魔女化した少女は5人。話は進む。
「(そろそろ目的を共有してもいいだろう)」
中盤に差し掛かった今、共有するべきだろうと私は思った。そうして私は語り始める。
「君たちにはここで、私の目的について話しておこう。私は、君たちを魔女化させようとしている」
どよめきが起こる。
「私のこれまでの話の、破滅的な流れの根本は、黒幕である【大魔女】によって引き起こされたことだ。今の流れは、大魔女の手のひらの上。
私は君たちを救うためにここにいる。だからこそ、13人の【魔女化した少女を集め、大魔女を呼び出す】━━それが私の目的だ」
「━━二階堂ヒロ」
私の発言に、口を挟む者がいた。
「あなたがとても多くのことを知っているのはよくわかったわ。だから......私はあなたの話を聞かなくてはいけない。教えてちょうだい。......あなたが知っていること、全てを」
彼女には、強い目的がある。だからこそ、強敵だ。心して挑み......彼女の力も借りるべきかもしれない。ナノカは語り始めた。
「単刀直入に聞くわ。この事件の【黒幕】である大魔女......あなたに殺せるの?」
彼女の目的は復讐、それを聞くのは当然だろう。
「私が持っているのは、死ぬ前に見聞きした情報だけで、全ての情報を知っているわけではない。だから確実な情報は、ない」
本当のことを言うと、ナノカは目を閉じた。
「......論外ね。なら、私はべつにあなたに協力する理由がないわ」
確証はない。だが、歩みを止めるわけにはいかない。彼女を騙すことになったとしても。私は、彼女が最も関心を得るだろう話をすることにした。
「ナノカ。私のやり方であれば......。君の家族も、救うことができる」
ナノカは、息を呑んだ。
「もちろん、この牢屋敷にて、
【看守】となってしまった君の【姉】もだ」
ナノカは私を強く睨んだ。
「二階堂......ヒロ......!そこまで言うからには、あなたは救う方法に何か心当たりがあるのね?」
私は、確証はなかったが心当たりならあった。
「心当たりなら、十分にあるさ。メルルは、【なれはて】は魔女因子により肉体を蝕まれた者と言っていた。であれば、残留した魔女因子という毒を取り除けば、治療は可能な筈だ」
「本当にそうかな?」
そう口を挟んだのは、今まで黙っていたキレイだ。
「そろそろ私に牙を向けてくると思ったよ。キレイ」
大人しく協力するはずが無い。私はキレイに向き直る。隙を見せてしまえば、そこから私を喰らいにくる。
「では、話させてもらおう。君にその確証がある筈がない、それに、私の知りえるものでは、魔女因子を取り除くと同時に「【洗礼詠唱】君が言いたいことはそれだろう?」......それも知っているか」
キレイは目を細める。
「心当たりは、君のその持つ魔法で得たよ。君が目の前でなれはてと化した少女に対してその魔法を使い、その少女は最後に涙を流した。怪物となった者が最後に、心を取り戻したんだ。だからこそ、【魔女因子】を取り除くことができれば、それが達成できる可能性だってある」
それは、マーゴの処刑の時の、あの涙だった。私はソレを思い浮かべて、そう言った。
キレイは毅然と反論する。
「では君も見ただろう?あの魔法では心までは救済できても、命まで取り戻すことは確実に不可能だ」
キレイは、私を試しているようだ。ならその挑戦、真正面から叩き切ることにしよう。
「君のその魔法は人工的に作られた魔法だ。
【なれはて】の魔女因子と肉体を離解し、主の元へと送り届ける魔法。君はそう言っていたね。
その魔法の主な目的は、【なれはて】の不死性を失わせて殺すことにある。魔女因子と共に肉体も離散させ、確実に殺すための魔法だ」
「その通りだ。【洗礼詠唱】は肉体すらも粒子と変える。だからこそ肉体も何も残らない。秘匿の意味でも優れている。では君は、何を考えている?」
私は答えた。
「メルルの話では、大魔女はその身を魔女因子に変えた。つまり私の目的である大魔女が顕現する際、体の構成要素は魔女因子となる。私たちの魔女因子を取り込むことでね。
君の魔法で、肉体と魔女因子を分離させることで精神が元に戻ることはわかっている。魔女因子が取り込まれれば、残りの肉体と精神が残る」
キレイは深く考え、言った。
「.......反論が潰されたようだ。確かに君の言う通り、私も目の前で最期に涙を流す者を何度も見ているよ」
キレイは、探究者だ。謎や矛盾があればそれを指摘する。なら、しっかりと答えを出すことによって、納得させる。
「君は私を苦しめたかったようだが、そうはいかない。君のやり方には何度も痛い目を見せられたからね」
「私はただ、君の答えを聞きたかっただけなのだがね。その時の私はどうやら、気になることで話を聞いたらしい」
私はキレイに改めて言った。
「今は私に協力しろ、言峰キレイ。君の望むものなら、この後いくらでも見ることになる」
キレイは笑って返した。
「よろしい、最凶タッグここに結成というわけだ」
私は改めてナノカに向き直る。
「さて、心当たりは私は提示した。大魔女が顕現する際に、魔女因子が取り込まれることになるだろう。そうなれば君の姉も一緒に救うことになる。それが私の答えだ。私だけではなく、証人としてはキレイもいる」
ナノカは首を横に振る。
「納得できないわ。あなた達が最初からこれを企んでいて、内通しているって言う線も否定できないもの」
流石に警戒心が強い。だからこそ、私はこう言った。
「では、君の魔法でキレイの過去を、そして私の過去を見てみたらどうかな?私とキレイは先程会ったばかりで、裁判前に交わした言葉も少ない。それで信じてもらえるのだとしたら、安いものだ」
ナノカの目が大きく見開かれた。
だがナノカは苦しげにそう言った。
「......あなたの示す道は......タチの悪い幻覚だわ。大魔女が復活したからと言って、どうすると言うのよ」
私は、覚悟を示す。
「大魔女は、私が倒す。そして、君の姉を救ってみせる。決して諦めない。だからこそこうして私は、死に戻りやってきた。だから君も、私を信じてほしい」
「......あなたでは、無理よ」
そうぽつりと言った。
「私は、大魔女の力を、幻視したのだから」
決戦となるだろう。しかし、今の私には問題があった。ナノカが殺人を犯す要因となったのは、姉だ。
しかし、肝心のトラウマが、私にはわからない。私がナノカに対して知っている、関連していそうなのは......あの寝言。
━━ おねえちゃん...待っててね......おねえちゃんを、酷い目に合わせた奴......みーんな、私が、やっつけるん......だから
私は記憶にあるキレイのIDに対してメッセージを送る。ナノカのトラウマがなんなのかを、探りたいと。あの時の医務室でナノカが話していたことを、記憶の限り送りつけた。
ナノカは、話し始める。
「私はここに来てから、この島の過去の光景を幻視した。そこで見えた光景の意味がなんなのかわかっていなかったけれど。あなたの話を踏まえれば、それが大魔女の力だった。
私たちの大元の魔法が、彼女によって与えられたもの。だからこそ、あなたでは到底大魔女には敵わない」
「それをどうにかするのが、私の役目だ」
「......いい加減にして」
苛立ちを露わにして、ナノカは言った。
「大した戦力にもならないあなたが、大魔女と戦って勝てるわけないでしょう。戦いにもなりはしない。ただ無駄に殺されるだけよ」
そこに、キレイが反応した。
「君は、随分と優しいようだ」
ナノカは眉を顰める。
「......急に、何を言うのよ」
「君は、先程二階堂ヒロを突き放すような発言をした。そこには事実もあるが、二階堂ヒロを、いや違うね。私たちを巻き込まないように、わざと突き放しているね?」
ナノカは首を横に振る。
「二階堂ヒロの魔法は【死に戻り】。彼女が何をしたところで私たちの戦力になりはしないわ。なら戦力として数えない方がいいもの」
そこにキレイは話す。
「人数が多いに越したことはない。それに彼女の魔法であれば、万が一の時の保険にもなり得ると思うがね。多くのものを抱えて来た彼女にとって、それくらいはしてくれるだろう」
「っ......それ、は」
ふと、スマホに返信が来た。
『報告だ。恐らくだが、君が多くのものを抱えて来たことに対して反応が強い。......君が死ぬことを、良しとしていないようだ』
......やってみる価値は、ありそうだ。
「ああ、何かあった時には、私が身代わりになろう。何か手遅れになった時に、私は死んでやり直す。私は、何があっても君たちを救う」
「━━やめて!」
感情を露わにして、ナノカが叫ぶ。
「どうして......どうしてあなたたちはそうなの!?誰が助けて欲しいなんて言ったの!?私がいつ頼んだのよ!?
勝手に守って、助けて、犠牲になって......!そんなに私が頼りないの!?私じゃあ、役に立たないの!?」
ナノカは、私と誰かを重ねている。それが、誰なのか......私には今理解できた気がした。
「もう一息だ二階堂ヒロ。手段を選ばず、黒部ナノカの傷を抉り出すといい。過去の後悔による傷は、中々に芳醇だぞ?」
嗤って、キレイが言った。私のやるべき方向性が見えてきた。私は、思わず剣を握る手に力を込め......覚悟を決めた。
「......ああ。君の説得は失敗か」
私は、自身の体を切り裂いた。
「ぐぅっ......!?」
「な、何をしているの!?」
「ヒ、ヒロさん......!」
ナノカとメルルの心配する声に対して私は、笑って言った。
「【死に戻る】んだ。君の説得に失敗したのであれば、もう一度やり直すしかない。もう一度、何度だって、君たちを助けるために」
今の私は魔女。死ぬことはない、これは自傷だ。だから問題がなかったが...一つ、気になる点があった。
「(......この感覚、あの時)」
今は考えている暇はない。
......私のやり方は、合っていたらしい。
「━━やめなさい!!どうして、どうして......!」
ナノカの顔に亀裂が走る。首に黒い紋様が自身を縛るようにでき、目の下からは後悔が滲み出るように黒い涙のような何かが滲んでいる。
「遺された人の気持ちも━━考えてよぉっ!」
心からの叫びに、胸が痛くなる。
「安心したまえ。二階堂ヒロは魔女だ。あの程度は回復する。メルル君、今回は頼んだ」
「は......はい!」
私はナノカに対して、謝った。
「すまなかった。君を魔女にさせるために私は、一芝居打ったと言うわけだ。主役にもなったことがあるんだ。どうだったかな?」
「......卑怯だわ、あなた」
「だが、私の言葉に嘘はない。必ず、みんなを救ってみせる」
メルルの治療もあって、すっかり傷も塞がった。残る魔女候補は残り7名。キレイの襲撃も防いだ今、このうちに大魔女への道を整えよう。