「言峰たちの言う通り、二階堂の話は破綻してやがる。つまりはだ。二階堂以外に、犯人がエレベーターに“乗ること”はできなかったんだよ。
橘たち4人が上にいたって言うのなら、そのエレベーターにいなかった奴らがエレベーターに入ろうにも誰かが見ているはずだ。なら、犯人はどこにもいねー。おめえ以外はな」
その発言に、ヒロは賛同した。
「ああ、その通りだよ、当然だろう。私が死体を発見したとき、犯人は乗っていなかったんだ」
「なっ......!バカにしてんのかてめえ......!」
アリサは怒るが、ヒロは冷静だった。
「大真面目に言ってるんだ。それ以外の可能性は、ない。私が証言できる現場の状況は、【2つの死体がそこにあった】というだけだ。
犯人を見たわけでも、殺された瞬間を見たわけでもない。ならば【犯人はそこにいなかった】のは間違いない。少なくとも、エレベーターの中や天井裏にはね」
ヒロは語り続ける。
「エマとレイアは、あらかじめ殺されていたんだ。そしてその死体がエレベーターへと運ばれた......ただし、犯人は直接運ばなかった。それなら私が見たことと、なんの矛盾もないはずだよ」
「な、何言ってんだてめえ......!」
アリサは狼狽える。
「じゃあ何か?死体が勝手に現れたとでも言うのかよ!」
シェリーもそれに同意する。
「上の階にも下の階にも誰かがいましたし、誰にも見つからずに乗り込むことはできませんよね」
キレイはすでに、何がどうしていたのかを考えついていた。そしてそれは、ヒロも同じく閃いたことらしい。
「いや。単純な話だ。死体は最初からそこにいたんだ。だからこそ、現れることができたんだ」
「そ、そんなはずないよ!」
ミリアが慌てて否定する。
「おじさんがエレベーターから降りたとき、そこに死体がなかったのは上にいた4人が確認してるんだよ!?」
それをナノカが、否定した。
「天井裏までは見ていないわ。現に、蓮見レイアの死体は天井裏にあったにも関わらず、誰にも見つかっていないのだから」
「そ、それはっ!」
「なら、そこに死体があった可能性はある」
シェリーがそこで、口を挟んだ。
「気付いていますよね?ヒロさん。ヒロさんの推理には、大きな問題があることを」
「......ああ。可搬重量の問題だね」
「その通りです!バッチリしっかり、説明してもらいましょう!」
ヒロは頷く。そうして、語る。
「簡単な話だよ。エマの死体は、体重がエレベーターにかかっていなかったんだ。......私の目の前に現れる、直前まで」
「エレベーターに直接触れていなかった......ということですよね?ではその場合、エマさんの死体はどこにあったのでしょうか?」
ヒロは話を続ける。
「当然、天井裏の空間だ。天井裏に通じるフタはずっと開いていた。死体はずっと上にあって、そしてエレベーターが下がったタイミングでおちてきた......。それなら、エレベーターの中に存在しなかったエマの死体が突然現れたことに説明がつく」
ここでキレイは、口を挟む。
「そうだね。では二階堂ヒロ。君の言うとおりだったとして、桜羽エマは一体、どういった状態になっていたのかな?」
「簡単な話だよ。エマは吊るされていた。それを示す証拠も、私たちはすでに知っているはずだ」
そうして、ヒロはエマの現場写真、その手足の部分を拡大して見せる。そこには確かに、何かで縛られた跡が残っていた。
「エマの死体は、手足を縛られた状態で、天井裏の空間に設置されて吊るされていたんだ」
しかしそれはミリアが反論する。
「でも、天井裏の空間を調べたけど、エマちゃんを吊るせるものなんてなかったよ......!?」
それはナノカも同意した。
ヒロは考えて、語り出す。
「そう。現場に証拠となるような痕跡は残されていなかった。なら死体はそこに【浮いていた】としか考えられない」
シェリーはそれに反応する。
「痕跡もなく【浮いていた】ですか。動力も浮力も無しに、ですよね?そんなことは普通ありえません」
ヒロは、続けた。
「そう、犯人は......普通ありえない方法を使ったんだ。
それは......【魔法】」
「ちょ......ちょっと待ちやがりなさい!」
ハンナが思わず反応した。
「それって......わたくしがやったって言うんですの!?
わたくしそんなことしていません......いや......!
できないんですわっ!」
ハンナの反論が始まった。
「わたくしはシェリーさんがエレベーターで登ってきたあと、一緒に扉の前で待っていましたわ!ナノカさんやミリアさんも見ているはずです!」
その3人が同意する。ハンナの話は続く。
「わたくし、ずっと上にいたのです!わたくしが浮かせられるのは自分の体だけですもの!エマさんを浮かせるなんて、無理ですわー!」
ヒロは尋ねた。
「その自分の体というのは、髪の毛も含まれているのかな?」
ハンナの息を呑む音がした。
「エマの手足の縛られたような痕は、太い一本のロープのようなものではなく、複数の細い糸のようなもので縛られている。そう、まさに髪の毛のようなね」
ハンナは、必死に反論する。
「で、でも「言峰キレイ」」
その反論に、ヒロは被せた。そして名前を呼ぶ。
「......さて、どうしたのかね?」
ヒロはキレイを睨んでいる。
「君は基本的に黙ったままだ。そしてそういう時には、機会を伺っているに違いない。決定的な証拠を抱えてね!」
キレイは内心で関心した。よく理解していると。
「さあ、その握っている証拠、提出してもらおうか!」
キレイは笑いながら、答えた。
「ああ、残念だ。これをいつ提出しようか考えていたというのに、そう言われては提出をせざるを得なくなってしまった」
そうして、キレイは自身の握っていた証拠を提出していた。それは金色の髪の束。それはしっかりと結ばれている痕跡があった。
「これが恐らく、君が望んでいた証拠だろう。にしても、よく分かったね。誰にもこれは伝えていないというのに」
その言葉にヒロは嗤った。
「一度やられたことだ。もう学習している」
そうしてヒロは、ハンナに目線を戻す。
「君は自身の髪の毛を、エマの手足に縛り付けた。そして、エレベーターの天井裏の空間に浮かせていたんだ。
━━━自身の持つ、【浮遊】の魔法を使って!
犯人は君だ━━━遠野ハンナ!」
ハンナは言葉に詰まっている。
ヒロは、続けた。
「君は以前、腕相撲をしたときにエマへ【おまじない】をかけていたね。そのあと、シェリーは腕相撲でエマに負けていた。
あのときエマの指に結びつけていた【髪】......あれは、魔法による【浮力】をエマの手に与えていたんじゃないかな」
キレイは辺りを見て、自身の弟子に目が行った。その顔はどこか悲しそうでもあった。
「ハンナ......君はその方法を応用して私の前にエマの死体を出現させてみせたんだ。私に罪をなすりつけるために!」
ハンナは、呆然とした表情から一転する。
「あ......ち、違......違いますわっ!!
わたくし......わたくしそんなことしておりません......。するわけが......ありませんもの!!」
そこで私は、口を挟んだ。
「その通りだ。二階堂ヒロの推理は間違っている」
その言葉に全員が思わずこちらを向く。無論、先ほどまで反論しようとしていた遠野ハンナも。
「キレイ......何をっ!?」
「き、キレイさん!?」
二人が思わず目を丸くする中、キレイは答える。
「ああ、正確に言い直そう。遠野ハンナに罪を着せるつもりはなかった。あれは、本人も想定しきれなかった事故だったと主張する」
ハンナの目が、完全に見開いて震える。
「そもそもの話、罪を着せるなら不可解な点がある。先程私が提出したその髪の毛だが、よく見たまえ」
「━━━千切れて、ますね」
シェリーが反論した。
「その通りだ。そもそもの話、二階堂ヒロの推理通りであれば、桜羽エマの死体には髪の毛が巻き付いていなければおかしい。仮に全て遠野ハンナが仕組んでいたとしても、遠野ハンナには遠隔で髪の毛を千切ると言った芸当はできない」
よって、と結論付けた。
「遠野ハンナに君を貶める意図はなかったということだ。仮に、そのつもりであったのならば、蓮見レイアの死体を使っている筈だからね。恐らくは、桜羽エマの自重に耐えきれなくなったことで、髪の毛が千切れたのだろう。本来なら、桜羽エマの死体は見つからない筈だった」
「あ......う......」
ハンナは完全に反論できなかった。
しかし、声を上げる者がいた。
「ちょっと待ってください。まだ、議論の余地は残されている筈です。ヒロさんが犯人の可能性だって、残っている筈ですよね」
確かにその通りだった。ヒロはそれに同意した。
「......そうだね。この事件の犯人はハンナか、もしくは私のどちらかでしかあり得ない。そして、どちらにも決定的な証拠も、動機もない」
ハンナが、震えながらも言った。
「そ、そうですわ!仮にわたくしが犯人だとしても、決定的な証拠はありません......!だってそんなのは当然です!わたくしは犯人ではないんですから......!!」
完全にその瞳は、現実から、逃げていた。
私は、彼女の心の傷を、優しく抉ることにした。
「そうだね。決定的証拠はない。突発的だったからこそ、その決定的と言える証拠が残らなかったのだからね」
キレイは、語り始める。
「桜羽エマは口封じだった。犯人にとっても誤算だった犯行に間違いはないだろう。死亡推定時刻から、二人の死亡はほぼ同時だったに違いない。蓮見レイアを殺した現場を、桜羽エマに見られたのだろう。そこでレイピアを手に取り、刺し殺した」
キレイは、語る。
「恐らく犯人は、焦ったことだろう。蓮見レイアだけでなく、桜羽エマまで殺してしまったことに。だからこそ、犯人は逃げを選んだ。
誰かを陥れるつもりもなかった。陥れるつもりであったら、蓮見レイアの死体を使っていただろう。友だちを、そのように扱う人間ではないからね」
誰かの呼吸が荒くなる。構わず続ける。
「......君はそうまでして、悪辣ではない。今の君は、先ほどの佐伯ミリアのように、逃げを選んだに過ぎない。
......さて、逃げに逃げて。今はどんな気持ちかな。結果として、友の遺体を自身の為に利用する形となって、誰かを陥れることになって」
別に、キレイは誰かを見て話しているわけではない。ただ、その言葉は紛れもなく、遠野ハンナを狙っていた。
「違う......違うの......これは......事故......!そう、事故だったの......!わたくしは、悪く......ない......!!」
現実を直視し、見たくないものを見るように叫ぶ。
「━━違うの!!わたくしは━━!
━━殺すつもりじゃ、なかったの!!!」
......泣きながら、遠野ハンナはそう叫んだ。
「......ああ」
それは、ある少女の呟きだった。
「ハンナさん......あなたでは支えきれなかったんですね。
━━━その罪の十字架は」
「わた.....くし......は......」
「......お疲れ様でした」
その声は細く、悲しげで。
「ちが......うの......しん......じて」
最後まで、その少女を見ていた。
【魔女図鑑:人物】
[ことみね きれい]
囚人番号671番。 誕生日:12月28日
15歳
【魔法】奇跡 洗礼詠唱
敬虔たるシスター、目が死んでいる。
今回はこの握ってる証拠いつ提出しようかなーと企んでいたらヒロが成長して見破ってきた。意外だっただろう。
なので今回は現実を直視させる方針で動いた。
ミリアに対しても、そしてハンナに対しても。