「いやー、良い話だったわね〜」
「師匠が18禁バージョンを持って来てなければもっと良かったんですけどねー?」
「うぐっ」
「あ、あんなこと......魔力供給、レイアちゃんとヒロちゃんが......!?」
「おおお落ち着いてくださいエマ。大丈夫、きっと大丈夫ですから」
「だ、大魔女様、動揺が隠し切れてません......!?」
「ほらー、エマちゃんとユキちゃん動揺してる」
「以後気をつけます......」
━━━数日が経過した。
あれから私たちは劇の制作に一丸となって取り組んだ。その結果、書き割り、小道具、演技。全員が納得の行くようなものとなった。
そして、開演直前に、レイアが全員に語りかける。
「まず、お礼を言わせてほしい。本当にありがとう。みんなのおかげで、この日を迎えることができた」
胸元に手を当て、恭しく一礼する。皆、それに各々悪くない反応を返していた。緊張しがちなエマも、ハンナとシェリーの励ましによって、緊張をほぐす。
「わがはいからも、礼を言わせてほしい」
普段はスケッチブックでのみ会話をするアンアンが、そう声に出した。全員が、アンアンの方を向く。
「わがはいの考えた世界を描いてくれたノア、その世界に深みを与えてくれたキレイにミリア。最高だと褒め称えてくれたレイアに、これから演技をしてくれるみんな......ありがとう。わがはいは、とても嬉しい」
それは、心からの言葉だった。全員が思わず笑みを浮かべる。
「ああ。アンアンくんの描いた舞台を、こうして形にできた。後は演じるだけだ。では、始めようか!!」
全員が頷いて、中庭へと進む。
そこには、ゴクチョーと看守がいた。
「全く、皆さんが平和で何をしていると思ったら......前日に言わないで下さい。こちらも都合というものがあるのですから」
全くというようにゴクチョーが肩(?)を落としてそう言った。しかしちゃんとここに来ている。看守は、何も言わずに佇んでいるが、ナノカの方を目で追っているようにも見えた。
「申し訳ない。ただ、どうかこの公演は楽しんでいただけると思うんだ!ぜひ、ゴクチョー。見ていって欲しい!」
レイアは高らかにそういう。
「仕方ありませんねぇ......」
そうして、晴天の中、演劇は開幕した。
━━━━━
劇は、ナノカの語りによって始まった。アーチャーのマスターの幼少期の話を。優雅たれとする、父親に託された道を進む少女の語りを。
そこから、書き割りは屋敷の内装から学校へ。舞台は、魔法が秘匿されてはいるが、私たちのように牢屋敷に収監はされない世界。
......常に優雅たれと心掛けながらもドジをする少女の役を、ナノカは完璧にこなしているようにも思える。それでいてどこか張り切っている。看守が目の前にいるからだろうか。
ココの役との一悶着の終えて、私の番だ。簡単な、初接触をスパナを模した小道具を持っていき、終わらせた。
...以下色々あって、召喚。エマの番がやってきた。召喚の事故でやってきたキザで皮肉屋、現実主義者な使い魔の演技が中々様になっている。しかし、雰囲気が何かと違う。前まで苦しんでいたというのに。
「......明らかに演技が上手い。何をしたのか」
キレイが答えた。
「ああ。私が桜羽エマにアドバイスをしたんだ。怒っている二階堂ヒロの真似をすればそれっぽくなると」
瞬間、裏手にいる全員が吹き出した。確かにという呟きが聞こえた。私は唖然としてしまった。私は、あんな風に見えていたと言うのか.....!?
そうしている間にも場面は切り替わる。
二転三転とし、アリサの出番に。この劇の完成度は、アリサにかかっていた。
ナノカの命により、エマが二振りの剣を持って駆ける。青い服のアリサが長い赤の槍を持って払う。材質は木であるにもかかわらず、その殺陣で武器が交差する度に火花が飛び散る。
近接戦の演出。それがアリサがランサーの他に持っている役目の一つである。セリフの掛け合いと相まって迫力が桁違いだ。
......さて、私の出番だ。書き割りが変わる。
ノアの液体操作により、私の胸部には赤い血糊が塗られている。そこで私は、ランサーにより始末されかけた被害者だ。それを、ナノカがペンダントの力を使って助ける演技を......
「......ナノカ、落ち着け」
震えていたので、小さな声でそう言った。ナノカはただ頷き、演技をしっかりとこなしていった。
続いては、私が引き継ぐ番だ。
書き割りが、燃え盛る街へと変わる。
ある時、大きな火災に見舞われて、一人生き残った子供の話。十年前、奇跡的に助けられて、心の方が空っぽになった。それが、私が演じる主人公だった。
書き割りが、病室のベッドへと変わる。魔法使いと嘯くその青年を爺さんと呼び、やがて正義の味方の夢を継ぐことになる。そんな回想をして......舞台は、学校へと戻る。
私は目を覚まして、演技をする。
傷が痛む演技をするのは、簡単で迫真だとレイアにも褒められたな。首が実際に飛んだ私には、造作もなかった。
舞台は、停電した家に変わる。今度はアリサと私の殺陣。私は追い込まれながらも、飛ばされて蔵に転がる。書き割りが変わる。
アリサに殺される直前の私の背後から、剣戟が飛んでくる。アリサが一度退き、私に向き直るレイア。それは堂々としていて、騎士の衣装がよく似合う。いつも微笑む様子ではなく、騎士のように真面目だった」
「━━━問おう。貴女が、私のマスターか」
朝日に照らされるレイアの表情が、輝いて見えた。
......場面は切り替わる。アリサとレイアの殺陣。剣と槍、二つの争い。荒々しい槍と、澄み渡るような剣の応酬は、目を奪うものがあった。
アリサの火花、そしてノアの液体操作による演出で、レイアの胸元に血糊がついた。どちらも演技を楽しそうに行っていた。
その後は、エマの一時退場にナノカとの合流、説明をする。ここの流れは何度も確認した、問題はない。
そうして舞台は、この戦いを管轄している教会へと移る。ナノカの役とは腐れ縁。名は同じく、言峰綺礼。説明が行われる。
......初めて会った日と、同じことを言われる。それがどうにも私の心に突き刺さる。そうだ、今まで私はエマを悪としてきた。だからこそ、私は己が正しさを迷うことはなかった。だが、今はどうだ。エマのそれにはある疑いがあった。......私の正しさは、間違いの上に成り立っていたのではないかとも思ってきてしまった。
......場面は変わる。ハンナとシェリーの陣営との対峙。レイアの指導の元、控えめだが優雅なお嬢様然とした紫の衣服に身を包んだハンナと、古代ギリシャの衣装と、荒い自身以上の大剣を担いだシェリー。異様でとても威圧感がある。どちらも堂々とした佇まいだ。
ハンナは楽しそうに演技をする。お嬢様を演じることができてとても楽しそうだ。そうして、シェリーとレイアの殺陣が始まった。嵐のような剣劇と防戦一方な剣。それだけで相手の強さを引き立てるのに役立つ。
「(シェリーもレイアも凄い)」
レイアは長年の舞台に立つ影響もあるだろうが、負傷の影響と相手の剣に合わせる技。そしてシェリーはあれほど雑に振り回していると言うのにしっかりと力加減をコントロールしてレイアの剣を吹き飛ばさないようにしている。あの師弟関係の賜物だろうか。
場面は変わり、ココとミリアの出番。
ココは意地の悪く、自尊心の高いライダーのマスターだった。ミリアが控えめに後ろに佇んでいる。
私的には、どちらの気性にも適した配役だと感じた。やっていてとても気が楽そうだ。
逆に、ミリアの次の出番の侍は、立ち姿や衣装は似合っていたが......あまりセリフが合っていないように思える。
けれどもレイアがミリアをリードし、活躍を演出した。レイアは自身が目立つ行動の他にも、舞台全体を良くするやり方も心得ているようだった。
しばらくの日常描写を演じて、ライダーの陣営とセイバーの陣営の対決。ノアの魔法による魔術の演出...そして、必殺技の演出は書き割りとシェリーによる風の演出でカバー。創意工夫を凝らし、臨場感ある戦闘を披露した。その中で佇むレイアは、とても輝いて見えた。
その後は、エマのその役目としての最後の出番。その佇まいや演技は堂々としていて引き込まれるが...古い鏡を見せられているようでとても居心地が悪かった。あれが私を模したものと考えると特に。剣を無数に扱い、シェリーと対峙するエマのシーンが続き、エマの登場が終わる。
そして描かれた
劇は続く。キャスターのココとの戦闘。現れたエマが演じる第八の使い魔。日常、願いについて。アリサとレイアの決着。そして、私の演じる主人公の過去。
......演じていて、私は思う。私が【死に戻り】という魔法を持っているからこそ。全ての悲劇を無かったことにする。そんなことができる万能の願望器があれば私は、それを拒むことなど、できるのだろうか。
......展開も相まって、随分と私を刺してくる。いや、私の魔法を知らないことから、おそらくは偶然。しかし、演技中でも酷い顔をしていそうだ。
......舞台は、最終局面へと移行する。
レイアの演じる騎士と、私の演じる主人公が歩く。互いにこれが最後になると思いつつも話せない。
私とキレイ。そしてレイアとエマの対峙。
......あまりにも、キレイが堂々としている。まるで同じ人物のように動いているかのよう。当然でもあった。その登場人物はアンアンがキレイ自身を元とし、キレイがそれを掘り下げたのだから。
......そうして決着を迎え、エピローグとなる。自身の手で、愛する者との訣別を言い渡す。それは、どれほど辛いことなのだろうか。
騎士は、最後に己が伝えるべきことを伝えて去る。
「━━━貴女を、愛している」
熱の籠った演技だった。思わず、胸が高鳴るような。
最後に辿り着くのは、互いの戻るべき場所。正義の味方を志した少女は、一人増えて、一人とは関係を変えて元の日常に。しかしてあの時あった思い出を胸に秘めて、
たった一人の騎士に看取られた騎士王は、最期に今まで得られなかった安らぎを得て、眠りについた。
そうして、劇は終わりを迎えた。
最後には全員が集まり、たった二人の観客。ゴクチョーと看守に向けて礼をした。
「ご清聴、ありがとう!楽しんで貰えただろうか!!」
ゴクチョーは、ただ淡々と告げた。
「......いやはや、驚きました。こうして一つのことに息を合わせる囚人など、この牢屋敷で初めての出来事です」
隣の看守は、何も言わない。ただ、何も感じていないことはないことを肌で感じ取っていた。
━━━━━
その後は全員解散となり、昼の自由時間や夜の自由時間では大成功を祝したパーティーが繰り広げられた。
全員が笑顔で、悲壮感のない。こんなことは初めてだった。私も、ここで心からの笑顔を浮かべられたのはいつぶりだろうか。
......もう、心配はない。
━━━あの出来事が、起きるまでは。私は本当に、そう心から思っていたんだ。
【本日の処スノート】
全員が、一丸となっての劇は大成功を迎えて、全員がキレイの作ったご馳走と約数名が麻婆に挑んで撃沈するなど、色々あり、全員が楽しそうだ。これで、全員の仲が深まった。
もう、殺人事件など起きない。
私でも、そう言えるような━━━