「(さて、キレイのことは知れたが......魔女化の手掛かりがない。何か先ほどまでの情報で、共通点はないだろうか)」
私は思考する。シェリーに過去の話を唯一話したり、アリサが死んだ時に涙を流したり。キレイの心情に潜むものを暴くには、彼女に近い人物関連の話を進めれば良い。
「ではキレイ。次の審問と行こうか」
「構わないよ。次は何について話せば良い?」
私は選択した。どの周でも関わっている彼女についての話を聞くことにする。
「沢渡ココと関わっている理由について、君の口から聞かせてもらおうか」
「え、あてぃしのことについて?」
意外そうにココが言った。
「ふむ、その程度のことであれば。簡潔に済ませてしまうとしよう。あまり大した理由でもないがね」
「大した理由じゃないってなんだよ!!」
ツッコミが来たが、気にせずキレイは語り始めた。
━━━━【審問開始】━━━━
「沢渡ココと関わり始めたのは、どちらも牢屋敷生活1日目の夜のことだ。少しばかりの親切心で手を貸したのが始まりだったね」
私は笑いながら言った。
「親切心か、にわかには信じ難いね。君は、そんなことを思っているとは思えないがね」
キレイはそれに笑って答えた。
「それも間違っていない。私はそのような人間ではないのは事実だ。親切心というよりも、気まぐれと言った方が正しいだろうか。ほら、アリサくんの時にも言っただろう?
聖人も悪人も、いずれも気まぐれに悪意も善意も起こす。それこそが人という生物だ。君はそれすら否定するというのかね?」
キレイはそう嗤っていった。こちらへの攻撃も控えてはいない。油断しないようにしよう。
「......否定はしない。では、その後のことについて教えて貰おうか。君とココとの関わりについて」
ああ、と頷いて、キレイは答えた。
「その後は、特に語ることでもない。ただ、道に迷った時に助言をしたり、“世間話”をしたり、配信を見たり。後は脱出計画を教えてもらったから、協力してもらったりと。その程度に過ぎない」
>ココに話を聞く。
「(キレイは嘘をつかないが、大事な部分は言わない傾向にある。であれば本人に聞くより、詳しい話は本人に話を聞く方が正しく進める)」
私はココに向き直り、聞くことにした。
「君とキレイがした話について、聞かせて貰えるかい?君の視点から見た話も聞きたい」
ココは自分に振られるとは思いもしていなかったらしく、驚いた様子でこちらに向いた。
「えっあてぃしも話すの!?......でも、あてぃしもキレイっちが言ったことくらいしか言えないけど」
「それでも良い、話してくれ」
渋々と言った様子で、ココが語る。
「でもあてぃしが話せることないし......言ってもアドバイスとか、後印象に残ってるのは”あの話“しかないし......」
>その話とは?
「その話とはなんだ?教えてくれ」
「別に大したことないっての。ただキレイっちがさ?あてぃしの“推し”の話、楽しみにしているってくらいで」
私はその得た話を考える。ココの推しのことを楽しみにしていた。キレイは嘘をつかない。これも本当だろう、であれば何故、キレイはココの話を楽しみにしていたのか。そこに、答えがある筈だ。
「(問い、考え、答えよう。『ココの推しの話を、キレイが聞きたがっていた理由』......恐らくだがそこに、キレイの傷がある)」
そこで、話しかけてくる者がいた。
「ちょっと良いかな、ヒロちゃん......」
気まずそうに、ミリアが話しかけてきた。メルルの魔法と、しばらく時間が経って落ち着いたのだろう。
「......なんだい、ミリア」
「......きっと、ココちゃんの“推し”は、おじさんにとっての先生に近いと思うんだ」
そう言って、語り出した。
「......一人ぼっちで、心細い時に支えてくれたんだと思う。ココちゃんも。だから、【大切な人】なんだと思う」
「......【大切な人】」
「うん......おじさん、迷惑かけちゃったから、何か言わないとって思ったんだけど。役に立たないよね。ごめんね......」
申し訳なさそうに、目を逸らしたが......私にとっては、何よりも役に立つ情報だった。
「いいや、ありがとう。おかげで、道が開けた」
「え?」
ミリアが目を丸くした。
キレイは、再度語り始める。
「私のその話は、この場において全く関係のない。それらすべては、私の”気まぐれ“に過ぎない」
>【大切な人】
「(恐らく、キレイは気づいていない。自身が何故、沢渡ココに関心を寄せていたのか。それを明かすとしよう)」
私は、それを指摘することにした。
「いや、君のそれは気まぐれではないよ。君はココの”推し“......【大切な人】について聞きたがっていたんだ」
キレイは真面目な顔になり、考える。
「......仮にそうだったとして、私は何故その話を聞きたがっていたことになる?それについて、答えて貰おう」
「簡単な話だ。君にも、大切な人がいたからね」
キレイはその言葉に眉を顰めた。
「(詳しい理由まではまだわからないが、それに惹かれたのが事実である可能性が高い。本人が自覚していないその感情が、そこに存在している筈だ)」
それを考えると、今までのキレイの行動全ても、何かしら理由があると考えるべきだ。そして、何に惹かれたか。
「今度は、牢屋敷での君の行動について聞かせて貰おうか。2つの世界で君がやってきたことだ」
キレイはいつもの調子に戻り、言った。
「あまり関係があるとは思えないが。よろしい、なんでも聞いてくれていい。真実を答えよう」
やはり厄介だと思う。すぐに建て直した。
「(キレイは、自身の本質を理解してその通りにしか動いていない。だからこそ、その精神は強固だ。だが、ココの配信を追っていたように、無意識的に行動しているキレイの別の指針に触れることができれば......可能性は、ある)」
私はキレイに、審問を開始した。
━━━━【審問開始】━━━━
「君は、牢屋敷生活の中でもっとも精力的に活動していた。食事環境の改善を始め、悩みごとの解決、揉め事の仲裁、メンタルケアなど......君はなぜ、そこまで働いていたのかな?」
キレイは答えた。
「言っただろう?人生の指針、生活の補強には一家言ある身でね。私は破綻者であることは自覚している。だが、悩める者を立ち直らせ、前を向かせる。困っている者に手を貸すのは当然のことだ」
私は疑問に思ったことを話す。
「それにしては、深く関わり過ぎじゃないかな?特にシェリーなんかは顕著だ。唯一、君の過去を話している」
キレイは目を閉じ、考えた後に言った。
「......では、私のその行動に何か“理由”があると?」
>【大切な人】を失っている。
「(......結局、ここに行き着くか)」
アリサには友人としての接し方なので除外するが......基本的にキレイと深く関わる者は皆、【大切な者】を抱えている。
ココの“推し”、シェリーの“友”......そういえば、私とレイアに対しては、祝福の言葉すら投げてきたか。
「(......この共通点は、どういうことだ?)」
「......どうしたのかね、二階堂ヒロ。私の発言に不思議な点でもあったのかね?」
キレイが不思議そうに問いかけるが、無視する。
いや、それにしたってない者にも深入りする様子が見て取れた。キレイは何故、このような行動を......?
思考していると、意外な人物が声を上げた。
「......きっと、わたくしと同じですの」
ハンナだ、しっかりと前を見据えて、キレイを見つめている。その目は真剣で、どこか寂しそうな目をしている。
「わたくしがレイアさんに抱いていたように......いえ、少し違いますわね。キレイさんは、きっとみなさんに感じていたのではないかしら。きっと、自分が持っていて、みなさんが持っていないものに対して、焦がれていたんでしょう?」
「......私が?」
明確にキレイは動揺している。自分の自覚していないそれを突きつけられ、今必死に覗こうとしている。
「(まさか、キレイが私たちに深く関わっていた理由は......!?それなら、すべての説明がつく......!?)」
驚きながらも、私はその答えに辿り着いた。
>羨望
「キレイ、君は......。
━━私たちが、羨ましかったのか!?」
キレイは思わずと言った様子で目を丸くした。
「(驚いている場合じゃない!キレイがその傷を自覚していない今、さらに深入りする!なんだ、私たちにはあってキレイにはない何か......!それがキレイの無意識の指針だ!)」
私は、この議論からある答えを導き出す。
>人並みの幸福
「君が羨ましがっているのは━━人並みの幸福だ。だからこそ君は手に入らないと知りつつも、それに触れようと皆に関わり続けたんだ」
キレイは、目を片手で覆い、天を仰ぐ。そのまま。キレイは、今わかった解を、口にした。
「......以前からよもや、とは思っていたが、事ここに至ってようやく気がついた」
キレイはゆっくりと目を前に向け、告げた。
「━━━━私は、おまえたちを羨んでいる。
求めても得られなかったもの。手に入れたというのに手に入らなかったもの。どのような戒律をもってしても、指の隙間から零れ落ちた無数の澱」
“おまえたちが幸福と感じるものが━━━━”
キレイは私たちに向けて、感情を露わにしていた。
「私が抱いていた鬱憤は、こういうものか」
”━━━━私には、幸福と感じられなかった“
あまりにも意外で、それでいて言われてみればその通りと言えるもの。人間であれば誰でも持ち得るもの......【嫉妬】。牢屋敷での生活で、キレイはいつも余裕そうに微笑んでいたが、心からの笑顔を浮かべるのは、いつも誰かが苦しんでいた時だった。
「......君は、恋人の死でそれを決定付けた」
キレイは愉快なように笑った。心から、笑っていた。
「ああ、その通りだ。自身についてはすでに問い殺してきたと思ったが、君たちに私の知らなかった問いと答えを見つけられるとは思わなかった」
嫉妬か......と愉快そうに言うキレイを見て、私はふと疑問に......と言うよりとんでもないことになっていることがわかった。
「(キレイが、まったく魔女化していない......!?)」
そう、キレイの傷を力を合わせて私たちは抉り出し、暴いたはずだった。なのにキレイが魔女化する様子はなく、むしろ今までで一番楽しそうにも見えた。私は、ある結論に至った。
「(まさか、自分の苦痛や苦悩にも......【愉悦】しているというのか.......!?だとしたら、どうしようもない......!!いくら傷を抉ろうとも、魔女化する筈がない......!)」
キレイは笑った後に、私たちに向いた。
「実に素晴らしい。無駄な行動とはいえ、私を魔女化させようと力を合わせ、私の内面をここまで理解した。
━━━だが、君たちは私を魔女化させられない」
......諦めるかと、叫ぼうとした時に、声がした。
「......そうだと思う」
エマだ、思わず私はそちらを向く。
「キレイちゃんは、魔女にもう......ならない」
エマは、確信めいたようにそう言った。
キレイの感じていたのわだかまりは、これで解消した。後は共に、答えを見つけていくだけだ。