「あーいけません。ヒロちゃんこれまでのストレスの重ね合わせとナノカちゃんと自分を比べて結構病んじゃってるわねこれ」
「押忍。なんとかレイアちゃんと肩を並べることでどうにか保ってるけど振り切っちゃうかもねー」
「......あの体調不良って、ユキちゃんの仕業だったの?」
「......はい。弁解の余地もなく、私の仕業です」
「え、エマさん......あんまり大魔女様を困らせるのは......!」
キレイの礼拝のある時間。私はレイアを呼んだ。
「お待たせ、ヒロくん」
「呼び出してすまない。君に話したいことがある。実は━━」
━━━レイアは私の答えを受け入れてくれた。
それからすぐ、私たちは行動を起こした。
「今の時間帯なら、殆どがキレイの礼拝に行っている筈だ。そして孤立しているのは......」
「......シェリーくんと、ハンナくん。そしてナノカくんの3人か。誰から、狙っていこうか」
大魔女の呪いから解放する。その目的の為に話し合う。誰から殺すべきか、どうやって、全員をバレずに殺すか。
レイアが、言った。
「シェリーくんはどうだろうか?最近、森の中で一人鍛錬をしているらしくてね、銃を持っているナノカくんより、狙いやすい」
ナノカも、エマも対象になる。そのことには、心が痛んだが......私たちが救われるには、これしかない。既に覚悟は決まっている。もう手掛かりすら、残っていないのだから。
「そうだね、では森で二人同時の奇襲。死体は━━━」
シェリーは【怪力】の魔法を持っている。しかしあくまで人としての力が強くなる程度だ。普通に、人のように殺せる。
私たちは二人、計画を実行した。
━━━━━
私たちはそれぞれ武器を持ち、シェリーのいるであろう森に入る。少しばかり開けた森にて、シェリーはいた。
今までの明るい少女とは違い、真剣に何かを極めようと努力しているようで、ポーズを取り、集中しているように見えた。
私はレイアを見て、挟み撃ちの形で奇襲した。
「(━━━取った!!)」
私たちは確信した、レイアはレイピアでシェリーの心臓を、私は火かき棒で頭を狙う。回避しようにもできない、完璧に奇襲が決まった筈だった。
シェリーはそれに対してこちらを見ずに、足を上げ......思いっきり踏み込んだ。怪力と技の組み合わせにより得た衝撃波によって私たちは吹き飛ばされ、体勢を崩した。
シェリーは私たちを見やる。
「ああ、ヒロさんにレイアさん!!そんなものを持って振りかぶって来ないで下さい!もしかして殺される〜!とか思っちゃったじゃないですか〜」
いつものような笑みにいつものような声。しかしてその瞳は決してこちらを逃さないように睨んでいた。
私はレイアを見る。レイアはそれに頷く。それだけで互いに通じ合っていた。ここでシェリーを殺さなければ、計画は失敗する。
こうして、私とレイア、シェリーの戦いが幕を開けた。それはあの劇のように、バーサーカーに挑むような心持ちだった。
━━━互いに距離を見計らう。レイアと私は自然と隣り合って、シェリーの様子を見た。その次の瞬間。
「てやー!!」
気の抜けた掛け声とは裏腹に、シェリーは1歩で6mの距離を詰めて、私の懐に潜り込んだ。そのままシェリーは拳を私の鳩尾に向けて振るう。
「ヒロくんっ!!」
━━━それをレイアが片腕で受け止める。あまりの衝撃にかレイアの顔が痛みにより歪む。
「レイアっ!!」
「っ......!はぁっ!!」
しかし、片手に持ったレイピアは決して離さずに、近付いてきたシェリーに対してレイピアを突き出した。
「とおっ!!」
それに対してシェリーは相手の袖を掴んでからその突き出す勢いを利用して背負い投げ、地面に叩きつけた。
そのまま流れるように、レイアの鳩尾に対して拳を振り下ろした。
「かはっ......!」
レイアは胃の空気を吐き出すようにして、気絶した。
「━━━っ!!」
私はその隙に駆けて、シェリーの頭に対して火かき棒を振るう。この隙になら当たると、確信もあったが。
気がつけば私は、地に倒れ伏していた。気を失う寸前に、耳にした声はただ一つ。
「━━━良かった。私の力で、誰かを守れるんですね」
酷く安心したような、シェリーの声だった。
━━━━━
目が覚めた時には、私たちは二人並んで懲罰房に磔にされていた。事情を知らない少女たちが次々にやってきて。
「ヒロちゃん!レイアちゃん!何したの!?」
「そこの二人がやらかすとは思いませんでしたわ!?」
「二階堂ヒロ......あなたは何をしようとして......」
等という困惑した声が印象に残る。シェリーからは何も事実を伝えなかったらしい。それが良いのか悪いのか。
拘束されている二日目、私はレイアと話すことにした。
「......すまなかった。君をこんなことに付き合わせたりなんかして。私のせいで、こんなことに」
それにレイアは首を振ったように思う。
「いいんだ。キミの考えを正しいと思って、それに付き合ったのは私だ。提案された時には驚いたけれど、今この状況に悔いはないよ」
自嘲めいたように笑い、それから罪を告白するように言った。
「エマくんに、殺意を抱いていたんだ。始まりは嫉妬心だったけどね。キミはいつだって、エマくんを気にかけていた。あのままだったら、私はどのみち彼女を殺していたと思う」
一息おいて、真剣に言った。
「私はね、ヒロくんに、私だけを見てほしかったんだよ。だから嬉しくもあったんだ。キミが、私に話してくれて。私を、共犯に選んでくれて。本当に、ありがとう」
胸の内を語るように、隣に捕まっている私に対して、レイアはそう言った。思わず、胸の中が熱くなる。私もそれに、言葉を返した。
「いいや、私なんだ。お礼を言うべきなのは......私は、君がもし隣に居てくれれば、どれほど頼もしいかと思ったんだ。断られると、思っていたけれど、共に歩みたいと、思っていた。
━━━ありがとう、レイアがいてくれて良かった」
恥ずかしくて、口にできなかった言葉が溢れる。
......この冷たく、水が滴り落ちる懲罰房において、私たちはどこか生暖かく、そして満ち足りたようだった。
あの手を取った時に、私はようやく歯車が噛み合ったような、不思議な感覚がした。その歯車が今、円滑に回っている感覚がする。
......レイアも、そう思ってくれているだろうか。
「......次は、もっと上手くやろう。彼女たちを救う為に、キミが選んだその選択を。私は、もっと上手く支えよう」
「━━━ありがとう。これからも、よろしく」
私は、いや。私たちは、互いの半身となる存在との繋がりが、今や強固になっていくのを感じる。シェリーは手強いが、きっと次は上手くいく。そう思った。
「━━━いい雰囲気の所すまないが、良いかね?」
......聞かれていた。
「えっいやあのその。そう!私たちも脱出の手段を探していてね!それで捕まったからそれで次は上手くやろうと言ったんだ!」
咄嗟にしては上手い嘘だったが、私は理解していた。なのでキレイに対して聞くことにした。
「......いつから聞いていた?」
「そうだね、ヒロ君がレイア君に謝り始めた所からかな。後、詳細はシェリー君から聞いている。このような結果に終わってしまい残念と思うべきか、それとも弟子の成長を喜ぶべきか。複雑な所だ」
最悪だ、全部知っている。
「......くっ、どうするつもりだ!」
キレイに対してそう言った。
「何、君たちのその在り方を嗤いにきたのだが......まあ、私はここは邪魔者だろうし、ここで去ることにするよ。お幸せに」
そう言って、踵を返す音がした後に止まった。
「ああ、そういえば.....二階堂ヒロ。私のあの仮説は真実だった。桜羽エマのそうだった。所で君は、ユキという人物を知っているかな?彼女が魘されている時に、その名前を呼んでいたのだが」
それだけ言って、キレイは立ち去って行った。
エマの記憶障害は事実だった。彼女を魔女と思っていた理由は何故か。彼女を禍をもたらす魔女と言ったのは、誰だったのか。何故、彼女は夢で、友人の名前を呼びながら魘されていたのか。
「(私はずっと、思い違いをしていたのかもしれない。私たちの本当の、敵は......)」
手掛かりも何も見つけられずに、私は死こそが救済だと考えていた。だが違った。手掛かりはすぐそこにあった。私は、目を逸らし続けていた。震えが、止まらない。
「ヒロくん.......?」
隣で声をかけられて、ハッとする。そうだ、一人じゃない。私には、隣で支え合ってくれる彼女がいる。
「━━━レイア。付き合ってほしい。明日解放された時に、何も言わずに」
レイアは、いつものように答えた。
「もちろん。私はキミの、唯一の共犯だからね」
その言葉が、今はとても嬉しかった。
【本日の処スノート】
結局、私とレイアの企みはシェリー一人によって止められてしまった。だが、それで良かったのかもしれない。レイアに話をしたのも、どこかで止めて欲しかったのかもしれない。
だが、お陰で私は立ち直れた。そんな困難があろうとも、レイアが隣にいてくれるだけで、私は魔女になり得ない。
......そして、キレイによって、私は大きな勘違いをしていたことを自覚した。明日は、そのことをレイアと一緒に確認しに行く。