心に思いながら。
ふと、マップと見比べてみると、部屋があるのに扉が見当たらないのだ。一面が壁になっている。
「この部屋には扉がないな......」
「魔法で消されちゃったのかな?」
一理ある、と考える。常に虹のかかった花畑や、図書室にある桜の大木など、そういったのが幾つも存在する。
ノアは考え込むような素振りを見せ、それからカラースプレーを取り出した。
「ノア、何を━━━」
止める間もなく、ノアは壁に扉の絵を描く。
「じゃーん!ないから描いてみたよ!」
「じゃーん、ではない。こんなところに落書きをしたところで」
落書きとは言い難いほど、精緻に描かれた扉だった。あまりのリアルさに、ノアの画力が凄まじいことを悟った。
ほら、今も自然に扉が開くほど━━━。
開いた?
「えー!?本当に開いた!えー!?」
ノアは驚愕した様子だ。私は冷静に分析する。
「...君の魔法が、牢屋敷の不可思議に干渉し、うまく作用したらしい」
ノアは目を丸くして驚いていた。
「のあもびっくり。絵は描けるけど、本物にはならなかったし......でも、キレイちゃんが言ってたみたいに何かが見つかったね!」
私たちは戸惑いながらも、ノアの描いた扉を抜け、中へと足を踏み入れていった。
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床に置かれたキャンバスや、散らばったスケッチ。
ウィトルウィウス的人体図を模写したであろう物、鏡像にパレット、絵の具や筆...ノアが望んでいるかのような、アトリエだった。
「わあ......!!お絵描きするための場所だあ!のあ、ここでお絵描きしてもいいよね!?」
ノアは目を輝かせ、喜んでいる。
「ああ、ここなら存分に芸術活動が楽しめそうだ」
空気に乾いた絵の具の香りと、少し古びた木の匂いが混ざる。奥には中庭を見下ろせるベランダもあり、換気も十分だろう。
「すっごい場所見つけちゃった!わーい、わーい!」
無邪気に跳ね回るノアを見て、私も頬が綻ぶ。特に重要そうな場所でもなかったので、ノアの魔法が作用してできたように、誰かの魔法で扉が消されただけのようだ。
時間が経つにつれ、他の少女もこの部屋の存在に気がついて、多くの少女がアトリエにやってきた。
「やあこれはこれは......ノアくん、いい場所を見つけたね」
レイアがノアに微笑んで話しかける。
「うん!ここを【ノアのアトリエ】と名付けます!」
こうして、多くの少女たちが和んで終わった。こうしてノアの探し物も終わり、私は多くの情報を得ることができた。
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翌日の夕食後、私とノアはシャワールームに足を運んでいた。囚人番号が振られたロッカーの中には、私たちが毎日着せられている同様の服が入っている。何度か利用しているが、忌々しさに舌打ちが漏れる。
お風呂嫌いのノアをどうにか洗っていると、スマホから通知がきた。沢渡ココの配信の開始らしい。
ノアは私のスマホをのぞいてくる。
「あ、ココちゃんだ。どこにいるんだろう??」
確かに、画面は暗く、どこにいるのかが特定できない。そうなるようにわざとしていると考えた。
『どもども〜ココたんだよ〜!今日は予告しといたからみんな見てくれてるよな〜?』
どこか上がった声でそう配信が開始される。
『じゃあ、今日のあてぃしは重大発表をしちゃいまーす。じゃじゃーん!これ見て見て!』
そう言ってココが取り出したのは透明の液体が入った瓶だった。何かの薬か、と考えていると......。
『実はこれな、【魔女を殺す薬】なんだよね』
信じられないことを口走る。
名前を【トレデキム】魔女を確実に殺すにはその薬を使用しなければならないことが明かされた。信じるかどうかは私たち次第らしい。
『以上、ココちゃんからの重大発表でした〜!」
配信はあっさりと終了した。
信じられないような内容だった。それについてかんがえていると、ノアが話しかけてくる。
「ココちゃんの言ったことって本当なのかな?ココちゃんを探して聞いてみる?」
私は━━━
>ココを探す。
小さく頷いた。
手早く着替えを済ませて、私はココを探すべくシャワールームを後にした。
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「ココちゃん、どこにいるのかなー?」
「わからない、だから探すんだ」
そうして、各部屋をくまなく探してみたものの、ココを見つけることはできなかった。エマ、シェリー、ハンナなど他の面々も探していたが、見つからないらしい。
そこに、言峰キレイが現れる。
「どうかしたのかね。こんな夜遅くに」
「あ、キレイちゃん!今はココちゃんを探してて...!!配信でとんでもないことを言ってたから」
エマがキレイにそう説明したが、キレイは変わらなかった。
「ああ、【トレデキム】だったかな?...それで、それを君たちが知った所でどうするのかね?」
全員が思わず固まった。知ってどうするのか...
「だって、【魔女を殺す薬】なんて絶対殺人事件の凶器になり得ますし、知りたいと思うのは当然じゃないですか?」
シェリーがそう返す。知りたいと思うことは人として当然であると。そこにキレイはこう返した。
「ああ、それについてはココ君から少しばかり聞いていてね。ココ君の魔法は【千里眼】ヒロ君がそう広めた通りにね。そこでそれの存在を知ったらしい。だが俯瞰して見ただけで詳しいことは分からないとのことだ。ココ君も言っていただろう?『信じるかは君達次第』つまりはそう言うことだよ」
その言葉に頭を冷やされた。確かにココも重要な秘密を魔法で知ったと言っていた。ならば聞いた所で情報は得られないと。
そうして少女たちはそれぞれ自室へと帰って行くことになった。
━━━━━
(キレイ視点)
全員がそれぞれ帰った頃、キレイはポツリと言った。
「さて、これで大丈夫かね?━━━ココ君」
背中からもぞもぞと動き、上着に覆われておんぶされていた沢渡ココが顔を出す。
「いやー...エマっちどころかヒロっちまで探しにくるなんて予想外だった...」
何故このようになっていたのか、それは少し前に戻る。
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「いよし。これで【黒幕】の牽制にもなるっしょ』
そう言って配信を終えたココに話しかける。
「良いのかね?私もその秘密を詳しく知ってしまって」
その言葉にココはこう返す。
「良いの、キレイっちのことはあてぃし信じてるし。それにあそこ寒くて上着欲しかったんだよねぇ......」
そんなことを言う中、キレイはふと思ったことを口に出す。
「そういえば、これからどうするのかね?皆は君を確実に探しにくる。それを君一人で捌き切れるかね?」
あ、と考えていなかったことに気がついた顔をしていた。
「ど、どうしようキレイっち!?あてぃしこのままだと鬼ごっことかくれんぼ同時にする羽目になる!!」
仕方がない、とキレイは言った。
「では、私に任せるといい」
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そうして、現在に至る。
髪色が似ており、顔を出さなければ髪と誤魔化せ、何より上着はかなり大きかったのでサイズ的にも疑問が出なかったのが大きい。
「本当にありがとうねキレイっち...あてぃしそこまで考えてなかった。【黒幕】の奴の牽制にって考えてたんだけど」
「礼は良い...いや、一つだけ聞きたい」
キレイは一つ、気になることがあった。それについてココに聞こうと尋ねていた。
「君は私を信頼しているらしいが...君は君と“推し”以外はどうでも良いと思っているはずだ。...何故、私にこの情報を教えた?何故信頼する?」
その問いに対して、ココは答える。
「確かにあてぃしはそう。あてぃしと“推し”以外はどうだって良い。それは確かだけどさ。あてぃしの話を真剣に聞いてくれてるじゃん?キレイっち」
それは、ココにとっては前の周で見た情報。真剣にココと向き合ってくる存在として、キレイは写っていた。
「だからキレイっちは“推し”じゃないけど、信じても良いって思ってるわけ。それだけだからな!」
そう言ってココは皆が消えていった自室へと戻って行く。
それを見たキレイもまた、歩いて戻っていったのだった。
【本日の処スノート】
ノアのアトリエを見つけた後日、ココからの情報に皆が惑わされていた。それは言峰キレイの一声により沈静化したが、複数人で見つけられなかった沢渡ココはその後に自室へと戻っていった。一体どこに行っていたのやら。疑問が残る。
しかし段々と生活水準が上がっていっている。皆の笑顔も増えてきた。このまま何事もなく過ぎればいいが。