愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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これは、二階堂ヒロが去っていった後、残された者たちのお話。


【幕間】残された者たち/送る者たち

(キレイ視点)

二階堂ヒロは逝った。血に濡れた剣を投げ捨て、キレイは皆の元へと向かう。今日、計画を実行するために。

焦げ付く臭いが辺りに充満する。アリサはやってくれたようだ。うるさいスマホを投げ捨て、先日完成したアレの元へと向かっていった。

 

牢屋敷がもう燃えている。監視フクロウ達が消火している。アリサが、上手くやったようで、少女たちは、もうもぬけの殻よ。

キレイは走る。森の中へと。

 

━━━━━

 

既に少女たちは、集まっていた。

「あ、キレイっちやっと来た!!遅い!」

ココがそう言って怒っている。

「......ウチはいつでも大丈夫だ。任せとけ」

アリサが、今は落ち着いた様子でキレイを見据える。

 

「あ、あのー......おじさんまだ分かってないんだけど...?」

説明ができていなかったミリアが困惑した様子で皆を見ている。

「......言峰キレイ。彼女は?」

「ああ、もう行ったよ」

「......そう」

 

最後にナノカが、二階堂ヒロはどうしたのかについて尋ね、その答えに顔を落とした。

「では、諸君......試練の時だ」

そうして少女たちは、キレイが進んだ先にあるものを目にして、ミリアが目を丸くする。

 

「これって.........気球!?」

話は、遡る。

あの日、自身が撃たれた後の話。沢渡ココから、様々な情報を共有されてきた。二階堂ヒロが、看守により死んだ後の世界の話だ。

 

今とは何もかもが異なる展開、犯人や被害者など。そう言ったことを伝えられる中で、最後まで上手くいって、最後に失敗した計画、気球について教えられた。

ココとキレイの話の擦り合わせにより、メルルがアンアンに耳打ちをした結果失敗したと推測できた。

 

その為にキレイは、全員を巻き込まずに少人数で作業を進めていくことにした。動きを怪しまれれば、牢屋敷側から何か妨害が起こると判断した為だ。

途中で、手掛かりに詰まった黒部ナノカを誘った。あの本の解読より、既に詰みの状態に近づいていることから、承諾してくれた。

 

30日、事件のあった日はココとキレイ、2人で最後の仕上げに取り組んで行っていた。

こうして、ココとナノカ、キレイの僅か3人で計画を立てて、脱出用の気球を完成させた。

完成させた時には、事件が起こっていたが。

 

「ほらおっさん早く!!あてぃしもう待ってられないから!」

「お、押さないで、あう......乗るから、あう」

ぐいぐいとココがミリアを押して乗り込む。その後にナノカ、アリサ。そしてキレイが次々と乗り込んでいく。

 

「じゃあ行くぞ」

そう言ってアリサが木材に火を付ける。轟々と燃え盛る炎は気球を膨らませて、乗っている者たちを浮かび上がらせる。

燃え盛る牢屋敷、消火をしているフクロウ達を背景に、少女たちはこの島から浮かび上がり、脱出した。

 

その最中に飛んでくるフクロウをナノカが撃ち落とし、そうして海へと渡っていく。

「......もう、大丈夫なんだよね?もう誰かが死ななくて、済むんだよね?」

詰まった息を吐き出して、ミリアが言った。

「ここまで来たら、あいつらも追ってこれないだろ。それに、外なんだからやる意味がねえ」

木材を追加しつつ、アリサが火を管理してそう言った。

 

「よっしゃー!ざまあみろ!これでやっとじーちゃんに......あ、いや、その......な、なんでもない!」

達成感に思わずはしゃぎ、ココが本音を出しそうになっていた。しかし、1人だけ、素直に喜ぶことができない者もいた。

 

「......お姉ちゃん、二階堂ヒロ」

どこか遠く、銃を握りしめて。今はもう見えない牢屋敷の方向を見ていた。自身の家族を、そして協力者を置いていったことに対して、深い悲しみを覚えていた。

 

キレイは、口を開く。

「さて、牢屋敷から脱出は完了した。君たちは一つの試練を乗り越えたと言っていいだろう」

「し、試練って......これ以上何もないよね......?」

ミリアが不安そうに言った。

 

「ふむ。まあ外に出た後の方が大変かもしれないね。複数人でなれはてを討伐できる私の元同僚が命を狙ってくる可能性が高い」

その言葉に全員がこちらを向く。

聞いてないぞというように。

 

「おや、言ってなかったかね。まあ良いじゃないか。このままあそこで未来なく生き続けるよりも、こうして外で足掻く方が人間らしい。

二階堂ヒロも命を賭けた、君たちも覚悟を決める時だ」

そう言って、キレイはいつものように嗤った。

 

残された者たちは、未来を求めて牢屋敷から旅立った。それが希望か絶望か。その答えは彼女たちのみが知る。

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

【タイガー道場:EXTRA3】

 

これは夢、だろうか。

目覚めた先にあったのは、剣道場だった。

目の前には剣道着を着た女性と、ブルマ姿の銀髪の少女がそこにいた。2人は私に話しかける。

 

「こんにちはー!お悩み解決コーナータイガー道場出張編です!でもまあ、今回それは要らないかな」

「押忍!私たちは今回お役御免であります!最初に言っておくけど、ここには一時的に来てるだけで、すぐに目的の場所に辿り着くから安心してね!」

 

そう話しかけてくる2人に私は戸惑いを隠すことはできない。なんだここは、牢屋敷に残った魔法か?

「はい、今回表に出てこないと決めた弟子4号の伝言を弟子1号、教えてあげなさい」

「押忍!......『よくできましたね。今まであなたはとても頑張ってきました。それと、ごめんなさい』......だってさ」

 

「何を、言って......」

混乱が抑えられないままに続ける。

「それじゃあ師匠!後は若い子に!」

「ええそうね。それじゃあ頑張れ少女!君たちの未来は希望に満ちている!!」

 

......嵐のような2人が去った後に、2人の姿が改めて出てきた。2人とも、ブルマを着ている。どちらも、見た顔だ。

一人は、牢屋敷の黒幕と言えたメルル。

そしてもう一人は、私が今、最も謝りたかった人だった。

「━━エマ!!」

 

骨だけのような翼を携え、目付きも鋭く、冷たくなった。けれども、変わらない。アレは、エマだ。

思わず、涙が流れる。目の前に彼女がいる。私が罪に気がついた時には、もう謝ることができなかった、彼女がいた。

「......すまなかった」

 

言葉が、漏れた。

「エマ、君が最も辛い時に、私は君を追い込んだ......!私が、全部間違っていた!許してくれなんて言わない......!もう、取り返しが付かないことを、君にしてしまった私は......!!」

 

手足を床につき、涙を溢して俯いた。もう、彼女の顔を見ることはできない。顔を合わせる資格すら、私にはないのだから。

......ふと、柔らかく温かいものに体が包まれる。力強く、離れない。首筋に、熱い雫が垂れてきた。

 

「大丈夫だよ......ヒロちゃん。だってボクたちは、友だち、でしょ。ボクだって、前からヒロちゃんを困らせてばっかりで......だから、おあいこ」

それはつまり、許すということで。......しばらく二人で泣いていると、ふと、私の体がキラキラと光の粒子となっていく。

 

「......もう、ヒロちゃんは行っちゃうんだね」

「待ってくれ、エマ.....!私はまだ、君に......!」

話したいことが、という前に、口を指で止められた。

 

「その続きはね、ボクじゃなくて、違うボクに言って欲しいな。ここで過ごした時間をヒロちゃんは忘れるだろうけど、ボクはもう許したから」

「何を、言って.......!」

エマは、話を続けた。

 

「ヒロちゃんは、やることがあるでしょ。ここで止まってちゃダメだよ。......大丈夫。ボクたちは、ヒロちゃんのことをずっと見守っているから」

その冷たい瞳に、熱が灯る。

「......だから、頑張って!いってらっしゃい!」

 

いつもの、彼女の笑顔。それに心が思わず暖かくなる。私も、頑張って笑った。

「ああ、君たちを救いに......いってくる」

そうして私は、再度光に包まれて、意識を落とした。

 

━━━━━

(ユキ視点)

 

「......本当に、顔を出さなくて良かったんですか?大魔女様」

メルルは、隠れていた私に尋ねた。ヒロが消えたタイミングで現れて、エマも振り向いた。

「......今のタイミングで出ても、ヒロちゃんが苦しむだけだもんね。ユキちゃん」

 

目を閉じて、私は頷く。

「......ええ。ヒロに伝えたいことは二人に伝えてもらいましたから。後は私は、見守ります。......そう言えば最近、あの二人どこか忙しそうにしていましたけど」

 

その質問に、メルルは言った。

「えっと、お客様が来たから対応していたそうです。なんでも、あの二人にこそ伝えたいことがあるらしくて」

......この場所に???

 

「......そう言えばユキちゃん」

ふと、エマが話しかけてきた。

「あの、キレイちゃんのことを見て、考えていた時に不思議そうにしていたの、なんだったの?」

「私も、気になっています。何に引っかかったんだろうって」

 

......二人にはそろそろ話した方が良いかもしれませんね。

「では、お話しましょうか。【奇跡】の魔法について」

私は、組んだコップの水に、魔法を使う。

 

すると色が変わって、淡く白くなった。りんごジュースとなった水を、エマとメルルにそれぞれ手渡す。私は説明を続ける。

「この魔法は、神の子と似たようなことができる。あの人はそう説明していましたが、その実態は、【願いを叶える】魔法なんですよ」

 

植物の生育を願う、好物を分け合いたい、水がジュースなら良いのに、手紙が無事に届けば良い、子どもが無事に産まれて欲しい。それらの願いを、形にするのがこの魔法だった。

しかし、制約が存在する。

 

手元にある水をジュースに変えたり、手元にある果物や、自身の作った料理をもう一つ出すなど、手元のみの小さな事象であれば、言葉を出さずとも可能になる。

では、それ以外の場合はどうなるか。

 

例えば、植物の急激な成長。

十分な栄養を用意して、土に植え、願いを口にすることで成立する。

例えば、遠く離れた場所に手紙を届ける。

ボトルメールというように理屈を立てて、願いを口にすることで成立する。

理屈さえ通っていて、可能であれば、道筋をカットして実行させることができる。

それ以上であれば、本当に心からの願いで、その想いを口にする必要がある。

 

━━願いは口にしないと叶わない。

そして、キレイの起こした【奇跡】には一つ、それでは説明できないものが存在する。

「......私のその疑問も、ヒロであれば解き明かせるでしょう。後は見届けるだけですよ。エマ、メルル」

 

自身のコップのジュースを飲みながら、自身の友人に思いを馳せる。......ふと、後ろから声がする。

「おーい!今日は天ぷらよー!」

「ナスときのこ多めのね!」

 

「天ぷら......!行こうメルルちゃん、ユキちゃん!」

「は、はい!大魔女様、行きましょう!」

「......ええ」

 

そうして私たちは、向かっていく。友人と家族、そして不思議な同居人。それらと一緒に過ごす時間が、今は何よりも心地よかった。




これは、二階堂ヒロを見守り、最後に送り届けた者たちのお話。
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