愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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【タイガー劇場】
「......ハンナ、さん」
「......ハンナちゃん」
「(無言で二人の頭を撫でている)」
「......今は見届けましょう。最後まで」
「......ですね師匠」


助けたい者が大切な者ならば

「わたくし、わたくしなんてことを......っ。エマさんを、エマさんを殺すなんてぇっ......」

ハンナは、犯行を自白した。

心から悔いている様子で、膝をついたハンナは涙を流し続けていた。

「うぅうぅ......っ。どんなに責められても、仕方ありません......大切なお友だちだと思っていたエマさんを、わたくしは殺めてしまったのですから......」

 

泣きじゃくるハンナを前に、私たちはいつも通りゴクチョーに促され、処刑執行の選択を迫られる。

「(ハンナはエマとレイアを殺した魔女。処刑されて当然だ。何も迷うことなど、あるものか......)」

しかし私の指先は、逡巡してしまっていた。

 

「(何故、何故だ......どうして私はいつも迷う━━。正しさを知っているはずなのに!)」

7秒。ボタンを押し続ける長さが、あまりにも永い。

全員がボタンを押し終わり、ゴクチョーが処刑執行を宣言する。どうしようもなく心を軋ませ、歯車の回転音が聞こえはじめる。

 

やがて中央に現れた処刑台は、信じられないほどに巨大な━━砂時計。裁判所の天井に届きそうなほどに高く、上には巨大な岩石が、下は空洞となっている。生き埋め、圧死。

少女たちは思わず身震いし、ハンナは拳を震わせて、ごくりと喉を鳴らす。毅然としているが、それを隠すことはできなかった。

 

そして看守に手首を掴まれ、ハンナは処刑台へと連行されていく。普段ならここで、何かを言うキレイは今回、何も言わなかった。ただ後ろの方で、これから起きる何かを見据えている。

「......ハンナさん。ひとつ、聞かせてください」

その途中、静かに口を開いたのはシェリーだった。ハンナはひきつった表情で、シェリーを振り返る。

 

「なんですの、シェリーさん......。わたくしはもう、言い残したことなんてありません。罪を犯したのだから......潔く受け入れます」

震える声でそれだけ言ってハンナは背を向け、再び処刑台へと歩き出す。

 

「レイアさんを殺した理由はなんですか?」

シェリーはそれでも背中に言葉を浴びせた。どこか必死に、縋るように。

「魔女の殺意が心から向いたのは、エマさんではなく、レイアさんですよね?では、その動機は?」

ハンナの背中が、揺れた。

 

「私、ハンナさんと一番長く一緒にいたので、ちょっとだけハンナさんの気持ちがわかるようになって......ハンナさんは、レイアさんを嫌っていました。きっと、最初に会った時から。

その気持ちが魔女化と共に、徐々に膨らんでいっても、おかしくありません」

 

その言葉に、私は胸を締め付けられた。

ハンナがずっとレイアに劣等感を抱き続けていたのだとしたら。初めて会った時からその闇が生まれ、やがて殺意に変わるまで少しずつ少しずつ育まれていったとしたら。

━━全てをなかったことには、できない。

 

その真実にたどりついた時、私の中で何かが音を立てて崩れていった。胸を押さえて、うずくまる。

ミリアが心配の声をかけたが、平気だと言った。視界の端で、シェリーが身を乗り出しているのが映った。

 

「......言いたくないかもしれません。でも、私、ちゃんと知りたいんです。本当のハンナさんの気持ちが知りたい。もっとあなたのこと、知りたいんです。お願いします、ハンナさん......っ!」

シェリーの声は、今まで聞いたことのないほど震えていた。今にも泣き出してしまいそうなほどに。

 

「......どうして」

ハンナは振り返らないまま、肩を震わせ、かすれた声をしぼりだす。

「どうしてあなたはいつも......わたくしの中にズカズカと勝手に踏み込んできますの?」

 

砂時計の下部分には扉が取り付けられており、その扉を看守が開く。ハンナが砂時計の中に放り込まれた。

扉の前に看守が立ったのを皮切りに、落石が始まった。容赦なく降り注ぐ石の中、倒れ伏していたハンナはよろよろと上体を起こす。座り込んだまま、ガラス越しに私たちの方へと視線を遣った。

 

━━━━━

(????視点)

 

目の前で、ハンナさんが語り始めました。

ずっとレイアさんのことを嫌っていて、それでも上手くやろうとしていたこと。エレベーターに、レイアさんと一緒に乗ることになって、私が遊んでいた氷塊を危ないからと手に持っていたこと。

ある一つの発言で、魔女化による殺人衝動が吹き出してしまったこと。その現場を、エマさんに見られたこと。

 

嫉妬、羨望、焦がれ、焦がれ、焦がれ。

ハンナさんが望むものを、レイアさんは既に持っていて、置き去りにされると思って、自分が惨めになったと語りました。

そのハンナさんは、泣きながら、嗤っていました。恐らくは、その対象は自分自身に。

 

ハンナさんの顔に、亀裂が入っていきました。黒々とした亀裂が、顔全体に広がっていくのを。

......ハンナさんの過去を聞きながらも、私は、ちょっと前の、あの日のことを、思い浮かべていました。

 

━━━━━

 

確かあれは、弟子入りして少しした時でしょうか。キレイさんに力で互角で、技で圧倒されて。それでもめげずに立ち向かい続けた時に、聞かれました。

何故、それほどまでに鍛えるのかって。

 

演劇には不要なレベルなまでに、私は教えを乞いました。私は確かあの時に、こう言いましたね。

『私は、みなさんを守りたいんです!ハンナさんに、エマさんに。私はスーパー名探偵として、友だちに襲いかかる魔女をやっつけなければなりません!ですから、私は鍛えるんです!みんなを守るために!』

 

実際に、ヒロさんとレイアさんを返り討ちにした時は、とっても嬉しかったと思いました。二人を止めることができたということもそうですが、何よりも、この私の力で、誰かを守れるんだって。

......私はこの状況で、何よりも、最後に教えられたことが、頭から離れませんでした。

 

キレイさんが、言ったことです。詳しいことは、私もわかりません。ですが、何かを抱えていたように、私にこう言いました。

『助けたい者が大切な者ならば、殺すな。目の前で死なれるのは、中々に堪えるぞ』

その言葉に表情があまりにも重くて、今、私に強くのしかかっています。

 

━━━━━

 

ハンナさんが、死んでしまう。守りたかった人を、私は目の前で見ているだけで良いのか。そればっかりが頭に浮かびます。

徐々に勢いを増した落石が、ハンナさんの身を襲って、足が変な方向に曲がって、それでも、赤い血を引きずりながら、ガラスの壁面へと這いずって......私たちに向けて、叫びました。

 

血に濡れた拳で、ガラスを何度も叩きながら。処刑されて当然、それは受け入れていると。でも、ハンナさんには、一つだけ受け入れられなかった。

 

「でも......でも、わたくし、魔女になりたくありませんの......っ。どんなに汚くても、罪深くても、人間のままでいさせてほしいの......っ。

どうか人間のままで殺して━━!

わたくしを化け物にしないでよぉっ!

わたくしのままでいさせてよぉっ!」

 

私は最後に、自身の師を見ました。ただ、後ろに立って、私を見ていました。どうするか、という視線。答えは既に、決まっていました。

「わかりました!」

 

私は、声を張り上げ、一歩踏み込む。

その一歩は、10m先の場所へと辿り着き、看守の懐に潜り込んだ。そのまま、私は拳を振るう。鍛えた技と、私の魔法で、看守は勢いよく弾き飛ばされた。

そのまま、扉の向こうへと飛び込んで、落ちてくる瓦礫を、邪魔な瓦礫を、私は拳で砕いて、ハンナさんの元に辿り着きました。

 

私は痛みを苦しいとは感じない。だからこそ、何も問題なかった。私の学んだ技を、最後に一番守りたかった人の為に使う。

目の前にいるハンナさんは、傷だらけで、体が半分はもう埋まっていました。でも、気にしない様子で、私を呆然と見つめていました。

 

「あなた、あなた一体どういうつもりですの!?」

私は、ハンナさんを抱きしめて、叫びました。

 

「置き去りが嫌だって言ったので、一緒に逝きましょう!私が一緒ですから、ハンナさんはもう大丈夫!置き去りにしてもいないし、置き去りにされても、いません!

━━なれはてには、させません!!」

 

抱きしめているので、私はハンナさんの顔がよく見えません。この行いに効果があるのかも、わかりません。でも、ハンナさんは震えた声で、その腕で私を抱きしめ返してくれてから、言いました。

「なんて、なんてバカなのかしら━━━」

 

そして、私たちの頭上で、大きな影が━━━

 

━━━━━

 

━━━大量に降り注いだ岩の下に、2人の姿は完全に潰され、消えた。岩の隙間からじわじわと広がる赤が、鮮やかな蝶になっていく。なれはての咆哮は、いつまでたっても聞こえてこないまま......処刑台は、地下へと降りていった。

 

他が泣いている中で、キレイが処刑台近くまで歩んで行くと、キレイは、ただこう言った。変わらぬ様子で。

「━━━主よ、あの2人の魂に、憐れみを」

その声は、いつも通りだが、表情は見えなかった。




【処スノート】
━━━遠野ハンナが桜羽エマと蓮見レイアを殺害し、魔女として処刑された。私の気持ちが完全に壊れず、理性を失わずにいられたのは。
心のどこかで、真実を見届けなければと思っていたからだ。
見届けた後、やり直せばいいと思っていたからだ。私の魔法を使えば、今日の朝に戻って全てをやり直せると。
(それ以上は、もう書かれることはなかった)
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