愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

63 / 96
【タイガー劇場】
「......面白かった、です......!皆さん、とても楽しそうで......!」
「うん......!アンアンちゃん、凄いや......!」
「二人とも、とても楽しそうですね」
「にしてもエマちゃんの演技凄かったね〜。怒ってるヒロちゃんの真似......あははははっ!!」
「そこの弟子1号笑わない!......くっくっくっ......赤いアーチャーくんが怒ってるヒロちゃんに似て......ふふっ......!!」


23日目:-崩壊-

━━━雨の音。力一杯、手すりが蹴られる音。それが、何を意味するのかが理解できない。何も考えられずに、立ち上がることすらままならない。降り注ぐ水音が、私の心の中をかき乱す雑音のようにただ響く。

やがて、破壊された音と、近づく足音。落ちていたナイフを拾い、エマが私に向かって近づいてくる。

 

ここは、ノアのアトリエだ。争った痕跡があって、エマはそれを潰すかのように片付けはじめた。エマの頬が濡れている。雨に打たれたのか、泣いているのか、両方か。

やがて、赤いペンキをぶち撒けて、それを急いで布で拭き取っている。私は、どこか他人事のように、それを見ていた。現実では、ないように。

 

「(何を、必死に。誰の、ために━━━)」

涙でぐしゃぐしゃになりながら、それでもエマは必死に立ち回っている。エマの漏らすような声が、すっと心に届き......現実を知らしめた。

「生きてよ、ヒロちゃん......!お願いだから、生きて......!!」

私はそこで、理想から覚め、現実を直視した。

 

殺人事件が、起きた。私が、殺してしまった。

━━━夏目アンアンを。

 

━━━━━

 

死体発見のアナウンス。ラウンジに集った少女たちは、誰も口を開かない。エマは唇を噛み、何かを堪えて。道中で合流し、死体を発見したレイアは、打ちひしがれた様子で頭を抱え込む。

未だ、私は現実感を取り戻せず━━━口の中が渇き、足元がぐらついていた。やがて、ゴクチョーが姿を現した。

 

「やれやれ......起きちゃいましたね、殺人事件。

しばらくは平和だったのに......ああして仲を深めたところで、やっぱり、抗えないんですかねえ。では、2回目の事前投票をしていただきましょうか」

残念そうに言ったゴクチョーが言ったタイミングで、私は言葉を漏らしてしまう。それは、無意識だった。

 

「私が殺した......」

その告白に、ラウンジの空気が一変した。誰の目も見ることができなかった。私はただ項垂れ、投票結果を待つ。

当然、結果は私となり━━━

 

━━━━━

 

私は、懲罰房で拘束されることになった。目の前の景色は霞んでぼやけている。全てが遠くに感じられる。そこでふと、可能性に思い当たる。

「(あの時、エマは......工作していたのか。ただ、それでも私は......黙っていられなかった)」

体中の力が根こそぎ奪われた感覚だ。

 

結果的にアンアンを突き飛ばし、落下させたのは、間違いなく私で。そうしてアンアンは死んでしまった。

息をするたびに痛みが増すようだった。どこにも光が見えず、私はただ力なく拘束されている。

━━━二人ほど、私のところへ現れた。

 

「━━━少し、良いかしら」

黒部ナノカ。私が拘束されてすぐにやってきた。とても申し訳なさ気な様子で、こちらを見ている。

「......何しに来た」

ただ、淡々とナノカは語る。

 

「......ごめんなさい。私が【幻視】を今使えていれば......あなたの無実も、証明することができるというのに」

その言葉を私は、笑ってしまう。

「......例え君が、魔法を使うことができたとしても。この事件の犯人は、私であることには変わりない」

 

その言葉にナノカは目を見開く。......ナノカに、一つ聞いておきたいことがあった。

「━━━君も、こういった気持ちだったのか?キレイを殺したと思い、自ら裁かれる時を待つような、この感覚は」

 

「......そうね。私は、処刑台に立つつもりだったわ。あなたのいうように、裁きが下される時を待っていた」

目を逸らして、ナノカは言った。

「......私は、もう行くわ」

ナノカは後ろを振り返り、入り口に。

 

再度、私の方を見据えて言う。

「......二階堂ヒロ。私は、あなたが犯人ではないと考えているの。あなたが、あなたを犯人だと決めつけていても」

「━━━何の、根拠があって!!」

それにナノカは、こう言った。

「......勘よ」

 

それだけ言って、立ち去る。次に現れたのは、キレイだった。それはナノカが去ってしばらく立った後、裁判が始まる直前だった。

とても愉しそうな笑みを浮かべて、こちらにくる。

「......どうした。正しさを求める私が殺人を犯したことを笑いに来たのか?とても楽しそうな顔をしているが」

キレイは首を横に振る。

 

「それもあるが、私は君に忠告をしに来た」

「......忠告?」

「今回の事件。君にとっては非常に厳しい展開となるだろう。君自身が犯行を認めていると言う事実があるのだからね」

「......そうだ、私が......アンアンを」

 

ぽつりと呟く私に、キレイは言った。

「その絶望は非常に芳醇だ。だが、君が諦めていても、諦めていない者がいる。私はそれを伝えに来た」

「......ナノカ、か?」

「......他にも、いるだろう?」

 

私は、言葉を紡ぐ。そこにキレイは、続ける。

「君が事件の真相を知った時、どう顔にするか......私は、それが非常に楽しみで仕方がない」

...その時だった。

鐘の音が鳴る。それは、私を裁く裁判所が開く合図。看守が現れ、私を連れて連行する。そこにキレイも歩いてついて行くが......。

 

口元を抑え、キレイは体勢を崩して膝をついた。

「キレイ!?」

思わず声をかけたが、キレイは手を振る。

「心配は要らない。少しばかり体調を崩していてね」

 

......こうして、私とキレイが最後に、少女たちが裁判所に集められる。こうして、私を裁く魔女裁判が、開廷した。

 

━━━━━

(キレイ視点)

 

場面は、遡る。

夏目アンアンの殺害現場を、キレイが捜査していた時のこと。ナノカがキレイの元へと訪れた。

「言峰キレイ。少し良いかしら」

「おや、ナノカ君。何かね?」

 

凶器について観察していたキレイがアンアンの死体を置き、ナノカの方に振り返る。

「頼みたいことがあるの」

「言ってみたまえ」

 

「......二階堂ヒロを、私は助けたい。力になって欲しいの。あなたなら、それができると思って」

キレイは肩を落として、向き直る。

「ふむ。では答えよう黒部ナノカ。私は誰の味方でもない、死者の無念を果たすべく、こうして尽力している」

 

ナノカは俯き、目を瞑る。

「だが、君の手伝いくらいはしても良いと考えている。それで見える新たな真実があるかもしれないからね」

ナノカは目を見開き、礼を言った。

「......ありがとう。言峰キレイ」

 

「あくまで付き合うのは現場検証のみだ。後は君自身でどうにかしたまえ。では君はそこで待機。私はある協力者を連れてくるから、そこの木の影に立っていてくれると助かる」

ナノカが頷いたので、キレイは恐らくは目的の人物がいるであろうミリアの元に行くことにした。

 

━━━━━

 

「あ、キレイちゃん......」

ミリアが娯楽室のソファーに座り、目的の人物が膝で項垂れていたのを見つけたので声をかける。

「ミリア君に......ココ君。すまないが、ココ君の力を借りたい。少々付いてきてはくれるだろうか」

 

ミリアは狼狽えつつもキレイに返す。

「ココちゃんの力を借りたい?でも今ココちゃんこんな状態だし、えーっと難しいんじゃないかな?」

するとココはむくっと起き上がり、言った。

「良いけどさ、あてぃしに無理はさせんなよ?」

 

ミリアは、そのココの様子に驚く。

「ココちゃん!?あんなに落ち込んでたのにもう大丈夫なの!?」

「おっさんうっさい。大丈夫じゃないけどさー......わざわざあてぃしに向けてキレイっちが力借りたいってんだから、頑張るだけだよ」

 

その様子を見て、キレイは言った。

「ココ君の心配どうもありがとう、ミリア君。では行こうか沢渡ココ。目的地はノアのアトリエだ」

「き、気をつけてね!」

「はいはい」

そう言って、ココたちはアトリエに向かって行った。

 

━━━━━

 

道中、ココが話してくる。

「そういやキレイっち。外にずっといたらしいのに濡れてないの変じゃね?なんで?」

「おや、濡れていないのがおかしいのかね?」

「いやさ、あてぃしおっさんと娯楽室にいたんだよ。そこですっごい雨の音がしたからさ、濡れてないのおかしいなって」

 

キレイはその証言から思考する。娯楽室から聞こえる雨の音。しかしその時キレイはずっと外で畑の整備をして、それは洗濯物を畳みにきたハンナやぐるぐると回っていたアリサも雨に濡れた様子はない。

「(......なるほど)」

事件現場の様子から、大体のことを推測した。

 

「雨などなかったがね。取り戻せず君にはやって欲しいことがあるんだ。君の【千里眼】の力がね」

そう言って、ココと共にノアのアトリエにやってきた。ココをベランダに立たせる。

「キレイっち。あてぃしにここに立たせることの何が......ん?あれ、ナノカが下であてぃしのこと見てる?」

 

早速【千里眼】を活用し、ナノカがこちらを見ていることを悟りベランダからどこにいるかを探るが、見えない。

取り敢えずナノカに電話をかけてスピーカー状態にして通話をすることにした。

「黒部ナノカ。彼女が今回君の現場検証に付き合ってくれる協力者だ。そちらからはどう見える?」

 

ナノカが返答する。

「ええ。こちらの木の影からはベランダにいる沢渡ココがはっきりと見えているわ。逆に沢渡ココから私は視認できていないわね」

「......あてぃし呼んだ理由これ!?」

ココが思わずツッコミを入れた。キレイが呼んだ理由はただ一つ、千里眼により現場の死角を探し出すために使うためだ。

 

「ひとまずは、と言ったところかな。では続いての現場検証と行こうか。レイア君や私のスマホで現場の状況は保存できているため好き勝手ができる」

そういうとキレイはアトリエに飾られている胸像を手に持つと、ゆっくりとベランダに向かった。

 

「キレイっちそれ何しようとしてんの?」

「言峰キレイ?何を━━━」

投げた。それは重量に従い落下して、アリサが作っていたハンモックの残骸の元に届く。距離が近くはあるが、アンアンの死体とは離れた場所に落ちていた。

 

「何やってんの!?本当に何やってんの!?」

ココはキレイの一つの奇行に思わず叫んだが、ナノカは冷静に考えて答えを出した。

「なるほど、実際に物を落として落下位置を確かめたってことかしら。確かに現場を見た所、落下の事故と推測できる。けれどもちゃんと投げて落とした胸像は、夏目アンアンの死体とは少し離れた場所に落ちた」

 

そうしてキレイは言った。

「つまりは、だ。この事件において、夏目アンアンの死体を動かした何者かがいる可能性が存在する。君への助けはこれくらいで良いかな?」

ナノカは電話越しで返事をする。

「ええ、ありがとう言峰キレイ。これで二階堂ヒロを助けることができるかもしれない」

 

しばらく話についていけなかったココが言った。

「......キレイっち、あてぃしいる意味ある?これ」

「無論あるとも、ナノカ君。ココ君を見ていてくれ。ではココ君。君の【千里眼】は物事を俯瞰して見ることができるんだったね。ナノカ君の控えた位置から俯瞰して見てみてほしい」

 

ココが面倒そうに従う。

「えーっと、あてぃしの所からは見えなくて、でもナノカの方から見えるのは言ったじゃん?でも全体的に見通しは良いから、中庭を全体的によく観察できる場所...かも?これで良い?」

「ああ、十分だ。感謝する」

「沢渡ココ。協力感謝するわ」

 

そう言ってナノカの通話が切れた。ココは魔法を解き、ベランダから夏目アンアンの死体を見る。

「にしても、ヒッキーは災難だよな〜。殺す側じゃなくて、今回は殺される側もやってんだから」

「......それは、君の見た世界軸の話かな?」

 

あの事件以来、小分けにだがココから語られたある世界軸の話。夏目アンアンが殺人を犯していた世界もあったとのことだ。

「そ。脱出するのが嫌だったって話。わざわざおっさんに手を汚させてさ。今回でちょっと見直したけど、殺されちゃ仕方ないよなー」

 

そういうココはつまらなそうに言った。

そうやって諸々の捜査を終えたキレイは、最後に絶望の淵に立っているであろうヒロの様子を見に行くことにした。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。