愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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言峰キレイは、人でなしであり、聖職者だ。


5日目-捜査時間-

また、新しい朝がきた。

いつものように、食堂へ向かおうとするキレイ。

だが、いつもの日常は、脆く儚く、崩れ去る。

 

「ああああああああ......!!!!」

少女、夏目アンアンの慟哭。

 

「なんで、なんでなんでなんでぇ.....!」

桜羽エマの嘆き

 

「みんな落ち着くんだ!

ダメだ......死んでいる.......どうして!!」

蓮見レイアの驚いた声。

 

「......漸く起こったらしい」

キレイは、生きる実感を以て、悲鳴のあった場所へ向かう。

 

━━━━━━

 

それは、芸術であった。

カラースプレーの塗られた真っ白なキャンバスの中

少女は1人その真ん中にて倒れていた。

 

お絵描きが大好きだった少女、

城ヶ崎ノアは死んでいた。

 

その身から流れただろう血の蝶に乗り

小さな蝶が辺りに飛び舞う。

 

好奇心旺盛に世界を映す目は

もう何も捉えることはない。

 

...それは、城ヶ崎ノアが描いた。

最後の作品のようにも思えた。

 

━━━━━━

 

ゴクチョーのアナウンスにより、

少女達はラウンジに集まった。

 

ラウンジに集まった12人の少女。

誰もが暗い表場をしている。

 

「エマさん、大丈夫ですか?

今にも倒れそうですけど......」

「ソファーに座った方が......」

エマの周りに2人、

シェリーとメルルが心配の言葉をかける

 

「大丈夫だよ。ショックなのは、

きっとみんな同じだろうし」

「犯人以外は」

シェリーの言葉に、エマが現実に戻される。

 

そう、この中に

城ヶ崎ノアを殺害した【魔女】がいる。

キレイ以外は、信じられないという表情だ。

 

「......犯人なんて、いるわけないよ」

そう呟くエマを否定するように、ゴクチョーが降り立つ。

 

「はぁ......起きちゃいましたね......殺人事件」

残念そうに、ゴクチョーが呟く。

 

「今夜、【魔女裁判】を開廷します。

今いる囚人の中から、必ず殺人犯を特定して下さい。その者は、【魔女】として処刑するので。

 

やすやすと死なない【魔女】の活動を

確実に沈黙させるための方法での処刑です。

かなり酷いこととか......しちゃうので

 

また、囚人全員への告知ですが。

特定ができなかった場合は、全員処刑とします。

私としても仕事が増えるのでやりたくないんですが。

もともと皆さんは、危険人物として捕えられているので...。

 

ただ主が、いや......。まあ牢屋敷側の気持ちとしては、

そんなのはあまりにも可哀想だと思っているんですよ。

だから投票で確実に【魔女】を選んでもらって

【魔女】だけを掃除しましょう

全員処刑措置はあくまで【魔女】を選出できなかった場合の措置となります」

 

「少し良いかね?」

キレイがゴクチョーに対して口を挟む。

 

「なんですか?説明の途中なんですが」

「牢屋敷側は犯人、【魔女】が分からないということで違わないかな?」

「ええ、ですからこうして魔女裁判で炙り出しているのです」

 

「...であれば、もし犯人とは違う人物を【魔女】として処刑しても

全員処刑は起こらず、その人物のみが対象となる。

━━━━━間違ってはいないかな?」

「まあ、そうですね」

「ふむ、どうもありがとう」

 

全員の間に、緊張が走る。

もし間違えてしまえば、自分の手で無実の罪を着せることになる。

それだけではなく、【魔女】が生き延びて、次の誰かを狙うかもしれない。

 

「まあ、最後になんですが。

捜査中に不正が起こらないよう、みだりに遺体に触れないようお願いします。

現場はそのまま保持して下さいね。

 

期限は、魔女裁判開廷のアナウンスが入るまでです。

業務中なら万が一気が向けば質問も答えますね……多分」

そうして、ゴクチョーは飛び去ってった。

 

各々が怯えている中、一番最初に発言したのは、レイアだった。

「こんな事態になってしまい、本当に辛いと思うが……私は、犯人を特定したいと思う」

 

「賛成よ。

私もいわれない理由で選ばれて死にたくないもの。

殺人事件の犯人を、きちんと【魔女】として裁いてもらうべきだと思うわ」

マーゴも、それに続く。

 

「ああ、みんな同じ気持ちだと思う。

時間はあまりない、手分けして捜査をはじめよう」

出入口に行こうとする二人を、エマは止める。

 

「ま、待ってレイアちゃん!

誰が犯人かわかったら、それでその子を処刑させるの!?」

「みんなを助けるためだ。

疑わしい人物も、目星がついている」

「え……!?」

 

レイアの眼差しは、ハンナに向いていた。

「遠野ハンナ。

───君が、城ケ崎ノアを殺したんじゃないか?」

「なっ……」

 

現場には足跡がなかった。

だからこそ、【浮遊】の魔法を持つ彼女が怪しいといった。

 

こうして、彼女たちはそれぞれが

城ケ崎ノアを殺害した犯人を捜していた。

キレイもまた、捜索に向かっていった。

 

─────

 

キレイは、ノアの死体を弔うために現場に向かった。

「主よ、この魂に憐れみを」

祈りを捧げ、現場の様子を見る。

 

キレイは、整理した。

推定犯行時刻は、夕食後から朝の発見時間帯。

ノアを見ている者がいれば、更に絞り込める。

 

凶器は、ラウンジに飾られ、盗まれていたボウガンの矢。

血が先端に付着していることからも明らかだった。

現場は被害者とアンアン共有の独房。

 

アンアンはカラースプレーによる健康被害で

医務室におり、現場にはノア一人だった。

蝶の絵は、犯人が書いたにしては多いため。

ノアの魔法によるものだと推定される。

 

血の臭いは、スプレーの刺激臭より隠されており、

“中を見ようとしなければ”、発見は出来なかったと思われる。

 

部屋の塗料は乾いており、昨日のうちに被害者により塗られたと思われる。

足跡はなく、被害者が動いた様子もない。

また、現場には鋭いもので傷つけられたような傷が

ボウガンの転がった方向と反対向きに転がっていた。

 

「...こんな所か」

一通り情報を整えていると

エマ、シェリー、ハンナの3人がやってきた。

 

「おや?先に来たんですねキレイさん!」

「あ、キレイちゃん」

「...また弔いですの?」

「その通り。神の元へと魂が送られるよう、祈っていた」

 

そうしてキレイは現場から離れて言う。

「今回、私は誰の味方でもない。

私は死者の無念を果たすべく戦おう」

「ま、待ってキレイちゃん!何か気になったこととかない?」

エマが呼び止める。

 

「気になったことか...ふむ」

キレイは、牢屋敷のゴミ箱となっているバケツから

ある残骸を取り出した。

 

「ここにボウガンの残骸があるのだが、なぜだろうか?」

「え!?それボウガンなの!?」

「あ、それ私です!構造を確認しようとしたら壊しちゃって!」

驚くエマと自白するシェリー。

ゴミ箱には前日からあったものだ。

 

「では、今回の事件にボウガンは関係ないってことかしら?」

「ああ、まずここまで壊れては直せない。力尽くで解体したね?」

「えへへ......照れますね〜」

「......次に、必要な部品がない。

誰かが持って行ったのだろうね。これでは使用は不可能だよ」

 

「なるほど...」

「...そういえば、ノア君を最後に見た時間が聞きたいのだが」

「う、うん。夕食の時間前には、楽しそうに絵を描いてたよ」

「なるほど、つまり夕食の時間には生きていたと...もう行きたいのだが、良いかね?」

「う、うん!ありがとうキレイちゃん!」

 

こうして、キレイは現場から離れて行った。

━━━━━━

娯楽室にやってきた。

「お、キレイっち」

「ここで何を?」

「配信の確認〜。ムカつくよね〜...

あてぃしが配信してもキレイっち以外殆ど見ないくせに、レイアとコラボしたら皆見てさぁ...!!」

 

「私は君の配信をかなり好んでいるのだがね...」

「それはありがと。で、キレイっちは捜査?」

ココがそう尋ねる。キレイは

「君の魔法の力を借りたい。配信時、それぞれがいた場所を」

 

ココは少し考えて

「分かった。キレイっちには助けられてるしね。

これで借りはチャラで。まずキレイっちは外の畑」

「ふむ、合っているね」

「エマとアンアンは医務室で並んで見てて

シェリー、ハンナ、メルルと、マーゴも自室で見てた。

ナノカとアリサは見てなかったけど確認できてる」

 

「そして、レイア君とミリア君の3人で配信をしていたと」

「そうそう。部屋戻る時会ったでしょ?」

確かに、外からキレイが戻る時に話していたのを見ていた。

「...それで、何の役に立つわけ?これが」

 

ココは不思議そうに尋ねる。

「無論だとも。これで配信中には皆アリバイがあったと証明される」

「なるほどね〜あ、あてぃしは配信後に事件が起こったって思うんだけど」

「...ほう、その根拠は?」

 

ココは調子良く語りかける。

「だってさ?あてぃしらって帰る時ノアの部屋前通ったじゃん?

そん時足音がした気がしたし」

「それは私の急ぐ後ろからの足音ではないかな?」

 

「...そう...かも?」

ココの調子が止まる。

 

「で、でもでも!あんな状態になってんならあてぃしが見てないとおかしいじゃん!臭いだってする筈だし!!」

「ノア君の部屋はスプレーの刺激臭で満たされている。同室のアンアン君の体調が崩れる程にはね。君の鼻は嗅ぎ分けられたかい?」

「ふぐぅ......!?」

ぐうの音が出た。

 

「...でも!!あれは見てないとおかしいだろ!?キレイっちだってそこにいた訳だし!」

「君達はレイア君を見ていて、部屋を覗き込む様子は無かったと思うが...それに私もまっすぐ君達を見ていたしね」

「......!?」

ついにぐうの音すら出なくなった。

 

「......さて、これ以上に言うことはあるかね?それを正面からねじ伏せる準備は出来ているが」

「......い」

「い?何だね?」

 

「━━━━いじわる!!!」

そう叫び、ココは娯楽室から逃げ出した。

「...ふふ」

そのやりとりを、キレイは楽しそうに噛み締めていた。

...そして、アラームが鳴る。

【魔女裁判】が、もうすぐ始まるようだ。

 

「どうやら話し過ぎたらしい。情報を更新しておこう」

【死亡推定時刻】

皆の夕食が終わる20時前にはエマによりノアの生存が確認されている。

21時から22時には、ココの【千里眼】と配信より全員にアリバイがある。

違反者の報告もないので、夜時間に出歩けた者はいなかった。

よって、20〜21時の間が、死亡推定時刻と思われる。

 

━━━━━━

キレイは、【魔女裁判】へと向かう。

キレイは、ある規則を反芻する。

「...【魔女】はいずれ、【なれはて】となる」

 

そう、何度も死ぬような傷を負っても復活して

魔法すら使えない異形となる。

 

...キレイは、自身の中で選択に迫られている。

 

 

キレイは犯人を━━━━━

▶︎“人”として、終わらせる。

・“魔女”として、終わらせる。

 

答えはキレイの中で既に決まっていた。

犯人には罪がある。

しかし、その罪を裁かれる機会を失われることは

キレイの、聖職者としての心が許さなかった。

 

...こうして、言峰キレイの魔女裁判が、今始まろうとしていた。




【魔女図鑑:人物】
[ことみね きれい]
囚人番号671番。  誕生日:12月28日
15歳
【魔法】奇跡
一つのリンゴを全員に行き渡るように渡す。
水をぶどうジュースに変えるなど
神の子と近しいことができる。
それだけではなく、実現可能な範囲ならどんな願いも叶えられる。

敬虔なるシスター、目が死んでいる。
魔女裁判において、犯人を人として終わらせることを選んだ。
それは、自身が聖職者としての決意である。
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