愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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少女は、ただ一つ“半身”と相対する。


舞台を統べるもの

「......さっきから黙って見ていれば......!たとえメルルくんが魔女だったとして、それが何だって言うんだ!」

レイアが割って入る。

「......この状況で魔女の説明がされたのは、大変重要なお話だったと思いますけど」

「のあもそう思うー」

 

シェリーとノアが冷静にその言葉に言った。

「......とにかく!」

発言を潰されたが仕切り直した。

「これ以上の蛮行はやめてもらおう!」

 

「(相変わらず、だな。レイアは)」

発想が突飛で、周りの賛同を得られていない。しかしそれが彼女なりの正義で、私も救われていた。彼女であれば、【説得】も可能かもしれない。そのような穏当な話ではないが。

「わかった。いいだろう、君の話を聞こうか」

 

レイアは呆気に取られた表情になる。

「......な、なんだ、急に殊勝になって......!」

私は、嘘を重ねる。真実を交えた嘘を。前までは、言峰キレイが情報を握っているのであまり使えなかった手だが、今なら使える。

 

「私が求めているのは議論であり対話だ。私の目的はこの牢屋敷から全員で脱出し、みんなを救うこと......。私のすることに意見があるなら......君の言葉で話してくれ」

「......わ、わかった。任せてくれたまえ。それでは......語り合おうじゃないか!」

 

......あの時は、二つ返事だった。だが今は、レイアと私が、対峙している。否定されることを望んでいたのかどうか、私には分からないが......今の私にとって、こうしてレイアと話せるのがとても嬉しかった。

「(悪いがレイア。君の心を狙い撃つ)」

 

レイアが語り始める。

「そもそも、この牢屋敷からの脱出などはヒロくんの一方的な主張だ!君は明らかに異様だ。色んなことを知っていそうなのに、大した説明も行わずに議論を進めて━━。

さらには、キレイくんとも初対面のはずなのに随分と息がピッタリだ。つまり、キレイくんが君の共犯者。そして君が真の黒幕なんじゃないかな!」

 

「(私の共犯者は君だけだと言うのに......)」

それを口にできないことがどうにももどかしい。

そう思っていると、横から口を挟む者がいた。

「......ヒ、ヒロちゃんは......そんなこと、しないと思う......!たとえもしそうだったとしても......それをする正しい理由があるんだと思う......」

 

エマだった。酷いことをずっとしてきたのにも、私のことを、庇ってくれる。それだけで、心が温かくなった。

 

「【正しい理由】だって......?」

レイアが、そういうと捲し立てる。

「私だってそうだとも!私にはみんなを救うという目的がある!ここにいるみんなを守れるのは私だけだ......!私ならみんなを守れる!信じてくれ!」

 

私は口を開き、彼女の嘘を暴く。

「その言葉は嘘だ。それらしい理由付けをしているに過ぎない。」

レイアは驚いて目を見開く。

「君が本当に守りたいのは、自分の地位と外面だ。君はただ目立ちたいだけ......承認欲求に飢えたモンスターなんだよ」

 

「な、な......!何を根拠にそんなことをっ!」

図星のように狼狽えを見せている。その虚飾の仮面を早急に剥がすためにも、ここで深く傷を抉り、心の奥底を揺さぶらなくては。

キレイは口を出す気配がない。

キレイは基本的に情報を集め、相手の最も痛い部分を突き刺すやり方をしてきた。レイアの情報が、キレイにはない。だが面白そうに、こちらを見ている。

 

私はレイアの方を向き、言った。

「根拠はある。君は、世間に自分をアピールすることに執心してきた。その承認欲求で、これまで何人のライバルを蹴落としてきたことか」

私の露悪的な発言にレイアが言った。

「け、蹴落としてなんていない!」

 

「本当だろうか?君は芸能人だし、その立ち振る舞いを見ても裕福な家で育ったのが見てとれる......。

たとえ自身が手を下していなかったとしても、君に潰された人間は多いんじゃないかな」

 

レイアは、毅然と反論した。

「それとこれとはまた別の問題だ......!だいたい、それぐらいで諦めるなら、その人物はそれまでだったということでもある......!

私は正々堂々と努力して、舞台に立っていた!君が言っていることは根も葉もない誹謗中傷だ!」

 

彼女はとても、分かりやすい。こうまでして引っかかってくれる。心苦しくはあるが、その隙を狙わせて貰う。

「笑わせるね」

「な、何がおかしい!」

レイアのその発言に、私は言った。

 

「だってそうだろう?舞台で実力以外の力も使っていたのは、君がこの牢屋敷にいるという事実で証明できるよ」

レイアは狼狽える。私は、事実を告げた。

「さぞかし愉快だっただろうね━━【視線誘導】の魔法で、観客の視線を独り占めできるのは」

 

レイアは、図星を突かれたような声を上げた。

「君は人より優れていた。

なぜなら━━【魔女】だから」

「ち、違う......!わ、わ、私はっ......!そんなことは......!

 

レイアは動揺を隠せていない。彼女の心は無防備となっている。ここで、彼女が一番聞きたくないような言葉をぶつける。我ながら悪趣味な話だ。

 

「質問良いかな、二階堂ヒロ」

ふとキレイが、こちらに向かって言葉を投げかけてきた。

「牢屋敷には魔法を使える者が集められてると聞いた。では、その選定基準を教えて欲しい」

 

......何故とは言わない。私は話す。

「ああ、それは政府によって決められる。政府は、国民の中から魔女因子が高い少女を、完全に魔女化する前にこの島に送られるんだ。これ以上の説明は必要かな?」

 

キレイは首を振り、言った。

「なるほど。これで分かった。

━━━残念だが少女、君の願いは叶わない」

キレイは、レイアに向き直り、そう言い切った。レイアの顔がひきつるのが見えた。

 

「あ、悪魔め......!だんまりを決め込んでいたと思えば、急に何を言い出すんだ!」

キレイは眉を顰めながら言う。

「そう悪魔悪魔と言わないで貰いたいものだ。私は敬虔たる聖職者であると自負しているのだがね」

 

嘘だ、とも言えない。彼女の信仰心は本物である、それでいて性根が腐っているに過ぎない。彼女は言葉を続ける。

「君の願いは誰かに注目されたいというものだ。しかし、君は魔女候補として政府に危険視される存在だ。世界に存在してはならないものとして」

 

キレイは、場を掌握していた。

「政府は、徹底的に魔女という存在を隠してきた。だからこそこうした場に少女を集め、密かに始末するために」

「しま、つ......」

レイアの声は震えていた。

 

「氷上メルルの目的により、殺されずに済んでいるだけで。私たちが政府にとって危険視されている事実は変わらない。君は、このままでは舞台に立つことはないだろうね」

「......はは。そんな、バカな......」

 

語りを続ける。

「仮にここから逃げ出したとしよう。しかし、君は世界の敵として目立つこともない。裏で、密かに君を始末するために動く刺客に狙われる日々を過ごすだろう。その者も君個人を見ない。処分対象の一人としてでしか、認識しない。

━━断言しよう。君が日の目を浴びることはない。君がたとえ光に手を伸ばした所で、その光には届かない。ただこの場で、道端に咲く花のように生きるほかには、君に生きる希望はない」

 

それは、レイアの傷を抉り出す言葉だった。

「━━嘘だっ!!!そんなことは......ありえない......!私は、私はっ......!!もっと見てもらわないと......!そうでないと.......

━━生きる意味なんてないんだっ!!」

彼女の体が、変貌していく。

 

「(【なった】か......!)」

レイアの顔にはヒビが入り、目元には黒い星のような痣が浮かび上がっていた。髪は短かったのが、更に伸びていて......どこか危うい魅力を兼ね備えた姿へと変貌した。

 

「......そうだ。難しく考えることなんてない。邪魔をするなら......殺してしまえばいいんだ。それなら......せめて死にゆくその瞬間くらいは。

━━私のこと......見てくれるよね」

魔女化で殺意が暴走している。取り押さえようとしたが、そこでメルルが口を挟んだ。

 

「私に任せてください」

メルルはレイアに近づくと宥めるように声をかけ続ける。

「さあ......レイアさん大丈夫ですよ」

魔法を使う。レイアの顔が、だんだんと落ち着いてくる。

 

「これ、は......なんだか......気持ち悪いな......。数秒前の自分が別人だったかのような......自分が自分じゃないかのような感覚だ。

生暖かいけれど......とても不快だ。もう落ち着いたから、離してくれないかな」

 

メルルの魔法は、安全な魔女化には使えることを改めて知った。これなら、他の少女に被害が及ぶこともない。

「(しかし、言峰キレイ。改めて危険だ)」

レイアの求める物と、牢屋敷の情報の一つ。たったそれだけを聞いただけで、レイアを魔女化させるにまで追い詰める。

 

私が隙を作り上げ、キレイがその言葉の刃で相手に致命傷を追わせる。非常に不服だが、私と彼女はこうして戦う上で相性が良い。しかし油断してはならない。きっとキレイが仕掛けるのは、彼女の時だろう。心構えを決めておく。

 

魔女化し、落ち着いたレイアが話す。

「......どうやら私は【魔女】だったようだね。それにふさわしい姿に......むっ。ちょっと待ちたまえ。話が違う......!」

どこか取り乱した様子で.......

「━━美しい!!」

 

思わず、私は唖然として、思わず笑ってしまった。あらゆる意味でモンスター。そして何よりも彼女らしい。キレイの唖然とした顔も見て、どうにもおかしい。彼女もあのような顔をするのだと思った。

「化け物になるというからどうなることかと思ったが、こんなにも個性あふれる姿になるなんて......!」

 

「......ああ、私も......っ!?」

思わず言葉が漏れてしまった。油断した、キレイにのみ気をつけていたせいで。賞賛の声を聞き逃すレイアではない。私の方を向いて、嬉しそうな顔でこちらを見る。

 

「ヒロくん、その続きを言ってもらえないかな!君は私のこの姿を美しいと思ってくれているのだろう?さあ!」

「言うわけがないだろう......!!」

非常に残念というように、レイアは肩を落とした。しかし今までの私を見る目ではなく、私をファンと認識してしまったらしい。話をレイアが仕切り直す。

 

「こうなった以上、後ろ向きになっていても仕方ないしね。ヒロくんが言うには、魔女化することがこの牢屋敷からの脱出に繋がるらしい。

なら、ヒロくんに賭けるのが一番望みがあるということだろう!」

「魔女になったからって、開き直り過ぎですわー!?」

「ふふ!そう褒めないでくれたまえ!」

 

楽しそうな会話をしていた。

周りを見ると【化け物が増えた】という顔をしている。不信感が募り、議論にならなくなる前に、みんなの魔女化を進める必要がある。

残り必要な人数は10人。急ごう、自身が、そしてレイアがなれはてと化してしまう前に。

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