愉悦少女ノ魔女裁判   作:保温と後光

91 / 96

これより、原告が入廷する。


人類断罪法廷【開廷】

私の心は凪いでいた。掲げていた儀礼剣の切先を、裁判所中央に向ける。大魔女を召喚し、彼女を断罪する。そして、私たちを呪いから解放してもらう。そのために、彼女を呼び出す。

 

「(君はずっと私たちの近くにいた。来るだろう、ユキ......?)」

張り詰めた空気の中、数秒の刻が経過した。そしてココが、何か唖然として、口にした。

 

「......ちょっと待て。なんか......見られてる。......同じ場所にいて、わかった。あいつ......ヤべぇ」

地鳴りのように深く、鈍い音が微かにあたりに鳴り続けた。じわりと、裁判所の中央。処刑台に赤黒い液体がにじむ。

 

「むむ。あれ......血じゃありませんか?」

シェリーが虫眼鏡越しに遠くの液体を見つめた。裁判所の中央に大穴が空いたかのように、とめどなく赤黒い液体があふれ出す。

 

瞬間。血の柱が噴き上がった。やがて液体は、洪水のように裁判所を満たし始めた。少女達が戦慄する中、やがて血色の噴水は勢いを弱める。

中に、誰かいる。それは、誰の言葉か。

 

少しずつ弱まっていく血柱の隙間に、何かの【輪郭】が垣間見えた。てらてらとぬめり輝く、人ひとり分の大きさをした肉の塊だ。その姿に、ある少女が、感極まったように声を上げた。

 

「ああ......大魔女様。やっと......。

━━━やっと、お会いできました」

その瞬間、銃声が鳴り響く。ナノカだ。彼女の放ったその弾丸は、肉塊に迫り、空中で火花になって消える。

驚愕し、止める声が響く中......声が響く。

 

「これは、魔女たちが流した血。これからも蒔き続ける私たちの種子......魔女の因子です」

「なにか、しゃべってる?」

ノアが尋ねるとともに......肉塊がまとう血液が、おびただしい量の紅い蝶となり剥がれていく。

 

「あれが大魔女......ずいぶん、かわいらしいのね」

その姿は、銀髪で白い目の少女。白と黒の二色のドレスに、まるで花のような帽子を被る。

格好は違えど、その姿を見間違えることはない。私は、エマの顔を横目で見る。

 

「......ユキ......ちゃん」

再会できた......けれど信じたくない。そんな葛藤の表情を顔に浮かべつつ、エマは微かに旧友の名前を呼んでいた。

 

「私の復活はすなわち絶望......何を期待していたのですか?良い結末など、ありえません」

大魔女━━ユキが笑う。

「さあ、共犯者になりましょう」

 

━━━━━

 

ユキは、微笑んで佇む。周りの皆は、困惑している。

「こ、これが......大魔女......ですの......?」

「普通の女の子みたいだけど」

「......つーか、おめえらの姿......戻ってねぇか」

 

そう言われて私たちは自身の体を見る。魔女化で異形と化していたはずのそれが、戻っている。殺人衝動も、ない。

「なにっ......!そんな......!?いつの間に......!」

「なんでがっかりしてんだよ」

 

「ふむ、どうやら大魔女が出現した影響らしいね。髪色もすっかり元通りになってしまった。割と気に入っていたのだが」

「おめえはさっさと服を着直せ!!」

いそいそとキレイは服を着直した。その間にも少女たちが色々とユキそっちのけで話し始める。

 

「......にぎやかですね。あなたのお友だちは」

ユキがポツリとそういうと、エマが反応した。

「......どうして。どうしてキミなんだ......ユキちゃん!」

「知りたいですか?」

 

私は、声を出した。

「......聞かせてもらおうか。私たちには、知る権利がある」

「いいですよ。でも......」

瞬間、裁判所が揺れ始めた。

 

「なんだ......こりゃあ......!?」

「わたくしじゃありませんわー!?」

少女たちが慌てる中、冷静に言う者がいた。

 

「【浮遊】の魔法。どうやら魔女因子を吸収した際に、再取得したようだね。ここにいる全員の魔法が、使えるらしい」

「ええ。魔女の島は再び飛び立ちました。この屋敷もまた、過去のあるべき姿へと戻る」

 

裁判所の鐘の音が鳴る。歯車がギチギチと回る音がする。揺れは治っているが、動き続けているのは確からしい。

「そして今から世界を巡るんです。すべての人間に死を与える、福音を振りまく天の使いとして......」

「なっ......!」

 

ユキは、腕を広げる。興味なさげに、虚空を見ながら。

「お話......しましょうか。この世界から人間がいなくなるまでの、わずかな時間だけ......ですが」

 

こうして、ユキの語りが始まった。

 

━━━━【審問開始】━━━━

 

「人は罪を背負っています。よってこれより、刑を執行します。それは、全人類の処刑。

━━これは決定事項なんです」

 

それにココとアリサが、反応する。

「いきなり出てきたと思ったら.......何言ってんだよてめぇ......!」

「人類全滅させるって言ってる......!?そんなことできんの!?」

 

それには、すべての過去を見たナノカが答える。

「......残念だけれど、大魔女にはそれが可能よ。彼女にはそれを実行できる力がある......」

ユキは微笑んで、ナノカの方を見た。

 

「物わかりが良くて助かりますよ、ナノカ。大丈夫です。あなたのお姉さんも、ずっと一緒ですからね」

ナノカが歯噛みしたが、ユキは変わらず言った。

 

「すでに人類への“執行の猶予”は十分に与えました。もう......十分ですよね?人類の歴史は今日で終焉を迎えます。この世界を、自然に返しましょう」

それをさせるわけにはいかない。少しでも、時間を稼ぐ。そうしなければ、何も出来ない。

>裁判が行われていない。

 

私は声を張り上げ、言った。偶然か必然か......彼女と、言葉が重なった。その言葉は、強く響いた。

「「異議あり!!」

ユキは眉を顰めて、私と、ミリアを見る。ミリアは見られたことに若干の怯えを見せながらも、強く言った。

 

「そ、その刑の執行......もうちょっと待ってもらえないかな!」

「それは、どうしてですか?」

ユキの問いに、私が答える。

 

「......ユキ。君は今、人類に執行の猶予期間を与えたと言った......だがそもそも、その判決に正当性はあるのかな」

ユキは黙って、私の話を聞いている。

 

「し、執行猶予が与えられたってことは......判決が下されたってことだと思うんだけど......!その裁判、不当判決じゃないかな!?」

アリサが眉を顰めて反応する。

「......おめえら、何言ってんだ......?バケモンの親玉に、そんな理屈通じるわけねぇだろ......」

 

呆れが混ざっている。しかしミリアは続けた。

「そ、それでも!理屈は......通すべきだと思うよ!」

ミリアは言った。

 

【人に罪がある】と言う。人間全員が極刑に値するほどの罪。その判断に正当性があると主張しているなら

【自分の意見が正しい】と思っているはずだと。罰を与えるというなら、被告である人間にその理由を知らせて、反省を促す必要もあるのではと。

 

無茶苦茶な理屈だった。ユキも呆れているように見える。しかし、相手が圧倒的な力を持っている以上、暴力で対抗しても意味がないのもたしかだった。反撃は、対話に持ち込んでから。そう思い、私は目の前に立つユキを睨む。

 

「......裁判だ。━━魔女裁判の開廷を要求する!」

ユキは眉を顰めて、私の言葉を繰り返した。

「......魔女裁判?」

私は頷いて、言った。

 

「そうだ。人間が、処刑されるべき【魔女】であるかどうか......この島のルールに則って、それを決めるんだ......!」

ユキは、しばらく考える素振りを見せた。

「......いいですよ」

 

それは、気まぐれかどうか。しかし確かに彼女は、対話の席に立った。一歩、前進した。

「それであなたたちの気が済むのなら......少しだけ、お付き合いしましょうか?」

 

━━━━【審問開始】━━━━

 

ユキは語り始める。人間たちの起こした原罪について。それは、裁判とは名ばかりの、一方的な宣告。

この島から、原初の魔女たちを消し去るという蛮行を行った。その行為は身勝手かつ残忍で、情状酌量の余地すらない、万死をもっても償いきれるものではないと。

 

だからこそ、人類を被告とした裁判の判決を言い渡した。

「判決は━━死刑。直ちに刑を執行します。“反論”は、受け付けません」

そう、ユキは何を言っても聞かないだろう。たとえどんな言葉でも、そのままではユキに届かない。であれば、聞き入れさせる方法を使うしかない。

>【洗脳】

 

私は彼女と目配せをする。頷いて、前を見据えた。そのまま私たちは、共に声を張り上げた。

「「それは......【間違っている】!」」

 

アンアンは、続けて言った。

「【待て】!はたしてそれは......裁判と言っていいのか!?」

私は頷いて、更に続けた。

 

「アンアンの言う通りだ。私がこの島で経験した裁判では、みんなの話や主張を聞いて検討をしてきた......。だが今の話は、到底まだ議論がしつくされたとは言えない。

ならば君も、この牢屋敷の規則に則って、議論を続けるべきなんじゃないかな」

 

私の言葉に同調し、アンアンが続けた。

一方的に刑を言い渡すだけでは裁判とは呼べないと。だが先程、【裁判を始める】と言ったのは他でもないユキだった。

「ならば十分な議論をしてから結論を出すべきだろう!自分の言葉には......【責任を持て】!」

 

ユキは、少しばかり沈黙した。そして、口を開く。

「......わかりました。それぐらいであれば、いいですよ。ほんの短い間の、最後のひととき......お互いに無益な時間になるとは思いますけれど。それで良ければ、もう少しだけお話ししましょうか」

 

大魔女は、こちらの提案に乗ってくれた。アンアンの魔法が効いたのかどうか、それはわからないが。チャンスだった。か細い蜘蛛の糸を手繰りよせていこうとした矢先......大人しかった彼女が声を上げる。

 

「裁判であれば、私はこうさせてもらうとしよう。

━━━私は、原告の代理人となろう」

それは被告に対して罪を要求する立場にある者。それをキレイは、さも当然かのように、言った。

 

「......キレイ、一応言っておく。なんの目的だ?」

答えは知っていたが、思わず問わずにはいられなかった。キレイは案の定、こう告げた。

 

「君たちに説き伏せられてはいるが、私は私の生き方を貫くまでに過ぎない。なにしろ、これ以外の生き方を知らなくてね。

━━ 私は誰の味方でもない。私は死者の無念を果たすべく戦う。それがどんな存在であろうとも、私は味方する」

 

ユキも思わず、眉を顰めた。

「......本気で言っているんですか?罰はあなたも含みます。それでも、私の側に立つと?」

キレイは今までのように、笑って言った。前とは違う、心からの笑みで。

 

「無論、元より既に自死を決意した身。であれば死すら恐れることはない。死者が確かにそこにいて、そして正当性がある以上。私は戦おう。

それに、こうして生きて生きて、生き抜いた先に残った物こそが人生の価値であるのなら━━私は、この生き方を止めてはならない」

 

そう言ってキレイは、私を見た。

そうだ、それは私が考えた答えだ。キレイはただ、自身の生き方を続けているに過ぎない。例え人類が滅ぶとしても、それすら些事だと。

 

「よろしいかね?大魔女」

ユキは笑みを浮かべ、キレイに言った。

「いいでしょう、好きにしてください。最後のひととき......争い合いながら沈んでいくのも、ご自由に......お好きにどうぞ」

 

キレイはそれを聞いて、私たちに言った。

「これより戦うことになる。言葉を尽くし、証拠を提示し、証言を吟味したまえ。私は原告の代理人。すなわち控訴した側。

被告は人類すべて。求刑は絶滅。罪を背負い、それを咎められている。君たち全員が人類の代表として、弁護側に立つ。」

 

淡々と告げていくが、その表情は真剣に。

「では始めよう。何か反論があれば、口を挟むがいい。だが、それを大魔女が認めるかは未知数だがね」

そう言った後、キレイは付け足した。

 

「......そうだね、そして最後に。大魔女に対して【洗脳】が効いた理由、よく考えておくといい」

その意味を理解する間もなく、ユキは、淡々と私たちを見た。

 

「それでは原告代理人、言峰キレイ。

被告代理人の、魔法少女たち。」

そうして彼女は、告げた。

 

「━━審理を、開始しましょう」

鐘の音が鳴る。真の意味で、裁判が開始した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。