愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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【タイガー劇場】
「試合終了ー!!勝者!魔法少女チーム!」
「くっ、若さに負けた...!!」
「良くできましたね、エマ、メルル」
「は、はい!...エマさん、楽しかったですか?」
「...うん、とっても」
「お、良い笑顔!よーしそれじゃあ次のゲーム行ってみよー!」
「師匠!ヒロちゃんを見守る仕事が残ってるであります!」
「あっやべ...」


6日目:トラブル

また、一日が経過した。

日々は穏当に過ぎていき、牢屋敷の衛生環境の悪さ以外の問題が解決していってる中、特にトラブルは起きていない。この先、何もなく正しいことを祈る。粗末なベッドから起き上がり、目を擦る。

 

「(胸騒ぎが、どこか少しずつ強まっている。こんな場所で何も起こらない日々がしばらく続くことが、かえって異様なのか......)」

そう考えていると、先に起きていた同室のエマが語りかけてきた。

「あ、ひ、ヒロちゃん、おはよう」

「おはよう」

 

すげなく挨拶を返す。ストレスの元と言えば、同室のエマだ。礼儀だからこそ挨拶を返す。その直後だった。

叫び声がする。サッカーで何度も聞いたアンアンの声だ。

「アンアンちゃん!?」

「━━━隣だ」

 

私たちは、夏目アンアンと城ヶ崎ノアの部屋へと走った。現場には私とエマ、そしてレイアが駆け付けた。

「ヒロくん、聞こえたかい!?」

レイアの声に当然だと返す。たどり着いた先で目にした光景に、私は思わず目を見張った。

...私は思わず、怒りのまま叫んでしまった。

 

「━━━どういうことだ、ノア!!」

部屋は、真っ白に塗りたくられていた。壁も床も、白く一面に。スプレーの刺激臭もする。きっとこれは、ノアの魔法に違いない。

彼女はこちらを振り向くと、いつものように無邪気に笑う。

 

「あ、ヒロちゃんだ〜。見てみて〜。これならいっぱい絵が描けるよね?」

「絵はアトリエで描く約束のはずだ!正しくない!」

私は思わずそう叫んだ。しかしノアは拗ねたように顔を膨らませる。何も悪いことはしていないというように、語る。

 

「仕方ないんだよ?夜の間はここに閉じ込められているから我慢、できなかったんだもん」

あたかも自分に正当性があるように語る。私は頭を抱えてしまった。ノアも魔女候補だ。どこか常軌を逸したところがあるのかと。

 

「う......はぁ......はぁ...」

ふと声に誘われて視線を向ければ、部屋の奥のベッドでうごめく影がある。夏目アンアンだ。

 

「アンアンちゃん、具合悪そう......!もしかしたら、塗料の匂いのせいかも......」

エマがそう言った。

「そういえば、さっき声が聞こえていたような......」

エマのその発言でそれに気がついたのか唖然とていた。

 

「隣で叫んでいた!なぜ気付かない!元に戻すんだ、今すぐに!!」

つい叫んでも、ノアは機嫌を損ねたのか拒否した。あろうことか、足跡がついたという理由で、再度スプレーを室内に撒き始めた。

思わず、ノアの頬を叩く。ノアは私を呆然と見てから、今にも泣きそうに瞳を潤ませる。

 

「......ヒロちゃんなんて大嫌い」

「っ、嫌いで結構だ。正しくない行為をしたノアが悪い!」

そう言い合う私たちをレイアが止める。

「2人とも落ち着くんだ!とにかく今はアンアンくんを医務室に連れて行こう!」

 

そうして私たちはアンアンを医務室へ連れていった。幸いにも大事には至っていない。しばらく休めば解決するだろうと。

...少なからず、ショックだった。ノアを監督している気分になっていたこと、そのノアに反発され、感情的になったこと。

全員のスマホに今回の件を通知し、深いため息をついた。

 

...ノアは深く反省している様子で、だがそれを私は抑えられずに口を挟んでしまう。結果また喧嘩となり、レイアとエマに促されて、部屋に外へと連れ出された。アンアンはノアが付きっきりで看病することになった。

 

...私のせいだと、呟いた。

それにレイアが、反応した。

「ヒロくんのそういう責任感が強いところ。私は素敵だと思うよ。それに......私も正直少し腹が立ったんだ。キミが怒ってくれたから、冷静になれた」

共犯者を見つけたように、レイアは私に微笑みを送ってきたが、笑い返すことなどできなかった。

 

━━━━━

 

私とノアの一件は、すぐに少女たち全員に知れ渡る。私は気持ちを落ち着ける為に掃除をする。私のクセだった。

徹底して室内を綺麗にしても、胸にノアとの先のやりとりが引っかかっている。きっと嫌われた。だが、落ち込むなど私らしくない。

 

シェリーが話しかけてくるが、私はあしらう。ふと、暖炉の前に空きビンが置いてあった。それは前にメルルが持っていた睡眠薬のビンだった。空なので、洗って乾かしてあるのだと推測できる。

シェリーが、図書室から持ち出した大量の本をおく。埃が舞い散り、掃除が無駄になる。

ラウンジの掃除を諦め、私は別の場所に向かう。

 

━━━━━

 

部屋を出たところで、ナノカが不意に話しかけてきた。壁に寄りかかって立っている。

「私はあなたとは手を組まない。けれど、どうやらあなたには力がある。あなたなら、変えられるかもしれない。......なんとなく、そう思ったの」

 

前にナノカが言っていたことを思い出す。どうせ何も変わらないと言っていた。そうして私は、ナノカから様々な情報を得た。

【幻視】は、基本的に過去を視る。何度も触れ合ったものや相手なら、と言って口を閉ざした。

 

【魔女化】は、【なれはて】になるまで個人差があったり、状況によって変わる。心の傷を深く抉られるようなキッカケがあれば、魔女化は進行するが、ストレスなら心の強さ次第、とのことだ。

その言葉に、私は乗り越えたと安心する。

衝動に呑まれかけたが、今は理性を保っている。もう、私が魔女になることはないと。

 

━━━ふと、ナノカが銃を構える。

「ナノカ、急に━━━」

「━━━おや、手荒い歓迎だね」

...その声は、言峰キレイだ。黒部ナノカは、私の背後に佇んでいる言峰キレイに銃口を向けている。

 

「動かないで、私はあなたの過去を知っている」

「...ああ、ヒロくんの通知から知っていたが、君の魔法は【幻視】だったね、ナノカ君。だが銃をここで構えるのはやめた方が良い。誰かに聞かれ、見られでもしたら大変だ」

黒部ナノカとは対象的に、言峰キレイは落ち着いた様子でナノカに対峙している。むしろナノカを諭そうとしている。

 

「...待てナノカ。何のようだキレイ」

私はナノカを静止し、キレイに用事を聞く。

「ああ、先程伝えられた件について、ヒロ君が悩んでいないかと思っていてね。アドバイスを、と思って来たまでだ」

そう飄々と言った。

「余計なお世話だ」

 

私はそう言ったが、キレイは構わずに続けた。

「君は【正しい】ことをしている。気に悩むことはない。ノア君の絵を描きたいというあの行動は叱るべきだった。必要なことだったよ」

それは、レイアの励ましとはまた違う言葉だった。キレイは、言外に言っている。...牢屋敷初日で、私に言っていたことだ。

 

━━━城ヶ崎ノアという(無邪気)で、二階堂ヒロの(正しさ)が証明されたと。

敵がいてこそ初めて、私の正しさは証明される。

私は思わず歯噛みする。それに構わず、キレイは続ける。

「一つ、忠告だ。何か言いたいことがあれば、すぐにでも相手に言うべきだ。この牢屋敷という環境では、何かあってからでは遅い」

 

そう言って、勝手に言い残した言峰キレイは去ろうとする。それをナノカが静止して、銃を向ける。

「待ちなさい、言峰キレイ。私はあなたの過去を知っている。病室で横たわる、白い青年を刺し殺した、殺人犯」

キレイはその言葉に反応して、振り向いた。

 

...酷く哀しそうな顔をしたのを、自覚しているかいないか。その後は普段の表情に戻って、キレイは語り始める。

「......ああ、その件か。もっと別のことかと思っていたよ。まず、私に関して言えば人を殺したことはない。だから殺人犯ではないよ」

そう言って、いつもの調子で語り始める。

 

「...信じないわ。明らかにナイフが胸に突き刺さっていたもの。あなたがやったんでしょう?」

声を震わせながらそう問いかけるナノカ。動揺しているのかいないのか。それにも毅然と反論した。

「君の魔法はどうやら精度が不安定らしい。ただの一場面だけを切り取って詰め寄るのは良くないよ」

 

「━━━じゃあ、その青年は何者だ?」

水掛け論となっていたので、私はそう言った。涙を流していたとナノカは言っていた。であれば、それ相応の関係だと思った。

その問いに帰って来たのは、意外な答えだった。

「━━━恋人だ。たった二年間だが、付き添っていた」

 

そう言って言峰キレイは立ち去る。

......その背後に、ナノカが銃を向けることも、私が声をかけることもできなかった。ただ、その背中を見送ることしかできなかった。

 

━━━━━

 

その日の午後、私は日課の見回りをしていた。

各少女の部屋の様子を巡回しながら点検していた。格子戸を開いて中を覗き、各部屋に変化がないかを確認する。

不在の部屋に変わる映えもない。どの牢も同じ、湿度が高く、薄暗く、ベッドなどの家具は硬く、据えた臭いがする。

 

毎日数度にわたっての見回りは、キレイを除いて快く思われていなかった。そんなキレイの言動が更に、私のストレスを溜めていた。

『君の規律を作り出す、変化がないかを探る。その考えは正しい。存分にやるといい』

いつものように語り、笑う姿は、私の考えを見透かしているようだった。

 

ある部屋の前に辿り着く。中に入るのは躊躇うが、入っていった。前と同じように白い部屋。ノアとアンアンの部屋だ。

アンアンは回復して、ノアと一緒にアトリエに入る姿を見た。仲は悪くない。それはサッカーや医務室での状況からわかっていた。

私が一人で、騒ぎ立てただけだ。

 

掌を見る。

「後悔なんて、私らしくもない」

私は正しいという、キレイの言葉が脳裏によぎり、それが私をより苦しめている。

その瞬間、不意にぞわりと、背筋が粟立つ。

振り返る隙すらなく

 

「━━━ごめんなさい」

鈍い衝撃と共に、視界が揺れる。殴られた、誰に...そう考えているのも束の間、私は硬い地面に倒れ込む。

「痛かったですよね。でも、申し訳ないんですけど、あなたには死んで貰わないといけないんです」

 

それは、誰の声だったか。探り当てる前に、私の意識は闇の中へと沈んでしまった。

 

━━━━━

 

夢を見る。【彼女】の夢を。

月代ユキ。世界に存在できる場所がないと言えるような少女。儚い存在感、示唆に富んだ眼差し、感情を感じさせない佇まい。そして、世界から嫌われていて、そんな彼女に惹かれていた。

 

視界に入れば疎まれるので、私たちの集合場所は自然と学校の屋上になった。そこで私は誓ったんだ。

『君のことは、私が守る』

だが、その言葉を聞きもせず、彼女はもう一人の方にばかり目線を向けていた。だからこそ、もう一人の友人に、彼女を託したのに━━━

 

━━━━━

 

何かが割れる音と、少女の阿鼻叫喚で、古い夢が途切れる。どれほど気を失っていたのか、急速に私は目を覚ます。

「(何が起きた━━━)」

マーゴに支えられて、私は部屋の外に出る。

━━そこで、目にした光景は。

 

「━━━な」

そこにあったのは、凄惨なる状況。白い部屋の、白い服。それら全ては、赤く染まっていた。

その染まった赤は赤い蝶となって、白い少女を飾り立てる。それは、あり得ざる光景だった。

私を襲った筈の氷上メルルが、命を落としていた。




【本日の処スノート】
ノアとの喧嘩、キレイの過去、果てには私を襲った筈の氷上メルルが私の横で殺されていた...!?
一体何が起こっている...!!
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