ある少女は自身を怪物と称した。
ある少女は、自らの罪を封じていた。
(キレイ視点)
己が弟子と向き合う。思えば、かなりの付き合いだと改めて思う。条件が違っていても彼女を弟子にして指南した。多少、心の内を明かしてもいた。
「では、橘シェリー。始めようか」
「......ええ。既に手掛かりは掴まれていますから」
そう。恐らくは一番楽な魔女化となるだろう。キレイは語りだす。
「君は、守れたね。君の願いの通り」
「......っ!」
彼女が指南を受けた理由。それは友を守るためであった。しかし、結局のところ、守れていない。ハンナのことは、一度は自らの手で、もう一度は守りきれず、共に。しかしキレイはそれを守れたと称した。
「君は、遠野ハンナの願いに殉じた。魔女になりたくない、人のままで死なせてほしい、置いてきぼりにされたくない。
その願いを叶えた君は、間違いなく遠野ハンナの心を守った。それは誇っていい。君に教えた甲斐があった」
キレイは言葉で攻撃をせずに、称賛した。命は亡くしても、確かにシェリーの行動は心を守った。その事実は確かなもの。しかし、その言葉は確かに、シェリーの心を刺すものだった。
「流石、容赦ないですね。キレイさん」
「何のことかな?私は君を称賛している。その言葉は、素直に受け取っておきたまえ」
シェリーは口を閉じて、言った。
「あなたの言った通りですね。キレイさん。目の前で、ハンナさんを殺した時も、ハンナさんが処刑されてしまうときも......私はとっても、嫌でした」
キレイの教えにあった、大切な者が目の前で死ぬ姿。それは怪物を自称するシェリーの心にも傷を残した。自殺と、嘱託殺人に処刑。その違いはあっても、その傷は似通っていた。
「私は、自分が嫌いです。そんな選択しか取れなかったことも、そんな選択をしてしまったことも......そして、そのときの自分を肯定したい今の自分も。みんなみんな.....大っ嫌いなんです」
キレイはただ、言った。
「橘シェリー。君はただその気持ちに素直になれば良い。その感情の名前が何かを、自分の手で見つけ出すと良い。名探偵」
シェリーは、目を閉じて、拳を強く握る。
「......ああ」
答えを、見つけ出したらしい。
「......この自分が嫌だって気持ち......わかりました。私は、怒ってたんですね。自分に対して」
姿が変わっていく。握った手は酷く黒ずみ、まるで過去浴びた血を表すように。服は酷く乱れ、顔のひび割れと、特に目が酷く変化していた。白目はなくなり、目の瞳孔は片方が広がり、片方が収縮していた。
「......やっぱり私は、化け物なんです。こんなことが自分でできちゃうなんて」
橘シェリーは、自らの手で魔女化した。
「いいや、君は人間だ。それは私が保証する」
「......ええ。そうですね、師匠」
キレイは横目で、ヒロの方を確認した。そちらも、無事に魔女化させることに成功したらしい。
これで全員の魔女化は終わり、あとは大魔女を召喚して全員で討伐するのみとなる。
「(きっと、彼女たちは成し遂げるだろう。私がいなくとも、それを成し遂げられる強さを、持っている)」
キレイは柄にもなくそう心に思い、ふと自分はあることを考えていることに気がついた。
きっと、これより先。全員はそれぞれの幸福を手に進むだろう。正しさのみを盲信していた少女も、己を怪物と称していた少女も、何よりも“推し”を大切にしていた少女も、罰のその先を求めていた少女も。
━━━羨ましい。
ずっと生きていた頃から抱き続けてきたその感情が今、自身の空虚な心を埋めていた。
━━━━━
(ヒロ視点)
私は、呼びかけた。
「━━━エマ」
「......ヒロちゃん」
互いに向き直る。こうした時間は、この牢屋敷では初めてだ。あの時は、しっかり話せなかったから。
「......話をしよう」
「うん......まさか、ヒロちゃんからそんなこと言われるなんて思わなかった」
「......すまなかった」
「ううん、いいんだ......」
互いに静かに、語り合う。
私たちは互いの目を見て言った。
「エマ。それでは、追求するとしようか。
━━私たちの、真実を」
エマは、頷き、こう返す。
「そうだねヒロちゃん、追求しよう。
━━ボクの、本当の罪を」
私は語った。キレイから語られたそれを。
「君は、記憶を封じ込めていた。現実を受け止められずに、自身を守るように。私はそれを知らずに、酷く当たった」
エマは頷いた。
「......うん。きっとそうなんだ、でもっ.......!」
エマは、苦しむように胸に手を当てた。
「わからないんだ......!ボクは確かに、ミリアちゃんの魔法で全部を見たのに......!でも、思い出そうとするたびに、苦しくて、張り裂けそうで......!!確かに、いたはずなのに.......!」
エマは苦しんでいる。いや、もうとっくに頭では気がついていても、心を守るために必死に目を背けている。
急に与えられた情報量、直視せざるを得ない現実。私はそれを、彼女に突きつけなければならない。
「......ねえ。教えて、ヒロちゃん。ボクの罪を、ボクが何を、忘れていたのかを」
エマはそう私に言った。私は口を開き、言った。
「私たちの友人の名前は、月代ユキ」
「━━━っ!」
エマは息を呑み、目を見開いた。構わず続ける。
「君は、彼女のいじめを止めることができなかった。ただ、苛烈になっていくそれを見て、何も言うことができなかった。そんな臆病な自分を、何よりも嫌っていた」
「ボク.......は......」
「そうして彼女は自殺した。君はそれを、自らのせいだと思い込んで、深く傷付いた。私に任された彼女を守れずに、何もできなかったから。そうして君は、記憶を無意識のうちに改変した。自らの罪を、隠すように......!」
エマは頭に手を当て、頭痛に苦しむように顔を歪ませた。ぽつりぽつりと呟くように、言った。
「ボクはただ━━見ていた、だけだった。あの子を助けることも、声をあげることもできずに。ボクの、本当の罪は。
━━いじめの、傍観者」
エマは、その姿をあまり変えなかった。他の魔女とは異なり、顔がひび割れることもなく、ただ背中に......『あの時と同じ翼』を生やしてそこにいた。
「......思い出したよ。全部」
「......ああ」
それは、あの不思議な剣道場の記憶。覚えているはずのない、あの場所での泡沫のような出来事。それを二人は記憶していた。ミリアの魔法によって。
「......呼び出そう、ヒロちゃん。ユキちゃんを」
「......決着を、つけよう」
ふとキレイの方を向くと、あちらも終わらせていた。あのシェリーをいとも容易く魔女化させていた。
「(......結局のところ、キレイが残ったか)」
時間がなかったとはいえ、手当たり次第で魔女化させていたとはいえ、よりによって彼女が残るとは。
しかし、13人の魔女と儀礼の剣、そして大魔女の依代となるこの万年筆。材料は全て揃っている。揃っているはずなのに。
「(何故だ......何故私は、これほどまでに胸がざわついている......!!)」
嫌な予感しかしない。その予感はシェリーとエマ。二人を魔女にする前から感じていたもの。
━━このまま、呼び出して良いのか?
いや、時間がない。覚悟を決めろ、二階堂ヒロ!
私は━━━。
・大魔女を呼び出す。
・鬲泌・ウ陬∝愛を続ける。