愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

68 / 96
【タイガー劇場】
「ぐすっ......ノアちゃん......」
「で、でもなんでなんでしょうか......?あの処刑台は、水審......普通の水のはずなんです......」
「......恐らくは、【液体操作】の魔法ですね」
「あー、人って大体が水分だから?それでふやけた所から溶けていっちゃったんだ。なるほどねー」
「弟子一号。趣味の悪さが顔に出てるわよ」


24日目:まじかる腕相撲/25日目:-手を取る-

「くらーい!!みなさん、暗いですよー!!」

その日の朝食後、私たちはシェリーの呼びかけで娯楽室に集まっていた。私含めた、総勢10人。この牢屋敷に囚われた少女が悲劇に見舞われ、いなくなってしまった。

 

「明るく振舞える状況だとでも?正直、規則を守って生活するだけでいっぱいいっぱいですわ。もう何も考えたくないですわ......。わたくし、とても疲れましたの」

ハンナの悲痛な呟きは、私たちの気持ちをよく代弁している。集合をかけられて惰性のように来たものの、皆一様に纏う空気も重たい。

 

「ここに呼んだ意図を聞かせてくれないか。シェリーくん」

あんなに饒舌だったレイアすら、目の下に隈ができ、輝きが失われているように見える。劇の大成功からの、ノアの殺人事件は、酷い温度差だったからだろう。とても、気分が優れているように見えない。

 

牢屋敷をナノカと何度も調査をしてきたが、私たちにとって何も有効な手だてが得られていない。私を含め、限界が近い。

特に顕著なのがエマで、最近はほとんど笑わなくなってしまった。ココが何度も心配そうに話しかけても、上の空だ。

 

エマのことから、私は目を逸らし続けている。ああ、彼女と向き合うべきだとは分かっていても、私はその勇気が持てない。

重苦しい空気を吹き飛ばすかのように、シェリーがぱちんと両手を合わせた。

「今日はみなさんと遊ぼうと思いまして!」

 

その言葉に、思わず全員が唖然とする。ストレスで魔女化が進むなら、楽しく過ごそうとシェリーは言った。そうして色々あるうちに、シェリー考案の【まじかる腕相撲】が開始された。最後までココとナノカが抵抗をしていたものの、押し切られる形となった。

 

しかし━━━

「くそぉっ......っ、強すぎる......っ」

「ゴリラー!?」

「あだだだだ!」

「あうっ、痛い!」

「勝てるわけねーじゃん!!」

「右腕が......!!」

エマとキレイ。2人を残して、全員漏れなく敗退。

 

「勝者、橘シェリー!(いや勝てんだろこれ)」

【怪力】の魔法を持っているシェリーに勝てる者など到底いるはずもなく、次がキレイの出番となった。

「では、よろしく頼むよ」

「はい!手合わせでは負けていますが、この勝負においてシェリーちゃんは完全王者!負けませんよ!!」

 

そうして、始まったが。

「粘りますねー!燃えてきました!」

「力の差は互角と言った所。後はどちらの集中力が持つかにかかっている。そして、私は今不調でね。だがいい条件ハンデだ。さあ、覚悟を決めろ。橘シェリー」

シェリーとキレイの力は拮抗していた。

 

「(いや嘘だろ)」

【怪力】の魔法を持っているシェリーに対してキレイが拮抗している様子に対して、思わず違和感を覚えてしまったが、そういうものと受け入れるべきだろうか。皆は何も違和感が無いらしい。

その拮抗した勝負は、呆気なく終わる。

 

キレイが思わず口元を押さえて、集中力を切らしたことで均衡が崩れて、シェリーが勝利することになった。

「勝者、橘シェリー!」

「危ない所でした〜!てかみなさん、弱すぎません??ああ、シェリーちゃんの魔法が最強すぎましたか!あっはっは、いやこれは参りました!」

 

そうして最後はエマのみが残った。シェリーが完全に舐め切っているが、完全なる事実だ。

やはり、エマの様子がおかしい。状況も把握できていない様子で、ぼんやりとしていた。

 

「絶対、絶対勝ってくださいまし、エマさん!」

「が、頑張るよ......!」

「エマさんが勝てるようにおまじないですわ」

そう言って、ハンナはそっとエマの手を自身の手で包み込む。何やら仕込んだ風に見えた。

 

「......2人とも準備はいいか?」

「いつでもどうぞ!」

「うん、大丈夫......!よし、勝つぞ!」

私が開始の合図をかけると、テーブルの中心で2人が手を組み合う。その直後━━━。

 

「あ、UFO!」

レイアが声を上げたことで、全員が強制的に明後日の方向に視線を向けてしまった。目を話した一瞬の隙に......。

━━━ひっくり返ったのは、シェリーの方だった。

「......はれ?」

 

「やったやった!やりましたわねエマさん!」

「あ、う、うん。UFOに気を取られて力が緩んだ隙に、シェリーちゃんをひっくり返せた、みたい......?」

魔法も使いようによっては、思わぬ作用が期待できるらしい。

 

「まあまあ勝ったからいいじゃないか!シェリーくん、もはや君は王者ではない!その玉座から降りたまえ!」

「ぐぬぬぬ......納得いきません!もう1回やりましょう、もう1回!」

「潔く負けを認めろ。この勝負はエマの勝ちだ」

私が言い放つと、エマと自然に目が合った。

 

煽り倒してくるシェリーに勝って、正直私も胸がすっとしていた。エマを讃えるような笑みを浮かべてしまいそうになっていた。

まるで昔の、無邪気に笑い合っていたあの頃の私たちに戻ったかのようで━━━。

ハッとし、手元に口を当てて即座に堪える。

 

「楽しませてもらったよ。私はこれで失礼する」

私は何を考えていたんだ。みんなに背中を向け、急いで部屋を出た。楽しかったなど、思うだけで罪深い━━━。

軋むように胸が痛み、扉の前で、ぐっと拳を握る。伸びた爪が、手のひらに食い込んだ。爪は今朝切ったばかりのはずなのに。

 

ああ。分かっている。私の【魔女化】は止まっていない。そして......タイムリミットが、迫っている。

 

━━━━━

 

翌日も、静かに穏やかに時間が過ぎていた。

自由時間になんとなくぶらぶらしていると、レイアが前から歩いてきた。

「やあ、ヒロくん」

昨日よりレイアはずいぶん顔色が良くなっている。あんなちょっとした余興でも、気分転換になったのだろう。

 

「最近のヒロくん、覇気がないよね。まあ無理もないが......しかし私は、何かあった時に頼りになるのは、ヒロくんだと思っているよ。共に切磋琢磨してきた仲間同士だしね」

共に切磋琢磨した覚えがない。

 

「ここはひとつ、一緒にゴクチョーを探さないかい?」

レイアは、もう一度魔女裁判をやめる説得がしたいという。みんなが精神的に追い詰められるのは、魔女裁判という不安があるからで、それを取り除けば、みんなの心を少しは守れるのではと言った。

 

「言い分は理解できるが......」

何度もゴクチョーに直談判はしている。けど、あのフクロウは聞く耳をもたない。無駄なあがきな気もする。かと言って、私自身が何をすればいいのか暗中模索だった。

エマに向けた憎悪や殺意は霧散して、困惑と迷いに変わった。他の少女たちへの接し方もわからず、この牢屋敷での立ち回りさえも。

 

全てが迷いの霧の中を彷徨うばかりで、出口は見えない。こんな弱気な自分は、私らしくない。そう思っても、【私らしさ】すら分からない。

 

「ヒロくん、どうか私と一緒に来てほしい」

何かスイッチが入ったのか、唐突にレイアは片膝をつき、恭しく手を差し出してくる。その熱の籠った瞳は、劇の最後のあのセリフのようで、そのポーズは、さながら姫に求愛する王子のようだった。

 

私は━━━

>手を取る。

・手を取らない。

 

たまにはレイアにのってやるのもいいだろう。軽い気持ちで、彼女の手を取った。

レイアが驚いたように顔を上げる。自分からポーズを取っておきながら、私が無視すると思っていたに違いない。

「ヒロくん......?」

 

こちらの真意を測ろうとするように、レイアが私の目を覗き込む。

「......どうした?ゴクチョーを探しに行くのでは?」

「そうだね......行こう」

 

しばらく呆けてから、レイアはどこか嬉しそうに微笑する。彼女の手を取ったのは、単なる気まぐれ。だが、差し出された手を取った時。顔を上げたレイアと目が合った瞬間。私は不思議な感覚に襲われていた。

これまで欠けていたピースを見つけたような、ようやく歯車が噛み合ったような。何か、レイアとの繋がりが生まれた気がした。

 

自由時間が終わるまえにゴクチョーを見つけようと、牢屋敷の中から探してみようと。私は、レイアと肩を並べて歩き出した。

 

━━━━━

 

ノアのアトリエにて、エマのためにハンナが人形を作っていた。エマのラスボス用の衣装の金の刺繍が至る所に散りばめられた衣装を褒めて、ハンナが照れたり、ミリアが作ったレイアの王冠なども知った。

 

不穏な様子のエマが、花畑でぼんやりとしているのをココが一緒にいて宥めていたり。

 

湖でゴクチョーを見つけたがずぶ濡れになって追いつけず、結局ミリアと共に遊んだり。

 

やけに暑くなっているエレベーターから降りて、シェリーと一緒に氷サッカーにで付き合ったり。

 

塀を登ろうとしているアリサの話を聞いて、その苦しみと、そして改めて、私たちは誰も殺し合いなど本来望んでいないことを再確認した。

 

そうして私達は、キレイとナノカに出会う。

「やあ、二人とも。その組み合わせは珍しいね」

確かに、あの事件以降、キレイとナノカが二人になっている様子はなく、珍しいと私も感じた。

 

「私は、言峰キレイに協力しているの」

そう言いながらも、木や布などを手に持っている。

「まさか、また何か作るつもりか?」

サッカーや祭壇、劇の小道具などを思い浮かべる

それにキレイは頷いた。

 

「ああ。日数はかなりかかるがね。一ヶ月が経つ後になるかな。少人数での制作はずいぶんと骨が折れる」

「でも、必要だと感じたから、私はそれに手伝っている」

ナノカの決意は固く、それが希望になると信じているらしい。

 

「(強いな、ナノカは。道を既に見つけている。私は、隣の灯火でようやく歩き出せたというのに)」

レイアの手を思わず握る。レイアはただ何も言わずに、自然と私の手を握り返してくれた。

 

「そうだ、私も手伝うことはあるかな?」

レイアがそう声に出したが、二人とも首を横に振る。

「申し出は嬉しいが、大人数で計画に乗り出して失敗に陥った前例があるそうでね。君たちに手を借りず、やってみるよ」

「大丈夫、悪い結果にはならないと思うの」

 

どうやら決意は硬いようで、私とレイアは、踵を返してゴクチョーをまた探しに出た。去り際に、キレイに声をかけられた。

「君のその一歩は、破滅の道に過ぎない」

それは、私に対してだろうか。キレイは続けた。

 

「だが、その考えに異存はない。二階堂ヒロ。その灯火のみを支えとして得た答えは、果たしてどうなるのか。その結末を嗤うことを、楽しみにしているよ。......ああ、そうそう」

よく分からないことを言った。何か先を見据えていたのか。私が何か悩んでいたことも、レイアを今最大の支えにしていることも。

 

キレイは最後に、こう付け加えた。

「━━━君も、最大の理解者を見つけたらしい。お幸せに。君たちの門出を祝福しよう」

......門出。どこかしっくり来る言葉だと思った。

どこかパズルのピースを見つけたように、私とレイアは見つめ合って、笑ってゴクチョーをまた探しに行った。

 

━━━━━

 

結局、私とレイアはゴクチョーを見つけることはできなかったが、また明日探そうという約束を取り付けて、わかれた。そうして私とレイアは檻房へと戻る。

 

いつものように日記を付けても、思考がクリアになるどころか、むしろ焦る気持ちが強くなる。しかし、どこか暖かかった。一度万年筆を置いて、深呼吸をする。

それからベッドに横になっているエマの方を見た。

 

「う......うぅ......ん」

息が荒く、どうやら悪夢にうなされているようだ。かなり辛そうな呻き声に聞こえたので、私はエマの傍に行き、彼女を揺り起こす。

 

「エマ、大丈夫か、起きた方が......」

言葉の途中でエマの肩に手を置き、ハっとした。かなりの熱だ。私はすぐにエマを医務室へと運び込み、皆に連絡を入れた。

少女たちは医務室へと飛んできた。

 

シェリー、ハンナ、ココ、ミリア、アリサ、レイア、キレイにナノカ。

エマのベッドを囲む少女たちを遠巻きに見て改めて感じる。エマは、皆に慕われているのだと。

そうしてエマの看病を甲斐甲斐しく行い......就寝時間となった。最初は、私が残って看病をすると言ったが。

 

「ここは私に任せてもらおう。病人の介護は慣れていてね、君たちはゆっくり休んで、またエマ君に顔を見せに来るといい」

そう言われた。正直な所、助かった。私は魔女化が進行していて、エマと二人きりではどうするかが分からなかった。

 

皆が退室していく中で、ハンナが手渡したのは変わった、エマを模した人形。今日の自由時間に作っていたもので、辛そうではあるものの、嬉しそうにハンナから人形を受け取った。そうしてハンナが名残惜しそうに最後に、退室していった。

 

きっと、キレイなら心配はないだろう。普段は油断も隙もないが、ああしたことに対してはきっと真摯に取り組む。少なくとも、そう感じていた。

 

......久しぶりの一人の睡眠時間。望んでいたはずなのに、心がとても蝕まれる。脳裏に浮かぶのは、友のある声。エマの心配。

......それらを忘れるように、眠りについた。




【数日分の処スノート】
後日、エマの体調はすこぶる良くなり、むしろ今までよりぐいぐい来ることになった。なんだったらハンナから貰った人形を嬉しそうに抱え込み、ハンナに礼を言っていたのが記憶に新しい。
ゴクチョーの説得は失敗に終わった。いくら魔女裁判をやめろと訴えても、あのフクロウはまるで聞く耳を持たない。
レイアは少し気を落としていたが、私に感謝していた。私がいるから、私の強さがレイアの支えになっているのだとか。
正直、歯の浮くようなセリフには呆れる。
だが、恥ずかしくて、とても口にする気にはなれないが。
彼女がいてくれて、良かったと感じている。


......魔女化が、進行している。残された時間は少ない。大魔女の手がかりは未だ見つからない。ゴクチョーを説得することもできない。
......私は、ある答えを導き出した。
何が、彼女たちにとっての【救い】なのかを。レイアに、打ち明けてみよう。かなりの確率で否定されるが......隣に、レイアがいてくれれば━━━。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。