「あう...あうう......」
「...落ち着いてください、メルル」
「...慣れないね。何度見ても」
「やっぱり、みんな辛いよね」
「......その痛みを忘れないようにね、少女達」
メルルの死体が見つかってすぐ━━━、スマホにゴクチョーからのメッセージが届いた。
「はぁ......報せが入りました。痛ましい殺人事件が発生したらしいですね。一体どういうことなのか......」
ゴクチョーも困惑した様子だったが、ひとまず皆ラウンジに集められた。
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ラウンジには、メルル以外の少女が集まっていた。一様に皆が青ざめている。明らかに殺された死体など見たのは初めてだろうからだ。
「本当に起きましたね!殺人事件!」
......約2名を除いては。先程の発言はシェリーが楽しそうにいつもの調子で言っていた。
ある者は涙し、ある者は吐き気を堪え、ある者は小さな悲鳴をあげ続けていた。
その彼女らの私の見る眼は、変わってしまっていた。殺人者を見るような、恐怖の色を覚えた眼差し。
「(なんだ、その目は......!)」
あまりの居心地の悪さに、思わず彼女たちを怒鳴りつけたくなる。しかし一度抑える。状況は分かってきた。
私は死体となったメルルの横に倒れていた。返り血と塗料で汚れた状態で、だからこそ疑われているし、何を言っても無駄だと。
自身のまとう血の臭いに頭痛と吐き気がする。
静観し堪えていると、羽ばたきの音がして、やがて全員の前でゴクチョーが降り立った。
「はぁ......殺人事件、起きちゃいましたね」
残念そうに、ゴクチョーが呟く。
「今夜、【魔女裁判】を開廷します。今いる囚人の中から、必ず殺人犯を特定して下さい。その者は、【魔女】として処刑するので。やすやすと死なない【魔女】の活動を確実に沈黙させるための方法での処刑です。かなり酷いこととか......しちゃうので
また、囚人全員への告知ですが。特定ができなかった場合は、全員処刑とします」
その言葉に、全員が響めき立つ。
「全員処刑なんて、無茶苦茶ですわ!?」
「おいふざけんな鳥!!」
ゴクチョーも困惑した様子で話す。
「私も、主に命じられていることをお伝えしているだけなのですが...その主が死んだ今、どうしたものかと驚いています」
......信じられないことを言った。今、ゴクチョーはこう言ったのだ。氷上メルルがゴクチョーに指示を下していたと。つまり、ナノカで言うところの【黒幕】がメルルだったと言うことになる。
ナノカも一歩前に出てゴクチョーに確認して、そうだと言うことを知った。氷上メルルが、優しげな顔をしておいて【魔女】だったとは。正直、どう思えば良いかも分からなかった。何度か会話をしたが、そこまで仲がいいわけではなかったから。
ただ、悪だと聞いても胸が軋んだ。
ゴクチョーは続けた。
「メルル様がいなくなっても、牢屋敷の取り決めが消えたわけではないので......これまで通り運営していくしかないですね。よく考えたら、ここを取り仕切っているのはほぼ私ですし、メルル様がいなくても成り立つんですよね。何ならやりやすいまであります」
ぶつぶつと呟いていたゴクチョーが、翼を広げる。
「良い機会です。前々から準備していたのですが、【事前投票】を導入しましょう!」
そうして説明を始める。捜査の前に投票をして、一番票の多い囚人を拘束する。犯人による不正防止や特定の容易さを目的としたものらしい。
「それではみなさん、自身のスマホで一番疑わしき囚人に投票してください」
そうして、各自は投票していく。
ココの困惑した声や、レイアの戸惑う声がする。
...結果は、分かりきっていた。
間抜けなファンファーレと共に、ラウンジのモニターがその姿を映し出した。
「圧倒的多数の投票により、二階堂ヒロさんに決定しました!あなたを魔女裁判開始まで拘束するので、それではみなさん、犯人を頑張って特定してください」
「ふ、ふざけ━━━」
抗議の声は、看守によって塞がれた。目を塞がれた上に、羽交締めとなって拘束された。
エマやノアの、私を呼ぶ心配する声が聞こえる。看守の力は凄まじく、私がどれだけもがいてもびくともしない。
私はその状態で全員を睨みつける。私はこの場にいる全員から選ばれたのだ。殺人犯、【魔女】であると。
胸に芽生えかけていた情の念は消え失せ、看守に連行されながらも、私は少女たちを睨みつける。
「(良いだろう、全員、敵だ!!)」
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私は地下の懲罰房に拘束されていた。松明の炎は揺らぎ、1秒に1回どこからか水滴が垂れる音がする。3600回、そこまで数えた所で私に面会する者が現れた。
エマ、レイア、そしてキレイ。
二人は恐る恐る、一人は堂々と歩いてこちらに来る。
レイアが話す。
「......中に入っても良いらしい」
「塗料で服が汚れていると思って、タオルと着替えを持ってきたんだ。出るときに使ってくれ」
そう言って丁寧に着替えとタオルを置かれた。
そこに、エマが話しかける。
「ヒロちゃん、あの、大丈夫?......?」
「......ありがとう。礼は正しく伝えるべきだろうな。だが、大丈夫に見えるか?このままいけば処刑を待つだけの身だ」
エマもタオルを持参しており、私の側に立って汚れを拭いてくれている。
「このままじゃあんまりにひどいよ......」
よりによって、桜羽エマ。だが、もし誰かが来るなら彼女だろうと、想像がつくあたり、やるせない。
エマは唇を噛み、辛そうに俯きながらも私の汚れを拭っていく。
...パシャリ、と背後から写真を撮る音がした。
━━━言峰キレイだ。私の姿を撮っている。
「何を、撮っている...!?」
「キレイちゃん!?どうして!?」
「キレイくん、今のヒロくんを撮るのは...!」
二人も予想外だったのかそう反応する。
だが、言峰キレイは淡々と説明した。
「二階堂ヒロは、現場に落ちていた証拠品の一つだ。事件の解決をする為にも、現場の状況はできる限り保存しなければならない」
......確かに、私は殺害現場で倒れていた。つまり私も証拠品の一つと言えるのは納得した。だが、エマやレイアがそれに反論する。
「これ以上はやめたまえ。ヒロくんも辛い思いをしている。それを追い込む真似をしてはダメだ」
「そうだよ......!それにヒロちゃんを物みたいに......!」
私は、その二人の発言に口を挟む。
「止めるんだ二人とも。キレイのやっていることは正しい。止める必要はない。それに、君たちからしたら私が犯人かもしれないんだ」
私は、3人を順番に睨む。
「当然、私からしたら君たちが犯人かもしれない」
「そ、そんなことはありえない!私は!」
レイアの反論を、私は止める。
「あくまで可能性の話に過ぎない。私は、私の無罪を裁判で証明するだけだ。この事前投票とやらは残酷だな。少女たちの心に分断を招く」
そこにまた、口を挟む者がいた。
「━━━そうして、最も票を集めた者は、誰よりも深い疑心暗鬼に陥ってしまう。今の君のように」
...また、言峰キレイだ。私の心の内を見透かしているようなその死んだような黒い眼差しが、どこか気味悪い。
思わず反応してしまったのだろう。エマが話す。
「ひ、ヒロちゃん。ひとりにならないで!ボクはヒロちゃんがそんなことしてないって、信じてるから!」
その言葉に思わずめまいがする。エマの口からでるきれいごとが受け付けられない。
「エマ、私は君のことを信じない」
エマは酷くショックを受けた顔をして、
「ヒロちゃん......どうして?お願いだからボクの話を聞いて━━━」
聞きたくない、私は声を張り上げる。
「黙れ!!君の顔も声も見たくも聞きたくもない!」
そうして口論になりそうになったその時。
「━━━そこまでだ!」
私の怒鳴りにかぶせる形で、レイアが声を張り上げる。不可解な現象に、思わず息が詰まる。レイアを視認した途端、目を逸らせなくなる。
「...驚かせたね。これが私の魔法さ。【視線の誘導】を行うことができる。人々はよく言うんだ。舞台上の私から不思議と目が離せないとね」
レイアの顔から目が離せない。レイアは私に対して私に優しげに笑いながら、続けてこう言った。
「少しでも信じて貰いたくてね。ヒロくんになら、明かしても構わないと思ったんだよ」
「......解除してくれないか」
要望した瞬間、視線に自由が利くようになる。
「どうやら、キミたちの間には何か昔あったようだね。詳しく聞けないかい?」
「...断る」
「......わかった。今はそっとしておいた方が良さそうだ」
レイアはそれきり、エマとキレイに行こうと諭す。エマは私の剣幕にショックを受けていたようで、レイアに促されるまま重い足取りで立ち去って行った。
「ヒロちゃん......またあとで......」
そうして最後に、キレイが残る。
「疑心暗鬼になるのも無理はない。君のそれは人間的にも正しい。だが、それで自身すら疑ってしまっては本末転倒だ。他に目を向けて見ると良い」
ただそれだけ言って、キレイは去って行った。
あの3人が去ってから、私は思案する。どうすれば無罪を証明できるかを...自身を疑う。その言葉がどうにも耳にこびり付いて離れなかった。
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(キレイ視点)
キレイは、エマと別れた後であろうレイアに声をかけた。あのサッカーの時と同じように。
「蓮見レイア、話がある」
レイアはその言葉に振り向いた。
「何か用事かな、キレイくん」
キレイはただ、こう答えた。
「━━━君が輝けるような、そんな話をしに」
【本日の処スノート】
※拘束されているので追記不可。