キレイの問いに対して、ヒロは不敵な笑みを浮かべる。愚問だと言うように笑った。
「ああ、それなら説明がつく。要は、現場に足跡を付けずに氷上メルルを殺害するにはどうすればいいかを証明すればいい」
ヒロはこちらを見据える。
「君はこう言っていたね。【私は現場に落ちていた証拠品の一つ】だと。なら、説明は簡単にできる」
「ど、どう説明すると言うんだヒロくん!?」
レイアの発言にヒロは頭を抱える。しかしすぐさま全員に響き渡らせるように、こう言った。
「現場には、私がいたんだ。私を踏んで足場にすれば、足跡がつくことはなく、犯行が可能となる。......全く、屈辱的なことを解説させられるとは」
「ヒロくんを......踏み台にしたっ!?」
ヒロによる説明が入る。
「まず、現場に倒れていたのは私だ、気絶させられてね。そのあとにメルルが部屋の中に入った。つまり、メルルの横には、最初から私という名の足場が存在したんだ」
そこにノアが問いかける。
「じゃあ犯人さんは、どうやってメルルちゃんを殺したのかな?」
ヒロがそれに答える。
「まず犯人は、私の体に飛び乗った。そして間髪入れずに、刺し殺す。犯人は、倒れたメルルに追い打ちをかけ、何度か突き刺し.......私にもう一度飛び乗って、足跡を残さないよう注意しつつ外に跳んだ。これなら、現場に足跡を残さずにメルルを殺すことは可能だよ」
「......立ち幅とびで考えるなら、可能だと思うわ。現実的に飛べる範囲ね」
ナノカが推理に補足を入れた。
...キレイも口を挟んだ。
「メルル君を呼ぶのは簡単だっただろうね。『ヒロ君が倒れているから治療しに来て欲しい』とでも言えば、彼女なら飛んでくるだろう。ああ、十分に可能ではあるだろうね」
「......どっちの味方だ、君は。だが、犯行が可能であるのなら、それは検討に値することだよ」
宝生マーゴは、それにも余裕を崩さない。
「なるほどね......。怖いわ、ヒロちゃん。あなたにかかれば......無実の罪でも処刑されてしまいそうよ」
その発言にも毅然と立ち向かう。
「こちらの台詞だ。君の詭弁......私に通じるとは思わないことだ」
両者、マーゴとヒロは睨み合う。
「ま、待った待った!冷静に......冷静に話し合おう!ほら、アリバイとかあるし、そこを考えないと!」
ミリアの仲裁にも、ヒロは変わらない。
「マーゴのアリバイはとっくに崩れている。直前に鳴った、ガラスの割れるような音は偽装だった。恐らくは犯行時間に見せかけようとしたのだろう。だが、それは検死ができたレイアによって防がれた」
「ふっ。犯人にとって、私は大きな誤算だったということだね」
レイアは自慢げにそう言った。
「本来の事件発生は、レイアの聞いた死体発見40分前のガラスの割れる音の時だ。ミリアやハンナには聞こえなかった事から、なんらかの方法で音を消していたのかもしれないが、それもレイアの耳がしっかりと捉えていた」
「いやぁ、犯人には申し訳ないね!私がいたことでその企みが完璧に潰えてしまったのだから!」
レイアは爽やかな満面の笑みを浮かべた。
ヒロは変わらず続ける。
「その時が犯行時刻だとしたら、マーゴのアリバイなんて存在はしない」
「......確かに私はそのとき、1人でいたわね」
マーゴは笑みを崩さない。
「ナノカちゃんたちとラウンジで合流したのはその後。アリバイを証明できる人物は、誰もいないわ?でもね......ヒロちゃんの推理通りだと、私が犯人だと成立しないことがあるのよ。【メルルちゃんのスマホ】の在処よ」
そこで、また対決が始まろうとしている時に、ある者が口を挟んできた。
「はい、ちょっとストーップ」
沢渡ココだった。ヒロもマーゴも、予期できない乱入者に思わず動揺している。
「いやー、ヒロっちに幾つか聞きたいことあってさ?そのメルルのスマホ、どうなってる?」
それにヒロが確認して、答える。
「......初期化されているね。恐らくは証拠隠滅を図るために行ったものだろう」
その答えにココが笑みを浮かべる。
「へぇー、初期化されてるんだぁ。じゃああてぃしからこのスマホの仕様について発表しまーす。このスマホの機能、初日にキレイっちに借りて色々好きにしてみたんだけどさ。【初期化には30分かかる】んだよね、このスマホ。なんでかは知らないけど」
ココは話を続ける。
「でー、エマっちが死体発見前の30分前にメルルと会話してたってことはずっと持ってないとダメで、今ヒロっちが持ってるんでしょ?......そういやマーゴさぁ、死体発見した時にヒロっちのこと介抱してたでしょ?そん時に仕込んだんじゃねーの?」
マーゴは少しばかり表情を崩すも、余裕のままだ。
「あら、そうだったの。よく知ってるわね、ココちゃん。でも、それがもしそうだったとしたら...ヒロちゃんの推理も崩れるわよ?」
「へ?ま、マジで!?」
ココは思わず驚いた様子だった。
「ヒロ君の推理によれば、【何かの方法で】ガラスの割れる音を事件現場の方向から直前に鳴らしたと言っていた。その最有力候補がメルル君のスマホだ。初期化されていたとすれば、その推理が崩れるのだよ...というより。通りで私のスマホから魔女図鑑が消えていたはずだ。スマホの基礎機能と手書きのメモでやりくりできるから問題ないがね」
キレイがココに丁寧に説明をすると、ココは唖然とした顔から完全に慌てた様子になってしまった。
「あ、ま、マジ!?そうなんの!?」
しかし、それを聞いていたヒロは冷静だった。
「なるほど、これで分かったよ」
不敵な笑みを浮かべる。
「ココの証言から、メルルのスマホは使えない。かと言って、私のスマホにもそのような音はない。であれば......【魔法】ならどうだ?」
そう言ってマーゴの方を見る。
「君の魔法は【モノマネ】。すなわち【声帯模写】......他人の声を真似できるなら、【ガラスの音】を真似できたっておかしくないだろう?」
マーゴは笑みを崩さない。
「面白い主張ね。でも、ヒロちゃん。私はナノカちゃんと一緒の部屋にいたの。いくらなんでも、近くでガラスを割った音がしたら気付くでしょう?」
言葉の応酬は止まらない。
「それはどうかな?聞こえてくる音の方向まで設定する......【立体音響】を魔法で再現できたとすればどうだろう?それなら、方向を誤認させることだって可能なはずだ。【ガラスの割れた音】なんていう短い音なら、誤認したとしてもおかしくはない。ナノカ、どう思う?」
それにナノカが答える。
「......その意見を否定できないわ。私もべつに、宝生マーゴを常に警戒していたわけではないのだしね」
「...貴重な証言、助かるよ。そして、レイアたちがいた部屋から、マーゴとナノカの部屋は事件現場の方向にある。それならば誤認しても不思議じゃない。どうかな?マーゴ」
マーゴは楽しそうに笑う。
「面白いわ......ヒロちゃん。あなたの推理は、とっても素敵ね......♡でもね、ヒロちゃん。あなたの推理には、さっきから証拠がないわ。あなたには証明ができるのかしら?......私が犯人だってことを。それができないのであれば、机上の空論...苦し紛れの言い訳でしかないわ」
キレイは続く。
「それに、二階堂ヒロの推理は『宝生マーゴが人以外の音声も模倣ができた上に、立体音響なども扱えた』ことが前提だ。そしてココくんの言っていたように『死体発見時のどさくさに紛れ、忍び入れた』これもやった証拠がない。どちらにも証拠がなければ、決定打はないよ」
どう出るか、とキレイは考える。ここで切り札を切っても良いが、今出した所で面白くなさそうだ。見守っていると、ヒロが騙る。
「━━━正しい話をしよう。現場には、証拠が残っていたんだ」
「......なんですって?」
マーゴが、思わず眉を顰める。
「君は普段、手袋をしているね。だが、そんな君にもそれを外して触れなければならないものがある。スマートフォンだ。タッチパネルは、静電気の微弱な変化により反応する。手袋越しでは反応しない。もちろん......誰かに通話する時にも」
マーゴが思わず息を呑む。
「残っていたんだよ!私の服に入れられていたメルルのスマホに、君の指紋がね!!」
マーゴは初めて狼狽える。
「......そ、そんな.....バカなっ!嘘よ!あなたは拘束されていた!そもそも、指紋を調べる時間なんてなかったはず......!こんなの、でっち上げだわ!」
それを見て、キレイは思う。
「(偽証だね。正しさを求めるためならば嘘も構わない......ある意味で人間らしいものだ。しかし、立証は出来ないはずだが......)」
そう思っていると、予想外の人物から声が出る。
「そこまでだ!」
蓮見レイアだ。【視線】が固定される。
「......ふふ。そういうことか、ヒロくん。すべて理解したよ。【あのとき頼まれた指紋の採取】......そういうことだったんだね!」
レイアが、目立つためにヒロの偽証に乗った。ヒロから困惑の空気が流れるが、マーゴは気が付かない。マーゴは予想外の出来事には弱いらしい。
「さあヒロくん!共に犯人を追い詰めようじゃないか!」
ヒロが、レイアの舞台に上がる。
「では、君が犯人でないと言うのなら、マーゴ!君の指紋、ここで取らせて貰おう!」
「くっ......!............拒否......するわ......!」
苦悶の表情でそう言った。
「(ふむ、中々相性が良いね。あの2人は)」
想定外の事態に狼狽えるマーゴのことを見ながら、キレイはそんなことを思う。正しい答えを導く為なら手段を選ばない二階堂ヒロと、目立ちたがり屋でそのチャンスには乗っかる蓮見レイア。両方ともリーダー気質でありつつもだからこそ相性が良いと思った。
裁判の空気は、宝生マーゴに疑いが向く。指紋採取の拒否は、それほどまでに強烈だった。次の発言までは。
「......捏造されるかもしれないもの。......考えてもみて?ヒロちゃんは容疑者として拘束されていた。にも関わらず、レイアちゃんはそんな容疑者の言うことを真に受けて指紋を採取した。検死結果も本当かは不明よ」
「......2人が【共犯関係】の可能性も高いと思うの。これまでのやり取りを見たって、みんな納得してくれるでしょう?急に弁護なんて言うのだから」
「...なら、説明してあげよう。マーゴ、今の状況がいかに、君が犯人であることを指し示しているのかを!」
こうして、最後の対決が幕を開けた。終わった後にでも、水を差すことにしよう。
ヒロは語る。今までの審理で得てきた情報を。
「マーゴは、私を陥れる為に、様々な偽装工作を行った。エマへのメルルの電話...しかしそれはナノカが医務室に居たためにアリバイが崩れた。
死体発見の40分以上前に鳴った音は、メルルの本当の死亡した時間だった。音を何らかの方法で抑えたが、それがレイアに聞かれた。
そして、マーゴは死体発見の直前の時間。立体音響で音を鳴らした。
かなり前に、シェリーが言っていたように...わざわざ見つけさせるためだ。自身のアリバイの為にね」
その語りに、それぞれが反応する。エマはレイアやナノカの証言の矛盾から電話のメルルが偽物とし、レイアは死体発見の40分前が犯行時刻だと断言して、ナノカは自身がアリバイ作りに利用されたと考える。
3人それぞれの信用を得たヒロが、語る。
「......こうして、私に罪をなすりつけようとした犯人。
━━━君が犯人だ......宝生マーゴ!」
マーゴは冷静に反論する。
「本当かしら、言いがかりとしか思えないのだけれど。ヒロちゃんは、私を犯人だと決めつけて、こんなに糾弾しているけれど......これは、魔女を見つけるための魔女裁判なの。あなたの言葉は、みんなに信じてもらえているのかしら?」
......その言葉から、ヒロは騙る。
「......もちろんさ。だって私は......みんなを、信じているんだ。ここにいるみんななら、きっと私の話を聞いてくれる!私を犯人と決めつけず、公正に公平な裁判を開いてくれるに違いない!そうだろう?みんな!」
その言葉から、エマが同意して、場の全員がマーゴに疑いを向ける。そこにキレイは、水を差すことにした。
「━━━では、公正公平な裁判を開く為に、二階堂ヒロ、蓮見レイア。君達2人の偽証......この裁判から取り除くとしよう」
ヒロの息を呑む音がする。
「桜羽エマ。君はあの時私と一緒にいたが、指紋の採取のやり取りをしていた様子はあったかな?」
「それは...なかったと思う」
全員がそれぞれ動揺している。
「ふむ、ありがとう。その指紋の件は、2人が場をひっくり返すべく作り上げたハッタリに過ぎない。指紋の採取などは行なっていない」
2人の息を呑む音がする。全員の疑いが2人に向く。
「だが、しょうがないとは思っているよ。議論を進行するのに多少のハッタリは必要だろう。それ故に、必要悪と言える」
......そして、キレイは語る。
「だが、公正公平な裁判において偽証を許すわけには行かないからね。こちらも持っている、証拠を提出するとしよう」
そうして、私は【切り札】を提出する。
「これは......あの時撮ってたヒロちゃんの写真?」
エマの疑問に思う声とは裏腹に、マーゴが息を呑む。
「あ、あなた...!まさか最初からずっと......このつもりで......!?」
動揺した様子のマーゴに対して、キレイは嗤った。
「━━━元から、この予定でしたので」
シェリーが無邪気に言った。
「ヒロさんの真っ黒な服に、往復したみたいな白い靴跡が刻まれてますね!掃除とかしていなかったら埃とか溜まりますもんね!靴裏って!」
その発言に、私は言った。
「この証拠は、二階堂ヒロの推理した犯行方法を証明する【真実】の証拠品だ。それ以外で、付く理由もない。では全員、靴裏を見せて貰おうか」
......誰も、反論できなかった。
【証拠品ファイル】
二階堂ヒロの拘束された写真。
背中には、幾つかの【靴跡】が残っていた。
服が黒いから、はっきりと見える。
【魔女図鑑:人物】
[ことみね きれい]
囚人番号671番。 誕生日:12月28日
15歳
【魔法】奇跡
一つのリンゴを全員に行き渡るように渡す。
水をぶどうジュースに変えるなど
神の子と近しいことができる。
それだけではなく、実現可能な範囲ならどんな願いも叶えられる。
敬虔なるシスター、目が死んでいる。
偽証蔓延るこの魔女裁判を、【真実】を表す証拠で犯人を証明した。