愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

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少女たちは、今初めてキレイと対峙しようとしていた。


愉悦少女ノ魔女裁判(前)

「(さて、キレイのトラウマは......はっきり言って、わからない。彼女は他の少女と違い、殺人を犯さず、禁忌を誰かに明かしもしていない)」

 

私は顎に手を当て、キレイを見据える。いつもの彼女らしく、笑みを浮かべて全員を見据えている。緊張している様子もない。

「(今は、情報を集めることが先決か)」

証拠のない、いつもの魔女裁判。いや、今の私には仲間がいる。この全員で、キレイの傷を探す。

 

「では、早速だが......私は何から話せばいいかな?十分に私は、ヒントを与えるつもりだが......私の人生を全て話すとなると、恐らく君たちがなれはてとなる方が早い」

つまり、情報の取捨選択をしろということだ。あまりにも語られていないキレイの内情を、今から探る。

 

「では、君の......目の前で死んだという、恋人について話してもらおうか。構わないかな、キレイ」

キレイは一つ頷き、手を開いた。

「そうだね。私の人生において、もっとも印象的な記憶はそれだった。では語るとしようか......意味などなかった、あの2年間を」

 

━━━━【審問開始】━━━━

 

初めて、言峰キレイが魔女裁判で自分から話し始める。

「私は、ある時“恋人”を作った」

>その理由は?

 

「教えてもらおうか。何故君は、聖職者でありながら恋人を作った?何か理由があるはずだ」

キレイは、変わらず答えた。

 

「それは、シェリー君に既に教えているのだがね。私は【人並みの幸福】を求めていた。ただそれだけの、つまらぬ話だ。ある意味で、私の最後の試みでもあった......では、話を続けるとしよう」

 

「(人並みの幸福......似合わないな)」

ふとそう思った。キレイは話を続ける。

 

「女が選んだのは、未来のない男だった。病に蝕まれた男は、数年ほどしか生きられない。そんな男だから選んだのか、そんな男しか選べなかったのか。その基準だけは、今も判らない」

ただどこか懐かしむように、言った。

 

「生活は二年ほど続いた。女は男を愛そうとした。男も女を愛そうと努力し、愛し、子もなした」

とんでもないことをさらっと言った。

 

「だが結果は変わらない。私にとっての“幸福”とは男の苦しみであり、絶望に他ならなかった。愛そうとすればするほど、愛する者の苦しみだけが、私にとっての救いだった。

ああ、その矛盾に苦しみはなかったよ。苦しんでたかも判らない。ただ男が自分を癒そうとすればするほど、その嘆きを見たいと思う自分がいただけに他ならない」

 

自嘲するようにキレイは言った。私はそれに対して、理解ができなかった。これは同じ人間なのか、愛そうとする者の不幸こそが救いだと言う彼女に、嘘はなかった。

>君の望んでいた幸福は?

「......教えてくれキレイ。君の求めていた人並みの幸福とはなんだ?」

 

「ああ、実のところ、私はそれに一握りも感じていなかった」

それは、否定だった。しかし、続けた。

「......だが、単純な話だ。どのような人間であろうと、誰かを愛し、家庭を持ち、静かに息絶える姿を幻想しない者はいない。私もそれは例外ではなかった。そうできたらいいと、願った」

 

それは、普遍的な答えで、正しかった。目の前のその存在は、酷い矛盾にすら苦しんでいないのは事実だ。シェリーのように痛みを苦痛と感じないわけでもない、マーゴのように愛が受け止められないわけでもない。感情も愛も、どれも理解している。だからこそ、キレイの存在は歪だった。

 

「男は、聖人だった。男がどれほど信心深く、また、女の憤怒を理解していたかは言うまでもない。それ故に、絶望も近かった。

あれほど自分を理解し、癒そうとする人間はこの先現れまい。にも関わらず、それですら私の欠損を埋めることはできなかった」

 

語られ始めて今、気がついてしまった。彼女の今話している恋人の話。それこそが言峰キレイの【原罪】だった。

 

「ならば、━━もはや、生きて是非を問うこともないと思った」

自身が生きている意味を求めていた。

「自身は欠陥品として生まれ、己の誕生は何かの間違いだった。間違いなら消えるだけだ、と結論を下した」

存在することが間違いだとし、正そうとした。

 

「己が死を迎える前に、男に別れを告げにいった。己が試みの為に恋人にしたのだから、終わりを告げるのは当然の義務だった。

男は私を愛し、私も男を愛そうとした。この話はただ、それだけのことに過ぎない」

 

今なら、彼女の気持ちもわかる。私と彼女は、同じだ。自身の価値観の中に【正しさ】を持ち、【間違い】を正そうとしていた。

それが他者か、己かの違いはあったが。鏡合わせのように、私たちは似通っていた。

 

「男は最期に、自らの死を以て証明した。私は人を愛せる、生きる価値のある人だと。そこで私は、主の教えに決別した。そうだね、あの時私は涙を流した。悲しいとも思っていた。だが、それは男の死にではない。その時に私は、思ってしまったのだ」

 

━━なんという事だ。どうせ死ぬのなら、私の手で殺したかった。

 

キレイが悲しんだものは、恋人の死ではなく、その死を愉しめなかった、という損得だった。

「結局のところ、男の死は無意味で“無価値”な物だった。その献身とて、私を変えることはできなかったのだから」

>......

 

......きっとキレイは、大切に思っていたのだろう。

私はキレイと自身と重ねざるを得なかった。

友人と思っていた者の死に、

【正しさ】を貫くことを決めた私のように。

キレイはその死を以て教えと決別し、

己が【悪】を貫くことを選択したのだ。

 

「(......【同族嫌悪】。それが、私がキレイを嫌っていた理由だった)」

......そして、キレイのそれに対しての反論が、浮かばなかった。キレイに対しては、私は何も関わってきていないから。きっとそれは、私が持っている答えではない。

 

「(そう、“私”は持ってない)」

私は、それに対する反論を持ち合わせている者に目を向けた。それは、言峰キレイ唯一の弟子、そしてキレイが犯行を黙認した少女。

「......シェリー!力を貸してくれ!」

「ええ、もちろんです!」

 

魔女化してなお、いつもの明るい様子で返答する。その声が今はとても心強かった。

「......キレイさん。あなたは私にその話をしてくれましたよね。でも、その時とは違うのがあって、とても気になっています。あの時とは違ってなんで......【無価値】と断言しているんですか?」

 

そう、男の死を無価値と捉えたくないと思っていた少女が今、その男の死を無価値と言い退けた。その矛盾を、シェリーは指摘した。

キレイはただ、冷静に答える。

 

「初歩的なことだ、名探偵。私は沈めていた問いに対する答えを得てしまったからこそ、無価値とわかってしまった。

━━紫藤アリサの自殺によって」

「......ウチ、が?」

名前を出されたアリサが目を丸くした。

 

それを見て嗤い、キレイは語る。その、沈めておきたかった自らの得た答えについて。

 

━━━━【審問開始】━━━━

 

「気がついたのは、君が死んだ世界において、宝生マーゴと共に紫藤アリサの“死体を発見した時”だ」

>その時の状況は?

 

「その時の情報を、教えてくれないかな」

「ふむ、私が教えてもいいのだが、いかんせんその時はあまり正気とは言えなかったのでね。宝生マーゴが一番詳しいだろう」

話を即座に振られたマーゴは、答えた。

 

「ええ、そうね......二人で裁判所の扉が開いていたから、一緒に入ることにしたの。そこでアリサちゃんの死体を発見して、思わずキレイちゃんの方を向いたわ。

そしたら、あの時のキレイちゃんは、目から一雫、涙を流していたの。自身でも気がついていない様子だったわ」

 

そう語るマーゴに、アリサは驚いていた様子だった。自らの死に、キレイが涙を流すとは、思わなかったらしい。

「(恐らくだが、ミリアの魔法は記憶を全て共有したわけじゃない。自分の持つ記憶は全てあるのを考えると、共有する情報としていない情報がある。ここは、聞かなければわからない)」

 

マーゴは、言葉を続けた。

「その後にキレイちゃんは......笑ったのよ。自分の手で目を覆って、天を見上げて......異常なまでに」

「説明ありがとう、マーゴ」

マーゴに礼を言った後、キレイに向かった。

 

「では、その時の情報を君の視点からも語ってほしい。何故笑っていたのかを、君の口から」

「構わないよ。元から話す予定だった」

 

そうして、キレイの口から語られた。

「ああ。確かに私は紫藤アリサの死によって涙を流した。そしてその時の涙は、あの時と同じ涙だったよ。全く同じ......悲しみによる物ではなく、その死を愉しめなかったという損得だった」

それを語るキレイは、どことなく悲しそうに見えた。

 

「2年ほど付き合った恋人と、1ヶ月にも満たない付き合いを持つアリサ。それが同じ想いであるのならば」

答えが、キレイの中で決まってしまった。男が死んだ時にキレイは悩んだ問い。

 

それは自らの快楽によるものなのか、それとも愛していたものだからこそ、自らの手で殺したかった悲哀なのか。

 

「私が涙を流したのは、“自らの快楽によるもの”だった。その答えを、紫藤アリサの死によって得てしまった。これが、笑わずにいられるか?」

>【洗脳】

 

「(人は、一度思考がロックされてしまうと、既存の考えに囚われてしまいがちだ......。全てに対して答えを求め、納得するまで問い続けるキレイだからこそ、それが顕著だろう。なら)」

私はキレイに対して嗤うように言った。

 

「君一人でただ考えた結果がそれか。果たしてそれは、本当に【正しい】のだろうか?もっと別の答えもあるんじゃないかな?」

キレイは、目を見開いた。

「おや、では君にはその答えを導き出せるというのかね?私の得た答え以上の、納得のいく答えを」

 

私は首を横に振る。

「いいや、その答えを導き出すのは私じゃない。君自身だ......頼んだ!アンアン!」

アンアンはキレイの方を向き、言葉を発する。魔女化して強力になり、そして【答えの再定義】。これならキレイにも効くはずだ。

 

「キレイ、難しく考える必要はない。己が得た答えを【解き直せ】!思考を【続けろ】!」

キレイは、アンアンの魔法が効いたのか、思考する。

「......やはり、あの時の涙は同じもので間違いはない。そして付き合いの長さから考えても、結論は......」

 

「(やはり、答えの再定義だけでは不十分だ。一度解を解き直したところで、新たな可能性が見えない限りは答えは変わらない、なら......!)」

>【視線誘導】

 

私はレイアに......言う前に。

「キレイくん。君は自身だけでなく、他も見た方がいいんじゃないかな?というわけで━━【アリサくんの方を見るんだ】」

 

レイアの視線誘導より、キレイの視線がアリサに固定されている。固定された側のアリサは。

「おい待て!なんでウチに固定するんだよ!聞いてんのか蓮見!!おい!!」

 

レイアは私の方を向いた。

「こう言うことだろう?ヒロくん」

「......ああ。最高だ、レイア」

何も言わずとも、通じ合えた。それだけで嬉しい。

 

キレイは、アリサに視線を向けながら、考える。

「......【友人】......いや、しかし......」

キレイは揺らいでいる。アリサに視線を向け、その関係性を改めて考えている。そこで友人という解を得て、揺らいだ。

 

「(もう一押しだ。最後、キレイの問いに......友人と、恋人。二人の死に直面した時、同じ涙を流した可能性を示唆できる人物がいるはずだ。それは......)」

>宝生マーゴ

 

「宝生マーゴ、最後の一押しを頼む」

「......ええ、キレイちゃんの新しい答え、見つけてあげましょうか♡」

ノリノリで、キレイに語りかける。

 

「ねえ、キレイちゃん?」

「......なんだね?」

【視線誘導】でアリサのことを見つめ続けるしかできなくなっているキレイが反応する。

 

「キレイちゃんのその答えは、こう考えられるでしょう?アリサちゃんとあなたの恋人に向けるその感情は同じくらいに大きかったって」

「はぁっ!?」

キレイではなく、アリサが反応した。

 

気にせずマーゴが続ける。

「時間の差は関係ないのよ。恋人と友人に対する想いは別だけど、あなたの言ってくれた言葉で、それは説明できるのよ。自分のように他者を愛する心。......【隣人愛】」

 

聞いていたキレイの目が見開いた。

「あなたは、友人としてのアリサちゃんも愛していたし、恋人も愛していた。過ごした時間は、関係ないと思うの♡」

そうゆっくりと、説明した。

 

キレイは考えて......改めて答えを出した。

「......ふむ。確かに、少々早とちりしたかもしれないね。私の得た答えも、改めて得た答えも。どちらも同程度の説得力を持っている。......おかげで、またこの問いの答えを見つけずにすむ」

 

そういうキレイは満足そうに笑った。

「(......しかし、キレイの内面の情報は得たが......何も進んでいないのは事実だ。キレイの魔女化が、遠い)」

先は長そうだ。私は改めて気を引き締めた。

 

「━━蓮見、おい!そろそろ解け.......!」

......ずっとキレイに視線を向けられていたアリサが痺れを切らして、レイアが魔法を解除した。

......流石に強敵だ。先は長そうだ。

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