「はい!取り敢えず今日はここまで!ゲームは一日1時間!!ほら仕事に戻るわよ!」
「さーてどれどれ......アンアンちゃんがstay night書いてる!?なんで!?...麻婆!!」
「あれが、別の世界のキレイさん......ちょっと、怖かったです。初対面の時のキレイさんに似た感じが......」
「......魔術、ですか。そういったものなのですね...エマ、私は楽しめていますが、どうでした?」
「......ボク、桜ちゃんが好きかも。可愛いなぁって」
「あー、桜ちゃんはいい子よ?いい子なんだけど」
「師匠!ネタバレ厳禁っす!!」
「そういえば、あなた達も出ていましたね。タイガ?」
「あーあれは私であって私じゃないユニバースというか...」
━━━月曜日の朝。計画を実行する日がやってきた。目を覚ました私は、ベッドから降り、エマに声をかける。
「......おはよう、エマ」
「えっ!?あ、えっと......?お、おはよう、ヒロちゃん」
少し面食らってはいるものの、エマは嬉しそうに挨拶を返した。できるだけエマに関わらないようにしていた私から声をかけたからだろう。
「どうしたの?その......ヒロちゃんから、声をかけてくれるなんて......」
予想通り、エマは驚きつつも私の言葉を受け入れた。私は冷静に、頭の中で描いた通りに進行する。表面上では謝り、話し合いたいといえば、エマはすぐに食いついた。
「......じゃあ昼食の後、一緒にシャワーでも浴びに行かないか?」
「う、うん、いいけど......どうしてシャワーなの?」
エマが困惑した様子でそう聞いた。
「昼間なら、あまり人が来ないかと思って。君とふたりきりで、ゆっくり話したいから。これじゃ理由にならないかな?」
エマは私の言葉に首を横に振り、笑顔を見せた。いつもそうだ。無邪気な笑顔を見せて油断させ、腹の中は黒い、黒い魔女だ。
そういった思いに反して、私はエマに努めて柔らかく笑顔で笑いかける。
「では、14時にシャワールームで。それから、このことは私と君だけの秘密にしてほしい」
当然なぜかと聞き返される。私は、本音と建前を混ぜて、自分のことや過去を他人に詮索されたくないと言った。エマが姿を消す直前に、私と約束をしていたという事実を知られてはまずいから。
それをすっかり信じて、あまつさえ心を許して朝食に誘ってくる。その態度に、心が波立ち、強く拳を握る。
傷ついてなどいなく、わざと失敗や、弱そうなふりをして気を引き、立場が不味くなると、手のひらを返す。ユキのことも、きっとそうやって見捨ててきたのだろうと。
「......ヒロちゃん、どうかした?もしかしてボク、気に障るようなこと言った?」
そんな様子が表に出たのだろう。私を見てエマがそう聞いた。
「......いや、なんでもない。行こう。(後少しで、この苛立ちも元を断つことができる)」
上機嫌に部屋を出ていくエマの背後で、私は昏い感情を燻らせていた。
━━━━━
朝食後。エマ殺害の準備を進めるため、私は静かにシャワールームへと足を踏み入れた。
【バルーン】...ノアが書いた大きな壁の絵を見つつ、ノアについて考える。恐らくは頓着をしていないだろう彼女について。
見ているだけで、本当にただ純粋に絵を描くのが好きだと伝わってくる。お絵描きができる場所であれば、牢屋敷でもどこでも良いのだろう。そう思って、くすりと笑ってしまった。
「(ノアは、ストレスなく生きていそうだ。魔女化の心配はな...いや。ノアは関係ない。大切なところで集中しないでどうする)」
気を取り直して、ダストシュートに細工をする。ダストシュートの蓋は、【経年劣化で壊れていた】ことにすることで、エマの事故を装わせる。事故で落下して、気を失い、運悪く時間に合わせて、自動で焼却炉が稼働する。そのまま焼かれ、焼死。そういう筋書きを描く。
細工は、事件の前に施す必要がある。事件の後に細工をしたのを目撃されれば、疑われる可能性が高い。事前にしておけば、誤魔化しも、最悪の計画の中止もできるためだ。
後は、計画に成功した後に、推理をして言いくるめるだけ。危険なのはキレイだろう。だが、証拠も残らない中で私を犯人と特定できはしまい。
アトリエで見つけた工具を手にして、ダストシュートのネジを緩めておく。これで、細工は終えた。
後はココを筆頭に、近づいてくる者を上手く言いくるめて追い払っていくしかない。私は、決意した。
━━━━━
約束の14時の少し前。いよいよだ、と私は足早にシャワールームへと向かう。しかし、その部屋の前に先客がいて、私はぎくりと体を強張らせた。先客は、私に気がつくと、声をかけてくる。
「あ、ヒロちゃんだぁ」
「ノア、ここで何を......いや。中に書いた絵か」
ノアは目を見開くと
「な、なな、なんのことかな?ひゅ、ひゅ〜」
吹けていない口笛を吹きながら、シャワールームに入ろうとするノアの腕を咄嗟に掴んでいた。
「ん?どうしたのかな?」
私は焦っていた。ノアがここにいては計画を実行するのは無理だと。不思議そうに見つめるノアを私は、アトリエに連れていくことにした。
「どうしたのかじゃない。ここで絵を描くのはダメだ」
ノアは頬を膨らませる。
「ここもお絵描き禁止なの?けちだなぁ」
「けちじゃない。お絵描きする場所なら、一緒に見つけただろう」
そう諭すと、そうだけどーと返事が返ってくる。しかし、何か言いたそうな目でノアがこちらを見てくる。
「あのさ、ヒロちゃん。のあね......」
しかし、途中でその言葉を飲み込んだ。
「(本気ではないとはいえ、殴ってしまった。きっと、私に怯えているのだろう。自由にやらせたくもあるが......)」
そう思いながらも、向き合う。
「とにかく、お絵描きをするならアトリエを使うように」
渋々とノアは頷いた。
すぐに戻れば、計画に支障はないだろうとして...私は膨れっ面になったノアの手を引いて、私はアトリエに向かった。
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不満そうなノアを連れて2階にやって来ると、ミリアと遭遇した。
「あれっ?ヒロちゃんどうしたの?」
「......ノアが」
そう淡々と説明した所、ミリアがノアの膨らませている顔を覗き込んで微笑んだ。
「ははーん。さてはヒロちゃんに怒られたんだね。いたずらでもしちゃったのかな〜?」
「のあ、別に悪いことしてないもん」
その後、ミリアが見事なまでの手腕で、ノアのことを預かって娯楽室に向かうことになった。私からの説教と、アンアン達が書いた物語のどちらが良いかで、迷いなく後者を選んだのだろう。
ミリアは私に向けてウインクをして去って行った。正直助かった。これ以上待たせては、エマが帰ってしまうかも知れなかったからだ。
2階からシャワールームへ戻ろうとすると、すれ違う二人の姿が見えた。それは。ハンナとココだった。多くの衣類を持っている。
「なんであてぃしがこんなことやらなきゃ行けないのさお嬢〜...あてぃし眠いんだけど〜」
「雨が降ってきて近くにいたからですわ!手伝ってくださいまし!!」
二人は私に気がつくと会釈して通りすがる。
私は、迷いなくシャワールームに向かう。
━━━━━
シャワールームを開けた時、そこにはエマがいた。しかし、何か様子がおかしい。顔が青ざめており、何かを見ていた。
「...?エマ。何かあったか?」
そう言って、視線の先を辿ると......
完全に蓋の壊れたダストシュートと、転がっているキレイの靴がそこにはあった。
「ひ、ヒロちゃん!!ボクが来た時には。既にこうなってて...!!もしかしたらキレイちゃん、落ちちゃったのかも...!!」
エマは完全に慌てており、そこに嘘はないように思えた。時間を考えれば......もう時間がない......!
「あっ、ひ、ヒロちゃん!?」
私は全力で焼却炉へと走る。廊下から、ラウンジへと向かうと、轟音と激しい雨音に今更気がつく。
ラウンジにはレイアとアンアンがいて
「今の音すごかったね......!」
「雷が近くに落ちたのではないか?」
そういえば、シャワールームに向かう時も見かけた。その直後だった。激しい雨と雷の音の合間に━━━
「ひっ......あああ......!!」
ひきつった悲鳴のようなものが聞こえた。
エマの声かと、廊下を振り返る。
廊下には、中庭に繋がる扉があり、その扉が開いていた。たった今私が通った時には、そこは閉まっていたはず。
落雷も激しい雨音も、凶事の前触れかのように感じられた。ひとり、ふらふらと吸い寄せられるように中庭へと向かった。
そして、激しい雨は瞬間的なものだったらしい。
小雨の降る中庭で━━━
━━━━━言峰キレイが、仰向けに倒れていた。
昏い感情を感じさせない瞳は、何かに驚いたような表情のまま、大きく見開かれていた。
いつも余裕を感じさせる笑みを浮かべていた彼女が、それをもう一度浮かべることはないだろう。
頭部に集い舞う赤い蝶が、頭部を撃ち抜かれていたことを予感させた。
【本日の処スノート】
何が、どうなっている...!?