愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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次の魔女候補を探す。これまであった事件で、動機がはっきりとしているものを狙った。


偽りの生まれる刻/愛知らぬ月下美人

私がこれまで見聞きした経験、情報、知識。それを活用して、新たな魔女を覚醒させる。

その中で、明確にトラウマを刺激できそうな人物は、一人。自身の絵を見られたから、アンアンを殺害したノアだった。それは私の記憶にしか存在しないが、上手く使えばやりようはある。

 

私はキレイに対して言った。

「今回は、私が決める。君はそこで見ていればいい」

「......なるほど。決め手があると言うことか。ではお手並み拝見と行こうか。今回私は、聞き手に回るとしよう。多少口を出すやもしれんが」

キレイはそう言って目を閉じた。

 

私は、向き直り言った。

「......ノア」

ノアは驚いた様子でこちらを見た。

「わっ!?......の、のあは悪い子じゃないよ......?」

恐る恐ると言った形でノアがそう言った。

 

「それはどうかな。君には人に言えない秘密がある......そうだろう?」

「な、なんのことかな〜」

ノアは誤魔化しにかかる。

「.......私に嘘は通じない。正直に、話してもらうよ」

 

ノアは、あの時のように、覚悟を決めた時はなかなかの役者だ。だからこそ、冷静になっていない今のうちに、その感情を揺さぶる。

「まず、君の正体は正体不明のストリート・アーティスト、【バルーン】だ」

ノアは自身の正体を明かされ、聞いていたココがそれを知って驚いていた。

 

「そ、それは......その、その.......」

「そして、世間に評価されたその絵は魔法で描かれたもの。君が描いた絵とは言えない.......違うかな?」

ノアは酷く狼狽えたような様子で、しかししっかりと私を見据えて反論していった。

 

「ち、違うよ!?のあ、お絵描き大好きだもん!!」

狙い通り、釣れた。

「.......その通り。君は絵を描くのが大好きだったね」

前の時もそうだった。絵を描くのが大好きで、止められなくて、それで喧嘩をしてしまった。

 

ノアは肯定されると思わなかったのか唖然とした。

「というわけで、ここで描いてみてくれないかな。大好きな絵なんだ。描けるだろう?」

ノアは目を見開き、緊張した様子になった。

「もちろん、出来栄えは気にしなくていい。ただ君の手で描いてもらえれば、それでいいんだ」

 

「そ、それは............」

酷く言葉に詰まった後、ノアは言い切った。

「.......そんなの、しない!絵を描くのは.......のあの、勝手だもん.......!」

まるで子どもが拗ねるように言った。

 

「.......なるほど。二階堂ヒロ、これは厄介だ。拗ねた子どもはテコでも動かない。対話を拒む相手には、鋭い一撃を加えるべきだ」

横からキレイがそう言ってきた。その通り、いくらお願いをしたところで、見せてもくれないだろう。だからこそ

私は自身の知っている情報と合わせて、今の取り乱しているノアの心を狙い撃つ。

 

「君が絵を描くのが好きだと言ったから、私はそれを肯定しただけなんだけどな。君にとって、絵を描くことは苦痛なのかい?」

「そ、そんなことは.......ないけど......」

絵を描くのが好きと言う気持ちを、ノアは否定できない。我慢ができないのだ。それを私はわかっているからこそ、そう言った。

 

「なら見せてくれてもいいじゃないか」

それに、ノアは強く反応した。

「だ、だめ......!これは......その......!

だれにも.......見せちゃダメだから.......」

釣れた。

 

「ああ、申し訳ないけれど......。ノア、すでに君の絵は、私が見てしまった」

「え」

ノアが、呆然とする。

 

「私は【死に戻り】の魔法を持つ......。君が手描きで描いた絵を見る機会があったんだ」

私は、ノアに告げた。思ってもいないことを、平然と。許されるつもりは、毛頭なかった。ただ、その傷を抉るために振るう。

 

「君の絵は......よくわからなかったね。視点もバースもバラバラで、情熱も技量も何もかも伝わってこなかった。

それが【才能のなさ】ってやつなのかな」

今はその痛みを、受容してくれと祈る他なかった。

 

「う......あ......。あああぁぁぁ〜〜ん!!!」

姿が変貌した。毛先は色鮮やかな色だったのが、全ての色を混ぜてしまったような黒へとかわり、顔にも黒い染みのようなもの、目の下には黒い絵の具が雨で落ちたような模様ができていた。

 

「ヒ、ヒロちゃん......!いくらなんでも酷いよ......!」

「キ、キミには人の心がないのか......!?」

「中々の手際の良さだ。ようこそこちら側へ」

エマとレイアから非難を、そしてキレイからは評価を受けた。非難は甘んじて受け入れるつもりだったが、キレイの評価とその言い方に思わず顔をしかめてしまった。

 

「もう......やだぁぁぁ!!!」

全ての色を混ぜたような汚い黒い瞳から、色とりどりの涙が滲み出て溢れていく。ノアの魔法だろう。

「メルル!!」

「は、はい......!!」

「ううぅ〜!う、うぅ......ひっく......ぐす......」

 

なんとか泣き止み、ノアの魔女化も完了させた。しかしそこで、発言した者がいた。

「━━面白い見世物だったわ、ヒロちゃん」

宝生マーゴだ。笑みを浮かべてこちらを見る。

 

「魔法を使った変身ショー?それともお涙頂戴の三文芝居かしら。でも......そこの子と違って、私は飽きてきたわ。私たちを巻き込んでまで、こんなことをする意味......本当にあるの?」

彼女と過ごした期間は短かったし、気まぐれな部分がある人間なのはたしかだ。しかし、今こうして話したということは、裏があると見て良いだろう。

 

「......そうだね、マーゴ。君も見ているだけじゃ暇だろう。

━━一緒に踊るかい」

マーゴは笑みを深める。

「.......面白い子ね、ヒロちゃん。でもレディーへの誘う文句としてなら、もう少しスマートな方が好みよ♡」

 

彼女の言葉は、挑発━━議論という戦場への誘い。私の持つ情報を引き出して、自身の身の振り方を決めようとしている。逆に言えば、私に手を貸すかを迷っていると言うこと。

 

「.......あなたに私のエスコートができるかしら?ヒロちゃん」

「.......もちろんだ。君が望むものを提供しよう」

ならば、信じさせてみせようじゃないか。相手がたとえ、詐欺師であろうとなんであろうと。

是が非でも、宝生マーゴに協力してもらうために。

 

マーゴは語り始める。

「おおよその話は、これまでのお話から推察できるわ?でも、私がヒロちゃんに聞いておきたいのは【真実の担保】ね。あなたは何を持って自分の言葉が真実であると保証するのかしら?」

 

真実の担保、難しいことを言う。

「ここまでこの裁判で君が見聞きした事象では、満足できないということかな」

「全く信用していないとは言わないわ。これまでの現象も見たもの。でもオールインまでの信用はしていないの。

極端な話、全部が嘘なんてこともあり得るわ」

 

マーゴは人を信用しない、その上に嘘を見破ってくる。

「......君なら、そんなことはありえないと、理解できると思うけどね」

だからこそ私は、こう返した。

 

その言葉に対してマーゴは問いかける。

「あなたに、私の何がわかるというの?」

わかっているとも。あの時の処刑間近に叫んだ彼女の言葉は、そして何よりもあの涙は本物だった。

 

「君は......愛ゆえに殺した」

マーゴは眉を顰めた。

「.......どういう意味かしら」

 

私は話した。

「私が経験した世界の話だ。君はとある人物を殺した、そこで話して、そう答えたんだよ。

【愛していたからこそ殺したのだ】と」

 

マーゴは顎に手を当てて、真偽を確かめる。

「なるほどね。確かに.......私なら、言いそうね♡

でも、そんなの話術の域を出ないわ。愛憎と殺人は密接に関わっているのだもの。愛は人を殺す......所詮は一般論よ」

 

信じては貰えなかったようだ。そう思っていると。でも、とマーゴは付け加えて、こう話し始めた。

「ヒロちゃんの言葉は嘘じゃないとも思っているの。嘘を付く時って、クセが出るものだから。

だから、ヒロちゃんの話を詳しく聞かせて欲しいのよ。あなたの知ってること、もっと私に教えてちょうだい?」

 

確かにと思った。自らの経験した情報はある程度共有した方が良いのは事実だ。それに、そういう時にこそマーゴが油断してくれるかもしれない。

私は、語り始める。

 

今朝目覚めるまで私はこの牢屋敷で暮らしてきたことを。そこで3つの殺人事件と、4人の犠牲者。それを起こしてしまった1人がマーゴだと。

魔女候補たちは、時間が経てば経つほど排他的となり、他者を殺害する刃を知らぬ間に研ぎ続ける。そして、それに気がつくのが人が死んで、手遅れになってからのことだったと。

 

.......話している間にも、マーゴはしっかりと問いかけを行って、情報を集めていた。キレイはいつものように静かにそれを見据えていた。今回は見る側に回って楽しむようだ。

私は話を区切り、本心を語る。嘘を重ねる彼女に対して、嘘で対抗するのではなく、真実のみを語る。嘘には真を......前周の魔女裁判で、二度もやられたことだ。

 

「......それでは、いけないんだ。我々は、全員が生きたまま魔女にならなくてはならない。そうでなくては生き残れない。

だから、私に協力して欲しい」

 

マーゴは目を細めて私を見やる。

「......手放しに信用できる話じゃないわね。もしあなたの言うことが正しいのなら、あなた自身はどうだったのかしら。

誰もが殺人衝動を抱くのであれば、あなたも人を殺したくなったということでしょう?」

 

それに、真摯に答える。

「私は、殺すには至らなかった。そして最後は、自らの手で命を絶ったんだ。......生きているみんなと再び会うために......!」

マーゴの目が、さらに細くなった。

 

「自殺......ね。あなたの話では私たちは、殺し合っていたのよね?なら、恨みこそすれ、信頼関係なんて微塵もないはず。でも、あなたのその発言......信用できないわ。あなたの言葉は、理屈が通っていないもの」

 

違う。これは理屈じゃない。前は、皆をまとめ上げるための偽証として吐いた言葉。それを、今なら心の底からそうだと言える。私は、今湧き立つこの感情のままに、語る。

「マーゴは.......嘘つきだ」

マーゴの目が見開いた。

 

「ナノカは何を考えているかわからない。アリサだって愛想はなく反抗的。ココは口が悪い。シェリーは言う事を聞かない。ハンナは直情的、レイアは自分のことばかり。キレイなんてこの状況を誰よりも楽しんでいる」

 

名前を呼ばれた面々が反応する。

「誰も彼も、本当にみんな手のかかる。

......だが、だからと言って、ここで死んでいい人間などいない。私たちが犠牲になる必要なんてない。私たちは......自由に生きるために、此処から出ていいんだ」

 

まっすぐ前を見据えて、私は言葉を綴る。

「そのためにはみんなの協力が必要不可欠だし......。こうして話せば、協力してもらえると思っている。

私は━━みんなを、信じているんだ」

「......ヒロちゃん」

 

思わずと言った形でエマがぽつりと言った。私は、エマから見て変わったのだろうと思う。マーゴは、反論する。

「.......そんなの、欺瞞だわ。本心で何を思っていても、口でならどうだって言えるもの。あなただって裏切るかもしれない。......それは、私も一緒。あなたが私たちを信頼しているなんて......嘘よ」

 

マーゴは、今取り乱している。その証拠に、私の本心が届いていない。彼女は、人に寄り添われたとき......きっと、それを受け止められないのだろう。自身の知る愛との違いに対して。それが、彼女の犯行の理由だった。それを暴いたのが、今嗤っているキレイだ。

 

「(......利用するとするか)キレイ、私の発言は、おかしいかな?“聖職者”としての、君の意見を聞きたい」

キレイは真面目な顔で、こう言った。

 

「特段、おかしな話ではない。教えには【隣人愛】という言葉がある。自身のように他者を愛すること。苦楽を共にし、過ごしてきたからこそ、それを抱くというのも、あり得る話だ」

「━━!」

マーゴが思わず息を呑む。

 

「ああ、そうだ。その通りだ。私は......みんなのことが大事で、1人たりとも、失いたくない。それは、君もなんだ、マーゴ」

「......やめて」

「私と共に、来て欲しい」

「......やめて!」

 

拒絶の言葉が強くなる。愛を恐れぬ彼女に対して、私はこの言葉を告げる。これは、紛れもない嘘であったが。

「......【愛している】よ、マーゴ」

彼女は、酷く取り乱した。

 

「やめてよ!!もう......やめてよ......!私が......何をしたっていうの.......!嫌よ......!勝手に私のことを━━!

━━【愛さないで】!!」

 

その姿は、あの時と同じように。しっかりと【魔女】と化した。私はメルルに対して治療を呼びかけようとして......キレイに止められる。

「NOだ。宝生マーゴに対してそれは毒になる。なれはてになってしまうぞ。まあ私はそれでも構わないが......」

 

マーゴは首を縦に振って。

「......あなた、人をよく見ているのね。ええ、大丈夫よ。耐えられないほどじゃ......ないわ」

「(......なるほど、メルルのように人に寄り添うことが、彼女にとってのストレスになってしまうのか)」

それを見抜くのが、どうも侮れない。油断はしない。

 

「.....意地悪ね、ヒロちゃん。あなたにとって私は目的を果たすためのコマ......最初からこうやって、苦しめるつもりだったのね?」

「......そうだ。私は君に、嘘はつかない」

 

マーゴは、小さく微笑みを見せる。

「......そう、ありがとう。......嘘ついたら、殺しちゃう所だったわ」

「......それでこそマーゴだ」

本心から、そう言った。

 

「.......ふふ、いいわ。そうでなくっちゃ。

覚えてなさい?いつか後悔させてあげるから」

「......ああ、その時はよろしく頼む」

 

私は皆を見る。

メルル、レイア、ノア、マーゴ、そして私。

残る必要人数まで、後8人。中盤に、差し迫る。

 

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