(はわわ......と顔を赤くしている二人)
「二人とも、顔が赤いですね」
「「そういうユキちゃん(大魔女様)こそ!」」
「いやー良いわね!若者同士のああいうアレって!」
「押忍!これこそがアオハルであります!」
解放された日、私はレイアと並んでゲストハウスの方へと赴いていた。朝の自由時間のうちに倉庫へ行き、ピッケルや防寒対策のアイテム、非常食をバッグに詰めて万全の準備をしてきた。
レイアが隣にいる、それだけでも心強い。他の少女達には顔を合わせないようにした。それしかなかったと考えていたとはいえ、彼女たちを、私は殺そうとしたのだから。
「━━━二階堂ヒロ、蓮見レイア」
その呼びかけに二人で振り返れば、ナノカにシェリー、ハンナ、ミリアまでがこちらに向かって、全員バッグを持って走ってきた。
「君たち......何か用か?」
朝食中に不審な行動を取った私を気にした全員が、私の助けになろうと来たらしい。シェリーは、命を狙った私にも仲間と言った。その言葉に思わず苦しくなる。
「......あなたが何かを見つけたと言うのであれば、私ももちろん付き合うわ。協力してもらったお返しを、させて頂戴」
その言葉に、思わず私は言ってしまった。自身の言葉に傷付きながらも、彼女たちを遠ざけようと。
「私に近寄るな!!殺人事件が起きれば、私を犯人扱いし、いつも私の邪魔ばかりをするけがらわしい、魔女......どもめ......!」
言葉の途中で片膝をつくところで、レイアに支えられる。それにより多少、胸の苦しみがマシになったが、それでも、辛い。
「......二階堂ヒロ。魔女化が進行しているのね」
その言葉に、びくりと体が強張ってしまう。
「ひっ、だ、誰かに殺意を抱いていますの......!?」
その言葉に思わず声を荒げて言い放ってしまう。ハンナはシェリーの後ろに隠れてしまった。そこで見たシェリーの顔は、何か納得した様子だった。
「ヒロくん。落ち着きたまえ」
隣にいたレイアが、私を支えてくれた。
「二階堂ヒロ。私は、あなたを信じている」
ナノカが、私の元へと立つ。
「ふたりよりも、みんなで協力した方が効率はいいと思うんだけど......どうかな?」
ミリアも、シェリーも、ハンナも。そして......。
「ヒロちゃーん、みんなー!ボ、ボクも手伝うよ......!」
数日前から元気になったエマまでもやってきて、私は深くため息をついた。
「......勝手にしろ」
私の魔女化は、進んでいる。レイアが共にいてくれるだけで幾らかマシになっているとはいえ、それでも他のみんなを殺してしまうかもしれない。いや、そもそもそんな計画を立てていたことは変わらない。
誰も傷つけたくない。誰も殺したくはなかった。けれども、それしかないと考えてしまった自分も確かにいる。
私が今やろうとしていることは、新たな希望に縋っているだけだ。その希望がないと分かれば私は、また彼女たちを殺そうとするだろう。その時に、更に情が入ってしまえば、余計に苦しくなってしまう。
だが、彼女たちはこれ以上拒絶してもついてくるだろう。私は、協力を受け入れることにした。
エレベーターは二人乗りなので、まずはレイアと私が乗り込んだ。天井は先日シェリーが殴り開けていた。目的は氷付けになっている犠牲者たち。何度も冷凍室に立ち入ったが、氷漬けの彼女らを直視することはあまりできなかった。
しかし、私の予想が正しければ。
「ヒロくん」
そう言ってレイアがただ、手を握る。
「君は、一人じゃないんだよ」
その励ましに、思わず手を握り返した。
━━━━━
私とレイアは次々と降りてくる少女たちを待った。そうして7人が揃ったところで、レイアが口を開く。
「各自気になるところを調べていった方が良いだろうし、一旦ここで散開しよう。集合時間だけは決めておくとして......地下に戻らないといけない時間も考えて、14時50分にここで集合にしようか」
皆意見に相違なく、早速各自調査のために散っていく。冷凍室に辿り着き、私はすぐさま氷漬けになっている犠牲者たちを調べ始めた。
寒さに震えながらも、レイアは尋ねる。
「【なれはて】を調べるのかい?」
私はそれに首を振って答える。
「なれはてではない。私の目的は【氷上メルル】の死体だ。ゴクチョーは彼女を主であると言っていた。それなら彼女の死体も当然保管しているはずだ。ここは魔女たちの眠る場所なのだから」
「なるほど......わかったよ。全力で探そう!」
胸に手を当て、はりきってレイアが氷漬けの魔女たちを調べていく。近寄ってよく見なければ、何が氷漬けにされているかはわからず、しかも膨大な量だ。私たちは手分けをして、メルルの死体を探し始めた。
少し前にここへやってきた時から、冷凍機能の故障なのか大きな氷解が溶けて散らばっていた。寒さも緩んでいる気がする。
誰よりも大魔女の近くにいて、会いたいと画策していたメルルなら、大魔女に繋がるヒントを持っている筈だと、全力で探した。
調査中、私は主に冷凍室に居座っていた。レイアも流石にずっとは厳しく、少女たちは入れ替わり立ち替わり、私のところにやってきた。
氷漬けになったメルルの死体を見つけることは叶ったが、そこから氷を突き出す作業に見舞われた。
「うぅ......メルルさん、こんなお姿に......」
「とにかく急いで死体を取り出したいんだ」
感傷に浸るハンナを咎めたり
「おじさんにはこの寒さは厳しすぎるよ......うぅ、布団でぬくぬくしたい」
「甘えるな。君はおじさんではないんだろう」
ミリアに喝を飛ばしたり。
ナノカは何故か斧を持ってきていた。
「おい待て、何をする気だ!?」
「分からない、けどやらなきゃいけない気がするの」
......掘削班が増えた。
「あたたかい飲み物を用意した方が良さそうだ。ちょっと牢屋敷の方に行って持ってくるよ」
「ありがとう......助かる」
レイアが気を利かせてくれたり。
「あの高いところを調べたいな......」
「そうだな、脚立があると便利そうだ」
エマとも自然と会話ができていた。
「ヒロさんヒロさん!一緒にやりませんか氷サッカー!楽しいですよー!」
「遊ぶな」
シェリーは相変わらずだ。
......どれくらいの時間が経っただろうか。私は無我夢中でピッケルを振り続けていた。手足の感覚はもはやない。ナノカも、一緒になって斧を振り続けて付き合ってくれていた。
ミリアは止めるが、私は急いだ。あと少し、あと少しと掘り進めていって......とうとう、メルルの死体を氷塊から取り出していた。
綺麗な状態のまま放置されていた、彼女の衣服の中に手を入れ、懐を探って行く。何か持っているに違いないと、ナノカと一緒に探した。
ナノカは、メルルに宛てられた古い手紙。そして私は
【写真】━━━
古びた写真には、少女が2人映っていた。それを見たナノカが、目を見開いた。
ソファーに腰掛け、穏やかな表情で本を読む少女と、至福の表情で膝枕をされているメルル。
「あ、あ、あ......」
━━本を読んでいる少女は、私のよく知っている人物だった。私の、失った、守れなかった、自殺した、大切な......
「ヒロちゃん、どうしたんだい......?大丈夫......?」
ミリアが何か言っているが、私の耳には届かない。
「やはり、やはりそうだったんだ......」
「その写真の、一体何に、そんなに驚いているんだい」
ナノカは、ぽつりと呟いた。
「......大魔女」
ナノカは前から、【幻視】で大魔女の姿を確認していたのだろう。だが、私にとっては、それ以上のものが、分かった。
これは、私とエマにしか分からない。
メルルが懐き慕っている少女━━━
それは、中学時代私たちと友だちだった【月代ユキ】だった。もし隣のナノカに、最初に出会った時、【幻視】を使って貰えば、すぐにでもわかっていた事実だった。何故なら、牢屋敷の情報を見て、大魔女の姿を既に知っていたのだから。くしゃりと表情が歪む。
「私はずっと、思い違いをしていた......!正しくないのは、私だった!!」
エマに謝らないといけない。その一心でミリアとナノカに構う余裕はなく、エレベーターへと向かっていった。
エマに今すぐ会って話す必要があった。
━━━その目を逸らし続けるものに、目を向けることになるだろう。それを言ったのは、誰だったか。それが何よりも、脳裏に浮かぶ。
━━━━━
集合時間も迫っていたのでエレベーターまで戻ると、シェリーとハンナがその場に待機していた。今までの道に、レイアとエマの姿はなく。私はきっと蒼白になりながらも、急かす。きっと上にいる筈だと。
シェリーとハンナが訝しげになりながらもエレベーターに乗り込むが、重量オーバーのブザーが鳴る。エレベーターの故障だろうか。
その為、1人ずつ、1人ずつエレベーターに乗り込んでいくことになった。ハンナから、シェリー、ナノカ、ミリアと乗り込んで行く。
私は、エレベーターの到着をやきもきしながらも、頭の中ではずっとエマと、レイアのことを考えていた。
レイアには、笑って報告しよう。手がかりが見つかったと、あの計画は中止だと。どんな顔を返してくれるだろうか。いつものように、笑っているか、それとも別の顔だろうか。
エマにはどんな顔をして会えばいいのか分からなかった。今さら、私のしてきたことは消えない。それでも、私は間違っていた。正しくなんてなかったと、謝りたかった。泣きそうになって、思わず唇を噛む。
それでもエマは、私に笑顔を向けてくれるのだろうか......いいや。きっと彼女は笑顔で、私の名前を呼んでくれるだろう。
━━━大丈夫だよ、ヒロちゃん。
━━━だってボクたちは、友だちだから。
エマのそんな声が聞こえた気がして、同時にエレベーターが到着した。そして、扉が開く。
目に飛び込んできた光景が、一体なんなのか分からなかった。エレベーターの中の狭い空間には、薄暗い照明がぼんやりと光を落としている。あちこちに舞いおどる赤い蝶の影が揺らめき━━━
そして中央には、エマがいた。
いつもと変わらぬ姿で、まるで糸が切れた人形のように、ドレス姿で無防備に倒れていた。
レイピアに腹部を刺され、床に血だまりとなって━━━
エマは、完全に生命活動を終えていた。
「あああああああぁーっ!!」
頭を抱え、私はただただ叫んだ。
「なんで、なんでなんで......っ!!」
狂ったように叫ぶことしかできなかった。混乱しながらも、とにかく上に行かないといけないと思った。
エレベーターに乗り込んだが、エマの死体があるのでブザーが鳴ってしまう。私は虚な瞳で、自身のスマホを取り出す。無意識に近い状態で、エマの死体を撮影していた。現場を保存しないとと。
それから、エマの死体を引きずり出す。
思考が働かない。何も考えられなかった。両手にべっとりと血がつく。それはエマの血だった。血塗れになりながらも、なんとかエマをエレベーターから降ろして、呆然と上昇ボタンを押した。
━━━━━
ゲストハウスの中で、4人は私が来るのを待っていた。現れた私を見て、皆がギョッとした顔になる。私は悄然と、先程あったことを呟きながらも、自分の紡いだ言葉が、まるで現実味を帯びていない。
全員の疑いが、思わず私に向かう。反論を、唇を噛んで止めて、無理にでも心を押し殺す。
私はもう一度下へと降りるため、踵を返した。エレベーターを調べる為に、天井裏に、誰かが潜んでいると思って。
エレベーターの横に、脚立があることに気付く。ちょうど良いと、その脚立をエレベーターに持ち込み、立てかける。
━━━引き返せ。
心がそう叫ぶ。脚立を1歩登るたびに、その心のざわめきが強くなる。しかし、確かめざるを、得なかった。私は、天井穴から顔を出した。
そこには━━━
血塗れで倒れている、少女の死体があった。
その死体もまた、いつもの服で倒れていた。いつもの彼女が眠っているのだろうと、その希望は赤い蝶によって絶望に変わる。
これがアンアンがやろうとしていたことのように、演劇であれば、虚構であれば、どんなに良かっただろうか。
けれど、私の眼が捉えたその姿は、紛れもなく現実で。
━━━彼女はもう、いつものように微笑みを返してくれることも、なくなっていた。
私の叫びは、声にすらならず。
ただ、心の壊れる音がした。
【本日の処スノート】
(記載不可能)