ついに少女たちは、隠されていたそれに触れる。
エマは語り始める。
「根拠はないけど......色々、違和感があるんだ」
奇跡の魔法が、他より強力で植物を生やしたり、ココの手紙を毎日欠かさず送れたり、食べ物を複製できることや、シェリーと張り合えるほどの力を持っていること、看守にすら勝てること。上げていけば確かにと思うものだった。
「一つ一つは偶然でも、それが複数重なったら偶然じゃない。......そして、それを証明できる答えがあるはずだよ」
エマの言葉に考える。
「(考えろ。エマのその違和感。【すべてがその理由一つで説明がつく答え】......だが、本当にあり得るのか?)」
私は、ある答えを導き出した。
>【魔女】
私は目を閉じて、言った。
「すべての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙な事であっても、それが真実となる。ならば、その答えは一つしかない」
未だ信じられないが、私は告げた。
「君が、最初から【魔女】の可能性だ」
エマは私の言葉に同意する。
「うん。それなら、ボクの疑問も解消するよ」
しかし、納得のいかない者もいる。
「言峰が魔女になってる......?それでそうかって納得いく方がおかしいだろ。それだといろいろ説明がつかねえ」
アリサだ、こちらを睨んでいる。
「そうだね。では、皆で詰めていこう。言峰キレイが魔女であるというその根拠を!」
こうして議論は始まる。
━━━━【審問開始】━━━━
「まず、言峰が最初から【魔女】だって言うならおかしな点はいくつもある。まず、周りの奴ら全員見てみろよ。鏡もいるか?全員が全員化け物だ。対してキレイは、誰が見ても人間だろ」
それにはエマが反論する。
「でも、ボクみたいに、翼が生えるだけで姿がまるで変わらない魔女化もあるよ。キレイちゃんもそのタイプの可能性だって、十二分にあるはずだよ」
しかしアリサは納得しない。
「それだけじゃねえ。殺人衝動だってあんだろ。おまえら、今抑えていても、誰かを殺したいって感情があるはずだ。言峰が最初から魔女だって言うなら......ウチらは最初からこの場にいるわけがねえ。それともなんだ。言峰が最初から最後まで根性で頑張ってたって言うか?」
アリサはしっかりと私を睨む。
「それともあんのか、“根拠”が。馬鹿なウチにでもわかるような、そいつが魔女だってわかる何かが!」
>言峰キレイの事件。
私は、ある事件を思い浮かべた。あの時は事故という形で終わった、誰も死ななかったあの事件。あの時には疑問に思わなかった。だが今なら、違う。
「ナノカ、少し良いかな?」
「何かしら、二階堂ヒロ」
私はこの場で、ナノカに言った。
「あの時のことを、話してくれないか。私が偽証した、あの事件の真相について」
「......ええ」
そうしてナノカは語り始めた。2周目において、自身がやったこと、動機について。そして最後に語ったのは。
「私は間違いなく、言峰キレイを撃ったわ」
辺りは騒然とした。何人かは記憶の共有がされていたのかあまり慌てた様子はなかった。しかしアリサは反論する。
「それがどうしたって言うんだよ。言峰が神の子の奇跡と同じように死んでから復活したって考えればおかしくはねえ。【奇跡】なんだからな」
私はそれも否定した。
「ナノカ。君が撃った時、どう言う状況だった?キレイはダストシュートに落ちた後、どうなったのか」
ナノカは答える。
「そうね、焼却炉の中で気絶していたわ。流石に体が強くても、ショックが強いと気絶もするのでしょうね。......それを見て、抑えられなかった」
後悔するように腕を強く掴んでいる。
「気絶してたからって、それがどうだって言うんだよ。ウチの説明の否定にはなんねえだろ」
アリサはそう言うが、私は反論する。
「いいや、違うね。キレイは気絶していたからこそ、魔法を使うことはできなかったんだ」
>強力な願いには言葉が必要。
「アリサ。私はミリアの魔法で、君の記憶を覗いている。君は目の前で、キレイが魔法を使っている様を目撃しているだろう?」
それにアリサは訝しげな目で反応する。
「それがどうしたってんだ」
私は答えた。
「キレイの【奇跡】は、強力な願いには言葉を発する必要があるんだ。海の向こうに手紙を届ける、植物を急成長させることにしっかりと願いを口にしている。死から復活なんて出来事、気絶しているキレイに使えたとは思えない」
「......確かに、そうだな。キレイは言葉にして魔法を使ってた。ならそれは......おかしいな」
アリサは納得してくれたらしい。
「てゆうかさ、疑問に思ってたんだけど......キレイっちの手って焼けてたよね。もう治ってね?」
ココがそう言って手を指さしているのを見ると、確かに言峰キレイの手はまっさらだ。火で焼けていたように全く見えない肌だった。
キレイは嘘は言わないがはぐらかしはする。【奇跡】の魔法かと聞き、曖昧に微笑んでいた時点で、私は疑うべきだった。それだけじゃない。魔女裁判が始まる前の言葉も、本当のことを言っていた。
『......なるほど、つまり後11人必要か。一人は魔女化をさせずに済むね。とても残念だ。全員が全員、何か闇を抱えていそうと言うのに』
私はキレイに向いて、言った。
「それらすべて、君が、魔女だったからだ!そうだろう、言峰キレイ!」
エマも加勢した。
「それに、キレイちゃん言ってたよね。【私が魔女であることを証明したまえ】って。つまり、元から魔女ってことじゃないの?」
キレイは追い詰められて尚、言った。
「ふむ、私としてはこう返す他ない。君たちに、今一度議題を提示しておこう。
【私が魔女であると、証明したまえ】」
これは、キレイからの挑戦状だった。
━━━━【審問開始】━━━━
「さて、自由に発言しよう。キレイが魔女である根拠を持つ者はそれぞれ発言してほしい」
まずは情報を集める。得てない情報を得るにはそれしかないだろうと思い、皆に呼びかける。まずはエマが
「魔女であることを証明......魔法が強力なこと、力が異常になっていること、再生力は証明したから......後は、外見が異形になっていること、だよね」
そこにアリサとココが言った。
「つーかよ、少なくとも桜羽みたいに外見になくても、羽とかの変化は確かにあるんだろ?なら服の内側に何かあるんじゃねえか?」
「そーそー!ならメルルがわかんじゃねえの?あてぃしたちのこの服着替えさせてるのメルルっしょ?」
確かにと思ったが、メルルは首を横に振る。
「実はこの服......【裁縫】の魔法少女が残した魔法なんです。深層心理や他人の評価などから、この島に着いた時点で、少女たちの服が勝手に縫い合わせられているんです。
魔女化したらそれに合わせて服も変化しているのも、魔法少女の魔法によって作られているからで......毎回ダストシュートから焼却炉で燃やす決まりになっていたのも......」
「その理由でしたらちょっと着ているのが怖く感じてきましたわ......!」
「でもハンナさん気に入っていましたよね?私もこの服、とってもお気に入りなんですよ!」
毎回ロッカーに補充されているのもそう言う理由らしい。改めてキレイの衣服を見ると、神父が着るような衣服で、全身が黒く包み込まれている。そこにミリアが語る。
「でも、何かあるって言うのはおじさんも賛成かも......キレイちゃん、ずっとみんなが使った後最後にシャワールームに入るから」
それを考えると、衣服の裏に何かありそうだ。
「ではわがはいが【洗脳】の魔法で......」
「アンアンちゃん、あなたは自分が唐突に『【服を脱げ】!』と言われたら納得するかしら?」
「うぅ......」
キレイは確かに納得はしないだろう。洗脳の魔法も使えないと考えていい。ではどうするかを考える。
「実力行使も難しいだろうね。彼女は生粋の武闘派で戦い慣れている。厳しい戦いになる......ん、どうしたんだいノアくん?」
ノアに思わず目を向ける。そこでキレイの髪を見て、んー?と顎に指を当てて考えている様子だった。
「んっとね。魔女になってから、のあなんだか......キレイちゃんの“髪の毛”が気になるの」
髪の毛......それで私は思い出した。ナノカとキレイの、あのやりとりを
『......あなた、髪を染めていたのね?』
『━━━ああ、染めているよ』
ナノカのあの問いに、過去形ではなく現在形で答えていた。そして今、ノアが髪に反応している。つまり
>【液体操作】
「......ノア!液体操作だ!」
「ほえ?」
「君の魔法を、キレイの髪の毛に使ってくれ!」
ノアは少し考えた様子で、その後こちらを向いた。
「......のあの本当の絵、どうだった?」
......そうだった。私は、ノアに酷いことを言ったままだった。だからこそ今、謝ろう。この場を借りて。
「......酷いことを言ってしまった。すまない。確かに君の絵は技術的には未熟で、酷い絵だ。でも......暖かかった。君の、絵が好きだって気持ちが伝わる、温かい絵だった。私はノアのあの絵が、一番好きだ」
......私の心からの想いは、伝わったのか。ノアは、笑顔を浮かべて、黒い絵筆を手に取った。
「......ありがとう、ヒロちゃん。じゃあ、のあ頑張るね。キレイちゃんの髪の毛に付いている色、ノアの手元に集まれ〜!!」
すると、変化が起きた。茶髪だったキレイの髪から、次第に色が抜けていく。髪色は、白髪。染めたような白ではなく、色素が抜け落ちたかのような、老人のような髪だった。
「あの、色は......!?」
ナノカが驚愕した様子でそれを見ていた。
「何故言わなかった、ナノカ」
「......恋人同士お揃いにしてたのかと思ってたわ」
......ひとまず、第一段階は突破。確かに髪色は変化していたらしい。キレイが話す。
「......まずは一つ、私の秘密が明らかになったらしい。そして君たちは、私の服の裏に何かあると、わかっているらしい」
「......ああ。そう疑っている」
キレイは笑った。
「......正解だ。君たちに、お見せしよう」
そうするとキレイはおもむろに、上の服を脱ぎ出した。目を背けたりする者も、閉じようとする者も皆、それに惹きつけられた。
「私は、君たちと会うその時から。いや......あの、自分に絶望し、自死を決意したその時から、私は魔女だった」
鍛え抜かれたその肉体はまるで彫刻のようだった。しかし、それすら気にならない程に、異変があった。
黒い、染み。魔女化の証明とも言えるそれは、私たちのように覆っているのではなく、肉体と共存するようにそこにあった。
腕、肩、体......全身に走る黒と赤の線は、まるで罪人に彫られた刺青のように。
そして私たちが一番気にしているのは、胸の真ん中。心臓のある部分のみぽっかりと穴が空いたように、黒くなっていた。
「きっと政府は、魔女因子が想定より上か下か、でしか判断していないのだろう。だからこそ、こうして魔女になった私が紛れ込めた。もしくは......私の父が、気を回してくれたのかも、しれないね」
そう言って、キレイは笑った。
「(きっと、キレイは殺人衝動に耐えていたわけではない。禁忌の自死を選択するくらいには、自分に苦しんだ。それを解消したのはきっと......【愛】なのかも、しれない)」
そんなことを考えていると、キレイがこちらを向いて、最後にこう、言った。
「......ここまで、それ以上に、私の燻っていたものを答えられるとは思わなかった」
「私だけじゃない。みんながいたからだ」
キレイは、最後に問いを投げてきた。
「では問おう。二階堂ヒロ。ここまで解き明かしてきた君にならもしや、答えられるのではないかね。
━━ 苦痛や苦悩に、己の生を実感する私が、この世に生まれた意味を持つのか......君の考えを知りたい」
それはきっと、言峰キレイの、最大の命題だった。だからこそ真剣に考え、周りのみんなを見て、最後にキレイの目を見て、答える。
「生まれた意味など、持つわけがない」
「......ほう」
興味深そうに、キレイは言った。
「それは君だけじゃない。私も、そしてここにいるみんなだって、そんな意味など持たずに生まれて、人生を過ごす。
ただ生きて、罪を犯し、善を成し、そうして死ぬまで人生を積み上げて......そうして最後に残ったそれが、生きる意味に、なるんだ」
精一杯考えた、私の答えはキレイに届いているのか。わからないが......キレイはただこう呟き、楽しそうに笑った。
「......なるほど」
そして、全員を見てきた。
「すまないね。こうしたものにつき合わせて」
謝罪をしてきたが、何故か私の胸には確かな達成感と満足感で満たされていた。他の少女たちも、似たような感じだ。
「ううん、謝らないで。ボクたちこうして、深くキレイちゃんのこといっぱい知れたし......こうして、何も失わない、何も賭けない。全員が一致団結して答えを見つけていく議論が、とっても楽しかった!」
エマの言葉には、誰もが異議を持っていなかったらしい。キレイは唖然とした後に、高笑いした。
「ああ。君たちは、やはり前に進むだろう。そして、私を説き伏せた君たちであれば、たとえ大魔女であろうとも、説き殺すことができるだろう」
最大限のお墨付きを貰い、私は前に立つ。
「じゃあ、行こうか。みんな」
全員が頷き、私は剣を掲げる。
「さあ、姿を現せ!大魔女!!」
そうして、少しの寄り道を済ませて、私たちの心は真に一つとなった。これが最後の魔女裁判だ。覚悟してもらうぞ......ユキ!!
言峰キレイは、魔女である。
13人の魔女+1人。これより先、大魔女へ挑む。