愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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全てを見通せる目を持ちながら、現実から目を逸らす少女


幼き最後の少女

痛みもなく、傷がすっかり塞がった頃。

「......つーかさぁ、なんなんその......大魔女とか!あてぃし全然聞いてないんですけど!?【魔王を倒す勇者】とかそういう話?

そういうサムいのはあんたらで勝手にやってよ!そういうのって警察の仕事だし、あてぃしら関係ないし!......うちに帰してよ!」

 

「(うるさいのが騒ぎ出したな......)」

「......【逃避】ね」

マーゴがポツリと呟いた。その後語り始める。

 

「わかる?ヒロちゃん。彼女は逃避行動を取っている。恐怖や不安から逃れるための、心の防衛機制よ。ココちゃんだって、この今の状況が異常だってわかってはいるのよ」

 

「だが、それを理解しようとせず、目を背けている。君にもそう言った経験はあるのではないかな。見たところ君は、自身の信じるものにのみ従う面が強そうだ。その後悔を、沢渡ココも抱くことになるだろう」

「ええ、だからこそ。無理矢理にでも瞼をこじ開けて、前を見せてあげなきゃね♡」

 

キレイはその発言に乗っかり私を刺してくる。確かにその通りだ。私はエマから目を背け続け、結局謝ることもできなかった。

「......助言かな。礼を言っておこうか」

「あら、そんなつもりはないわ」

マーゴは、そう言って笑いかける。

 

「ただココちゃんがあなたに泣かされてる姿が見てみたいだけ♡」

「同意見だ。君とはいい酒が飲めそうだ」

悪趣味なのが2人いる。

 

「あら、私のはあくまで趣味だけど、あなたにとってのそれは生きがい。その違いは大きいわ。その破綻した性格と、聖職者としては真摯なその姿。どんな人生を送ってきたのかしら♡」

「ふふ、ご想像にお任せするとしよう」

2人とも表面上は笑顔だが腹の探り合いが始まっている。頭を抱えながら私は言った。

 

「今は魔女を増やすことが先決だ。その腹の探り合いは後にしてくれ」

 

「あら、ごめんなさいヒロちゃん。こうしたお話って案外楽しくてついね?じゃあ最後に、私たちに許されるのは、ヒロちゃんの計画に賭するか......他の道を考えること。

この局面での降りは、絶対に許されないの」

「まずは勝負の場に引き摺り出すことが先決だ。私もできる限り沢渡ココを追い込むとしよう」

 

2人の発言に私は頷く。

「......なら、私に任せておくといい。後悔はさせない」

マーゴとキレイは満足そうに笑う。しかし苛立った様子でココが話を遮ってきた。

 

「バケモン同士と悪魔、3人してなにごちゃごちゃ言ってんのさ!とにかくあてぃしはあんたらなんかの話......絶対聞かないからっ!!」

ココのその言葉にキレイが言った。

「ああ。今は君の意見を聞こうじゃないか。君は今何を思い、何を考えているのか、君の話が聞きたい」

 

まっすぐ見られ、ココはたじろぐ。

「な、なんだよ急に......!その手には乗んないからな!さっきのヒロっちみたいにあれやこれやとバケモンにする気なんだろ!!

もういい!あてぃし帰るから!!こんなところにはもういられないっての!」

 

私はそれに反論する。

「そもそも出る手段もないと思うが......」

「んなわけないっての!絶対なんかあるに決まってるし!あてぃしは帰らないとダメなの!お前らとなんか遊んでる暇なんてないんだよ!わかったならこっち見るんじゃねー!!お前らキモいんだよ!!」

 

前を見ようとしないココに私は、強く言い放った。

「現実を見るんだ!!」

「うっせー!あてぃしが何見ようが勝手だろ!見たいもん見て何が悪いのさ!」

私は懸命に呼びかける。

「それでも......真実から目を背けたらダメなんだ!」

「......やだってのっ!!」

さらにココはヘソを曲げた。

 

「前も言ったと思うがああいった子どもはテコでも動かなくなる。その一言は余計に拗ねるだけだぞ」

「誰が子どもだ!ふざけんな!!」

確かにキレイの言う通りだ。私のその一言はココの意地を更に固くさせてしまった。逆効果らしい。だが、今の私の手札に......。

 

「......なら私が見せてあげようか」

横からそう、声が聞こえた。

「......レイア?」

レイアは笑みを浮かべて、ココを見据える。

「さあココくん......。

【こっちを見るんだ】」

 

「......っ!?な......なんだよ......これ!」

ココは戸惑いながらも、レイアから目を離せなくなっている。それに混乱している様子だ。そこにレイアが話す。

「【視線誘導】.......。私が使える魔法さ」

「は.......はぁっ!?」

 

「(強制的に、前を向かせている......!?)」

ココは狼狽える。

「ちょ......!な、なんだよお前!キモ!あてぃしに指図すんなよ.......!」

レイアは毅然として答えた。

 

「指図じゃないよ。私は、君を導きたいんだ。顔を上げ、前を向いて、

そして未来を目指す。それが正しい人生の向き合い方だ。

君の眼前の視界はすでに開けている。いつまでも後ろを向いていてはいけない!さあ、現実を見ようココくん!私が君の道標となろうじゃないか!」

 

ココは目を逸らせず、涙を流す。

「う、うぅ......!あてぃしだって......わかってるよ......!お前らの言うこと......きっと、正しいんだと思う.......。でもじゃあ......あてぃしはどうしたらいいっていうんだよ!」

ココは話を聞く気になったようだ。

 

「魔女化による魔法の強化。視線誘導、あの魔法の本質はそう言ったものらしい。視線と人の心理は密接に関わっている。特段おかしくはない」

キレイが、そう言った。

 

「さて、君が仲間に...いや、魔女にした者は魔法が強化されている。こちら側に着いている以上、頼りにするのもありだろう」

そう言ってキレイはココに向き合う。

 

「では、改めて君の話を聞こう。何、迷える者を導くのも私の努めだ。君の悩みを打ち明けるといい」

「......こうしてわけわかんない場所に連れてこられてさぁ......!!現実を見ろとか、簡単に周りが言ってきてさぁ.....!!」

 

キレイは真正面からココの話を聞いている。そして私はココとキレイが話している間......彼女に声をかけた。

「ナノカ、頼みがある。彼女の過去を君の魔法で見て欲しい。彼女の身に起こったことが、何かあるかもしれない」

 

ナノカは目を閉じて、片手で顔を覆いながら、ポツリと、ある事件の名前を呟いた。

「......【大晦日連続無差別殺傷事件】」

キレイと話していた、ココの息を呑む音がした。

 

「5年前に起こった、殺人事件よ」

ナノカは語ってくれた。事件の概要、そして、唯一の生存者が、隠れて難を逃れた少女一人、ココだと言うことを。

「な、なんで......!」

ココは酷く狼狽えている。

 

「......ごめんなさい。少し......魔法で覗いてしまったわ」

本当に申し訳なさそうに、ナノカが言う。ココはそれに対して鋭く睨んでいた。ナノカは、魔法が強くなれば対象の過去を詳しく見ることができる。そしてそれは、正解だったようだ。

「(......そして、ココのトラウマも、わかってきた)」

 

今回私は、それを見ていることにした。ココの傷を抉るのならば、彼女以上の適任はいない。

「......それがどうしたって言うんだよ!それ何にも、関係ないじゃん!大魔女っていうのと戦うとかなんとか!!

そんなこと言われたって無理だっての!あてぃしはただの学生で、配信くらいしかできないし!」

 

その叫びに、キレイは、先ほど得た情報からココの傷を、深く深く抉っていった。

「そうだね。君の気持ちも理解する。君は、というよりも君たち全員は戦いも何も知らないであろう少女たちだ。それに戦いを強いるなど、あまり良いものではなかったね」

 

ココは呆気に取られた様子だった。

「は、え...?何急に......?」

キレイは落ち着いた様子で答える。

「そうだね、大魔女は強敵だろう。私も何度か魔女と相対することはある。あの強さよりも格段に強いと考えれば......厳しいものがある」

 

「でしょ!?だったらあてぃしにできることなんて「だからこそ、君は隠れてていい」......!」

ココは大きく瞳孔を開いた。

「この場にも隠れる場所は多くある。......ああただ、戦う者がいたとしても、人死には出るかもしれないね」

 

じっくりと、キレイはココの精神を削る。

「大魔女は魔法を統べる者。であればこの場にいる少女たちの魔法も、今まで私が相対した者の魔法も使えるのだろうね」

キレイは、残酷に語り始める。

 

「生命力を吸い取る魔法で干物になるか、純粋な光の弾で体を貫かれるか、はたまた全く同時に三方向から放たれる斬撃に裂かれるか、心臓を直接握り潰されるか、槍で心臓を貫かれるか、無数の剣に突き刺されるか......ああ、もしくはレイア君の魔法、視線誘導を体が固定された状態で真後ろを向けさせられ、首が捩じ切れるかもしれないね」

 

悍ましいほどの方法の数々に、思わず場にいる少女たちの表情が引き攣る。それは、真正面で聞いているココの精神を、削っていった。

「ああ、だが安心して欲しい。私は決して君に戦えとは言わない。この席の中にでも潜んでいるといい」

「......やだよ」

 

震えた声でココは言う。キレイはお構いなしに続けた。その顔は非常に愉しそうに嗤っていた。

「決して君は死なないように尽力しよう。何、命を落としてしまうかも知れないが、それで助かる命があるのなら安いものだ」

「.......やだ......!」

 

「君が物音が静まりかえり、目を向けた時には、全てが終わっている頃だろう。それで君は、生き残れる」

「━━何もできないのは、もうやなんだよぉっ!!」

ココはそう心から泣き叫び、顔にヒビが入る。彼女が目を開けた時、片目はスマホのレンズのように瞳が二つに増えていた。

 

「見てるだけなのは、やだ......!あの日、あてぃしは見てただけで......何もできなかった.....!お父さんも、お母さんも、たった一人の弟も......!!あてぃしが何もできないから......!!」

ココは嗚咽を漏らして縮こまる。

 

「メルル、急いでくれ!」

「は、はい!!」

メルルは駆け寄って治癒をかける。改めてキレイを見る。あの語りは、場にいる少女たち全てに光景を想像させた。それほどまでに、言葉に重みがあった。今まで彼女が相対してきた魔女なのだろう。

 

そして今のココは、もう逃げることはないだろう。その意味では、キレイの説得は凄まじい効果を発揮した。

「(......任せるのは、危険か)」

私は改めて、皆に向き直る。

 

「ここから出るには、私たちは力を合わせる必要がある。あらためてみんな......私に協力して欲しいんだ」

その言葉に、ある言葉が響いた。

「......断る」

それは、夏目アンアンだった。

 

こうして残る魔女候補は6人。終わりは近い。

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