「...やっぱり、キレイちゃんはそういう人だよね。心に傷を付けるけど、しっかりと進む為の力になってくれる」
「......恋人、いたんですね。意外です」
「はい、大魔女様。13歳から2年間付き合っていたそうです。...でも、私には、キレイさんが何故ああも余裕なのかが分かりません」
「んっとね、メルルちゃん。前提が違うんだよ。あの麻婆はそうなってからああなったんだよ」
「...てゆーか前々から重いわー!!このタイガー劇場はコミカルな場を求めるものじゃ?というかヒロちゃんは全然こないし!もしもし消費者センター!?...え?死に戻りあるから最悪シナリオが壊れる?...あー...え?後今日は短め?」
先日の魔女裁判から一夜明けて、食堂。全員が重い雰囲気に包まれる。マーゴの処刑の凄惨さ、キレイの謎の魔法。いつものように食事がキレイにより運ばれるものの、私含めて全員の食指が働かない。
「......何か、私にできることはないだろうか」
ぽつりとレイアが呟いているのが不思議と耳に入る。責任感のある彼女は、みんなのためになるようなことを考えているらしい。
...ふと、辺りを見回すと、既にキレイの姿が消えていた。何かをしているのかも知れない。私は食事を食べ終えて......まずはこっそり逃げようとしているココの肩を掴み、問い詰めることにした。
「......げろぉ...」
「さあ、君の知っていることを全て話してもらおうか。水精の間の地下についてや、魔女を殺す薬などについてね」
ココを追い詰めると、それぞれが援護をした。
「そうだよココちゃん!話してくれないと!」
「ココくん。私の目をしっかりと見て話すんだ」
「話しなさい、沢渡ココ」
「ほらみんな落ち着こう!?ココちゃんが喋れない!」
エマが怒り、レイアが視線誘導でココの視線を自身に留めて、ナノカが鋭い眼光を向ける。そして、ミリアがみんなを宥めていた。
ココは肩を下ろして言う。
「分かったけどさぁ...昼じゃダメ?今日日曜日だから朝にやりたいことあるんだけど......」
そのココの言葉に、思わずそうだったと思う。今日で牢屋敷生活が7日目。曜日感覚が薄れたが、日曜日だった。
「日曜日だから何だってんだよ...」
アリサの言葉に、ココは頭を掻いてこう言う。
「あーもう分かった!全員来い!それで分かるから!」
ココは歩いて、玄関へと向かい.......ひとまず私たちは全員、ココに着いていくことにした。
━━━━━
「......ん?」
牢屋敷の玄関を通ると、何やら声が聞こえて足を止める。まるで歌っているような声に、全員が驚く。
「......言峰の声だな」
アリサがそう呟く。
「......はいみんなちゅーもーく。こっから先は静かにねー」
そうココが言うと、扉を開ける。そこにあった光景に、思わずみんなが息を呑んだ。
木の祭壇には、畑で採れた多くの野菜を捧げられている。その前で、こちらに背を向けて祈りを捧げる聖職者がいた。
開放的な青空の下であるはずなのに、そこは教会の中のような厳かな雰囲気を感じた。
彼女が唄う歌は、あの魔法の最後に告げたあの......
「キリエ━━━」
私の声に、アリサとシェリーが反応する。
「そういえば、言峰ってシスターだったな......」
「なるほど、礼拝でしたか!!」
そう言ってココ、アリサは前の方に座り、シェリーはエマやハンナの手を引いて近づいた。
私も座ると、隣にレイアが座ってくる。
「隣、失礼するよ」
「......好きにすると良い」
そうしていると、この光景を邪魔しないような静かな呟きが、私の耳の入ってきた。
「......すごいね。一枚の絵として、とっても綺麗」
アンアンと見ていたノアが、感嘆するように。
「......心が洗われるようだ。人を動かす力が、彼女にはある。負けて、いられないね」
レイアが、対抗心を燃やすように。
私も、キレイの歌には聞き入ってしまった。ココとアリサは、ただ沈黙して歌に身を任せていた。
ふと、エマが呟く。
「......マーゴちゃんやメルルちゃんにも、聞かせたかったな。こんなに素敵な歌なのに」
その言葉に、思わず全員がしんみりとするが、その悲しみを吹き飛ばすように、キレイの歌声は響き渡る。
全員がその歌をじっと聴いていた。音楽という“文化”が、ここまで力があることを再認識した。
こうして、朝の自由時間が終わるまで、全員がそこで礼拝で歌われる歌を聴いていた。重苦しい雰囲気が、少し安らいだ気がする。
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昼食を食べ、ココの先導の元......全員が水精の間の地下階段を目撃する。
キレイとココ以外が驚く中、エマが聞いた。
「すごい、ココちゃん。何でこんな場所知ってたの!?」
「だから、あてぃしの魔法で偶然知ったんだって」
ココはそう言ってはぐらかす。全員がそれぞれそこへ向かうと......大きなエレベーターが見える。
「あ、ちなみにこっから先は2人しか通れませーん。重量制限がかかってっから1度に2人までしか通れないんだよね。......後クソ寒いからよろしく」
そう言って2人ずつ降りていくと、寒い。それに12人もいるとそれだけで狭い。だからこそ寒さは和らいでいる......狭い。
ココとキレイの説明の元、私たちは操作室の説明と、冷凍室へ向かうことになる。そこでは、全員が息を呑んだ。膨大な量の【なれはて】や、犠牲者の少女たちが冷凍されていた。
エマやハンナは特に顕著に顔を青ざめている。
......そのような地下探索を終えた。
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地下探索を終え、牢屋敷に戻った後に......私たちは今度はキレイを取り囲むことにした。
「さあ、次は君の番だキレイ。君のあの魔法について話して貰おうか。あれもまた【奇跡】、とでも言うつもりか?」
それに対してキレイはこう答える。
「君たちは、【なれはて】や【魔女】がこの牢屋敷だけの話だと思うかね?」
何を言っている...そう思うと、ナノカが言った。
「...いいえ。魔女となる条件の一つには強いストレスがある。牢屋敷の外でも、あった可能性は高いわね」
それにはエマが反論する。
「ちょっと待ってよ!でもニュースには超常現象とかそういった類の報道はボク見たことがないよ!?」
それに、まさかのココが言った。
「あー、そうならないように秘密裏にやってるんだってさ」
キレイは続ける。
「その通り。世界にまた【魔女狩り】というものが広がらないために、教会は【なれはて】となった者を、主の元へと送る魔法を作り上げた......その名も【洗礼詠唱】魔女因子を研究し、信仰心を触媒として【なれはて】の魔女因子と肉体を離解する。そう言った魔法だ」
説明が続けられる。磔にするか、動けない状態にしないと使えない点。信仰心がなければ使えない点、少なからず【なれはて】と渡り合える力量が必要であることを。
それらの説明に、エマが反応する。
「つまり、キレイちゃんってみんなを守る為の仕事をしてたんだね。すごいなぁ」
その言葉に、キレイが返す。
「そんな素晴らしい仕事だが、3年以内の離職率は驚異の100%だ」
「えっ!?そんな、なんで!?」
キレイは、説明する。
「純粋に戦いにより戦死、戦闘不能になるものや、あまりの職務の多さに苦悩して辞めるものがいるからな」
全員の息が止まる。
「問題なのが情報統制だ。......私の実体験なのだが、学校の生徒全員が衰弱しているなんて事態、どうやったって誤魔化しきれんと苦悩したことがある。上に聞いてもどうにかしろの一点だ」
......社会人としての悲哀を感じて、この場は解散となった。
【本日の処スノート】
......未だ重苦しい雰囲気は晴れないものの、キレイのお陰で幾分かみんなの表情が明るくなっているのを感じる。
......少なくとも、こうして共に過ごす隣人としては信用しても良いかも知れない━━━
いや、ダメだ。信頼などは新たな溝や争いを生む。私は一人でいるべきだろう。
そうして昼。水精の間の地下に、施設があることを知った。同時に2人までしか乗れないエレベーター、地下の冷凍室、処刑台の操作盤など......黒幕でしか知り得ない秘密をココはなぜ知っているのか。
...そうして、キレイの言った洗礼詠唱......ここに来てから、色々と私の心は乱れてゆく。...社会人の悲哀を感じた。
......落ち着け。私は、一つの目的を達成するために動けば良い。