「(魔女裁判の開始だ)」
私がやることは、私含め13人の魔女を揃えて大魔女を呼び出すこと。それによって起こり得ることが、未知数な部分もある。
だが、全ての元凶である大魔女をどうにかすることができれば、私たち魔女候補の持つ魔女因子をどうにかできるかもしれない。
それが今の唯一の希望だ。そして、それができて、彼女たちを救うことができるのは、私だけだ。
「......つーかこんなところ集められてもさ、あてぃしら何したらいいわけ?」
「そのとおりだ!私たちに何をさせるつもりだ!」
その声に、説明する者がいた。
「恐らくは、名前の通り魔女裁判を行うのだろう。歴史の授業でも習ったとは思うが、魔法を扱うと思わしき魔女を炙り出すために用いられる手法だ。これより先、私たちは魔女を討論より見つけ出していく。そう彼女は考えているのではないかな」
そう語っているキレイの話は、ろくに説明も行っていないというのに正確だった。やはり味方にすれば頼もしいが、油断すれば場が喰われる。いや、すでに喰われかけている。
「だとしたら、話は早いだろ」
「とってもわかりやすい【魔女】が目の前にいるものね?」
「ヒロちゃんだね!」
私が議論を引っ張るのが正しいやり方だろう。それを気にせず、メルルが嬉しそうにこちらに語りかける。
「さあ、ヒロさん!大魔女様を......呼び出しましょう!」
「ああ、もちろんだ。だが、それには手順がある
......協力してくれるね?」
「は、はい!なんでもお手伝いしますね......!」
それを聞いた私は、皆に向き直る。
「この際......そう思ってくれて構わない。だが、私だけでなく君たちの中の魔女も見つけさせてもらおうか」
目的は、【魔女因子】。こんな牢屋敷に囚われた理由とも言える、その【原罪】を白日のもとに晒すこと。それがこの【魔女裁判】で目指すものだと。
「告発しよう━━。この中には、私以外にも魔女がいると!」
全員がにわかに騒ぎ始める。
「つーか、化け物とさっきごちゃごちゃ言ってたじゃん。そこのメルっちが怪しいんじゃねーの!」
ココがそういうと、メルルが素直に話し始める。
「その通りです。もう隠す意味はなさそうですが......。私は......魔女です。この牢屋敷で皆さんを待っていました。
言うなれば......く、【黒幕】......でしょうか......?」
ふと気になるので、聴くことにした。
「......しかし、1つ聞いてもいいかな。君は魔女なのに姿形が通常の人間と変わりない。......私のように、【魔女化】はしていないのかな」
「......では少しだけ説明しますね。
━━魔女化について」
そして、メルルによって語られる。
魔女化とは何かについて、その行き着く先が【なれはて】であり、そのなれはてとは何かについて詳しく語っていく。
メルルは原初の魔女と呼べる、私たち魔女とは異なる魔女だと言った。自分は、最期に残ったその存在なのだと。
しかし私は事実を知っている。それはナノカと共に見つけた。あのメルルが大切に持っていた手紙だ。それの記述と、矛盾している。
「それはどうかな」
メルルは、驚いた様子で私を見る。
「私は1つの事実を知っている。それは、とある場所で見つけた手紙に書かれていたことだ。書き手は、君が原初の魔女と呼ぶ人たち」
「.......それは...!」
メルルは、思わず懐に手を当てる。心当たりがあるのだろう。だからこそ、深く響く。
「その中には、大魔女が、人間の少女を拾って育てたという記述があったよ。最後に残った大魔女ともう一人、【人間の少女】が残ったという」
私は畳み掛ける。
「この手紙と、君の証言は矛盾している。最期に残った君はいったい、何者なのかな?」
メルルは酷く狼狽えた様子で話す。
「......そ、それは......その......!私は、大魔女様に認められ、そして力を与えられた魔女なんです!べつになにも......おかしなことなんてありません!」
それに、味方につけた彼女が口を挟む。
「そうだね。君は大魔女に力を与えられた。間違えていない」
「そ、そうです!私は力を与えられたんです!大魔女様に認められて、自分で身を守れるように魔法を与えてくださったんです!」
ニヤリ、とキレイは嗤う。私のやろうとしていたことを、いち早く理解しているらしい。
「そうだね。君はきっと魔法を使え、不老不死の存在になったのだろう。大魔女が力を与えたと言うのも、間違いはない。【魔女因子】という力ではあるがね」
「......あ」
メルルは、言葉を漏らす。
「君は人間であることを認めた。そして大魔女に【魔法】という力を与えられたことを認めた。
では、君と私たちは同じ【魔女因子】を持つ存在である可能性が非常に高い。君が言ったことだろう?」
キレイは、先程の対話のみでこの論理を組み立てた。それに驚きながらも、私は乗っかって畳み掛ける。それは、ノアのアトリエで見つけたあの手記だ。
「キレイの言う通りだ。私の知っている資料には、こう書かれている。大魔女は同胞を皆殺しにされ、人間たちへの復讐を誓った。
その方法は......人間を化け物に変えること。魔法を操り、悪逆非道の限りを使う異形。想像上の魔女に変える呪術。それが魔女因子だ、まるで人間の遺伝子を書き換えるウイルスのようなものだね」
言葉を続ける。
「その効果を試すために、手元にある人間の少女を実験体にした。それが君のことだ。氷上メルル!」
メルルは酷く狼狽えながら言った。
「ち、違い、ます......!私は、だって!大魔女様に【家族】だって......!そう......言ってくれて......!最後に、私に言い残した【自身の存在を魔女因子に変える】って......!だから大魔女様を探して、魔女を集めて......!」
私より先に、キレイが語る。
「では何故君は最初、私と同じ場にいたのかな?」
「え......?」
「消えた大魔女を探すために少女たちを集め続けた。それは良い。別に異常はないことだ。だが、君も同じ場所にいる意味はなぜだ?」
メルルは言葉に詰まる。
「君がその目的のために集めるだけであれば、管理者側として裏にいるだけで良いはずだ。ならば正体を隠して生活する理由もなくなるからね。......ふむ、情報が足りないか。二階堂ヒロ、彼女は君の見てきた限り、どう言う人間だった?」
私に話を振られたので、答える。
「そうだね。彼女は【黒幕】であることを隠しつつも怪我を治したり看病を寝ずに行ったりと、懸命に皆に尽くしていた人間だった。これで答えはいいかな?」
それでなるほど、とキレイは呟いた。
「これで分かった。君は繋がりを求めていたのか」
キレイは語る。これまで得てきた情報から、氷上メルルの傷を抉り出すために。
「二階堂ヒロが言ったように、多くの人がここで命を落とすような出来事が起こったのだろう。それが君に向くこともあったはずだ。しかし君は、それでも長い間、そうしてきた。
━━まるで、自身の傷を埋めるように」
メルルが、思わず息を呑んだ。
それを見逃す私ではない。キレイのパスに対して、メルルの傷に深く抉り込むように語りかける。
「そう、君は隠し続けてきたんだ。自分が信じた大魔女に利用され、人間への復讐として家族としてではなく、ただそこにいただけの実験動物としても使われ、最終的には君は大魔女にここに一人、置き去りに、いや......捨てられた。
君はその事実を受け入れられずに、その傷を隠すために少女たちと関わってきたんだ」
「違うっ......!私は、捨てられてなんか......!ちゃんと大魔女様は私に言い残してくれて、それに私と皆さんが関わっていたのは、同情、で!」
「君の聞いたその言葉は、本当に君に向けての言葉だったのかな。【なれはて】にならず、魔女因子を広げることもできない実験動物に、すっかり興味をなくして、大魔女がただ独り言を呟いただけだろう?」
「君は必要とされなかったからこそ、少女たちと関わり、尽くすことで必要とされたかった。そうではないかね?」
私とキレイ、二人同時に詰め寄って行く。キレイの相手を観察して、ただ真実を突き詰める発言と、私の相手を追い詰める発言。二つを重ねることで、少女を長年守ってきた殻を砕き、そして━━━。
絶叫、その後に......
額がひび割れ、額にもう一つの目が現れる。彼女のすでに限界を迎えていた心をむき出しにするように。
少女たちが、騒つく。
「な、なんだありゃあ......!?」
「あの姿は......!?」
「......メルルくんに何をしたんだ!」
私は少女たちに向き直り言った。
「これが......【魔女化】だ」
メルルは苦しそうな声を上げる。キレイがマーゴにしたように、少女の精神を限界まで追い詰めれば、魔女化は可能だとわかった。であれば、他のみんなも同じ手段で追い詰めればいい。
「━━メルルくん!大丈夫か!おのれ......!まさか魔女だけではなく悪魔までいたとは......!彼女をこんな姿にして......!」
「(キレイが悪魔呼ばわりされている......まあいいか)」
レイアが怒っている様子で私とキレイを睨む。彼女らしいその変わらぬ様子で、思わず頬が緩みそうになるのを止める。
「う......ぅぅ......あぁっ......!」
メルルは自身に手をかざし、淡い光を放つ。心配していたレイアが驚きの表情を露わにした。
「大、丈夫です......!【治し】ましたから!」
そう言って彼女は笑顔を浮かべた。
彼女の魔法は治療の魔法。魔女化したことによる魔法の強化で、精神の傷も治すことができるようになったのかと思わず驚愕する。
「ふ.......ふふ.......!酷い絶望です。今にも心がガラガラと崩れてしまいそう。でも........今更引けるわけ、ないじゃないですか......!」
彼女の決意は、既に固まっていた。
「たとえ私がただの実験動物でも......。この長い長い永遠のような時間。ずっと待ち続けてきたんです。たとえ心と体がバラバラになったとしても、大魔女様に合わないといけない理由があります。
それが今、私がここに存在する意味で、それが無くなったら壊れてしまうから。だから私は諦めません。大魔女様と再び会うまで!」
メルルは両手を広げ、笑みを浮かべる。
「なのでヒロさん、続けましょう。大魔女様を呼び出すための、儀式を.......!」
まずはメルルを魔女化させることに成功させた。道筋は見えた。残りは11人。魔女因子を活性化させ、大魔女を引き摺り出すまで、道は遠い。