愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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【タイガー劇場】
3人は並んでFateルートを進めていた。
「みんなすっかり夢中になっちゃって〜。しっかりとタイガー道場も見てくれているしね!」
「師匠!妹弟子からの視線が痛いであります!」
「我慢しなさい!!というか仕方ないと思うけれど」
「あれは愛情の裏返しによるキュートでポップなジェノサイドなのに〜」


19日目:協力2

翌日の昼食の後。食堂を出たところで、私はレイアを呼び止めた。

「自由時間だが、劇の制作を進めるんだろう?私にも何か手伝わせてほしい」

昼食時も、少女たちはレイアを中心に劇の話題で持ち切りだった。今や劇の制作が、私たちを繋ぐ絆となっているようにも思える。

 

「早速ありがとう。そうだな.....ヒロくんは何か得意なことはあるかい?」

「ある意味難しい質問だな。基本的にどんな作業でもこなす自信がある」

そう答えると、レイアが納得した様子で頷く。

 

エマに、私のことを聞いていたらしい。自分のいない所でベラベラと喋られているようだ。褒めている話ばかりみたいだが。

「......それで結局、私は何をすればいい?」

話を仕切り直すと、申し訳なさそうにしていたレイアの表情が戻る。そうして続けて言った。

 

「それじゃあ、ヒロくんにはまず、みんながやっている作業を見てもらうのがいいかもしれないね。その中から自分にできそうなこと、やりたいことを選んでもらういうのはどうかな」

「異論はない」

私はレイアの提案に乗り、劇制作の作業を見て回ることにした。

 

━━━━━

 

中庭に出ると、ハンモックでくつろぐアリサの姿が見えた。

「君は劇の制作には参加しないのか?」

近付いて声をかけると、アリサは面倒くさそうに上体を起こす。

「......考えてる」

その答えが意外だった。

 

「驚いたな。君なら否定の立場は変わらないと思っていた」

「チッ......うるせえな。大体、おめえだって最初は否定してたのにいきなり主演いってんだろ」

痛い所を突かれた。

「私の本意ではない。君が考えている理由はなんだ?」

 

「......言峰に頼みこまれてる。『深刻な人手不足だ。手を貸して欲しい』って......」

「......君は、キレイに随分心を許しているらしい」

アリサは、目を逸らした。

「......悪いかよ」

 

「いや、悪いとは思わないが。彼女と君はあまり相性が良い方には見えなかったが、よく一緒に食事を取っている。その理由を知りたい」

アリサは少し黙ったが、ぽつりと言った。

「......ウチのこと、よく見てるんだよあいつ。最初はウチに勝手に協力するって。最初はおめえや蓮見以上に胡散臭いって思ってた」

 

語られるのは、様々なこと。最初に脱出しようとした際にはココと自分を抱えて息を切らさずに看守から守ったり、マーゴが看守により重傷を負った時には冷静に、自分ができることをしろと言い、畑仕事を手伝わせたり。マーゴ処刑時にも色々話をして気が楽になったらしい。

 

「......しっかりと、ウチの中身を見て話してるって思えるんだよ。少し気味が悪い時もあっけどよ。少しは感謝してるんだ」

なるほど、と話を聞いて理解した。

「(キレイは、行動により信頼を勝ち得ている。キレイの洞察力と話術が、しっかりと悩みを見抜き、それを取り除けている)」

 

食事面の改善なども含めて、この牢屋敷の生活環境はキレイによって支えられていると理解した。

そんな話をしていると、レイアが現れる。

「ヒロくんにアリサくん、何を話しているんだい?」

「また面倒そうなのが来やがった......」

 

アリサはレイアの姿を見て、辟易とした声を漏らす。

「もしかして、邪魔をしてしまったかな?」

「別に、大した話はしていない」

レイアはどうやら、台本を読みつつ軽くセリフの練習をしに来たらしい。そして劇も、この中庭で行うようだ。

 

アリサは他の場所でやってくれと言ったが、本番に近い環境で行いたいとレイアは言っていた。劇について語るレイアは真剣で、それでいて楽しそうだ。彼女が放つキラキラとした輝きと前向きな姿勢は、他の少女たちを引っ張っていく力があるようだ。

 

「ああそうだ、ちょうど良かった。......アリサくん。君に頼みたいことがあるんだが、良いかな」

「あ?なんだよ、いきなり」

訝しげにアリサはレイアを睨む。

「劇に登場して欲しいんだ」

 

アリサがその言葉に食い気味に言った。

「ぜってー嫌だね」

「そんな!キミにぜひお願いしたい役だというのに!最初に対峙する槍使い!苦戦を強いられる強敵を......!!」

苦戦を強いられる、という所に惹かれたのか、興味を示した。

 

「......聞かせろ」

レイアによる説明を黙ってアリサは聞くと、

「......詳しくは、夏目に聞いてくる。それからだ」

そう言って、立ち去っていった。

「ありがとう、アリサくん!!共に劇を......」

「うるせぇ!!まだやるって言ってねえ!!」

 

アリサは立ち去っていった。

「ふぅ。上手くいったね」

「切り替えが早いな。というか良く乗せられたな」

素直に関心をしていると、レイアがいった。

「彼女は頼まれることは悪くは感じていないらしい。後は引き立て役などではなく、私たちの演じる役に苦戦を強いられると言ったように誘えば、アリサくんは興味を示すだろうと」

 

その語った人物に、心当たりしかなかった。

「キレイか......彼女は本当に人のことを見ているな」

「おや、バレちゃったかな?まあその通り。これはキレイくんに頼んでどう説得すれば良いか考えて貰ったんだ」

......サッカーや劇の全面肯定などからも、レイアがしっかりと信頼しているらしい。頭が痛くなる。

 

「ああ、所でヒロくん。キミの役はどうかな?」

「ん、ああ。ある人物に拾われて、そこからその人物の夢を引き継ぐ形で正義の味方を目指した少女の役か......受けたからには、演じてみせる」

 

改めて設定を振り返ると、アンアンにミリア、そしてキレイの3人がそれぞれ考えた結果生まれた傑作だと思った。願いを叶える器を争っての戦いに巻き込まれた主人公と、その主人公に召喚された使い魔。互いにぶつかり合いつつも、絆を深めて最後には......といったようなものだった。

 

「共に、舞台を盛り上げよう。ヒロくん」

「......ああ、そうだな」

微笑みかけながらそう言ってくるレイアに、悪くないなと思いながら、そう返事をした。

 

━━━━━

 

牢屋敷から外に出てみると、ハンナとシェリー、そして何故かキレイの姿が目に入った。3人は木の下で、濡れた服を手に持っている。

気の間にロープを通して、そこに服を干しているらしい。

シェリーがパッと爽快にシワを伸ばしていた。

洗濯は、ハンナがゴクチョーに直談判して許可を貰ったようで、その行動力は素直に賞賛したい。

 

「......前まで小道具すら握りつぶしていらしたのに。今ではすっかり力加減を制御できていますわね」

「えへへ、嬉しいですね。もっと褒めてくれても良いんですよー?シェリーちゃんすごいね、天才とか!!」

「......まあ、褒めて差し上げても、よろしくてよ?」

 

照れながらそう言ったハンナにシェリーは嬉しくなったようで飛び付いて持っていた衣服を落とした所......で、キレイに拾われていた。

「物を持っている時は気をつけるように」

「はーい。ごめんなさいキレイさん......」

「謝るよりも前にちょっと離しやがれ、ですわ!暑苦しいですわ!」

 

「三人ともご苦労」

私がねぎらいの声をかけると、三人は振り返ってくる。

「あ、ヒロさん!えっへん!私たち洗濯をしているんですよ!」

「そのようだな」

総勢十二人分の洗濯物が並ぶ様は見ていて気持ちがいい。そしてふと、気になったことを言った。

 

「そういえば、キレイは何故ここに?」

「弟子の様子を観察するためだよ。力加減をコントロールできるようになったかの観察だね」

━━━弟子?

「はい!私シェリーちゃんは、キレイさんに弟子入りしたことによりスーパー名探偵シェリーちゃんにクラスチェンジしたのでしたー!」

 

パンパカパーンといったようにそう嬉しそうにシェリーが言った。そこにハンナが説明を挟む。

「シェリーさんが舞台でバーサーカーとして演じるのは知っているでしょう?その練習の時にシェリーさん、武器を握りつぶしてしまったんですの。その時に声を挙げたのが」

 

「私というわけだ。少しばかり武術の心得があるものでね。学ばせることで魔法のコントロールにも繋がるのでは、と思ったわけだ。後は、バーサーカーに相応しい迫力がないのでね。演技指導も兼ねてだ」

キレイがその説明に被せる。

「ふっふっふ。今のシェリーちゃんなら看守と戦っても引けを取らない強さを得ていると思います!その時があればぜひ任せてください!」

「二度とそんなことあってたまるかですわ!!」

 

同感だった。しばらくは私は三人に付き合い、洗濯を手伝うことにした。

 

━━━━━

 

アトリエを覗きにいってみると、ノアとアンアンが机に向かっている。

アンアンは凄まじい集中力で、台本を書き殴っている。とても楽しそうだ。そして横ではノアが絵を描いていたが...あまり芳しくないらしく、ポイポイと後ろに紙を丸めて投げていた。

 

「あっ......」

書いている途中で、アンアンのペンのインクが切れた。

「うぅ......新しいペンを......どこだ?ノア、知らないか?」

「んー、どこだろうね?」

集中しすぎて散らかった部屋に替えのペンを置いてしまったらしい。整理整頓をしていないのは正しくない......。

 

きょろきょろと周囲を見回しはじめたノアが、私がいることに気付く。

「あ、ヒロちゃん。アンアンちゃんのペン見なかった?」

私は頭を抱えながらも、返した。

「今来たところで見ているわけがないだろう。君たちはもっと周囲を綺麗に整理整頓するべきだな」

 

ノアは言われて初めて気がついたのか

「あ、ほんとだ。めちゃくちゃ散らかってるね......」

私はため息をつきながらも、

「まあいい。ちょうど手伝えることを探していたところだ。片付けは私の方でやってやる。君たちは制作を進めてくれ」

そう指示をした。

 

「えへへ、ありがとうヒロちゃん。そうだ、あのね、のあ......ううん。やっぱりいいや!」

ノアが私に何か言いかけて、気まずそうに口を閉ざす。何か私に、話でもあったのだろうか。

 

「どこだ、どこに置いた......吾輩のペン......」

涙目になりながらもペンを探しているアンアンを見て、またため息が漏れてしまう。

「君のペンは私の方で探すから、とりあえずはこれを使うといい」

「す......すまない......」

 

アンアンに万年筆を渡してやると、不意に重なるように、記憶が蘇る。それは、果たされなかった【3人】の約束。一緒に屋上で花火を見ようという約束だった。波が押し寄せるようにあの日の夕暮れが鮮明になり、深く息を吸おうとするたび、喉が詰まる感覚に襲われる。

無理矢理、現実に意識を引き戻す。

 

「君のペンを見つけたら、返してくれ」

そう言いつつ、清掃を続けて、紙を一塊にまとめる。ダストシュートがここにあれば、楽に掃除ができるがそうも言ってられない。

新しいペンの束を見つけたので、アンアンに渡す。

 

「ほら、君のペンだ。これで集中できるだろう?」

「ありがとう、ヒロ」

そう言いながら、また真剣に書き出す。とても快作なのだろう、その瞳は爛々と光っていた。

 

「全員が一つになって、吾輩が一から書いた脚本を演じてくれる......!わがはいも、頑張らなければ......!」

「そうだね!じゃあノアも、いっぱい絵を描くね!」

「ああ。劇が成功で終われば後は、残った殺人事件という不安の杞憂すらも、わがはいが吹き飛ばしてくれる......!」

「えへへ。凄いね、アンアンちゃん」

 

そんな二人の会話から離れて、私はアトリエの片付けを進めていく。そうしてあちこちに置かれていた未使用のキャンバスを一ヶ所に集めていた時に、ある一つのキャンバスを持ち上げた際、違和感を覚えた。

小さな切れ目があり、指先を滑り込ませてみると紙のざらりとした感触があった。慎重に引き出してみると、折り畳まれた古い紙。

 

「(大魔女の......!)」

私はポケットに手記をしまって、取り繕うように清掃に戻った。

 

━━━━━

 

娯楽室に入ってみると、部屋は異様な光景だった。

黒いフードとマント、紫のローブに身を包んだココ。

髪を下ろして、目のやり場に困る黒い衣装に身を包み、目隠しをしたミリア。

黒いツインテールはそのままに、赤い服と黒のスカートのナノカ。

黒い内服と外装の赤い羽織を着て、オールバックにしたエマ。

 

「━━━仮装大会か?」

思わずそう呟いてしまい、全員が振り向く。

「あ、ヒロちゃん。これは、えっと...」

ぎこちない様子で、エマが何かを言いかけた。......私も、話しかけにくい。あの件がある以上、どうにも。

 

「ああほら、ヒロっち。衣装合わせって奴」

意地の悪い笑みがどうもその衣装と似合っている......キャスター兼ライダーのマスターを兼任しているココがそう言った。

「なるほど、一度着てみて確認するということか」

その説明に納得が言った。

 

「うぅ......おじさんにこの衣装は向いてないと思うなぁ......お侍さんの役のならまだ露出も少ないのに......」

目隠しをしたままもじもじとしているミリアは、ライダーとアサシンの兼任だった。

 

「そ、そんなことないよ!すっごく綺麗って感じがして、ほら、似合ってるよミリアちゃん!!」

エマは、アーチャーの衣装を身に纏う。

「......そういえば、役が変更になったのか」

ふと、来た通知を思い出す。

 

「ええ。夏目アンアンから。私はアーチャーよりもアーチャーのマスターの方が向いているって言われたわ」

そう言って、指を指して構える様は、本当に撃ち抜かれてしまうように様になっていた。

 

「ああ、そうだ。ナノカ」

そう言って近づいて、先程得た手記を手渡す。ナノカはただ静かに頷いて、懐に仕舞い込んだ。

 

「......にしても、劇の計画からまだ1週間しか立っていないというのに、随分と早いな。衣装の作成が」

ふと、思ったことを口に出す。

「あ、それはね......キレイちゃんが手伝ったんだって」

エマがそう口にした。

 

「......待て、今さらだがキレイの仕事について確認させてくれ。シェリーの演技指導、アンアンの原稿チェック、そしてハンナの衣装手伝いに、そしてラスボス役......オーバーワークだ、正しくない」

あっ、と口に出したのはココだった。

「━━━マジじゃん!?」

 

「......気がついてなかったのか、君たちは」

やることが見つかった。キレイを手伝うことだ。そう思って私は部屋を出ていくことにした。......最後にエマから、声をかけられた。

「ヒロちゃん......!絶対に劇、成功させようね!」

「━━━ああ」

ただ、それだけ言って私は手伝いに行った。

大変だが、充実した日になりそうだ。




【本日の処スノート】
アリサのランサーとしての参加、シェリーとキレイの奇妙な師弟関係、ノアとアンアンの二人で書き出していく重厚なストーリー。全員がまとまって行動していく劇のモチベーション。
......牢屋敷の空気感が、良くなっているのを感じる。きっと、殺人事件なんてもう起きやしないと思える。
きっと、そうだ。
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